化粧品OEM業界の特徴
化粧品OEM(Original Equipment Manufacturer)とは、他社ブランドの化粧品の開発や製造を請け負う事業です。以前は、多品種少量生産を補完する下請けでした。しかし、現在は化粧品を製造する設備を持たない企業に対して、製造を請け負うケースがほとんどです。
製造の委託元となるのは大手化粧品会社を始め、医療品メーカーや食品・飲料メーカー、アパレル会社、通販事業者、プライベートブランド製品のアウトソージングを行う小売業者など、幅広いです。
化粧品の販売には薬品医療機器等法による規制があり、卸業者や消費者に販売する場合は化粧品製造販売業の許可が必要です。製造する場合も同様に化粧品製造業の許可が要ります。しかし、製造販売元にOEM会社名を記載することで、小売業者や異業種業界は製造・販売の許可の取得と製造ノウハウを豊富に有していなくてもプライベートブランドの化粧品を販売できます。
さらに近年は、委託元のブランド製品の設計・製造行う、ODM(Original Design Manufacturing)を可能としている企業が多いです。化粧品ODMでは、トレンドや配合する成分などの提案を受けて、コンセプト設計から開発などが依頼できます。ODMを行う企業の中には、複数のブランド製品を対象にマーケティングや物流から販売までワンストップで実施する企業もあります。
経済産業省の工業統計では、2008年以降は化粧品の製造品出荷額が減少していましたが、2013年には増加に転向しました。特に2015年から2016年にかけては出荷額が15%増と、大幅な増加となっています。
現在、日本は外国人観光客が増えており、インバウンド需要が増加しています。日本製の化粧品は高品質と海外からもニーズがあり、インバウンドの相乗効果によりアジア地域を中心にアウトバウンドも広がると期待されています。その期待から、輸出額は2012年から増加しています。
需要の増加に対して、各化粧品会社は安定して製品供給が求められます。その動きから、一部製品の製造を委託する化粧品OEMが増加しており、今後も堅実に推移すると見込まれています。
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化粧品OEM業界のM&A傾向
化粧品OEM業界ではM&Aが積極的に行われています。次に業界内でのM&Aの傾向を見ていきましょう。
・有名企業によるM&Aが増加中
大手化粧品会社では、目的に合わせて国内外問わずM&Aが実行されています。国内企業の場合、主に消費者ニーズの多様化や競合他社との競争激化に応じられるようにM&Aが行われているようです。一方、国外企業に対するM&Aは、主に海外の顧客の取得を狙って、販路を拡大する目的で実施されています。
・海外企業の買収にも積極的
化粧品のアウトバウンド需要を期待して、国内企業による国外企業のM&Aが積極的に行われています。以前は欧米企業の買収や提携が多くみられましたが、現在はアジア企業に集中しています。特にアジア市場内では、中国と東南アジアを中心にM&Aが増加しました。
・研究施設や製造工場を求めるM&A
より安全で高機能な化粧品を求める消費者の希望を叶えようと、新しい研究施設や製造工場を求め、M&Aが実行されています。また、研究開発や製造の効率向上を目的に、OEM会社にM&Aを行い子会社にするケースもあります。
・異業種の参入やベンチャー企業へのM&A
異業種からの化粧品市場への参入が増加傾向にあります。本業の強みである研究開発やマーケティング力、販路などを活用し、低コストで参入できる背景から、M&Aが進んでいます。
また、ベンチャー企業を買収するケースも増えました。主に高機能な製品の研究開発やデジタルマーケティングの強化などが目的です。
化粧品OEM業界のM&A事例
化粧品OEM業界では、いくつかM&Aが行われています。過去にどのようなM&Aが実施されているのか、事例を見ていきましょう。
・日本コルマーのM&A事例
日本コルマーは、国内最大手と知られる化粧品や医薬部外品のOEM・ODM企業です。戦後から受託製造を開始しており、1968年に当時世界でトップクラスであったアメリカの化粧品OEMメーカーのコルマーラボラトリーズと業務提携契約を締結しました。海外では韓国に韓国コルマー、さらに中国の蘇州で有限公司科瑪化粧品を設立しています。
日本コルマーホールディングスは2017年に中国の高絲化粧品有限公司を買収しました。高絲化粧品有限公司は大手化粧品メーカー・コーセーの中国生産子会社であり、そのコーセーが100%持分を日本コルマーに全て譲渡した形となっています。買収したことで、日本コルマーは海外での生産能力を増強し、またコーセーの中国販売会社である高絲化粧品銷售有限公司に中国製品を供給し、中国市場に流通させています。
2014年から2017年にかけて国内では4つの新規工場を設立し、国内7箇所の工場での生産体制となっています。新規で設立した工場に加えM&Aにより設備が整った既存の工場を獲得して、早期稼動を実現しました。
・日本色材工業研究所のM&A事例
日本色材工業研究所は化粧品用の顔料の製造販売業としてスタートし、戦後に化粧品の製造受託をスタートさせた化粧品OEM会社です。メイクアップ化粧品をメインに事業を拡大し、2004年にはJASDAQ市場に上場しました。主要顧客にはキャンメイクなどが有名な井田ラボラトリーズやニューヨーク発の化粧品メーカーエスティローダーの日本支社となるELGCが挙げられます。
2000年にフランスの化粧品・医薬品OEMメーカーのThepenier Pharma Industrie(現・テプニエ社)の株式を得て傘下にしました。目的は海外市場に営業を拡大させることと、国際競争の強化が狙いです。
さらに、2017年にはテプニエ社を通じてフランスのOrleans Cosmeties S.A.S.の株式を80%取得して子会社化を行いました。Orleans Cosmeties S.A.S.は、パウダー系製剤を強みとしているフランスの化粧品OEM会社です。大手化粧品メーカーの研究機関や大学・国立研究機関が密集するエリアで、フランス国内向けの大手化粧品メーカーの製造受託を行っていました。
日本色材工業研究所がM&Aが行った理由は、テプニエ社同様に海外展開やメイクアップ化粧品の強化といった目的が挙げられます。
化粧品OEM業界のM&Aを行う目的
化粧品OEM業界ではM&Aが盛んに行われていますが、その目的は売り手側と買い手側によって異なり、理由は様々です。主にどのような目的でM&Aが行われるのか、売り手と買い手それぞれの目的をご紹介していきます。
売り手側がM&Aを行う目的
・後継者不足の解消
主に中小規模の化粧品OEM会社では、後継者不足に悩むケースが増えています。事業承継では親族や取締役・従業員などの親族外から新しい代表が選ばれますが、その選出や育成は従業員の数が少ない中小規模の企業では難航する傾向にあります。M&Aで事業承継を行えば、後継者がいないと悩む化粧品OEM会社の経営者は安心してリタイア可能です。
・大手化粧品メーカーの傘下に参入
化粧品業界はトレンドが激しく変化するため、安定性に不安視する中小企業は多いです。豊富な情報や開発能力、マーケティング力、販路などは大手企業の方が勝ります。大手化粧品会社の傘下に入れば、資金面やブランド力、販路などを確保できるので、安定して事業に取り組める利点があります。
化粧品OEM業界に参入している企業は非上場企業が中心です。異業種からの参入により市場はますます激化すると見込まれ、実際に上手く行かず撤退する異業種は少なくありません。安定して化粧品OEM事業を行うために、M&Aにより進んで大企業の傘下に入ることを選ぶ企業は増加しています。
・譲渡や売却益の確保
M&Aで自社を他社に譲渡・売却すれば、対価を獲得できます。その対価の活用方法は様々ありますが、例えば引退後の生活資金や新たに起業するための資金などに活用可能です。
廃業では撤退のためのコストや従業員の給与などが発生します。会社の資産を手放して利益を得たとしても、負債を抱えていればその返済に当てられ、残る資産はわずかという事態も珍しくありません。M&Aでは、事業上で発生した負債も他の資産と合わせて引き継いでもらえるので、十分な売却益を手元に残すことができます。
買い手側がM&Aを行う目的
・化粧品業界への新規参入
化粧品と関わりのない業界でも、M&Aで化粧品会社や化粧品OEM会社を買収することで業界に参入が可能です。あまりノウハウがなくても、専門の会社を傘下に置くことで参入のハードルを下げながら、自社の強みを生かした事業展開をスムーズに進めるためにM&Aが行われています。
・施設や設備投資の負担解消や体制の強化
自社で化粧品の開発から製造を行っている中小企業の場合、競争激化で利益率が低下し、開発や製造環境に継続的な投資が難しいと悩む声があります。新しい施設や設備の投資負担を軽減して取得する方法として、すでに体制が整っている会社や工場に対してM&Aが行われています。
施設や設備をM&Aで取得することで、研究開発や製造体制の強化にもつながります。新しい製品開発でブランドの強化や、生産効率を上げて流通を増やすなどの戦略が図れます。
・海外進出や展開の強化
化粧品業界はアウトバウンドが期待されているので、海外での製造や販売を視野に入れる化粧品OEM会社は増えています。しかし、中小規模の企業は海外で工場の設置や販路の確保を独自で行うのは難しい傾向にあります。M&Aで国外企業を傘下に置けば海外での生産や販路を確保できるので、国外企業に対してのM&Aも盛んに行われています。
・人手不足の解消
人手不足に関しては製造全般に見られる問題です。M&Aでは、買い手側の従業員も引き継ぐことができるので、人材不足の解消に活用されています。
新しい人材の確保では、採用から育成までにそれなりのコストと時間が掛かります。M&Aならすでに育成が済んで従業員を引き継げるので、ほとんど採用コストを掛けずに即戦力となる人材を大量に確保することが可能です。
化粧品OEM業界のM&Aを成功裏に進めるために
M&Aは売り手と買い手の両方にメリットがあり積極的に行われていますが、中には上手くいかず失敗してしまうケースがあります。成功裏に終わらせるためにも、M&Aのポイントを確認しておきましょう。
M&Aの目的や希望・条件をはっきりさせる
まずは、なぜM&Aの実行が必要なのか目的をはっきりさせてください。目的が分からないと条件に振り回されてしまい、M&Aの失敗につながります。専門家への相談や相手企業との交渉では意思疎通ができているかが大切なので、スムーズにM&Aを進めるためにも目的を決めましょう。
同時に、希望や譲れない条件も決めていきます。特に異業種からのM&Aの場合、色々な交渉方法や条件提示があるので、相手の希望ばかりが通ってしまわないためにも希望や条件を決めて、粘り強く交渉する姿勢も大切です。
計画的に準備を進める
M&Aは小さな案件でも買収に数ヶ月はかかり、それなりに時間を掛けて行います。実行後に想像していたシナジー効果が得られず、M&Aが失敗に終わる可能性もあるので、計画的に準備を進めていくことがポイントです。
自社の強みを把握する
買い手側がM&A後に利益を上げるためには、他社との差別化が図れるシナジー効果がなければなりません。自社を買収するメリットを伝え、相手企業が明確なビジョンを描いてもらえるように、自社の収益性や保有する技術をまとめておきましょう。
M&Aの専門家を活用する
M&Aでは価格の算出や交渉、デューデリジェンス、最終譲渡契約書など色々なプロセスを踏んで、事業承継を行います。馴染みのない作業や専門的な知識も必要とするので、M&Aの専門家に相談し、一緒に進めることをおすすめします。特に化粧品OEM業界に詳しい専門家に相談すると安心です。
課題と展望
直近では新型コロナウイルスの影響を受けて、百貨店などのカウンセリング形式で販売する高価格商品や、マスクの着用が日常化したことによりマスクで隠れている部分のメイク品は苦戦を強いられています。対応策として対面形式ではないEC展開を強化したり、消費者の嗜好変化に伴い新商品の開発やマーケティング戦略を展開したりすることが行われています。また化粧品業界について国内はすでに成熟市場であることから、各社グローバル展開を強化しています。国内トップシェアの資生堂においては海外売上比率が60%程度あり、国内売上を上回っています。
業界再編
異業種企業参入の影響で競争は激化しています。
富士フィルムは写真フィルムの主成分でもあるコラーゲン研究や写真フィルムの内部に成分を正しく配置するナノテクノロジーなど、美容分野と共通する技術を応用し化粧品事業に参入しています。 他にも味の素のアミノ酸、サントリーの醸造技術、江崎グリコのグリコーゲンなど、各社独自の強みを活かして化粧品事業を行っています。直近ではユナイテッドアローズやGUなどのアパレル企業も化粧品事業に参入しており、さらなる競争激化が見込まれるため業界再編が起きる可能性もあると考えられます。
まとめ
化粧品OEM業界は需要拡大により市場は堅調に推移しており、これからも成長が期待される業界です。現在は非上場企業が中心ですが、自社ブランドを保有する大手化粧品会社もOEM事業を展開しています。異業種からの参入も増加が見込まれるので、業界はより激化していくでしょう。
そんな業界の中で生き抜く手段や企業の課題をクリアする目的として、M&Aが盛んとなっています。M&Aを検討される方は、ご紹介した傾向やポイントを押さえて成功させましょう。
株式会社M&A DXには、大手監査法人系M& Aファーム出身の公認会計士や税理士等が多数在籍しています。化粧品OEM業界のM&Aをお考えの方は、株式会社M&A DXの仲介サービスの利用をぜひご検討ください。