事業承継と事業継承はどちらが正解?違いや使い分けも解説

会計士 牧田彰俊

有限責任監査法人トーマツ入所、各種業務の法定監査、IPO支援に携わる。その後、ファイナンシャルアドバイザリーサービス部門にてM&A アドバイザリー業務・財務デューディリジェンス業務・企業価値評価業務等に従事。組織再編によりデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社に異動し、主に国内ミドルキャップ案件のM&Aアドバイザリーとして、豊富な成約実績を収める。2018年、これまで以上に柔軟に迅速に各種ニーズに応えるべく株式会社M&A DXを設立し、現在に至る。

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少子化が進む日本において、事業承継の課題を抱える企業は少なくありません。多くの企業の課題となっている事業承継ですが、似た言葉に事業継承があります。そこで今回は、事業承継と事業継承の違いを解説します。

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本記事のポイント

  1. 事業承継と事業継承の違いについて知りたい方向けの記事です。
  2. 事業承継の構成要素や種類について詳しく解説しています。
  3. 事業承継で活用されるM&Aや実施する際の注意点も解説しているので、M&Aによる事業承継を検討する方向けの記事にもなっています。

事業承継と事業継承の違い

事業承継と事業継承の違い

事業承継と事業継承は、厳密には大きな違いはありません。辞書に載っている「承継」と「継承」の意味は次の通りです。

承継・・・前の代からのものを受け継ぐこと
継承・・・前代の人の身分・仕事・財産などを受け継ぐこと

上記の通り、承継は前経営者の理念や方針を後継者に引き継ぐことである一方、継承は資格や経済的価値など具体的なものを引き継ぐことを意味しており、微妙にニュアンスに違いがある程度です。

ただし、ビジネス上では、「事業承継ファンド」「事業承継対策」などの用語がある通り、「事業承継」が一般的には使われています。

関連記事「事業承継とは?特徴や種類を徹底解説!

事業承継が構成される3つの要素

事業承継が構成される3つの要素

事業承継を構成する要素は、経営・資産・無形資産に大きく分類されます。それぞれの要素をさらに細分化すると、次のとおりです。

● 経営(後継者選定/育成・経営権)
● 資産(株式・資金・事業用資産)
● 無形資産(経営理念・ノウハウ・許認可・特許・顧客情報・人脈)

ここでは、事業承継でどのような事柄が後継者に受け継がれるのか確認していきましょう。

1.経営

経営は、事業承継の構成要素です。経営は「人の承継」といわれ、事業を受け継ぐ後継者のことを指します。経営の承継を実施するには、後継者の選定と育成、経営権の譲渡を行わなければいけません。

特に、後継者の選定は会社の業績に強く影響を与えるため、重要事項となります。ここでは、後継者選定と育成、経営権を確認しましょう。

後継者選定・育成

中小企業の事業承継は、後継者選びと育成がポイントです。特に中小企業は後継者の経営能力が業績に大きく影響しかねないため、会社を成長させるには適した人材を選ばなければいけません。

また、前後継者が育てた会社をさらに大きく成長させるには、理念や経営方針に共感してくれる後継者選びが大切です。

従来は親族内承継が主流でしたが、近年は後継者不足が問題になっており、従業員や役員、社外人材等の親族外から後継者を選出する親族外承継が増えています。

経営権

経営権とは、会社を経営する権利のことであり、自社の株式のことを指します。一般的には自社で発行する株式(厳密には議決権)の1/2超を保有していれば、会社の経営権を握っていると言えます。

もちろん、株主総会において特別決議を単独で可決できる2/3超の株式があることが望ましいですが、最低限、普通決議を単独で可決できる1/2超の株式を保有しておくとよいでしょう。

事業承継を実施する場合は、前経営者から後継者へと経営権が委譲されるのが一般的です。上記の通り、経営権の確保は事業承継においても重要事項であるため、可能な限り後継者には株式を集約させるようにしましょう。

2.資産

法人における事業承継の場合、自社株式の承継に伴い、現預金や土地・建物などの会社が保有する資産も当然に後継者へと引き継がれることになります。

基本的には会社が所有する資産・負債の承継は、自社株式が後継者へと承継されることにより、自動的に完了します。

ここでは、資産の承継について確認していきましょう。

株式

事業承継後に後継者が会社を円滑に経営するには、株式の譲渡を行わなければいけません。

特に先述の通り、株式の保有率によって経営権の有無も変わってきます。後継者が自身で意思決定を行い、会社を経営するには経営権を得られるように株式を確保しなければいけません。

資金

会社が保有する現預金は当然ながら会社の資産です。この時、後継者は自社の必要運転資金がいくらなのかを把握しておく必要があります。

運転資金とは、会社を経営するにあたって必要となる一定額の欠かせない資金のことです。

運転資金が不足すると、仕入や従業員の人件費や事務所の家賃、光熱費が支払えないといった問題が起こります。

場合によっては、事業の継続が困難になる可能性も考えられるでしょう。

また、金融機関からの借入がある場合は、当然ながらその借入金も承継され、ひいては連帯保証も承継することとなります。

ただし、中小企業の場合、一定要件を満たせば金融機関が経営者保証の解除に応じてくれることがあります。

事業承継においても連帯保証の引継ぎがネックとなっているケースが少なくないため、公的機関である事業承継・引継ぎ支援センターに相談してみるとよいでしょう。

事業用資産

事業用資産とは、機械や設備、事務所など、会社が保有する固定資産のうち、事業に使われているものを指します。

会社が事務所や工場などを保有している場合、それらに係る土地・建物も自社株式の承継に伴い、当然に後継者へ承継されます。

この時、不動産の持ち主が会社ではなく、先代社長が個人名義で所有している等、個人が所有しているケースは別途、贈与や相続によって後継者に承継する必要があるため注意が必要です。

個人名義で所有している事業用不動産がある場合は、あらかじめ会社が個人から買い取っておくと承継がスムーズにいくでしょう。

3.無形資産

無形資産とは、従業員の知的活動により生み出されてきたアイデアや創作物などの無形の財産的な価値を持つものです。

無形資産の承継では、経営理念やノウハウ、特許、顧客情報、人脈を後継者に受け継がなければいけません。無形資産を受け継ぐことで、今まで積み上げてきた知識やノウハウを活かして事業の運営を行えます。ここでは、無形資産の承継について詳しく確認していきましょう。

経営理念

経営理念とは経営者の哲学や信念に基づき、企業運営の指標となる活動方針を示したものです。従業員は経営者の言葉を直接聞く機会が少ないため、企業理念があることで経営者の想いや会社が目指す理想像を知ることができます。

また、経営理念に共感してくれる後継者が見つかれば、従業員からの反発を防ぎ、離職を回避しやすい等のメリットがあります。

ノウハウ

会社の業績に直結するノウハウを事業承継する際に後継者に引き継ぎます。事業承継は親族、従業員や役員以外から後継者を選出するときは、しっかりとした引き継ぎを行わなければいけません。

ノウハウが受け継がれないと、その分野で競争力を失い、事業の継続も困難になる可能性があります。後継者は今まで培ってきたノウハウを活かして、会社を成長させていくことが求められます。

許認可

許認可は、特定の事業を運営するには行政機関から取得しなければいけない許可のことです。

許認可が求められる事業にもかかわらず、許可を取らずに事業を行うと刑事罰が科せられる場合もあるため注意しなければいけません。事業承継では、受け継ぐ事業が許認可を受けているかどうか確認します。

特許

特許とは、会社で発明したものに対して国が特許権と呼ばれる独占権を与えることです。原則として、特許の出願日から20年間は特許発明の利用を独占できます。

事業承継する際は、特許の引き継ぎも後継者に行わなければいけません。特許を後継者に引き継ぐことで、会社が保有する権利を第三者に譲渡するなどの事業展開が可能となります。

顧客情報

会社がこれまで集めてきた顧客情報も立派な財産です。後継者が事業を経営するなかで、どのような顧客や取引先と付き合っているのか分からない状態では有効な施策は打てません。

事業承継の際は、顧客情報も後継者にしっかりと引き継ぎます。顧客情報を後継者に引き継ぐことで、後継者が顧客や取引先との信頼関係も引き継いでいくことが可能です。

人脈

無形資産には、人脈も含まれます。前経営者が積み上げてきた人脈も会社の業績に大きく関わる部分であるため、後継者にしっかりと引き継がなければいけません。

一方で、これまで積み上げた人脈を大切にしない後継者の場合、会社の業績が悪化することも想定されます。後継者を選ぶときは既存の人脈を大切に扱ってくれる人材を選定しなければいけません。

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事業承継の選択肢は3種類ある、近年は親族外承継傾向

事業承継の選択肢は3種類ある

事業承継は、親族内承継・親族外承継・M&Aによる事業承継があります。従来は、親族が事業を承継する親族内承継が一般的でした。

しかし、近年は後継者問題が課題となっており、親族外承継を選択する中小企業が増えています。それぞれの事業承継は概要が変わるため、特徴をしっかり理解して自社に適した手法で後継者を選定しなければいけません。

1.親族内承継

親族内承継は、経営者の子供や兄弟といった親族へ事業を承継する手法のことです。親族内承継を選択するメリットは、早い段階から後継者候補として教育できることでしょう。経営者としての心構えや覚悟を早い段階から育てられます。

また、事業を承継する際に従業員や取引先、顧客など周囲に受け入れてもらいやすくなるのも親族内承継の大きな魅力です。承継が決まった段階で後継者として受け入れてもらえるため、引き継ぎもスムーズに行える可能性も高いです。

しかし、経営者の子供や兄弟だからといって後継者候補に経営者の素質があるとは限りません。親族といった理由だけで後継者に選ばれるため、事業承継した後に業績が悪化する可能性もあります。親族内承継を選択する場合は、早い段階から後継者候補に経営者としての教育を行わなければいけません。

また、親族内承継の場合は、前経営者の意思を大切にしたいといった想いから経営理念や方針を大幅に変えにくいことが想定されます。

時代の流れに応じて臨機応変に対応できないため、柔軟な経営が難しくなる可能性が高いです。前経営者の方針に固執しすぎて経営がうまくいかない場合もあります。

関連記事「親族内承継の割合は減少傾向?事業承継を取り巻く課題も解説

2.親族外承継

親族外承継は、自社の従業員や役員から経営能力のある人材を後継者に選定して事業を引き継ぐ手法のことです。親族外承継の場合、すでに会社の経営方針や経営理念、事業内容などに精通しているため、事業承継した後にスムーズに事業を進められます。また、役員や従業員で長期間勤務している場合は、社内の人間関係が構築されていることも多いです。

後継者として選出しても能力や人望のある人物なら、従業員から反発を得ることは少ないでしょう。また会社の内部事情も把握しているため、経営の一体性を確保しやすいメリットもあります。

しかし、社内の従業員や役員の中に経営者になりたいという意思のある人材がいない場合もあります。経営者になりたいという意思を持つ人材がいない場合は社内に適任者が現れず、なかなか後継者が見つからないケースも多いです。

さらに、現在の日本では経営者が銀行等の金融機関からの借入金・有利子負債に債務保証(連帯保証、経営者保証)することが一般的で、親族外の後継者候補が保証を嫌がり、承継に至らないケースも多数あります。

また、後継者としてふさわしい人材が見つかったとしても資金力がなく株式を取得できないといった問題が起こる場合もあります。経営上の意思決定をスムーズにする場合、株式の過半数を取得して、経営権を保持する必要があります。親族外承継においては、後継者が株式を買い取るための資金工面の方法を事前に考える必要がある点、注意が必要です。

さらに、親族以外の人材が後継者になることを快く思わない人がいる場合もあります。現経営者には、後継者候補が会社にスムーズに馴染めるように親族外承継を進めることが求められるでしょう。関係が良好でないまま親族外承継を進めると、事業を承継した後にトラブルに発展する可能性もあるので注意しなければいけません。

関連記事「親族外承継と親族内承継の違いとは?メリット・デメリットを解説

3.M&Aによる事業承継

M&Aによる事業承継の場合は、外部からも後継者候補を探すことができます。親族内承継や親族外承継が困難と判断された場合に、M&Aによる事業承継を検討する場合が多いです。

M&Aによる事業承継は、親族や社内から後継者を探すのではなく枠を超えて最適な人材を探せるため、自社の後継者としてふさわしい人材を効率よく探せるといった点が大きなメリットです。

情報漏洩の可能性や手間がかかる等の理由から、自社で買収先を見つけるのが困難なことも多いですが、M&Aの仲介業者を頼れば安心して探せます。

さらに、M&Aは後継者に会社を売却することになるため譲渡の対価として現金を受け取れ、創業者利潤を獲得することができます。第三者が会社の後継者となると悪いイメージを抱く人もいますが、M&Aによる事業承継は得られるメリットも多いです。

しかし、M&Aによる事業承継は自力で行うとうまく進まないこともあります。特に、M&Aは法律や会計など専門的な知識が求められる場面も多いです。

また、M&Aによる事業承継は普段の業務と並行して行わなければいけないため、かなりの負担になります。M&Aの課題となる業務の負担を軽減するためにも、仲介会社に依頼しましょう。

関連記事「M&Aとは?わかりやすくメリットと流れを説明!

事業承継で活用されるM&Aの種類3つ

事業承継で活用されるM&Aの種類3つ

事業承継で活用されるM&Aには、株式譲渡・会社分割・事業譲渡があります。いずれも外部から経営者候補を選出することに違いはありませんが、それぞれ手法が異なります。事業承継を実施するにあたり、どのような手法が自社に適しているのか見極めることが大切です。ここでは、事業承継で活用されるM&Aの概要を確認しましょう。

1.株式譲渡

株式譲渡は、経営者が保有する株式を第三者に譲渡する手法のことです。株式を後継者となる第三者に譲渡することにより、経営権が承継され、会社自体を譲渡できる特徴があります。

株式譲渡の実施で得られる効果は、経営者と株主が変更するものの従業員や顧客、取引先との関係性に変化がないことです。経営者が変わっても従業員は、継続して同じ会社で働くことができます。

また、社内の手続きで株式譲渡は成立するため、会社分割のように複雑な手続きはありません。株式譲渡は、他スキームと比較して時間や負担がかからないことも大きな利点です。

しかし、株式譲渡をする場合、会社が抱える負債も財産の一部として後継者に引き継がれます。会社の負債があまりに大きいと後継者が現れない可能性もありえます。負債を多く抱える場合は、事業譲渡や会社分割も検討してみてもよいでしょう。

関連記事「株式譲渡とは?メリットや手続き・税金に関して

2.会社分割

会社分割とは、社内の事業に関して有する権利義務の一部もしくは、すべてを第三者に承継させる手法のことです。会社分割の手法は、吸収分割と新設分割があります。

吸収分割とは、すでに存在する会社に事業を承継する際に用いられる手法であり、新設分割は新たに会社を設立して、その会社に事業を承継させる手法のことをいいます。

会社分割を選択する利点は、会社にある一部の事業を切りわけて第三者に譲渡することができることでしょう。貢献度や利益率が低い事業を売却することで、譲渡した企業、または株主はまとまった資金を得られます。買手企業が同じ業界の場合は、双方の知識やノウハウを活かしてシナジー効果が生まれる可能性も高いです。

しかし、吸収分割で複数の会社がまとまると、異なる社風や風土で育った従業員たちの間で軋轢や摩擦が生じる可能性があります。経営統合が円滑に進まないことがあるため、場合によっては業績の悪化や従業員の流出につながることもあるでしょう。

会社分割で吸収分割を選択する場合は、双方の従業員が環境に馴染めるような環境づくりというPMI(Post Merger Integration)が重要となります。

参考:会社分割(新設分割、吸収分割)とは

3.事業譲渡

事業譲渡とは、譲渡対象事業に係る有形資産や無形資産を第三者に売却する手法のことです。事業譲渡を選択するメリットは、後継者が不要な資産・負債を引き継がなくても良い点です。特に、負債を多く抱える企業の場合、後継者が見つからない場合もあります。

魅力的な事業で、かつ、負債を抱えなくても良いとなれば、買手先も見つけやすくなるでしょう。

一方、事業譲渡の場合、手続きが煩雑といったデメリットがあるケースもあります。従業員との雇用契約や許認可などを全てまき直さなければならなく、作業に手間と時間がかかってしまいます。また事業譲渡を行う場合は、売手側に法人税、買手側には消費税の支払い義務が生じます。

関連記事「事業譲渡とは(ポイント、必要な手続き、税金計算)

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M&Aで事業承継する5つのメリット

M&Aで事業承継する5つのメリット

事業承継は、親族内承継や親族外承継などさまざまな方法があります。しかし、近年は後継者不足により親族内承継が減少しているのが現状です。

親族内承継の選択が難しい場合は親族外承継が選ばれますが、社内の従業員や役員に経営者の素質がある人材がいない場合もあります。このような場面で選択されるのが、M&Aの事業承継です。M&Aで事業承継するメリットには、次のようなものがあります。

● 広範囲にわたり後継者を探すことができる
● 取引先との関係を継続できる
● 従業員の雇用を維持できる
● 売手は株式売却の対価(創業者利潤)を得られる
● 自社の更なる成長が期待できるる

それぞれの項目を詳しく確認していきましょう。

1.広範囲にわたり後継者を探すことができる

M&Aによる事業承継では、広範囲にわたり後継者を探すことができるというメリットがあります。

従来は経営者の親族を後継者に任命するのが一般的でしたが、後継者不足が問題になっている昨今、親族から後継者を探すのが難しくなっているのが現状です。

親族外承継で社内の従業員や役員から後継者を選定できますが、経営者を志願する人材がいない場合もあります。

一方、M&Aを活用した事業承継の場合は広い範囲で後継者を探すことが可能です。場合によっては、経営者の経験や実績がある人材が見つかる可能性もあるため安心して事業を任せられます。

特に、近年は後継者不足や労働者人口の減少で優れた後継者を探すのに苦戦する中小企業も少なくありません。M&Aによる事業承継であれば、自社の経営理念や方針に共感してくれる後継者候補を見つけ出せるでしょう。

2.取引先との関係を継続できる

M&Aによる事業承継は、親族内、親族外承継が難しい会社が選択するケースが少なくありません。この時、廃業するという選択もありますが、M&Aをすることにより、これまで培ってきた取引先との関係を継続できるメリットがあります。

買手企業にとっては、自社にないネットワークに魅力を感じてくれることも少なくありません。

実際にM&Aする場合、取引先企業にその旨を報告します。前経営者から直接伝えることで良好な関係も維持できるでしょう。しかし、取引先企業に早く伝えすぎると、M&Aを行うことが噂で広まり周囲にバレる可能性があります。

まだ伝えていない取引先にも伝わってしまい、信頼関係が崩れるなどの悪影響を及ぼす可能性もあるでしょう。M&Aによる事業承継の実施を報告する場合は、適切な時期を見計らって伝えるようにしましょう。

3.従業員の雇用を維持できる

M&Aによる事業承継の場合、既存従業員の雇用を維持できるメリットがあります。後継者が見つからない中小企業は、事業を継続することが難しくなり廃業に追い込まれる事例も少なくありません。

中小企業が廃業に追い込まれると、従業員は職を失うことになってしまいます。このような事態を避けるには、M&Aによる事業承継が有効です。

しかし、買手企業には従業員を引き受ける義務はないため契約時にしっかり交渉を行わなければいけません。買手企業を説得できれば、従業員たちはその後も働き続けることができます。

既存従業員が必要な人材であることを買手企業に認識させられるよう、日ごろから社員教育を行っておくとよいでしょう。

4.売手は株式売却の対価(創業者利潤)を得られる

親族や社内の従業員で後継者が見つからなかった場合、あえなく廃業を選択する中小企業も少なくありません。しかし、中小企業が廃業を選択した場合、賃貸物件の原状復帰費用や税務処理に係る専門家への報酬費用が係るなど、多くの手間や費用がかかります。一方、廃業ではなくM&Aによる事業承継を選べば、創業者利潤による多額の現金を得ることが可能です。

創業者利潤とは、経営する事業の株式を譲渡して得られる利益のことをいいます。特に、M&Aによる第三者への株式譲渡の場合、廃業より多くの現金を受け取れることがほとんどです。

廃業の場合、株式譲渡に比べ税率が高いだけではなく、一般的にはM&A時の株価に比べ低くなります。そのため、創業者利潤を最大化するにはM&Aによる事業承継が最適です。

また、金融機関からの借入も買手企業が引き継ぐことになり、経営者保証(連帯保証)も解除することになるため、廃業を選択するよりM&Aによる事業承継を選択したほうが手残りが多くなります。

5.自社の更なる成長が期待できる

M&Aによる事業承継を選択した場合、譲渡した会社がさらに発展する可能性があります。買手企業は、自身の企業を成長させるための投資としてM&Aに踏み切っているため、資金や人材などの融通をきかせてくれることがあります。

このような戦略を取ることにより、売手企業も買手企業とのシナジー効果で事業が急速に発展する可能性があります。廃業を選択した場合は、事業はそこで終わるうえに、今まで事業を支えてくれた従業員や役員は職を失うことになります。

M&Aを選択することにより、事業の更なる成長を期待できるのは売手企業にとっては大きなメリットでしょう。

関連記事「M&Aのメリット・デメリットを売り手・買い手ごとに解説!

M&Aで事業承継する際の注意点3つ

M&Aで事業承継する際の注意点3つ

M&Aによる事業承継を選択した場合は、次のような注意点があります。

● 交渉は数年かかる場合がある
● 従業員の理解を得られない場合がある
● 会社の価値が下がる可能性がある

場合によっては、従業員の理解を得られず人材流出に繋がったり企業価値が下がったりするなど、前向きな決断がマイナス効果をもたらすこともあります。ここで紹介した注意点を踏まえ、最悪の事態が起こらないように対策を検討しましょう。

関連記事「M&Aの流れをどこよりもわかりやすく解説!手続きにおける注意点とは?

1.交渉は数年かかる場合がある

M&Aによる事業承継の場合、M&A仲介業者に依頼して手続きや交渉を進めるのが一般的です。しかし、仲介業者の担当者が効率よく作業を進めたとしても契約成立までに最低でも半年程度かかるのが一般的です。

買手候補とのマッチング等がスムーズにいかない場合は年単位で時間がかかることもあります。マッチングがスムーズにいかない主な原因の一つとして、希望の売却価格が高すぎることがあります。

仲介業者が提示する株価算定結果を鵜吞みにし、その価格に固執してしまうケースです。上場会社の株価は市場取引価格があるため一目でわかりますが、非上場会社には市場価格がないため、売手、買手ともに納得のいく価格で売買する必要があります。

仲介業者が提示する株価算定結果はあくまでも目安でしかなく、その価格で需要があるか、つまり、買手が現れるかどうかを考慮し、場合によっては売却価格の目線を調整する必要があるでしょう。

2.従業員の理解を得られない場合がある

事業譲渡を行う場合、契約が成立すると従業員一人ひとりと契約を結び直さなければいけません。従業員の異動が伴うため、事業承継にあたり個別の同意を取ることが求められます。従業員の同意がなければ異動させることはできません。

特に、先代の経営者を慕って働いてきた従業員の場合、経営者が交代することに納得できず離職されることも考えられます。従業員の理解を得られよう、事前に話をして理解を得ておきましょう。事前に理解を得られていれば、個別の同意確認もスムーズです。

3.会社の価値が下がる可能性がある

M&Aの事業承継によりシナジー効果が生まれ、事業が発展する可能性が見込めます。しかし、必ずしも順調な事業の発展が望めるとは限りません。例えば、従業員が譲渡先の企業にうまく馴染めなかったり、想定していたようなシナジーが生まれなかったりすれば、会社としての競争力が落ちて価値が下がる場合もあります。

さらに、買手企業で不祥事が起きれば、売手企業が巻き込まれる可能性もあるでしょう。良いことばかりに目が向きがちですが、懸念材料についても十分に検討し、総合的に判断して選択するようにしましょう。

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事業承継のM&Aで気をつけること

事業承継のM&Aで気をつけること

M&Aの事業承継を実施する際に気をつけたいこととしては、次のようなものがあります。

● スピード感を持って成立させる
● 状況を把握しながら準備を進める
● M&Aのプロに相談する

M&Aの事業承継は、M&A仲介会社の協力が欠かせません。事業承継をスムーズに進めるためにも、M&A仲介会社に相談しながら手続きや交渉を行うことが大切です。それぞれの項目を確認していきましょう。

1.スピード感を持って成立させる

M&Aを行う場合は、スピード感を持って成立させることが大切です。M&Aを実施するということは、売手側はもちろんのこと、買手側にとっても大きな決断となります。

資料提供が遅かったり、条件交渉がスムーズにいかなかったりするなどで時間がかかり過ぎると、場合によっては買手企業から辞退されて交渉が白紙に戻る可能性があります。不測の事態に備えるために、慎重に契約や手続きを進めつつもスピード感を持って取り組むことが大切です。

また、M&Aは通常業務と並行して進めなければいけません。検討開始からクロージングまでには最短でも半年程度はかかるため、あまりに時間がかかり過ぎると経営者にとって大きな負担となるでしょう。

体力的かつ精神的な負担を軽減するためにも短期勝負で事業承継に向き合うのが望ましいです。M&A仲介会社とうまく連携を取りながら進めましょう。

2.状況を把握しながら準備を進める

事業承継を実施する場合は、状況を細かく確認しながら準備を進めましょう。特にM&Aの場合は早くて半年、長ければ年単位の時間がかかることもあります。親族内承継や親族外承継など手法は様々ありますが、親族や従業員に適した人材がいない場合は早めにM&Aによる事業承継に切り替えるのがいいでしょう。

動き出すのが遅いと、場合によっては買手企業を逃してしまう可能性もあります。また、時間が経過する中で事業の業績が悪化した場合は、希望価格で売れない場合もあるかもしれません。どのような手法で事業承継するか計画的に決めることが大切です。

3.M&Aのプロに相談する

事業承継に関する相談先は、税理士や公認会計士、弁護士などさまざまです。しかし、M&Aの場合は、M&A仲介会社に依頼して相談しながら進めていくのがいいでしょう。M&A仲介会社であれば、企業のマッチングや相手企業との交渉、全体的なスケジュール管理など、あらゆる業務のサポートを行ってくれます。

もし特定分野の専門家の意見が聞きたい場合は、M&A仲介会社が持っている人脈の中で信頼できる相談先も紹介してくれるでしょう。M&Aの仲介会社は、体力的かつ精神的な負担を大きく軽減してくれます。

事業承継税制 事業承継補助金

事業承継税制

中小企業の円滑な事業承継を支援するために、非上場株式等に関する相続税や贈与税の納税猶予を行う制度になります。相続や贈与によって後継者が負担する納税負担を軽減する目的です。2009年頃からの制度ですが、2017年12月末までの活用企業数は累計約2,000件(中小企業庁HPを参照)で、約380万社の中小企業数のうち0.04%程度という低い割合でした。そこで、2018年度の税制改正による緩和措置が時限付きで導入され再度注目されています。緩和措置の内容としては、納税猶予の対象となる株式数に制限がなくなったことや、株主から複数の後継者(最大3名まで)へ自社株を移転できるようになったことが挙げられます。ただし、事業承継税制の活用と並行してM&Aを行う場合、納税猶予が無効になることもあるため、要件を確認が必要です。

事業承継・引継ぎ補助金

中小企業の事業承継における経済的負担軽減を図る制度に「事業承継・引継ぎ補助金」があります。大きく経営革新事業、専門家活用事業、廃業・再チャレンジ事業の3種類が補助金対象となり、事業承継に向けたマーケティング調査費や事務所移転費用、M&Aアドバイザーへの委託費の一部が補助されるものになります。要件が細かく設定されているため確認が必要ですが、事業統合などのM&Aの場合、補助対象経費の2分の1以内(上限額400万円*)が補填されるため、要件に該当していれば補助金の申請を検討してみるのもよいでしょう。ただし、申請期間が限られていたり、要件がいくつか設定されているので、事前に調べるとよいかもしれません。
※令和4年度の制度枠となり、時期によっては補助金内容が変更する場合があります。

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事業承継で起こる失敗事例と解決策4つ

事業承継で起こる失敗事例と解決策4つ

事業承継を行った中小企業の中には、残念ながら失敗してしまった事例もあります。事業承継で起こる主な失敗事例は、以下のとおりです。

● 後継者への教育不足
● 後継者の見誤り
● 従業員のやる気の低下
● 相続問題

事業承継は専門的な知識が求められる場面も多いので、自己判断で手続きを進めると失敗に至ることも少なくありません。ここでは、事業承継で起こる失敗事例を紹介しつつ、適切な解決策も紹介します。同じ失敗を起こさないように、事業承継を実施する際の参考にしてください。

関連記事「事業承継の失敗例!失敗しないための対策とは

1.後継者への教育不足

事業承継で失敗が起こる原因で多いのが、後継者への教育不足です。特に親族内承継や親族外承継の場合、経営者の素質や能力が元から備わっているわけではありません。後継者の教育にたっぷり時間を取るのが理想ですが、日々の業務に追われ後継者の教育まで手が回らない経営者も多くいます。

しかし、あまりにも後継者の教育が行われないまま事業承継してしまうと、その後の経営に悪影響を及ぼす可能性が高いです。後継者の教育は短期間で身につくものでもないため、親族内承継もしくは親族外承継で事業承継する場合は計画的に教育を実施しなければいけません。また、経営者の想いも事業承継に進む前に伝えておくのがいいでしょう。

2.後継者の見誤り

後継者の選定を間違えて、事業承継が失敗する事例もよくあります。後継者の人選ミスは、能力の見誤りが考えられるでしょう。経営者となると多くの従業員をまとめて事業を運営しなければいけません。性格や人柄がよく社内でも慕われる人材で会社の実務に長けている人材であっても、経営スキルは別物です。経営者としてのスキルや能力が欠けている場合は事業の存続すら危うくなってしまいます。

逆に経営スキルや能力はあっても人望が得られにくい性格の場合は、従業員が後継者に反感を抱くおそれもあるでしょう。社内の人間関係は会社の業績にも直結するため、事業が低迷する可能性もあります。

3.従業員のやる気の低下

事業承継後に従業員のやる気が低下して、失敗につながる事例も少なくありません。中小企業の場合、経営者がワンマン経営になる傾向があり、自分が指示したとおりに従業員や取引先は動いてくれるだろうと考えてしまいがちです。経営者に経営の能力やスキルがあったとしても、従業員が前向きに業務に取り組まなければ業績が上がることはありません。

ワンマン経営であまりに唐突な指示を出されると、急な職場環境の変化についていけず、仕事へのモチベーション低下に繋がるおそれがあります。従業員の気持ちが離れたまま放置すると、場合によっては離職に繋がる場合もあるかもしれません。従業員のやる気を起こさせる施策が求められます。

4.相続問題

中小企業の場合、経営者の死により急遽親族が後継者になることもあります。遺産相続人が複数いる場合、問題が発生することも少なくありません。特に、相続により自社株式が複数人に分散し、後継者が過半数の株式を保有できないということもあり得ます。

兄弟間の仲が良いうちは問題ありませんが、いつ仲違いして問題株主になるかわかりません。

親族内承継を行う場合は、自社株式を後継者に集約できるよう、事前に遺言を用意しておく等の準備が必要となります。

まとめ

まとめ

事業承継には、親族内承継や親族外承継、M&Aによる事業承継があります。近年は後継者不足が進んでおり、親族外承継やM&Aによる事業承継が選ばれることが多いです。事業承継で得られるメリットが多い一方、後継者の人選ミスや従業員のやる気の低下、相続問題などが原因で失敗に繋がる事例もあります。

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