株式公開買付けとは?メリットや敵対的TOBへの防衛策も解説

会計士 牧田彰俊

有限責任監査法人トーマツ入所、各種業務の法定監査、IPO支援に携わる。その後、ファイナンシャルアドバイザリーサービス部門にてM&A アドバイザリー業務・財務デューディリジェンス業務・企業価値評価業務等に従事。組織再編によりデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社に異動し、主に国内ミドルキャップ案件のM&Aアドバイザリーとして、豊富な成約実績を収める。2018年、これまで以上に柔軟に迅速に各種ニーズに応えるべく株式会社M&A DXを設立し、現在に至る。

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報道やドラマなどで株式公開買付け(TOB)という言葉を耳にする機会がありますが、具体的にどういうものなのかイメージがつかない方も多いかもしれません。

そこで、この記事では株式公開買付け(TOB)の目的や種類について紹介します。株式公開買付けのメリットだけでなく、敵対的TOBの防衛策についても紹介するので今後株式公開買付けを検討している方や、自社が敵対的TOBをされてしまわないか心配な方もぜひ参考にしてください。

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株式公開買付け(TOB)とは

株式公開買付け(TOB)とは

上場会社の場合、一般的に株式は証券市場を通じて自由に取引されます。一方、株式公開買付け(TOB)は株式数、価格、買付け期間を公表し、市場(証券取引所)を通さずに買付ける行為を意味します。

株式公開買付けはTake Over Bidという英語表現の頭文字からTOBとも言われます。英語ではTOBという略語ではなく、takeover bidやbid、a tender offerと表現される場合もあります。

株式公開買付けの目的

株式取引は配当金や株主優待、売買益を目的に行われることが多いですが、株式公開買付けは主に企業買収などを目的に行われます。買収対象企業の株式を100%取得すると、対象企業を完全子会社化することができます。

自社を上場廃止にするためや他社からの買収を防ぐため、また1株あたりの価値を高めるためなどの目的で自社株を集めるために株式公開買付けをおこなうケースもあります。

友好的TOBと敵対的TOBがある

株式公開買付けは買収を仕掛ける側(買手)と対象企業側(売手)の関係性によって友好的TOBと敵対的TOBに分けることができます。既にグループ内の企業を完全子会社化するケースのように、売手が買収を事前に了承している場合が友好的TOBです。

一方、売手経営陣の承諾を得ずに買手が一方的に買収を仕掛ける場合が敵対的TOBです。敵対的TOBを仕掛けられた企業は対抗するために防衛策を講じる場合もあります。

ニュースなどでは、敵対的TOBが取り上げられることがあり、敵対的TOBが印象的ですが、友好的TOBが多いです。

 

株式公開買付けをするメリットデメリット

株式公開買付けをするメリットデメリット

当然、株式公開買付けにはメリットもデメリットも存在します。株式公開買付けを検討する際は、自社にとってメリットとデメリットいずれの方が大きいかを確認しておいてください。

メリット

株式公開買付けのメリットとしては以下3点が挙げられます。

日程や費用の見通しを立てやすい

市場は常に変動するため、証券取引所を通じて買付ける場合は目標株式数取得のスケジュールとかかる費用の見通しが立ちにくいです。一方、株式公開買付けは事前に買付ける株式数や価格、期間を公開します。

つまり、株式公開買付けではコストやスケジュール管理がしやすい点が大きなメリットです。

手間や不必要なコストが少ない

事業譲渡で他企業を手に入れる場合、各決議や契約など大きな手間がかかります。その点、TOBにより企業を手に入れる際は手間が少ないのがメリットです。

また、万が一目標数に達しなかった場合は途中まで買付けた株式をキャンセルすることができるので、買収対象企業の株式を中途半端に取得しないで済むため、コストもあまりかからりません。

大量の株式を一度に取得可能

証券市場を通じて株式を手に入れる場合に比べ、株式公開買付けでは一度に大量の株式を取得できます。できるだけ早い段階での支配権取得を目指しているのであれば、大きなメリットになります。

買付価格は、取引市場での市場価格より高い金額で決められることが多くあります。これは、現在の株主から株式を売却することを促すとともに、TOBによって支配権を得るためのプレミアムとしての意味があります。

デメリット

対象企業や競合企業による買収防衛策によって、TOBが失敗に終わる可能性があることです。たとえ友好的TOBであっても、競合企業の介入により失敗することもあります。

その一例がホームセンター大手DCMホールディングス株式会社による同業の株式会社島忠へのTOBです。島忠はDCMのTOBに賛同する旨の発表をしていましたが、2020 年11月13日にインテリア小売大手の株式会社ニトリホールディングスが対抗するTOBを発表いたしました。

> 株式会社ニトリホールディングスのリリース
> DCMホールディングス株式会社のリリース

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株式公開買付けの流れ

株式公開買付けの流れ

・公開買付開始公告
・意見表明報告書の提出
・対質問回答報告書の提出
・公開買付終了
・公開買付報告書の提出

上記のような流れですが、ここから詳しく説明します。

株式公開買付け(TOB)公表まで

最初に買付価格、買付株数買付期間、資金調達法など基本的事項を決定します。買付開始以降に対象企業などを日刊新聞紙に掲載するか、電子情報開示システムEDINETによって公告を行います。

買収対象企業は、公告後10営業日以内に公開買付けに対する賛否とその理由、買収防衛策を導入している場合の発動予定の有無などを意見表明報告書に取りまとめ、財務局へ提出し、同時に適時開示を行わなくてはなりません。意見表明報告書に質問が記載されている場合、買手は5営業日以内に質問回答報告書を提出します。

開始日に買手は内閣総理大臣へ公開買付届出書、公開買付期日最終日の翌日には結果を報告するための公開買付報告書を提出しなくてはなりません。

このように、株式公開買付け(TOB)はいくつかの手順が金商法に定められています。そのため、証券市場を通じて買付けることを望むかもしれませんが、一定条件における株式の取得は株式公開買付け(TOB)の手続きが強制適用されることが規定されています。

既存株主からのTOBへの応募

公告された内容を参考に、株主は株式公開買付け(TOB)に応募するか、証券取引所を通じて売却するか、保有継続するのかを判断します。株式公開買付け(TOB)に応募する場合、公告に記載されている証券会社経由で売却します。

TOB実施のルール

5%ルール

株式公開買付け(TOB)のルールの一つに、「5%ルール」があります。市場外における買付けによって、買付け後に株式の保有割合が発行済み株式総数の5%超の場合は、経営や株価に大きな影響を与えると考えられるため、公開買付けの義務が生じます(金融商品取引法27条2第1項1号)。

ただし、著しく少数の者から買付ける場合すなわち、公開買付けによる買付けを行う相手方の人数と、60日間に買付けた相手方の人数が10人以下の場合には適用されません。

3分の1ルール

株式公開買付けのルールにはもう一つ、「3分の1ルール」があります。買付け後に株式の保有割合が発行済み株式総数の3分の1超の場合に、公開買付けの義務が生じます。3分の1ルールは市場内外の取引いずれにも当てはまり、主に3つにケースが存在します。

①市場外取引で、60日間で10人以下から買付けた後に3分の1超の場合
②市場内取引で、特定売買(ToSTNeT取引、J-NET取引などを通じて行われる立会外取引)で買付けた後に3分の1超の場合
③3か月間に全株式の10%超を買付け、そのうち5%超を市場外または特定売買で買付けた後に3分の1超の場合

ただし、企業グループで3分の1超の議決権を所有する会社のグループでの移動や兄弟会社等からの買付け、新株予約権の行使された場合などは適用されません。

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株式公開買付け(TOB)の事例

株式公開買付け(TOB)の事例

近年、メディアでは様々な株式公開買付けの事例が報道されています。その中でも、友好的TOBと敵対的TOBの代表的事例が以下の通りです。

ヤフーからZOZOへの友好的TOB

2019年9月、ヤフー株式会社(現Zホールディングス株式会社)がファッション通販サイト「ZOZOTOWN」で知られる株式会社ZOZOの普通株式を公開買付けすることを発表しました。株式を最も保有する創業者もこのTOBに前向きであったことから、友好的TOBの事例です。

コロワイドから大戸屋への敵対的TOB

2020年7月、外食業を展開する株式会社コロワイドが和定食で知られる「大戸屋ごはん処」を全国展開する株式会社大戸屋ホールディングスへのTOBを発表しました。これに対し、大戸屋HDは反発したため敵対的TOBの事例です。

大戸屋HDは防衛策を模索しましたが、コロワイドは既存株主に対して当時の株価+46%という魅力的なプレミアムをつけてTOBを提示したこともあり、敵対的TOBが成立する結果となりました。

その他、株式公開買付け(TOB)の疑問点

その他気になる疑問点を解決

ここまで、株式公開買付けの概要を紹介してきましたが、まだ気になる点があるかもしれません。ここからは、敵対的TOBを仕掛けられた際の防衛策や株価との関係、保有する株がTOBされた場合にどう対応するのかを紹介します。

敵対的TOBを仕掛けられた際に発動する防衛策

ここで紹介する防衛策は、パックマンディフェンス、クラウンジュエル、ホワイトナイトの3つです。アメリカでは主流でも、まだ日本では事例が少ない防衛策もあります。

パックマンディフェンスでは、買収を仕掛けてきた買手に対し、反対に買収を仕掛けます。株式を相互に保有している場合、相手の議決権の25%を超えてを取得すれば相手が取得した当社株式の議決権を無効化することができる、という会社法を利用した防衛策です。、ただし、相手の株式を取得するために多額の資金を用意しなくてはなりません。

別名焦土作戦ともいわれるクラウンジュエルは、売手の価値ある事業や資産を売却することで、相手から買収意欲を奪う方法です。ただし、この方法は買収対象とされた会社が利益を損なうおそれがあるため、決断する役員の善管注意義務・忠実義務が問題になる可能性があります。

ホワイトナイトは友好的な第三者に大量に株式を取得してもらう方法です。ただし、買手が提示した額以上の価格で買い取るため割高になることから、大戸屋の事例のようにホワイトナイトが見つからないおそれもあります。

株式公開買付け(TOB)と株価の関係は

株式公開買付け(TOB)では、その時の株価に一定額上乗せしたプレミアム価格で買付けることが一般的です。つまり、市場価格で買っておけば期日にそれより高い株価で買い取ってもらえるためプレミアム価格近くまで株価が上昇することが期待できます。

一方で、意図的に市場価格よりも低い価格を設定して公開買付けが行われることもあります。売主の売却しようとしている株式数が多く、市場売却では株価の下落を招くおそれがあります。そのため、株式を取得する相手が決まっていれば相対取引で売却することが良い場合があります

保有する株がTOBされた場合の対処法

流れの項目でも紹介したように、保有する株がTOBされた場合には、株式公開買付けに応募する、証券取引所で売却、保有継続の3パターンが考えられます。

株式公開買付けに応募する場合、市場価格より高く買い取ってくれる可能性がある点や売買手数料が無料である点がメリットです。証券取引所で売却する場合、株式公開買付けに応募するよりは低い価格になる可能性が高いですが、株式公開買付けが不成立になったとしても事前に売却しておけば関係なく、株式公開買付けに応募する際の面倒な手続きを省ける点はメリットです。

買収対象企業の経営戦略により、今後も株価が伸び続けると期待しているのであれば、引き続き保有する方法もあります。ただし、買収後に売手が上場廃止になる可能性もあるため、公開買付届出書を事前に確認することをおすすめします。

まとめ

まとめ

以上、株式公開買付けの概要やメリットを紹介しました。株式公開買付けは一度に大量の株式を取得でき、費用やスケジュールの見通しがつけやすい点がメリットですが、相手からの対抗で株式公開買付けが成立しないおそれもあるため、事前に成功可能性などを検討しましょう。

また、自社が敵対的TOBを仕掛けられた場合は防衛策を検討しなくてはなりません。その際には、知識や経験が豊富な弁護士や会計士などの専門家に相談することをおすすめします。

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関連記事はこちら「TOB(株式公開買付け)とは?目的と種類、防衛策まで詳しく解説」
関連記事はこちら「TOBの手続き方法まとめ!公開買付する際の手続きや応募方法を紹介します」
関連記事はこちら「TOBの規制やルールを解説!規制する必要性と国内外のTOB規制」

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