小売業とは?
小売業とは、生産者や卸売業者などから仕入れた商品を、最終消費者へ直接販売することで利益を得る事業のことです。 小売業の形態は、小規模な単一の専門店からコンビニエンスストアやドラッグストアなど多くの店舗からなるチェーンストア、大規模なスーパーマーケット・家電量販店・百貨店などさまざまなものがあります。また、近年シェアを拡大している一般消費者向けのEコマース(ネットショッピング)なども、これまで実店舗にて直接的に販売を行っていた販売手法をオンライン上へ移して行っている点から小売業の一形態といえます。
小売業と卸売業の違い
商品を一般消費者に直接販売する小売業に対し、卸売業はメーカーなどから仕入れた商品を小売店などの事業者へ販売します。また、卸売業者は生産者から直接商品を仕入れる「一次卸(元卸)」、一次卸から商品を仕入れる「二次卸」など、業界によっては小売業者へ届くまでに複数の卸売業者を経由するケースもあります。
一方で近年では、コスト削減を目的として中間の卸売業者を通さずに一般消費者が直接購入することが可能な仕組み(※補足2)が普及していることもあり、卸売業者は減少傾向にあります。
上記をふまえて小売業と卸売業の違いを整理すると、小売業は商品を消費者に直接販売するBusiness to Customer(B to C)と言われるビジネスモデル、卸売業は商品を業者に販売する(卸す)Business to Business(B to B)のビジネスモデルです。
端的には、顧客が業者であれば卸売業、顧客が一般消費者であれば小売業に分類されます。
しかしながら前述のとおり、近年では販売形態が多様化しつつあり、卸売業者が直接消費者に対して販売を行うケースや、逆に小売業者が卸売を兼ねることもあります。また卸売業者を介さずにメーカーから直接仕入れる場合も増えてきており、明確に分類することが難しいのが実態です。
※補足2:一般消費者が直接購入することが可能な仕組みとは
D2C(Direct-to-Consumer、ダイレクト・トゥ・コンシューマー)と呼ばれる販売形態。
小売業界におけるM&Aの目的
小売業界においてM&Aを実施する目的は、譲渡企業と譲受企業という立場によってそれぞれ異なっています。
譲渡企業の目的
事業承継中小規模の小売店にとっては、経営者の高齢化や少子化などの影響も相まって次期社長候補がいない、引継ぎ先がないといった後継者不足の問題が深刻化しています。廃業という選択肢もありますが、手続きのための労力と費用が必要となります。特に老舗小売店といった地場で長年事業を続けてきた会社にとっては、①従業員の雇用継続、②仕入・販売先といった取引先各社への影響、③商品・サービス提供の影響などが大きな課題となります。
また何より、地域経済への影響が大きいことから既存事業の存続を目的とする事業承継は、M&Aの主要目的の一つです。
安定経営や事業の持続的成長を実現する
資金力が脆弱な小売店にとっては、資金繰りが少しでも苦しくなると経営悪化から倒産の危機に直結します。資本が潤沢な中堅・大手企業と資本提携することで経営が安定するだけでなく、譲受企業が有するノウハウを共有することで、管理・経理部門がより盤石なものとなり、販路網が拡大するなど事業全体の体質改善や企業の更なる成長へ繋がります。
会社の存続を希望する小売店の経営者にとっては、大手と資本提携することで得られるメリットは大きく、財務体質を強化し、持続的成長を可能にすることはM&Aの重要な目的になります。
事業やキャピタルゲインを獲得する
経営者にとって、会社を譲渡することでそれまで事業に投下してきた資金を回収し、キャピタルゲイン(売却益)を得ることができる点において、M&Aは重要な選択肢の1つになります。また、M&Aで獲得した売却益は負債などの返済だけでなく、新たな事業を立ち上げるための資金源として活用することができます。
譲受企業の目的
譲受企業がM&Aを検討する際の主要な目的には、次の3つが考えられます。
迅速かつ低リスクで小売業に参入する
一般的には、企業が今まで経験がない新しい分野に参入する場合、長い時間と多額の資金が必要となります。加えて新規事業が成功するとは限らず、失敗するリスクも伴います。
しかし、既に事業を行っている小売店を買収する場合では、企業が自ら新規事業を立ち上げるよりもスピーディに小売業に参入できます。且つ売上や経費、利益の見込みといった収益性についても対象会社の実績を元にある程度予測することが可能となり、既存店舗の問題点をこれまでのノウハウや資金力等により改善することが出来れば、新規事業が失敗するリスクを低減することが可能です。
事業規模を拡大する
小売業において事業を拡大するには1店舗あたりの事業規模の拡大か店舗数を増やす必要があります。しかしながらいずれも立地条件の良い場所を確保する必要や利用者の定着など時間とコストを要します。
M&Aによって既存店舗を買収することで条件の良い立地とその店舗の利用客を同時に取り込むことができるので、時間とコストが省略でき且つ即収益化が期待できることから事業規模の拡大には非常に有効な手段となります。
近年、コンビニエンスストアチェーンやドラッグストアチェーンのM&Aが活発なのはスピーディに店舗数を増やし事業規模を拡大できるからです。
優れた人材やノウハウ、貴重な取引先を獲得する
店舗を運営するには建物の立地だけでなく、中で働く従業員や商品の仕入先の他に運営ノウハウなども必要となります。しかし、M&Aによって既存の店舗を買収することによって優れた人材や運営ノウハウを獲得できるとともに、小売業には不可欠な商品の仕入先リストを入手することも重要な目的となります。
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小売業界のM&A 15事例
小売業界では、人口減少、Eコマースの浸透、消費低迷などによる市場環境の大きな変化の中で、生き残りをかけてM&Aが活発に行われています。
そこで、コンビニエンスストア、スーパーマーケット、百貨店、アパレル、ドラッグストア、家電量販店、家具販売店の7つの業界で注目されたM&Aにおける15の事例を紹介します。
コンビニエンスストア業界のM&A
セブン&アイ・ホールディングスとスピードウェイのM&A
本 社:東京都千代田区
資本金:500億円
売上高: 7兆7,899億27百万円(2024.2連結)
1958年 ㈱ヨーカ堂(現イトーヨーカ堂)設立。
2005年 持株会社㈱セブン&アイ・ホールディングス設立。
2022年コンビニエンスストア「セブン-イレブン」が世界で80,000店を突破。
2021年5月、セブン&アイ・ホールディングスは米セブン・イレブンを通して米石油精製販売会社マラソン・ペトロリアム社が運営するガソリンスタンド併設型コンビニ「スピードウェイ(Speedway)」3,800店舗を買収しました。このM&Aの買収額は約2兆円であり、セブン&アイ・ホールディングスにとって過去最大規模です。
店舗数ではすでに全米トップであったセブン-イレブンですが、この買収でその数が約1万3000に達し、名実ともに米国最大のコンビニチェーンとなります。
セブン&アイ・ホールディングスは、グループ成長戦略の一つとして、海外コンビニ事業の強化を掲げており、特に、堅調な経済成長が見込まれる北米コンビニ市場での事業拡大をグループ全体の重要な成長ドライバーと位置付けていました。本買収によって、北米コンビニ市場におけるプレゼンスをさらに強固なものとする計画です。
また買収後は、スピードウェイにセブンオリジナル商品を導入することで、商品売り上げの増加や購買力強化とするほか、スピードウェイのガソリン販売のノウハウを取得してガソリンスタンドとしての安定的は利益を得られるよう目指すなど、そのシナジー効果は高いものと予測されます。
ローソンによる成城石井の買収
本 社:東京都品川区
資本金:585億664万4千円
売上高:6,983億7,100万円(2022.2連結)
1975年4月、ダイエーローソン㈱を設立、同6月ローソン1号店となる「桜塚店」(大阪府豊中市)をオープン。1996年に社名を㈱ローソンに変更し、国内外の新規出店やM&Aの実施により現在売上高は業界第3位(※2024年1月時)となる。
2014年10月、当時業界第2位のコンビニエンスストアチェーンのローソンが、丸の内キャピタルから成城石井の株式全てを取得し、関東圏を中心に120店舗を持つ高級スーパーの成城石井を完全子会社化しました。
このM&Aの目的は、「食にこだわり、豊かな社会を創造する会社」を目指し高付加価値を追求する「成城石井」、働く女性向けの「ナチュラルローソン」やコンビニエンスストアの「ローソン」という価格帯別の店舗をラインナップすることで競合他社との差別化を図り、関西発祥のローソンが弱みとする首都圏での競争力を高めることです。
また成城石井はローソンの持つ店舗立地やロジスティックスなどのインフラを活用し、、ローソンは成城石井が持つブランド力や高付加価値商品のマーチャンダイジング力などを吸収・活用することができるといった両社における高いシナジー効果を期待する目的もあります。
伊藤忠商事による株式会社ファミリーマートの完全子会社化
本 社:東京都港区
資本金:2,534億4,800万円
売上高:12兆2,933億4,800万円(2022.3連結)
1949年、伊藤忠商事㈱を設立し翌年上場。現在は、非財閥系の総合商社大手として繊維分野、食料分野、中国市場に強みを持ち、傘下にファミリーマートなどの有力企業を持つ。
2020年8月、伊藤忠商事は、すでに50.1%の株式を保有し子会社化していたファミリーマートの株式公開買付(TOB)を行い、伊藤忠商事が99%出資するリテールインベストメントカンパニー合同会社を通して株式を取得、出資比率65.71%まで引き上げました。
伊藤忠商事としては、競争が激化しているコンビニエンスストア業界において、コロナの影響による消費行動の変化やEコマースの拡大などにより落ち込んだファミリーマートの収益を回復させるべく、ビジネスモデルの見直しが不可欠と判断し、単独で株主総会の特別決議が可能な65.71%の取得としました。
スピーディな経営判断、業務の効率化、データの活用など伊藤忠商事の総合力を生かしてファミリーマートの事業基盤を強化することが目的です。
スーパーマーケット業界のM&A
イオンによるダイエーの完全子会社化
本社:千葉県千葉市
資本金:2,200億700万円
売上高:8兆7,159億円(2022.2連結)
1758年三重県四日市にて小売業「岡田屋」として創業、1970年に岡田屋、フタギ、シロの3社が合併してジャスコ㈱を設立。2001年にイオン㈱に社名を変更し、2008年には純粋持株会社へ移行、現在は約300社(※2024年2月末時)の企業で構成するイオングループを形成する。
㈱ダイエーは、1972年に小売業における売上高第1位となってから長期に渡りトップの座を守り続けましたが、1990年代のバブル崩壊や事業の多角化に失敗し業績が悪化。
2004年に㈱産業再生機構へ支援を仰ぎ、丸紅とイオンによる支援の下で再生を試みたものの期待した成果は得られませんでした。
そこでイオンは2013年8月に株式公開買付(TOB)によって保有するダイエーの株式を44.15%まで増やし連結子会社化し、2015年1月には、ダイエーの残りの株式を取得し完全子会社化としました。
本M&Aの目的は、2つのグループの統合によるスケールメリットを活かし、共同仕入などの合理化によるコスト削減や経営資源の共有化によって抜本的な改革を図ることでした。その後、ダイエーの店舗をイオンへ変更し、店舗運営もイオンのシステムを導入するなどの改革を行い2年後には売上高の改善を果たしました。
ドンキホーテホールディングスによるユニーの完全子会社
※現在は㈱パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス
本 社:東京都目黒区
資本金:232億1,700万円 (2022.6連結)
売上高:1兆8,312億円(2022.6連結)
1980年、卸売・小売販売を目的として㈱ジャストを設立。1995年に㈱ドン・キホーテに社名を変更。2013年に社名を㈱ドンキホーテホールディングスに変更し、純粋持株会社となる。2019年に社名を㈱パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスに変更。
2019年1月、ドンキホーテホールディングスは保有していたユニーの株式40%に加えて、ユニー・ファミリーマートホールディングスから残りの株式60%を取得しユニーを完全子会社化しました。
ユニーはスーパーマーケット「アピタ」「ピアゴ」などを展開し中京圏を中心にしっかりとした事業地盤を持っており、ドンキホーテホールディングスはユニーを子会社化することで両社それぞれの経営資源や独自の強み・ノウハウを活かした相互補完効果、規模の拡大や店舗運営の改善、仕入れの効率化を図ることを目的としています。
百貨店業界のM&A
エイチ・ツー・オーリテイリングによる関西スーパーマーケットの経営統合
本社:大阪市北区
資本金:177億9,600万円
売上高:5,184億4,700万円(2022.3連結)
1929年阪急百貨店を創業、1947年㈱阪急百貨店設立。2007年㈱阪急百貨店と㈱阪神百貨店が経営統合、阪急が阪神を子会社した。㈱阪急百貨店は、エイチ・ツー・オー リテイリング㈱(※以後、H2Oと表記)へ社名を変更した。
現在は、百貨店事業、食品事業、不動産事業、ホテル事業、飲食店事業などの小売関連事業を中心に展開している。
2021年12月、関西の中堅スーパーである㈱関西スーパーマーケットを株式交換完全親会社として、H2Oの完全子会社であるイズミヤ㈱と㈱阪急オアシス(いずれも関西主要スーパー)を株式完全子会社としました。
関西スーパーは同社の全事業を分割して新設する子会社(新関西スーパー)に移管し、イズミヤ、阪急オアシス、新関西スーパーを子会社とする旧関西スーパーは中間持ち株会社「㈱関西フードマーケット」へと商号を変更、H2Oは中間持ち株会社の株式58%を保有することで、実質的な経営権を握ります。
本M&Aの目的は、H2Oが関西においてスーパー事業の規模を拡大しトップの地位を確立するとともに、商品の共同開発や共同物流などの相乗効果によって合理化を図ることです。
三越伊勢丹ホールディングスによるニッコウトラベルの買収
本社:東京都新宿区
資本金:511億6,200万円 (2022.3連結)
売上高:4,183億3,800万円(2022.3連結)
2008年、㈱三越と㈱伊勢丹が共同で持ち株会社㈱三越伊勢丹ホールディングスを設立し、同社の完全子会社となる。その後、㈱岩田屋なども完全子会社化し、三越、伊勢丹、岩田屋、丸井今井を中核とした小売グループを統括している。
2017年3月、㈱三越伊勢丹ホールディングスは、㈱ニッコウトラベルの普通株式を公開買付(TOB)により取得しました。これにより、三越伊勢丹ホールディングスの所有権割合が91.22%となり、ニッコウトラベルは三越伊勢丹ホールディングスの子会社となりました。
さらに2019年4月には、三越伊勢丹ホールディングスの連結子会社である㈱三越伊勢丹旅行、㈱ニッコウトラベル、㈱ニッコウ企画の3社を統合し、社名を「㈱三越伊勢丹ニッコウトラベル」としました。
三越伊勢丹ホールディングスは、国内旅行に強みを持つ三越伊勢丹旅行と、海外旅行に強みを持つニッコウトラベル、さらに媒体制作機能を持つニッコウ企画の3社が合併することにより、質の高い添乗サービスと独自性の高い国内・海外の企画旅行商品を提供する体制を構築し、ラグジュアリートラベルマーケットにて事業拡大を図ることが目的です。
ファッション専門店のM&A
ZホールディングスによるZOZOの子会社化
本 社:東京都千代田区
資本金:2,470億6,400万円(2022.12) 2,471億2,700万円(2023.6)
売上高:1兆5,674億2,100万円(2022.3連結)
1996年、ヤフー㈱を設立し、情報検索サイト「Yahoo! JAPAN」を開始。その後「Yahoo! オークション」「Yahoo! BB」などインターネットを利用した多数のサービスを提供し、2019年にZホールディングスに社名変更。持株会社体制へ移行。現在は、LINE、ASKUL、ZOZO、PayPayをはじめとする多くの有力企業を傘下に持つ。
2019年11月ヤフー㈱などを傘下に持つZホールディングスは、ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営する㈱ZOZOの株式を50.1%取得し連結子会社化しました。
同社は、2013年からEコマース事業を強化しており、市場規模の大きいファッション分野で高いシェアを持つZOZOをグループに加えることで、成長が著しいEコマース市場でAmazonや楽天に対抗できる競争力を得ることが目的でした。
2019年3月期に設立以来、初めての減益となったZOZOにとってもZホールディングスの子会社となることで、Yahoo!の顧客やソフトバンクのスマートフォンユーザーを新たな顧客として取り込めるメリットがあります。
ファーストリテイリングによる米国J BRAND HOLDINGS,LLCの買収
本 社:山口県山口市
資本金:102億7,395万円
売上高:2兆3,011億円(2022.8連結)
1963年、小郡商事を設立し、1991年にファーストリテイリングに社名を変更。ユニクロ1号店を広島に出店してからフリースの大ヒットを足がかりに国内外の主要都市にグローバル旗艦店(※補足3)を出店し、インデックス(ブランド:ZARAなど)、H&Mに次ぐ世界第3位(2023.5)のアパレル専門店。
2012年12月、ファーストリテイリングが、米国を拠点にプレミアム・デニムを中心に展開するコンテンポラリーブランドのJ Brand Holdings,LLCの株式80.1%を取得し、子会社化しました。
J Brandは、2005年に設立、米国ロサンゼルスを本社としてメンズ・ウィメンズのプレミアム・デニムを中心に世界20ヶ国以上で2,000以上の有名百貨店、セレクトショップで販売を行っています。コンテンポラリーブランドのカテゴリーでは世界有数のブランドとして、事業基盤を確立しており、米高級ジーンズ市場では10%のシェアを占めています。
本買収は、グループブランドのデニム商品開発の強化、米国ファッションの重要拠点であるロサンゼルス発のブランドの獲得による米国市場でのファーストリテイリングの立ち位置の強化を図ることで、ファーストリテイリングのグローバル展開に加速をつけることを目的としたものです。
※補足3:旗艦店とは
複数の店舗を展開する企業・ブランドにおいて、宣伝・販売などビジネス戦略上の中核を担う店舗のこと。「フラッグシップストア」とも呼ばれる。
通常店舗と同様の商品展示・販売はもちろんのこと、企業・ブランドのPR・イメージ発信に注力して運営されている点が特徴。集客力が高くブランドイメージのアップが見込まれる主要都市・主要エリアでの出店が高い傾向にある。
グローバル旗艦店は、ユニクロにおいて最高水準の商品・ビジュアルマーチャンダイジング(VMD)・サービスなどを意識した世界的情報発信の拠点となる大型店舗を指す。
ドラッグストア業界のM&A
ウエルシアホールディングスによる一本堂の完全子会社化
本 社:東京都千代田区
資本金:77億3,600万円
売上高:1兆259億4,700万円(2022.2連結)
2008年、グローウェルホールディングス㈱設立、2012年にウエルシアホールディングス㈱に社名を変更。2014年にイオン㈱の連結子会社となり数々のM&Aを経て、ウエルシア薬局、シミズ薬局、丸大サクラヰ薬局、クスリのマルエなど多数の薬局を傘下に持つ。ドラッグストア売上高では業界第1位(202年現在)(※2023年度時点決算報告より)。関東を中心に東北から近畿で調剤併設型ドラッグストアを展開する。
2018年3月、ウエルシアホールディングスは、東京都内を中心にドラッグストア42店舗を展開する㈱一本堂を完全子会社とする経営統合を行いました。
翌2019年3月ウエルシアホールディングスの完全子会社であるウエルシア薬局㈱を存続会社、㈱一本堂を消滅会社とする吸収合併を行い、統合後は全店舗の看板をウエルシアに変更しPOSレジといった基幹システムの変更を行いました。
都市型店舗が多い一本堂を取り込むことで、本部機能の効率化や従業員の交流といった経営資源の有効活用から都心部の店舗網強化を目的とする合併です。
マツモトキヨシホールディングスとココカラファインの経営統合
本 社:東京都文京区
資本金:220億5,100万円
売上高:
(㈱マツモトキヨシ5,569億700万円、㈱ココカラファイン3,664億4,000万円※2021年3月期)
㈱マツモトキヨシは、1932年に松本清が後のマツモトキヨシとなる「松本薬舗」を創業し、1987年からドラッグストア展開を開始。㈱ココカラファインは、1937年に「セガミ製薬所」として設立、全国にチェーン展開を行う。その後、何度かの経営統合や合併を繰り返し2010年に㈱ココカラファインとなる。
2021年10月、ドラッグストア業界ランキング(売上高)第6位のマツモトキヨシホールディングスと第7位のココカラファインが経営統合を行いました。
マツモトキヨシホールディングスを完全親会社、ココカラファインを完全子会社とする株式交換にて行い、統合後は新社名「㈱マツキヨココカラ&カンパニー」として各社のブランドを維持しながらグループとして運営する方針です。
マツキヨココカラ&カンパニーは、この経営統合によってドラッグストア業界でのシェア拡大とともに、スケールメリットを活かした仕入れ改善、相互供給によるシナジー効果、顧客基盤の共有によるネット販売の促進、店舗運営の効率化や物流システムの統合などによるコスト削減を図り、2026年にはグループ売上高1.5兆円、営業利益7%を目指します。
本統合によりマツキヨココカラ&カンパニーは、ウエルシアホールディングス(連結売上高:9,496億円 ※2021年時)に次ぐ業界第2位となり、第2位を維持していたツルハホールディングス(連結売上高:9,193億円 ※2021年時)と業界トップをめぐる戦いとなります。
家電量販店業界のM&A
ビックカメラによるコジマの買収
本 社:東京都豊島区
資本金:259億2,900万円
売上高:7,923億6,800万円(2022.8連結)
1978年カメラ専門店として創業、1980年法人成した。家電やパソコン、ゲームなど取扱商品の拡大をするとともに、「都市型」×「駅前」×「大型」を中心とした店舗出店、インターネット通販事業の開始により事業を拡大。
2012年6月、当時、家電量販店の売上ランキングで第5位となるビックカメラが、売上第7位であった同業のコジマを買収、コジマを傘下に収めました。
ビックカメラは、コジマが実施した第三者割当増資を引き受け、コジマの株式50.6%を保有する筆頭株主となりました。
これにより両社の売上合計は約1兆円となり、首位のヤマダ電機に次ぐ業界2位に浮上、競争で優位に立つとの判断からです。
ビックカメラの目的は、コジマが行ってきた地域密着型による都市近郊型店舗展開と、当社の「都市型」×「駅前」×「大型」の店舗展開を掛け合わせることで、都市から近郊といった広範囲なマーケットをカバーすることによるシェアの拡大と、商品調達の統合、物流の共同化、システム連携などによる効率化とコストダウンでした。業績が低迷していたコジマにとっては生き残りを目的とした要素が大きい資本業務提携と言えます。
エディオンによるフォーレストの買収
本 社:大阪府大阪市
資本金:119億4,000万円
売上高:7,137億6,800万円(2022.3連結)
2002年、㈱デオデオと㈱エイデンが株式移転方式により持ち株会社㈱エディオンを設立。その後、ミドリ電化、石丸電気、ホームエキスポ、エヌワーク、コムネットなど数々のM&Aによって事業規模を拡大。
2017年8月、家電量販店のエディオンがEコマースのサイト「Forestway(B to B)」と「ココデカウ(B to C)」を運営するフォーレストの全株式を取得し子会社化しました。当時、エディオンは実店舗の販売だけでなくEコマースなども含めた複数のチャネルで顧客を囲い込むオムニチャンネル戦略(※補足4)を推進していたので、その一環としての買収でした。
エディオンはこのM&Aによって、フォーレストが保有するEコマース事業に必要な商品の取扱方法や倉庫運営などのノウハウを獲得することで、Eコマースの売上げ拡大を狙う目的です。
※補足4:オムニチャネル戦略とは:
企業の販売活動における顧客との接点「チャネル」を、WEB、ECサイト、アプリ、実店舗といった様々なチャネルと連携させることで顧客に対して一貫的にアプローチする販売戦略手法。主に小売業などで活用されている。
家具販売店業界のM&A
ヤマダホールディングスと大塚家具のM&A
本 社:群馬県高崎市
資本金:711億円
売上高:1兆6,193億7,900万円(2022.3連結)
1973年、電気店「ヤマダ電化サービス」を開業。1983年、㈱ヤマダ電気を設立し、FCチェーン展開、大型総合架電店舗の開店、物流センターの開設と業績を拡大。2020年にヤマダ電気グループは㈱ヤマダホールディングスを設立し持株会社体制に移行。
2022年5月、㈱ヤマダホールディングスは、連結子会社である㈱ヤマダデンキと、同じく連結子会社である㈱大塚家具において㈱ヤマダデンキを存続会社、㈱大塚家具を消滅会社として吸収合併しました。これにより1972年に設立した法人としての「大塚家具」は消滅しました。
経営不振が続く大塚家具を再生させるためヤマダホールディングスは、2019年12月に同社を子会社化(第三者割当増資)、2021年9月に株式交換によりヤマダホールディングスの完全子会社となっていました。
これまで大塚家具は、「上質な暮らし」を提供することを使命に、高価格ゾーンを主軸とした世界中の優れた商品を顧客が納得する価格でインテリアコンサルティングサービスをはじめとした充実したサービスを提供していました。
またヤマダデンキと大塚家具は、両者店舗での双方の商品販売や社員出向による家具・家電販売のノウハウの共有および人事育成など相互連携に取り組んでいました。
本合併によりヤマダホールディングスは、大塚家具の持つノウハウ、経営資源を集約するとともに、両社が一体となることによるシームレスな営業の強化、顧客利便性の向上、業務処理面での効率性を高めていくことを目的としています。
ニトリホールディングスと島忠のM&A
本 社:東京都北区
資本金:133億7,000万円
売上高:8,115億8,100万円(2022.2連結)
1967年、似鳥家具店を創業。1972年に似鳥家具卸売センター㈱を設立し、1986年に社名を㈱ニトリに変更。その後、国内外の出店とM&Aによって事業を拡大し、2010年㈱ニトリホールディングスを親会社とする持株会社体制に移行。
2020年12月、ニトリホールディングスはホームセンター大手の島忠をTOBによって子会社化。2020年10月に、ホームセンター大手のDCMホールディングスが1株4,200円で島忠の友好的TOBを開始し、その翌月ニトリホールディングスが1株5,500円でTOBを開始したのです。最終的に、島忠はDCMホールディングスのTOBに対する賛同表明を撤回し、ニトリホールディングスのTOBに賛同。2021年1月にニトリホールディングスの連結子会社となりました。
ニトリホールディングスのTOBの目的は、島忠をグループ内に取り込み商品の共同開発などを推進しホームセンター業界に進出することでした。
まとめ
ここまで、小売業におけるM&Aの目的や、業界ごとのM&Aの15事例を紹介しましたが、最終消費者に直接商品を提供する小売業は時代とともに変化する消費者のライフスタイル・ニーズ・消費行動などの影響を受けやすい業種です。
そのため衰退する業界は生き残りを賭けて業態変更や経営統合などによる経営改善を目的としたM&Aを、成長段階にある業界はさらなるシェア拡大・生産性の向上・合理化などを目的としてM&Aを活発に行っています。
今後、さらなる競争の激化が予想される小売業において、M&Aは重要な選択肢の1つとなります。
これは大手・上場企業に限らず、中小・中堅企業においても該当するものであり、自社の将来が見通せないと感じたときや成長に加速をつけたいときには、M&Aの活用を検討してはいかがでしょうか。