新株予約権とは?
新株予約権とは、一定の期間内に、投資家や既存の株主がその権利を行使することによって、当該株式会社の株式を前もって決められた金額で取得できる権利を指します。通常の新株と異なる点は、権利行使に対して予約ができる新株であることです。
かつては、他の株式や社債と組み合わせた形で発行する場合に制限されていましたが、2002年の商法改正以降、新株予約権を単独で発行できるようになりました。
新株予約権の最大の特徴は、あらかじめ権利を行使できる期間と金額が決められている点です。株価が上昇した場合には、売却することで利益を得られます。
新株予約権の主な利用目的は、役員や従業員へのインセンティブ(ストックオプション)や資金調達のための新株予約権付社債、敵対的企業買収に対する防衛策(ポイズンピル)などです。新株予約権を購入する際は、証券会社を通して手続きを行いましょう。審査を通過すれば、新株を受け取ることが可能です。
新株予約権の発行は、うまく活用すれば株式会社に大きなメリットをもたらします。経営のさまざまな場面で利用できる手段ですが、メリットだけではなくリスクもあるため、よく吟味したうえで発行しなければなりません。
目先の利益だけを見て判断するのではなく、長期的な視点を持ち、株主や投資家の立場に立って判断することが大切です。
新株予約権を理解するための4つのキーワード
新株予約権について説明するにあたって様々な用語が出てきますが、ここでは重要な4つのキーワードについて説明します。新株予約権はその発行対象者に応じて2種類に分類されますので、まずはその分類である「ストックオプション」と「社外向け発行」について説明します。
そのうえで、新株予約権を理解するにあたって欠かせない「無償割当」と「有利発行」についても触れておきたいと思います。
ストックオプション
新株予約権のうち、社内関係者(取締役や監査役等の役員、執行役員やその他雇用契約を締結している従業員など)に対して発行するものを「ストックオプション」といいます。
ストックオプションは、主に役員や従業員へのインセンティブとして発行されることが多く、自社の業績が上向いて株価が上昇すれば、ストックオプションを発行された社内関係者も業績アップによる利益を享受できるため、自社の業績に対するコミットメントやモチベーションの向上につながります。
社外向け発行
社内関係者に対して発行されるストックオプションに対して、既存株主含め、その他社外関係者に対して発行される新株予約権のことをそのまま「社外向け発行」といいます。
社外向け発行には、既存株主の持株比率に応じて発行される株主割当と、既存株主に限らずその対象者を広く募集して発行される第三者割当の2種類があります。
近年では、以前に比べてM&Aが一般的な経営戦略として広く実施されるようになり、敵対的買収を受けるリスクも高まる中、その防衛策として、発行対象者を限定した社外向け発行が行われるケースもみられます。
無償割当
株主割当(社外向け発行)の中でも、既存株主の持株比率に応じて無償で新株予約権を割り当てることを「無償割当」といいます。特に上場会社において実施される上場型新株予約権の無償割当はライツ・オファリングと呼ばれます。
非上場の新株予約権は公開市場での取引ができないのに対し、ライツ・オファリングでは一定期間、公開市場での取引が可能となり、増資に応じたくない株主は権利を行使せずに、新株予約権自体を売却することで現金を受け取ることができます。
無償割当は、新株発行による大規模な増資を実施したいときなどに、既存株主が保有する株式価値の希薄化に対する配慮として、利害調整の側面から活用されます。
有利発行
特定の株主や第三者に対して、公正な発行価額に比べて有利な金額(無償含む)や条件で新株予約権を発行することを「有利発行」といいます。
有利発行は、特に発行を受けない既存株主が株式価値の希薄化(株価の下落、相対的に行使できる議決権割合が減少するなど)による不利益を被る恐れがあるため、原則として、株主総会での特別決議が必要になります。
既存株主に公平に新株予約権を発行する無償割当などを除き、これまで説明してきた「ストックオプション」や「社外向け発行」については、有利発行に該当しないように留意することが必要です。
新株予約権のメリット
新株予約権は企業や投資家に大きな利益をもたらす可能性のある経営手法の一つです。具体的にどのようなメリットを得られるのか、ここで確認しておきましょう。
従業員のモチベーションが上がる
ストックオプションとして新株予約権を発行すれば、従業員の仕事に対するモチベーションアップにつながります。
ストックオプションとは、あらかじめ決められた価格で自社株を買う権利のことです。企業の業績が上向いて株価が上昇すれば、それに連動して報酬額もアップし、インセンティブを得られます。
自社の業績が上向くほど、数年後に受け取れるインセンティブも増すため、モチベーションの向上につながります。万が一株価が下落しても、権利を行使しない限り、損失を受ける心配はありません。リスクを低く抑えられることも、従業員にとって大きなメリットといえるでしょう。
また、新株予約権は行使期間を数年先に設定できるため、優秀な人材の流出防止や早期退職の予防にも役立ちます。採用活動でストックオプション制度をアピールすれば、人材確保にも使えるでしょう。
資金調達の手段になる
資金調達の手段として金融機関からの融資を受けた場合、借入金となるため、当然ながら返済義務が生じます。経営難によって資金繰りが悪化しても、借入金は返済しなければなりません。
しかし、株式発行で資金を調達する場合は返済義務がありません。そのため、企業が負債を抱え込む心配はなく、安全かつ健全な資金調達を実現できます。
ただし、新株予約権の発行があまりにも多いと、株価の下落を招く可能性があります。少なからずリスクも存在するため、新株予約権に頼りすぎるのは禁物です。
敵対的買収への防衛策になる
株式会社は常に買収されるリスクにさらされています。自社株の過半数を保有されて買収されることを防ぐために、新株予約権を発行することがあるのです。
敵対企業とは関係のない友好的な株主に新株予約権を発行しておけば、安定的に株式を保有してもらうことができ、敵対的買収を簡単に行うことはできません。買収の抑止力として活用できるケースがあることを知っておくと、万が一のときに役立ちます。
投資家はリスクの低い取引を実現できる
新株予約権は発行する会社側だけでなく、それを購入する投資家にとっても、利益を得られるメリットがあるのです。
新株予約権を社外の投資家や権利者向けに発行する場合、あらかじめ行使期間が定められています。行使期間までは権利を行使することはできませんが、新株予約権を安い価格で購入することができます。
また、行使期間内ならいつでも権利を行使できるため、投資家は利益が確定しているときに権利を行使して、損失のリスクを抑えた投資を実現することができます。
権利行使期間内は投資家の裁量で権利を行使できるため、安く購入した新株予約権を市場に売却することによって、より確実に売却益が取得できます。新株の購入よりも、売却益を確保できる可能性は高くなるでしょう。
ただし、これらのメリットを得られるのは、あくまで成長の見込みのある会社から新株予約権を購入した場合です。将来性を見込めない会社の場合は売却損になる可能性が高いので、よく見極めて判断しましょう。
新株予約権のデメリット
新株予約権には多くのメリットがある一方で、少なからずデメリットも存在します。メリットだけ見て判断するのではなく、どのようなリスクがあるのかを事前に把握して備えておくことが大切です。
株式の希薄化
新株予約権の行使価額は株式の時価よりも低いことが多いため、発行済みの株式が希薄化する可能性があります。株式の希薄化とは低い価額により新株を発行した結果、既存株主の1株当たりの権利や株価といった価値が下がることを言います。このため、今後の資金調達が困難になるかもしれません。
発行した価格が現在の株価よりあまりにも低い場合は、価値の低下を嫌気して売りを招く可能性もあります。
資金調達を目的として新株予約権を発行するときは、既存株への悪影響を防ぐために、その発行数と権利行使価額に注意しましょう。
株価の下落
株式が増えると、1株当たりの価値は下落します。新株予約権を発行するときは、既存の株式が希薄化することだけでなく、投資家が売りに出すことも考慮しなければなりません。
市場価格が上がったタイミングで新株予約権を売りに出すと、差額分の利益を得られるため、株価が上昇すれば、すぐに新株予約権が行使され、売りに出される可能性が高くなります。発行数が多いと、株価の急落を招いてしまうケースもあるので、注意しなければなりません。
株価が大幅に下がれば、今後の資金調達が困難になるだけでなく、既存株主からの信頼が低下するといったリスクもあります。
資金調達を目的とした新株予約権を発行する場合は、株価の大幅な下落を防ぐために、その発行数に注意しましょう。リスクが懸念される場合は、株主が新株予約権の導入に反対することもあります。
オプション料が発生する
新株予約権を取得する際は、オプション料の分だけコストがかかります。対価だけを支払えば取得できる新株と異なり、新株予約権から新株を取得する場合は、行使価格はもちろん、取得するために対価としてオプション料を支払わなければなりません。
行使価額が低く設定されている一方でオプション料というコスト負担が増えることになるので、投資家はそのトータルで判断することなります。
新株予約権の発行方法
新株予約権には「公正発行」と「有利発行」の2つの発行方法があります。どちらの方法を選択するかによって、会社法上の手続きも異なります。
ここでは、それぞれの発行手続きについて説明します。よく比較検討して、どの方法が自社に最も適しているかを見極めましょう。
公正発行
公正発行とは、すべての株主に対して公正な価格で株式もしくは新株予約権を発行する方法のことです。社外向け発行、無償割当、有償のストックオプションは公正発行に該当します。
公開会社が公正発行を行う場合、募集事項を取締役会で決定します。公開会社の株式の譲渡は自由であり、公正発行によって株主の経済的利益も保護されているため、取締役会による決定で発行しても問題ありません。取締役会を経て証券会社に依頼すれば、発行手続きは完了します。
一方で非公開会社は、原則として株主総会の特別決議による決定を求められます。これは株主の経済的利益だけでなく、既存株主の持分比率維持の利益も保護するためです。
有利発行
有利発行とは、株主以外の第三者に対して有利な価格の新株予約権を発行する手続きのことです。妥当と考えられる価格よりも安い場合、もしくは無償となる場合の行為が有利発行に該当します。妥当な価格との乖離幅は10%が目安です。
この方法を実施すると、既存株式の希薄化が生じて他の株主が不利益を被る可能性があることから、実際に発行する際は株主総会特別決議でその理由を説明し、承認を得なければなりません。その際の手続き方法は以下のようになります。
1.株主総会において取締役から有利発行を行う理由を説明し、特別決議を得る
2.新株予約権の引き受けの申し込みがあった場合、株主総会で割り当てる人や数を決め、割り当て数を通知する
3.新株予約権の発行日に新株予約権原簿を作成する
4.割当日から2週間以内に変更登記を行う
有利発行を行うにもかかわらず、その会社が株主総会で特別決議を行わない場合、会社法第210条・247条により、株主は会社に対して発行の差止めを請求することができます。特別決議を経ずに有利な価格で発行を行った取締役は、会社に対して損害賠償責任を負うことになります。
新株予約権は簡単に買えても、新株予約権の発行にはそれなりの手続きがかかることを覚えておきましょう。
M&Aにおける新株予約権の取り扱い
新株予約権はM&Aにおいて活用されることの多い手法です。実際のM&Aで新株予約権がどのように取り扱われるのか、ここで説明します。
新株予約権の第三者割当
第三者割当増資とは、特定の第三者に対して新株を割り当てることで増資を行う会社の資金調達方法です。第三者割当増資の対価として現金を受け取れるため、新規事業や設備投資などの資金に充当したい場合や、業績不振などから資金注入を行う場合に、迅速な増資を実現できます。
この第三者割当増資において、新株予約権を活用した段階的な資本の払込みも可能です。万が一、売手企業の業績が悪化した場合でも、追加出資をしない、買収しないという選択肢を持つことができます。
第三者割当増資は、取引先や自社の役職員などに権利を与えて発行することが多く、会社の再建や業務提携の強化、経営悪化で通常の増資ができないときなどに使われます。
第三者割当増資を行うメリットは、割当先の議決権増加による支配力強化や会社の資金調達などの目的を同時に達成できる点です。友好関係にある会社に対して第三者割当増資を実行すれば、買収者の持株比率を低下させて敵対的買収を防止できるため、株式買い占めへの対抗策としても利用できます。
第三者割当増資の発行手続きは会社法で詳細に決められており、金融商品取引法では有価証券届出書や臨時報告書の提出を求められます。証券取引所は、不適切な第三者割当増資の防止や適時開示規則、企業行動規範上の留意事項や取引所への事前相談を定めています。
関連記事「第三者割当増資とは?メリットとデメリットや具体的な手順を解説」
ポイズンピル
ポイズンピルとは、新株予約権を利用した敵対的買収の防衛策のことです。敵対的買収者が行使できない条項が付された有利な価格で新株を取得できる新株予約権を、あらかじめ既存の株主に割り当てておき、敵対的買収を仕掛けられたときにこの新株予約権が行使されると、買収を仕掛けてきた企業の持株比率や株式の価値を下げて買収を防止できます。
買収者が買収を成立させるには、より多くの株式を買収しなければならなくなり、多額の資金がかかるため、買収防衛策として有効です。
相続・親族内承継における新株予約権の取り扱い
ここでは、親族内で新株予約権を相続する場合の注意点を紹介します。
新株予約権は相続が認められている
法律では、ストックオプションとしての新株予約権の相続を認めています。法律上、相続可能とはいえ、実際にどこまで相続できるかは実務によって決まるものです。
新株予約権の内容を具体的に定める新株予約権発行要項や、会社と相続人との間で交わされる新株予約権割当契約書では、相続の制限や条件を定めていることが多いので注意しましょう。
契約書の放棄条項に注意
新株予約権割当契約書では、相続承継人が死亡した場合について「相続承継人はストックオプションとしての新株予約権を放棄する」もしくは「相続人は新株予約権を相続することはできない」という放棄条項を定めていることがあります。
この場合、相続承継人が価値の高い新株予約権を保有していても、死後放棄して失うことになります。そのため、相続人はストックオプションを行使することができません。
このようなもったいない事態を防ぐためにも、相続人は生前の元気なうちに、弁護士などの専門家に相談しておくことが大切です。家族や親戚関係が比較的良好で、揉め事や争いがない場合でも、油断は禁物です。専門家からアドバイスをもらい、最も効率的で損のない相続を実現させましょう。
新株予約権の手続き方法
ここからは、新株予約権の権利を行使する実際の手続きについて解説します。
新株予約権を行使する手順
新株予約権を行使する際は、証券会社を通して新株を取得します。その際の手順は以下のとおりです。
1.株主に対して株主確定日に新株予約権が割り当てられる
2.発行会社から株主に対して権利行使請求権が送られる
3.株主は権利行使の申し込みを行う
4.証券会社で審査や権利行使手続きを行う
5.審査通過後、新株を受け取ることができる
新株予約権を行使した場合、その行使日に当該株式会社の株主となり、新株予約権が発行された段階で行使期間が決まります。権利行使の申し込みは、書類をはじめ、インターネットや電話などでも可能です。
なお、上記の手順は一つの目安であり、すべての証券会社が同じ手順を行なっているわけではありません。実際の手続き方法は証券会社によってそれぞれ異なるので、使用する証券会社に問い合わせて、詳細を確かめておきましょう。
行使期間
新株予約権が付与されてから権利行使できるまでの行使期間には、法律上の決まりはありません。しかし、税制適格要件をみたすための新株予約権は、新株予約権の取得日から2年以上10年以内の行使期間に定めます。
新株予約権が行使されることなく行使期間が満了を迎えると、新株予約権は消滅します。ただし、行使期間が満了しても、登記簿から当該新株予約権が抹消されるわけではありません。新株予約権は登記事項とされているため、当該新株予約権を抹消する登記申請を行うことになります。
新株予約権の行使期間が満了しているのに登記の申請をしなかったときは、過料が課せられる可能性があるため、早めに抹消登記を申請しておきましょう。
行使価格
行使価格とは、新株予約権を行使するときに払い込む金額のことです。価格は発行するときの株式の市場価格に合わせて決められます。実際は、株主に対してメリットを与えるために、発行時の株価よりも安い価格で発行するケースが多いです。
ただし、市場価格と新株予約権の行使価格にあまりに幅があると、株主からの反発を受けやすくなるので注意しましょう。
まとめ
新株予約権は敵対的買収への防衛策やリスクを抑えた資金調達ができる有効な手段です。ストックオプションとして新株予約権を発行すれば、社内のモチベーション向上にも役立ちます。
ただし、メリットとリスクが同時に生じるため、安易な判断は禁物です。どのような場合にどのようなリスクが生じるかを事前にシミュレーションした上で判断しましょう。
どの方法で発行するかによって手続きも変わります。そのため、専門家のアドバイスを得ながら慎重に進めていきましょう。
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