自己株式取得とは?自社保有の目的や手続き方法をわかりやすく解説

会計士 有泉正樹

大手証券会社にてリテール営業に従事後、大手監査法人およびFAS会社にて上場準備会社や上場会社の監査、各種コンサルティング、財務DDおよびFA業務などに従事。ファンド会社にてグロース、ベンチャー投資を多数実行。大手証券会社にて主にM&Aのオリジネーション業務などに従事後、大手流通小売企業でのDX業務推進や新規事業開発を経て、現在に至る。

この記事は約7分で読めます。

「自己株式取得を行い、市場に流通している株式を買い戻したいが、具体的な手続き方法を知ってから進めたい」
「自己株式取得の注意点を知りたい」

会社を経営している方の中には、このような考えを持っている方もいるでしょう。この記事では、自己株式取得についての概要や目的、手続および注意点などについて解説しています。自己株式取得を検討している方は、ぜひ最後まで読み進めてください。

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自己株式取得とは

自己株式取得とは、株式会社が自ら「発行している株式」を他の株主から取得する行為を指します。

旧商法時代は「資本充実維持の原則」によって、株式会社は自ら発行した株式を取得することは認められていませんでした。しかし、2001年に商法が改正されたことで、株式会社は数量や目的に関わらず自ら発行した株式を取得することが可能となりました。

似た性質を持つ行為としてはMBO(Management Buyout)が挙げられますが、MBOは会社の「経営陣」が株式を取得する点において自己株式取得とは異なります。経営陣が自社株式を保有することで、社外株主による影響を受けにくくし、経営陣を中心とした会社経営が実現できる点が特徴です。

自己株式取得の目的

自己株式を取得することで、敵対的買収の防衛および株式価値の向上など数々のメリットが得られます。何を目的とするのかをあらかじめ押さえたうえで、自己株式取得を進めていきましょう。

ここからは、自己株式取得の目的を5つ解説します。

敵対的買収の防衛

自己株式取得の目的としては、敵対的買収の防衛が挙げられます。株式を自ら買い戻すことで、自社に友好的な株主の持株比率が高まります。友好的な株主の持株比率が高まるため、他の企業によって行われる敵対的買収を防ぎやすくなります。

また、自己株式を取得すれば1株当たりの株式価値が上昇します。価値が上がることで買収難易度はさらに高くなるため、買収される可能性が低くなるのです。

M&Aの対価として利用するため

自己株式をM&Aの対価として利用できる点も、自己株式取得を行う目的の一つです。2018年に産業競争力強化法と租税特別措置法が改正されたことによって、M&Aを行う際に自己株式を対価にすることができるようになりました。

M&Aの対価として自己株式を交付することで、新株発行と比較して発行済株式総数の増加抑制と新株発行に伴う手間とコストの削減が可能です。さらに既存株主の利益も守れるため、自己株式取得はM&Aを実施する際に有効な手法の一つと言えるでしょう。

株式の価値を高めるため

自己株式取得を実施すると、市場に流通する発行済株式の総数が減少します。そのため、発行している株式1株当たりの価値が高まるのです。

具体的には、PER(株価収益率)が減少、ROE(自己資本利益率)が上昇、PBR(株価純資産倍率)が減少します。これらの数値が自己株式取得によって変動することによって、株価上昇が実現されます。株価上昇により、株主からの期待向上や経営指標の改善を見込むことができます。

事業承継をスムーズに進めるため

事業承継を検討している場合には、自己株式取得が有効に働くケースがあります。事業承継を行う際には、会社を受け継ぐ後継者が相続や贈与、株式購入などにより多額の資金が必要となります。

後継者が株式を保有していれば、あらかじめ後継者から自己株式取得を行うことが可能です。株式を売却することで後継者が一定の資金を得ておけば、事業承継も比較的スムーズに進んでいくでしょう。

株式の分散を防ぐため

株主から株式を取得することによって、株式の分散を防ぐことが可能です。株式をある程度集約することで、株主管理の手間や費用が減少するでしょう。

さらに、株式を自社に集めることで、議決権のない株式を多くできます。これによって相対的に経営者が持つ株式の割合が大きくなり、経営における意思決定がしやすくなります。

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自己株式取得の手続き方法

自己株式取得の手続き方法としては、下記4点が挙げられます。

市場取引
公開買付
株主からの取得
子会社からの取得

ここからは、自己株式取得の方法を一つひとつ解説していきます。

市場取引

自己株式取得を進める際に取られる手段の一つは、市場取引によるものです。上場企業は公開取引市場を通じて、迅速に自己株式を取得することが可能となります。

簡単な方法ではありますが、公開取引市場で購入する場合は株価が変動する点に注意が必要です。市場状況に応じて取得金額や取得期間が変わるため、どのタイミングで購入するかの見極めが重要となるでしょう。

公開買付

公開買付(TOB)とは、「買付期間」、「買付株数」および「買付価格」を公開した上で、証券取引所外で不特定多数の株主から株式を買い付けることを指す言葉です。公開買付を行うことで、株価の上昇を抑えた一定の価格で株式の取得が可能となります。

市場取引ではイレギュラーな事態が起こる可能性がありますが、予算や期間などをあらかじめ定めた状態で実施できる点は大きなメリットです。また、公開買付であれば上場していなくても自己株式を取得できます。

株主からの取得

すでに株式を保有している株主から直接株式を購入するのも、自己株式取得方法の一つです。特定の株主から株式を取得する場合には、株主総会の特別決議が必要になるなど他の取得方法に比べ厳格な手続きを踏む必要があります。

具体的な手方法と根拠法令は下記のとおりです。

売主追加請求会社法160条3項
株主総会決議(特別決議)会社法156条1項
取締役会決議会社法157条1項
会社の承諾会社法159条2項
会社に対する譲渡しの申込み会社法159条1項
株主に対する通知・公告会社法158条1項

子会社からの取得

子会社が親会社の株式を保有している場合には、親会社が自己株式として子会社が保有する親会社株式を取得するケースがあります。この場合、取締役会設置会社であれば通常必要となる株主総会による決議は必要なく、取締役会決議のみで取得を進められるため、手間は少なく済む点が特徴です。

反対に、子会社が親会社の株式を取得する行為は原則として禁止されています(会社法135条1項、会社法施行規則23条)。例外として、合併後消滅する会社から親会社株式を承継する場合や吸収分割により他の会社から親会社株式を承継する場合などは、親会社株式の取得が認められています。その場合、相当の時期に当該株式を処分しなければいけません。

自己株式取得をする際の注意点

自己株式取得をする際には、資金繰り悪化や税負担が重くなるなどの点に注意が必要です。ここからは、自己株式取得における注意点を4つ解説していきます。

資金繰りが悪化する

自己株式取得を実施する際には、当然ながら会社が持っているキャッシュ(自己資本)の中から取得資金が捻出されます。そのため、自己株式取得により資金繰りが悪化する可能性がある点には注意が必要です。

手元のキャッシュが少ない場合には、どの程度自己株式を取得するのかを綿密にシミュレーションしておきましょう。自己株式を取得するメリットとリスクを比較検討した上で、具体的な手続きを進めることが重要です。

税負担が重くなる

自己株式取得を進める際、取得金額によっては「みなし配当」が発生する可能性があります。みなし配当は会社法上「配当」には分類されませんが、税務上は剰余金の配当と同じ扱いとなる点が特徴です。

この場合、課税方式は「総合課税」となります。総合課税においては、所得が増えるほど税率が上がるため、自己株式取得を行うことで結果として税負担が重くなる可能性が出てくるのです。

処分に手間がかかる

自己株式を処分するためには、取締役会の決議など各種手続きが必要です。自己株式を増やすと、段階に応じて処分回数が増える可能性もあるでしょう。その回数に応じて手続きの頻度も増加するため、結果的に多くの手間がかかります。

株式の価格が変動する

自己株式取得を行うと流通している株式数が減少するため、1株当たりの価値は高くなります。しかし、流通量が少なくなり取引量が減少することで、長期的に価格が低くなる可能性があります。

そのため、自己株式取得を実施する際には、取得によってどのような影響が市場にもたらされるのかをあらかじめシミュレーションしておきましょう。場合によっては、メリットよりもデメリットが上回る可能性は十分にあります。

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自己株式取得に関する規制

自己株式取得に関しては、「財源規制」が設けられています。具体的には、取得時点における分配可能額の範囲内でしか、自己株式を取得することはできません。分配可能額の計算は複雑ですが、概ね「その他資本剰余金の額+その他利益剰余金の額」となります。

財源規制が設けられていないと、資金繰りに困った会社が自己株式を取得することで、資産が流出し続けることになります。これにより、債権者が損害を負うことになります。この点が資本維持の原則に反しているため、財源規制によって取得することができる総量が決まっているのです。
ただし、次のようなケースでは、自己株式取得にかかる財源規制の適用はありません。

単元未満株式の買取請求に応じる場合
無償取得する場合
他の会社の事業の全部を譲受により取得する場合
吸収合併や吸収分割による承継の場合

自己株式取得の会計処理

自己株式を取得した際の会計処理は、企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」に従って進めていきます。会計上は資本取引となり、仕訳勘定科目は「自己株式」として取得原価を帳簿に記載します。また、自己株式を取得したときは、「純資産の部」からの間接控除となります。

仕訳は下記のとおりです。

借方貸方
自己株式××現金××
預り金※××

※税務上、配当とみなされる部分に関する源泉所得税

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自己株式取得の税務処理

税務上、自己株式を取得した際には、会計処理と同じく「資本の払い戻し」として取り扱われます。また、純資産が減額される「利益積立金」あるいは「資本金等の額」となる点には留意しておきましょう。この部分は「みなし配当」として取り扱われます(法人税法施行令8条1項20号、9条1項14号)。

また、みなし配当として取り扱われる場合には申告調整を行い、所得税の源泉徴収が必要となります。

まとめ

この記事では、自己株式取得についての概要や目的、手続き方法、注意点などについて解説してきました。

いくつかの手順を踏む必要がある自己株式取得ですが、うまく活用すれば会社にとって大きなメリットをもたらします。もし専門家に相談してから進めたいとの思いがあれば、ぜひM&A DXにお任せください。M&A DXのM&Aサービスでは、自己株式取得に関するアドバイスも大手会計系M&Aファーム出身の公認会計士など実戦経験豊富なスタッフが行っています。

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関連記事「みなし配当とは?課税の仕組み、計算方法などをくわしく解説

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