リース業界の現状と動向
ここでは、リースとは何かという基本的な部分を始め、リース業界におけるM&A動向を含めて解説します。
リース業界とは
リースとは、車両や設備などを始めとしたモノを中長期的に貸し出すビジネスであり、広義には金融業に分類されます。リースには、モノの貸し手と借り手が存在します。貸し手は、貸し出しの対価として、借り手よりリース料を受け取ります。リース業と似た業態にレンタル業がありますが、主な違いは、レンタルでは貸出期間がリースよりも短い傾向にあり、貸出中のトラブルは、貸し手が対処することが多いことです。また、リース業の特徴として、リースの対象となる「モノ」は車両、設備、オフィス機器など多岐に渡ること、そして金融機関に留まらず製造業や小売業など幅広い業界からプレーヤーが参入することが挙げられます。
リース業界の現状
経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」によるとリース業界はリーマンショックの影響もあり、2011年ごろまでは市場規模が縮小傾向にありました。それ以降、しばらく横ばいの時期が続いていましたが、2020年のコロナ禍を経て市場規模がさらに縮小しました。縮小した主な要因は、コロナ禍で人の移動が減少したことによるレンタカーや航空機のリース需要減少が挙げられます。良くも悪くも景気動向に左右されやすいのがリース業界の特徴といえるでしょう。また、業界最大手のオリックスが売上2兆円を超える規模であり、大手企業が台頭する構図となっています。
リース業界の今後
従来は、車両や機器を中心に発展してきたリース業界ですが、近年は脱炭素化やDXの動きに連動して様々なビジネスが展開されています。業界最大手のオリックスは、国内外で再生エネルギー関連の事業を拡大しており、今後の脱炭素に向けた設備投資需要を取り込もうとしています。DXという観点でも、業務の自動化を実現するためにロボットをリースする事例が増えつつあります。また、リース業界の各企業は今後人口減少が予想される国内市場だけではなく、海外にも活路を見出そうとしています。例えば、三井住友ファイナンス&リースでは、インドネシアの現地子会社と地場の中堅銀行を合併し、今後人口増加と経済成長が見込まれるインドネシアの市場を取り込もうとしています。
リース業界のM&A動向
レコフデータによると2011年以降日本全国のM&A件数は増加傾向にあり、リース業界においてもM&Aが行われています。M&Aが行われる目的は、国内市場でのシェア拡大、海外市場の開拓など様々ですが将来的に国内市場が縮小することが予想されることに多くの企業が課題を感じている証左といえるでしょう。
リース業界でM&Aを行うメリット
ここではリース業界でM&Aを行うメリットについて解説します。
買い手のメリット
未進出の業界に進出できる
リース業界で取り扱われている商材は多岐に渡り、それぞれ異なったノウハウが必要となります。未進出の業界に進出する場合、既存企業が持つノウハウをゼロから蓄積していくことは容易ではありませんが、M&Aを実施することで既に先行する企業のノウハウを獲得できます。また、業界内でのシェアを高めていく上でも、M&Aは有力な手段です。リース業界のトレンドが変わった際に、臨機応変に適応できる手段として、M&Aを活用し、新しい業界へ進出できる点で検討すべき選択肢といえるでしょう。
設備投資にかかる時間とコストが抑えられる
M&Aを実施することで、新たな業界への参入や新たなリース商材の取り扱いといった導入にかかる時間とコストを抑えることができます。例えば、オフィス機器のリースを展開していた企業が、建設機械のリースに参入するためには、リースに出す建設機械を確保、保管するための多額の設備投資が必要です。しかし、建設機械のリースに強みを持つ企業を買収すれば、設備投資が完了した状態でビジネスを開始できます。M&Aによる買収にも多額のコストがかかる可能性はありますが、設備投資には時間も必要となるため、事業拡大のスピードアップを図る意味でも、M&Aは有効な選択肢です。
売り手のメリット
創業者利潤の獲得
創業者利潤とは、売り手の創業者が、所有する株式を譲渡することで得られる利益のことです。創業者利潤の額は、企業の業績や市場環境によって異なりますが、利益を得るための重要な手段であると言え、創業者が次のビジネスにチャレンジするための資金源にもなります。また、株式譲渡により得た利益を役員退職金の扱いとし、退職所得控除を適用することで、税制上のメリットを享受できることから節税につなげることが可能です。
後継者の確保
中小規模の企業で経営者が高齢である場合、M&Aによって後継者問題を解決できる可能性もあります。リース業界は、顧客との取引が長期に渡り、また信頼関係の構築が必要となるため、事業の後継者がなかなか見つからないケースがあります。独自に後継者を育成することは容易ではないため、M&Aによって後継者となる企業を探すことも有力な手段になります。
経営の安定化
中小・零細のリース企業では、業界内で台頭する大手企業と比べ、縮小傾向にある国内市場でのシェア獲得が難しくなる可能性があります。そのため、将来的な経営の安定化と従業員の雇用確保ためにM&Aを決断するケースもあります。
リース業界でM&Aを行う際の注意点
ここでは、リース業界でM&Aを実施する際の注意点について解説します。
買い手の視点
従業員や取引先からの評価を維持できるか
M&Aは、事業を安定的に継続するための一つの手段である一方、経営主体の変更に伴い取引先や従業員の評価についても気を配る必要があります。リース業界は、契約期間が長期にわたることが多く、取引先との関係が長く続く傾向があります。そのため、先代の経営者の人望や手腕によって高い評価を維持してきた企業であれば、M&Aの実行後も取引先から高い期待値を持たれるため、経営手腕が求められます。また、リース業界に限らず、M&Aに対して従業員は不安を抱くことが多いでしょう。従業員に対し、M&Aの実行が会社の未来に前向きな選択であること、待遇の改善など従業員にもメリットがあることを丁寧に説明し、納得してもらうことが重要です。
自社にはない販路を有しているか
長期間のリース契約を締結している顧客の中には、一見小規模な企業であっても、ある地域や領域では有力な顧客基盤を持っていることがあります。事業ノウハウと同様に、有力な販路や顧客基盤は一朝一夕では実現しないものです。また、このような強みは、財務諸表などの数字には現れにくいため、M&Aの実行の際には、取引先、地域での評価などについて調査する必要があるでしょう。
売り手の視点
自社の強みが正しく把握できているか
M&Aによる売却を目指す場合、買い手が求めるニーズに対して自社の強みが何かを正しく把握することが非常に重要です。例えば、大手が扱っていない商材をリースとして貸し出せる、特定の地域で大きなシェアと高い評価を得ているなど、独自性のある強みを訴求していく必要があります。自社の強みを正しく知ることは、売却価格の交渉においても役立ちます。一般的に、M&Aにおける価格交渉は、買い手が有利とされていますが、もし買い手が現状で持っていない強みやノウハウがあれば、強い立場で交渉に臨むことができるでしょう。
従業員の安定的な雇用につながるか
M&Aが実行される際、多くの従業員は自身の雇用が安定的に継続されるのかという不安を抱きます。経営者が従業員に対してM&Aの意義を正しく説明し、雇用に悪影響がないことを丁寧に説明しなければ、従業員のモチベーション低下や離職につながる可能性があります。M&Aを実行する際には、買い手となる企業が自社の従業員の雇用をしっかりと考えており、売り手の従業員のにも同様の目線を持っていただけるのかなど事前に調査することが重要です。
リース業界でのM&A事例
ここでは、近年実施されたリース業界でのM&Aについて紹介します。
フィデアホールディングスがグランド山形リースを子会社化
銀行業のフィデアホールディングスは、2018年にグランド山形リースを子会社化しました。フィデアホールディングスは、近年の地銀再編の中で、荘内銀行と北都銀行が経営統合して誕生した東北地盤の企業です。グランド山形リースは、既に荘内銀行との資本関係があり、秋田県内でのリース業展開を目指した結果、子会社化するに至りました。業界シェアを高めるため新たな地域に進出することを目的としたM&Aといえるでしょう。
三菱UFJリースと日立キャピタルの経営統合
2021年に大手リース企業の三菱UFJリースと日立キャピタルが、経営統合しました。この経営統合によって発足した三菱HCキャピタルは、オリックスに次いで業界2位の規模を有する企業となりました。三菱UFJリースは、航空機やエンジンなどのリースに強みを持つ一方で、日立キャピタルは、日立ブランドを活かした販売金融を手掛けており、両社の統合によるシナジー効果が期待できることが合併の大きな契機になったと考えられます。リースの対象となる「モノ」や事業形態が多岐に渡るリース業界では、M&Aによるシナジー効果が期待できるといえるでしょう。
みずほリースが海外の同業他社を子会社化
みずほリースは、2023年2月にインドの危機説にリース会社であるRentAlphaPvt.Ltd.の51%株式を取得しました。みずほリースでは、2019年度に開始した中期経営計画において、グローバル事業の拡大を掲げており、今回のM&Aも今後成長が見込まれるインド市場での市場シェア獲得を目指すものです。今後は、大手を中心に海外企業へのM&Aを実行する企業が増えていく可能性があります。
東京センチュリーのアドバンテッジパートナーズへの出資
独立系大手のリース会社である東京センチュリーは、2019年に投資ファンドのアドバンテッジパートナーズの株式の内14.9%を取得しました。この出資は、従来のリース業の枠組みを超えた事業投資ビジネスに参入し、双方のシナジー効果を出すことを目的としています。今後も業界の垣根を超えたM&Aが増えていくと考えられます。
まとめ
リース業界では、様々な業界から多数のプレーヤーが参画している一方で、景気に左右されやすく、今後縮小していくことが予想される国内市場ではなく、海外市場にも活路を見出していくことが求められます。リース業界においても、業界内でのシェア拡大や海外進出の手段としてM&Aが実行されており、今後も事例が増えていくでしょう。