アプリのM&A動向
アプリのM&Aには、アプリを運営する企業のM&Aやアプリ単体のM&Aがあります。製造業などに比べ、資産・負債が少ないことからM&Aの交渉から実行に到るまで短期間であることが特徴です。
世界的に知られる有名企業もM&Aを積極的に行なっています。また、近年はアプリを開発・運営するスタートアップ企業のM&Aが増加しています。
スタートアップ企業は出資者から、急成長を求められることも少なくありません。そのような中、スタートアップがスタートアップをM&Aし、急激な成長を狙う場合もあります。
アプリのM&Aが行われる主な理由
アプリのM&Aが行われる主な理由には、アプリ自体に特異性があるだけではなく優秀な人材を確保できたり市場が成長中であるなどさまざまな要因があります。また、個人開発したアプリ単体のM&Aが行われう場合があります。ここからはそれぞれの特徴を紹介します。
優秀な人材を確保し定着させたい
アプリ開発や運営する企業は、長期にわたって人材不足の問題を抱えている状況です。特にプログラマやエンジニアなどは長時間労働で心身ともに負担が大きくかかり、人材の定着率も低い傾向があります。会社が今後成長するためには優秀な人材を確保し、どう定着させていくかが課題です。
個人が開発したアプリ単体も売却可能
開発会社だけでなく、個人でも売れるアプリを作れます。ただし、GooglePlayやApple storeに並ぶアプリは膨大で、ランキング上位のアプリは、複数のプロフェッショナルたちによって、制作・運営されている傾向があります。M&Aでアプリの売却を検討する場合、売却価格はユーザー数やアプリ収益などが加味されるため、人気のないアプリは安価になりがちです。個人で開発したアプリを売却したいと場合は、人気アプリに育てる工夫が求められます。
アプリ開発会社が成長し需要がある
成長し続けているアプリを開発・運営する会社は、M&Aの需要が高い傾向があります。特に新しい領域のアプリ開発により、ユーザーが増え、大きなビジネスチャンスを獲得できる可能性があります。ヒットアプリをゼロから生み出すより、ユーザーやノウハウがある企業を買収するほうが失敗するリスクも軽減でき、非連続な成長を期待できます。
アプリのM&Aに適した手法はある?
アプリのM&Aで主に使われる手法として、株式を売却し、支配権を移す「株式譲渡」と事業を売却する「事業譲渡」があります。アプリのM&Aを検討する企業によっては、どちらの手法を選べばいいか悩む人も少なくありません。ただそれぞれの手法にはメリットとデメリットがあるので、それらを考慮した上で適した手法を選びましょう。
株式を譲渡し会社の支配権を移す「株式譲渡」
株式譲渡とは、売却企業オーナーが保有株式を買い手側の企業または個人へ譲渡し、会社の経営権を買い手側へ譲渡する手法のことです。売り手側が株式を譲る一方で、買い手側は対価として現金を支払います。株式の過半数を保有すると企業の支配権を得られます。支配権を得ると企業の重要事項を決めることができます。アプリ会社や中小企業のM&Aにおいては株式譲渡を使用するのが一般的です。
関連記事「株式譲渡とは一体?メリットや手続き方法は?」
株式譲渡のメリット・デメリット
株式譲渡を選ぶ中小企業が多いのは、他のM&Aの手法に比べると迅速かつ簡便に手続きを完了できます。また、株式の売却益に対して税金が発生しますが、金額に関わらず売却益の20.315%で定率なので、この点は株式譲渡のメリットといえます。また、株式譲渡のデメリットは、未認識債務に対するリスクカットがほぼできない点や、株主が多数いる場合、過半数の株式を集めることに苦労する場合などがあります。この点が株式譲渡のデメリットといえるでしょう。
事業の一部を売却する「事業譲渡」
事業譲渡は、企業が運営する一部の事業だけを売却する手法のことです。株式譲渡とは異なり企業全体を売却するわけではないため、自社の経営権は保有したままになります。事業を第三者に売却することで、買い手側から現金の対価を受けられるのが大きな特徴です。株式譲渡は中小企業で用いられることが多いですが、事業譲渡の場合は個人事業主における事業売却でも使われます。
事業譲渡のメリット・デメリット
事業譲渡を行う売り手側のメリットは、必要な事業のみを譲渡もしくは譲受することができる点や保険などを残す事ができる点です。
また、事業譲渡を行う買い手側のメリットは、簿外債務など未認識債務に対するリスクをカットできる点です。事業譲渡では引き継ぎたい資産や取引先、負債を個別に決定できます。基本的に契約書に明記されていない負債は、買い手側に引き継がれません。
一方、事業譲渡のデメリットは、手続きが株式譲渡に比べ煩雑になることです。事業譲渡では、個々の資産や負債について個別に判断しなければいけないため、比較的時間を要します。雇用を含めた契約関係は引き継がれないため、関係者と契約を結びなおさなければいけません。
関連記事「事業譲渡と株式譲渡の違いは何か?事業を行う際に押さえておきたい必要最低限のポイント」
アプリM&Aの相場
近年、アプリのM&A相場(M&Aでの譲渡価格)は、他の業界と比較し譲渡価格が高い傾向にあります。これは、アプリのM&A市場が活況であることが背景にあり、特にアプリの譲渡価格は以下の要因に影響を受けます。
1.収益性
アプリの収益性が高い場合、今後も事業の継続で高い収入が得られると想定されるため、譲渡価格は高くなります。
2.ユーザー数
アプリのユーザー数が多いと、市場シェアやユーザー取り込みによる新たなビジネスチャンスを創出できます。このため譲渡価格が上昇します。
3.技術力(クオリティ)
アプリ開発には高度な専門技術が必要な場合が多く、クオリティの高いアプリは高額な買収額が期待できます。
4.市場競争状況
市場シェアや競合他社の状況も重要な要素です。参入障壁があれば、さらにその希少性が高くなるため、譲渡価格も高い水準が期待されます。
実際には、譲受企業のニーズ次第で譲渡価格は変動しますが、主に上記4点を総合的に判断し、アプリのM&A相場は決定されることとなります。
アプリのM&A事例3選
ここからは、アプリのM&A事例を紹介します。
・ザワットがメルカリに「スマオク」を株式譲渡
・Origamiがメルペイに「Origami Pay」を株式譲渡
・大学生起業家が毎日新聞社に「俳句てふてふ」を事業譲渡
ザワットがメルカリに「スマオク」を株式譲渡
売主は、中古のブランド品やアニメグッズなどをスマホで写真撮影し出品できるフリマアプリ「スマオク」を運営するザワット株式会社です。一方、買主はフリマアプリ「メルカリ」運営する株式会社メルカリです。M&Aの目的は、Eコマース分野をさらに拡大することです。2017年、株式譲渡によりザワットを完全に子会社化しました。
Origamiがメルペイに「Origami Pay」を株式譲渡
売主は、スマホ決済サービス「Origami Pay」を運営する株式会社Origamiです。一方、買主はメルカリの子会社で、スマホ決済サービスを展開するメルペイです。M&Aの目的は、売主の財務状況の悪化で事業存続が危うかったことです。買主はOrigamiのユーザーを取得するスケールメリットが目的でM&Aを実施しました。
大学生が毎日新聞社に「俳句てふてふ」を事業譲渡
売主は、当時大学生だった若手実業家が代表を務める株式会社PoliPoliです。売却対象は「俳句てふてふ」という、俳句の投稿や検索を行えるアプリです。一方、買主は大手新聞社である毎日新聞です。M&Aの目的は、売主にアプリを成長させるための経営資源を投下する余裕がないことから、俳句に関するコンテンツを長年提供している毎日新聞に事業譲渡しました。
アプリのM&Aで売却価格を上げるコツ
アプリのM&Aにおいて、少しでも高く売却したい意向は大なり小なり売主は持ちます。ここでは、アプリのM&Aで売却価格を上げるコツをまとめました。アプリを売却する上で注目すべきポイントをご紹介します。
事業として収益化している
買手が赤字のアプリを買収する場合、買収したアプリに相当の投資や労力を投下し、利益体質へ変換することが求められます。一方、事業として収益化しているアプリは買手にとって投資回収の可能性が高く、売却価格が比較的高くなる傾向があります。
アクティブユーザーが多い
アプリ事業の売却価格を決める時にひとつの指標になるのが、ユーザー数です。たとえ赤字が出ていたり収益化できていなかったりなどでも、ユーザー数が多ければ高く売却できる可能性があります。また、ただ単にユーザー数が多いだけでなく、アクティブユーザーがどれだけいるかもポイントになります。また、アクティブユーザーのもととなるダウンロード数やアカウント数などの指標も重要です。
iOSとAndroidの両方に対応している
iOSとAndroidは開発言語が異なるので、個人や小規模の会社の場合はどちらか一方の開発しか取り組めていない場合があります。また、iOSとAndroidではユーザー層が異なるため、片方のアプリのみ運営する場合はユーザーを獲得しきれない可能性があります。
まとめ
アプリのM&Aの手法には主に株式譲渡と事業譲渡があり、どちらを選ぶかによって得られるメリットやデメリットも異なります。それぞれの特徴を踏まえた上で、どちらの手法がアプリをM&Aする際に適しているのか専門家に相談することをおすすめします。