減損とは?メリット・デメリットやフロー、処理後の影響など解説

会計士 加藤大典

大手自動車メーカーに入社、生産技術部にて製造工程設計業務に携わる。その後、デロイトトーマツコンサルティングに入社し、組織再編により有限責任監査法人トーマツのアドバイザリー部門に異動。製造業の法定監査業務及びIFRS導入支援、組織再編支援、事業再生支援、内部統制構築支援、決算早期化支援、経営管理体制強化支援等の様々なプロジェクトに従事。

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会計には、固定資産にかかわる「減損」という処理があります。減損とは、具体的にどのような会計処理をするものなのでしょうか?

この記事では、減損処理のメリットやデメリット、処理フローなどを紹介します。減損処理について詳しく知りたい方は、ぜひ参考にしてみてください。

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減損とは?

減損とは、固定資産の収益性が悪化し投資額の回収が見込めない時に、帳簿価額を回収可能価額まで引き下げる会計処理のことです。 簡単に言えば、不動産投資や設備投資などの固定資産の失敗を、あるべき姿に取り戻す処理です。

たとえば、とある工場で5,000万円の設備を取得したとしましょう。しかし、その後で経営環境が悪化し、この設備の稼働率が著しく低下したとします。さらに、設備の稼働率回復が見込めず、利益に貢献しないと判断しました。
そこで、設備の取得価額を仮に2,000万円までに切り下げると、3,000万円の特別損失を計上することになります(減価償却費は考慮していません)。この会計処理が「減損」です。

このように減損処理は、一般的に「固定資産への投資の失敗をあるべき姿に戻す」ものとして認識されます。そのため、資金調達先の株主や銀行などから悪い印象をもたれることが多いものの、翌期以降の利益が改善される効果もあります。

減損処理は一時的に業績を悪化させますが、財務諸表がより正確なものになるため、企業にとっては必要な会計処理です。

減価償却との違い

減価償却とは、固定資産の取得価額を、複数の会計年度に割り振って計上する費用です。

減損と減価償却の違いは、計上期間です。減損は一時的な会計処理で、単年度で特別損失として計上されます。一方で減価償却は、固定資産の取得時に、その費用すべてを該当の会計年度のみで計上するものではありません。耐用年数をもとに、複数年度にわたって「減価償却費」として計上します。

【関連記事】減価償却とはなにか? 計算・仕訳方法やメリットを徹底解説

減損処理のメリット・デメリット

当初予定していた固定資産の投資回収が見込めない時に減損損失を計上することは、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?

減損処理のメリット

減損処理のメリットは、主に次の2つです。

・減価償却費を少なくできる
・財務諸表が正確になる

減価償却費を少なくできる

減損処理の1つめのメリットは、減価償却費を少なくできることです。減損は、固定資産の取得価額を減額させる会計処理のため、翌期以降の減価償却費を減らせるのです。 減価償却費が少なくなれば、ROE(自己資本利益率)やROA(総資産利益率)が向上し、翌期以降に利益を出しやすい体質に変わることがあります。

財務諸表が正確になる

減損処理は、当初予定していた固定資産の投資額の回収が見込めない時に、取得価額を減額する処理です。 つまり「固定資産をあるべき姿に戻す」ものであり、減損処理は財務諸表をより正確なものにします。財務諸表が正確な姿になれば、翌期以降の経営計画もより実態に即したものになります。

減損処理のデメリット

続けて、減損処理のデメリットを3つ紹介します。

計上した会計年度の業績が悪化する

資金調達先に減損処理の説明が必要になる

計上した会計年度の業績が悪化する

減損損失を計上した会計年度では、多額の特別損失を出すのが一般的です。多額の特別損失を計上すれば、当然、該当の会計年度の業績は悪化します。

資金調達先に減損処理の説明が必要になる

減損は多額の費用を計上することが多く、該当の会計年度は赤字になるのが一般的です。投資家や銀行などから資金を調達している場合、減損損失によって赤字になった理由や経緯を説明し、納得してもらう必要があります。

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減損処理の対象となる固定資産

減損処理の対象となる固定資産は、次の3つです。

・有形固定資産
・無形固定資産
・投資その他資産

①有形固定資産

有形固定資産とは、建物や土地、機械装置など企業が長期にわたって営業活動で使用する資産などです。企業の代表的な有形固定資産は、次のとおりです。

有形固定資産
建物事務所や工場、倉庫など
土地工場用地や店舗用地など
機械装置パソコンや店舗の冷蔵庫など
構築物花壇や塀など
車両運搬具社用車や事業用トラックなど

②無形固定資産

無形固定資産は、具体的な形態をもたないが、事業の収益に貢献する資産です。

無形固定資産にはソフトウェアや営業権、M&Aによって発生する「のれん」などがあります。これらの無形固定資産も、減損の対象となります。

【関連記事】のれんとは?基礎知識や会計基準による違いをわかりやすく解説

③投資その他資産

投資その他資産とは、有形固定資産と無形固定資産に該当しない固定資産のことです。有価証券や関連会社株式、出資金などが該当します。たとえば有価証券の時価が購入時よりも著しく減少し、回収可能の見込みがない場合は、減損損失に計上できます。

ただし詳しくは後述しますが、中には「その他有価証券」のように減損損失に計上できない固定資産もあるので、注意が必要です。

減損処理の対象とならないものは?

固定資産の中には、減損処理の対象とはならない資産があります。具体的には、 減損とは異なる別の会計基準で定めのある固定資産については、減損損失を計上できません。

減損損失を計上できない固定資産は、次のとおりです。

・「金融商品に係る会計基準」で定めのある金融資産
・「税効果会計に係る会計基準」で定めのある繰延税金資産
・「研究開発費等に係る会計基準」で定めのある、無形固定資産として計上されている市場販売目的のソフトウェア
・「退職給付に係る会計基準」で定めのある前払年金費用

減損処理を行うタイミングは?

減損処理を行うタイミングは「減損の事実があることを認識した時」です。そして、減損の事実は「減損の兆候」をもとに把握します。

減損の兆候とは「資産または資産グループに減損を生じている可能性を示す事象」です。 企業会計基準委員会の「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第6号)」の中で紹介されている、6つの減損の兆候を紹介します。

参考:「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第6号)

・営業活動から生ずる損益またはキャッシュ・フローが継続してマイナスになる、また継続してマイナスになる見込みがある
・使用範囲または方法について、回収可能価額を著しく低下させる変化がある
・経営環境が著しく悪化している
・市場価格が著しく下落している
・共用資産に減損の兆候がある
・のれんに減損の兆候がある

営業活動から生ずる損益またはキャッシュ・フローが継続してマイナスになる、また継続してマイナスになる見込みがある

「営業活動から生ずる損益」とは、企業の取引に関連して生じる損益を指します。この損益には、資産または資産グループに直接生じる費用のほかにも、本社費用や棚卸しの評価損など間接的に生じた費用も含まれます。

また「キャッシュ・フローが継続してマイナス」とは、おおむね過去2期がマイナスであることを指します(当期が明らかにプラスの場合を除く)。「継続してマイナスになる見込み」とは、前期と当期以外がマイナスになるケースとされています。

使用範囲または方法について、回収可能価額を著しく低下させる変化がある

資産または資産グループが使用されている範囲、または方法について、以下のように回収可能額を著しく低下させることを指します。

(1)資産または資産グループが使用されている事業を廃止、または再編成する
(2)当初の予定よりも著しく早期に、資産または資産グループを除却や売却などにより処分する
(3)資産または資産グループを、当初の予定または現在の用途と異なる用途に転用する
(4)資産または資産グループが遊休状態になり、将来の用途が定まっていない
(5)資産または資産グループの稼働率が著しく低下した状態が続いており、稼働率が回復する見込みがない
(6) 資産または資産グループに著しい陳腐化等の機能的減価が観察できる
(7)建設仮勘定にかかわる建設について、計画の中止または大幅な延期が決定されたことや、当初の計画に比べ著しく滞っている

経営環境が著しく悪化している

製品の材料価格の高騰や特許期間終了による関連技術の拡散、重要な法改正など、周りの経営環境が著しく悪化した時を指します。

市場価格が著しく下落している

資産または資産グループの市場価格が、帳簿価額から50%以上下落したケースを指します。

共用資産に減損の兆候がある

資産または資産グループのうち、キャッシュ・フローの生成に間接的に寄与している資産(のれんを除く)を「共用資産」といいます。共用資産には、たとえば本社の建物や研究施設、福利厚生施設などが該当します。
共用資産に減損の兆候が見られれば、減損処理のタイミングです。

のれんに減損の兆候がある

企業または事業の買収によって支払われる金額と、純資産価額との差額である「のれん」も、減損の兆候を認識する対象です。ただしのれんは、単独で減損の兆候を判断できないので、のれんを含む大きな単位で確認するのが一般的です。

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減損処理のフロー

減損処理を進める際の一般的なフローは、次のとおりです。

・固定資産をグループ分けする
・減損の兆候を把握する
・減損処理を判断する
・減損処理を測定する
・減損の会計処理を行う

①固定資産をグループ分けする

減損処理を行うにあたって、まずは固定資産をグルーピングします。減損処理では、複数の資産を1つの単位にまとめる(グルーピング)ことが認められています。

たとえばとある工場が、土地の上に建物を建てて、機械を使って1つの製品を生み出しているとしましょう。この時「土地」「建物」「機械装置」という複数の固定資産が一体となって、1つの製品(キャッシュ・フローを生み出す最小の単位)ができあがっていることになります。

減損処理のフロー

そこで「土地」「建物」「機械装置」それぞれ単独で減損処理をするのではなく、3つの固定資産を1つにグルーピングして会計処理を行います。

②減損の兆候を把握する

固定資産をグループ分けしたあとは、減損の兆候を把握します。ここでは、先ほどの「減損処理を行うタイミングは?」で紹介した、6つの減損の兆候を確認します。

・営業活動から生ずる損益またはキャッシュ・フローが継続してマイナスになる、また継続してマイナスになる見込みがある
・使用範囲または方法について、回収可能価額を著しく低下させる変化がある
・経営環境が著しく悪化している
・市場価格が著しく下落している
・共用資産に減損の兆候がある
・のれんに減損の兆候がある

③減損処理を判断する

減損の兆候を把握した結果、実際に減損処理を行うかどうかを判断します。具体的には、 割引前将来キャッシュ・フローと帳簿価額を比較して、前者が後者を下回る際、減損処理を実行します。

割引前将来キャッシュ・フローとは、認識対象となる資産または資産グループが、将来にわたって得られるキャッシュ・フロー(固定資産の使用および処分で得られるもの)です。

・割引前将来キャッシュ・フロー<帳簿価額→減損を認識する
・割引前将来キャッシュ・フロー>帳簿価額→減損を認識しない(減損処理は不要)

たとえば、とある工場の固定資産グループが、将来3年間で年間100万円のキャッシュ・フローを生み出すとします。そうすると、割引前将来キャッシュ・フローは「300万円」です。

この時、資産または資産グループの帳簿価額が400万円だと、割引前将来キャッシュ・フローのほうが下回っているので減損処理を認識できます。一方で、帳簿価額が200万円の場合、割引前将来キャッシュ・フローのほうが上回っているので減損処理は求められません。

④減損を測定する

減損を認識した場合、つまり割引前将来キャッシュ・フローが帳簿価額を下回っている時、続けて減損を測定します。どれだけ減損損失が発生しているかを計算するフェーズです。

具体的には、 帳簿価額から固定資産の回収可能価額を差し引いた額を、損益計算書の特別損失に計上します。

減損損失=帳簿価額-固定資産の回収可能価額

固定資産の回収可能価額については「正味売却価額」または「使用価値」の、どちらか高いほうで計算するのが一般的です。

・正味売却価額>使用価値→「正味売却価額」が回収可能価額に
・正味売却価額<使用価値→「使用価値」が回収可能価額に

「正味売却価額」とは、資産グループの時価から処分費用見積額を差し引いた金額です。

正味売却価額=資産グループの時価-処分費用見積額

なお、現在も資産または資産グループに価値があると判断される場合、正味売却価額の時価は「観察可能な市場価格」となります。一方で、資産または資産グループの現在に価値がない場合は「合理的に算定された金額」で算出されます。

「使用価値」とは、資産または資産グループの継続的使用と使用後に見積もられる、将来キャッシュ・フローの現在価値です。使用価値は、次の計算式で算出されます。

使用価値=N年後の将来のキャッシュ・フロー÷((1+割引率)のN乗)

たとえば、2年後の資産グループキャッシュ・フローが400万円で、割引率が1%の場合、使用価値は100万円となります。

400万円÷(1+1)2=100万円

上記のように正味売却価額と使用価値をそれぞれ計算し、高いほうを資産または資産グループの帳簿価額から差し引いて、減損の特別損失として計上します。

⑤減損の会計処理を行う

減損損失の計上額を算出したあとは、会計処理を行います。具体的には、減損処理の費用を貸借対照表の借方に、減損を計上した資産または資産グループを貸方に計上します。

減損損失の計上方法は「直接控除方式」と「間接控除方式」の2つです。このうち日本では「直接控除方式」で計上するのが原則とされています。

直接控除方式

直接控除方式は、減損の金額を、固定資産の取得価額から直接控除する方法です。たとえば、次の資産グループを減損損失として計上するケースを想定してみましょう。

減損損失の計上額:900万円
【内訳】
土地:400万円
建物:300万円
機械装置:200万円
(単位:万円)
借方貸方
減損損失900土地400
建物300
機械装置200

間接控除方式

間接控除方式とは、減損損失の累計額を「減損損失累計額」として、固定資産の取得価額から控除する方法です。減損損失を計上する際は直接控除方式が推奨されていますが、間接控除方式も認められています。

先ほどの減損損失を間接控除方式で計上する場合、貸借対照表は次のとおりです。(単位:万円)

借方貸方
減損損失900減損損失累計額900

減損処理を行ったあとの影響は?

企業が減損処理を行ったあと、起こりうる影響を2つ紹介します。

短期的に株価が下落する

上場企業が減損処理を行った際、短期的に株価が下落する可能性が高くなります。

これは、減損損失は損益計算書に特別損失として計上され、当初想定していた利益よりも下方に修正されるためです。

減損損失を含む特別損失は、経常利益から差し引かれて、税引前当期純利益が計算されます。そのため、減損損失の計上額が増えるほど税引前当期純利益は少なくなり、ひいては当期純利益が減少することになるのです。

また、減損によって短期的に株価が下落する理由を、株価の計算方法からも明らかにできます。株価は、以下の計算式で算出できます。

株価=EPS(1株あたりの純利益)×PER(株価収益率)
※EPS=株価÷当期純利益

EPSとは株価を当期純利益で割ったもので、PERとは株価が1株あたりの純利益の何倍になっているかを表しています。ここで減損損失を特別損失として計上すれば、当期純利益は減少し、EPSの値も小さくなります。EPSの値が小さくなれば、結果として株価は減少するのです。

実際に、減損損失によって株価が下落した有名な事例として、2017年の日本郵政の損失計上が挙げられます。日本郵政は、2015年に買収したオーストラリアの大手物流会社「トールホールディングス」が大幅に減損したため、日本郵政が4,003億円の特別損失を計上した事例です。

本事案については2017年4月25日に日本郵政の社長会見で発表されましたが、その5日前に多額の特別損失を検討していることがメディアで報じられると、一時前日比で株価は5.3%安となりました。

ただし、減損による株価下落は、ほとんどの場合一時的なものです。長期的に強固な経営戦略が練られており、投資家を納得させられる場合、一時的な株価の下落は回復するのが一般的です(日本郵政もこの時、一時的に株価が下落した程度に留まりました)。

翌期以降の利益が改善される

減損損失を計上すると、固定資産の取得価額が減少します。そうすると、翌期以降の減価償却費は少なくなり、結果として翌期以降の利益が大きくなります。

ただし冒頭に説明したように、減損は設備投資や不動産投資などの固定資産の失敗を、あるべき姿に取り戻すための会計処理です。減損による翌期以降の利益改善だけを見て、投資家が事業をプラスに評価することはないので、注意が必要です。

まとめ

減損とは、固定資産の収益性が悪化し投資額の回収が見込めない時に、帳簿価額を回収可能価額まで引き下げる会計処理です。要は「固定資産への投資の失敗をあるべき姿に戻す」処理となります。

減損処理は翌期以降の利益が改善される効果がありますが、資金調達先の株主や銀行に説明する必要性も出てきます。減損の兆候を確認できた時点で、慎重かつ綿密に減損処理を進めるようにしましょう。

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