M&Aで会社を売却する進め方は?譲渡価額の決め方や高く売るポイントなど

会計士 牧田彰俊

有限責任監査法人トーマツ入所、各種業務の法定監査、IPO支援に携わる。その後、ファイナンシャルアドバイザリーサービス部門にてM&A アドバイザリー業務・財務デューディリジェンス業務・企業価値評価業務等に従事。組織再編によりデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社に異動し、主に国内ミドルキャップ案件のM&Aアドバイザリーとして、豊富な成約実績を収める。2018年、これまで以上に柔軟に迅速に各種ニーズに応えるべく株式会社M&A DXを設立し、現在に至る。

本記事の監修を務める。メンバーの紹介はこちら

この記事は約6分で読めます。

会社の売却は大きな決断です。この記事では、M&Aを通じて会社を売却するプロセス、そのメリットとデメリット、そして高く売却するためのポイントについて詳しく解説します。

事例や根拠を交えつつ、誰でも理解できる平易な言葉で解説していきます。

  目次  【閉じる】

相談先を迷っている方はM&A DXへ!
資料ダウンロード
M&A DXのメルマガ登録する
セカンド オピニオン

M&Aの売却の進め方

①M&Aの目的・方針を決める

M&Aの売却を成功させる第一歩は、明確な目的と方針を設定することです。 たとえば、「後継者を見つける」「従業員の雇用を維持する」など、各企業が抱える問題に対する解決策を明示しましょう。

この方針が、以降の全ての選択を導く指針となります。

②M&A仲介会社を選定・契約する

売却方針が決まったら次は、M&A仲介会社の選定です。士業や銀行、公的機関などもM&Aをサポートしていますが、買手と売手の間に立つM&A仲介会社がおすすめです。 なぜなら、より具体的で有効なアドバイスが得られ、成約までの期間も短縮できることが多いからです。

一度選んだ仲介会社とは、アドバイザリー契約や秘密保持契約などを結び、一緒にプロセスを進めていきます。

③必要書類を準備する

準備する書類は大まかに以下の6つです。

・定款や株主名簿などの会社概要が分かる資料
・決算書等の財務関連資料
・事業関連資料
・不動産関連書類
・人事労務関連資料
・金融機関やリース会社、主要取引先との契約関連資料

これらの資料を整備することで、買手側が企業の現状を把握しやすくなります。

④IM(企業概要書)を作成する

IM(Information Memorandum)とは、売却を検討している企業の詳細情報をまとめた文書のことです。企業の経済状況、成長性、業界動向、将来予測などを包括的に詳述し、企業価値を最大限に引き立てる内容が求められます。

一般的には、M&A仲介会社やファイナンシャルアドバイザーが作成します。

⑤買手候補を絞る

買手候補は初めにロングリスト(多数の候補企業リスト)を作成し、その中から経営方針や財務状況、業界背景などを基に適合性を考慮し、ショートリスト(最終的な候補企業リスト)へと絞り込みます。

⑥ノンネームシートを提示する

売却対象企業を特定できない程度の情報(業界、規模、業績など)を含むノンネームシートもしくはティーザーを買手候補に提示します。これは、買手が概要を把握し、具体的な興味を持つか判断するためのものです。

⑦ネームクリアを実施する

ネームクリアとは、具体的な買手候補企業を売手に提示し、その企業に提案しても良いかどうかを確認する過程です。

⑧IM(企業概要書)で提案する

ネームクリアが完了した企業に対して、IMを提供します。この情報を基に、買手候補はM&Aの検討を進めます。

⑨トップ面談を実施する

買手側が興味を示した場合、売手と買手のトップ(責任者)が会う面談が行われます。ここでは、経営方針や売却後のビジョンについて話し合われます。

⑩「意向表明書」を受領する

トップ面談により双方が基本的な合意に至った場合、買収方法や買収金額、期間等を記載した意向表明書(LOI: Letter of Intent)が買手から発行され、売手に提出されます。

⑪「基本合意書」を締結する

売手が意向表明書に同意した場合、売却対象の範囲や価格など具体的な条件を記載した「基本合意書」(MOU: Memorandum of Understanding)が締結されます。

⑫デューデリジェンスを受ける

デューデリジェンスは、買手が売手企業の財務状況、法務状況、業績等の良い点や反対に問題点がないか詳しく調査する過程です。これにより、買手は企業価値を正確に評価し、最終的な買収価格を決定します。

⑬「最終譲渡契約書」を締結する

デューデリジェンスが完了し、売手の株主総会や取締役会で譲渡が承認されれば、最終的な譲渡条件を記載した「最終譲渡契約書」を締結します。

⑭クロージングを行う

契約に基づく各種手続き、資金の移動、事業の引き渡しなどが行われる段階をクロージングと呼びます。これにより、M&Aが正式に完了します。

M&Aで会社を売却するメリット

雇用や取引先を維持できる

M&Aでは、会社が廃業することなく、雇用や取引先を新たな会社が引き継ぐことが可能です。具体的な事例としては、2012年に破綻した日本航空が、国の支援を受けて再生したケースがあります。

従業員の多くが引き続き雇用され、また取引先との関係も維持されたことから、M&Aにより会社が存続したことが示されました。

事業承継問題を解決できる

M&Aは、後継者がいない企業の事業承継問題を解決する手段となります。例えば、家族経営の中小企業で後継者が見つからない場合、M&Aを通じて他社に事業を引き継がせることが可能です。

数十年、数百年にわたり築かれてきた事業が継続し、地域経済の維持にも貢献します。

売却益を得られる

M&Aは、買手が売手の企業を高く評価することで、大きな売却益を得ることが可能です。LINEとZHDの経営統合がその一例です。事業シナジーを見込んだZHDがLINEを高評価し、大きな売却益が得られました。

M&A DXのサービスはこちら
相談先を迷っている方はM&A DXへ!
資料ダウンロード
M&A DXのメルマガ登録する
セカンド オピニオン

M&Aで会社を売却するデメリット

最適な買手が見つかるとは限らない

最適な買手を見つけるのは簡単ではありません。良いM&A仲介会社を選ぶことが重要です。例えば、2015年にハウス食品グループ本社がカレーハウスCoCo壱番屋(ココイチ)を運営する壱番屋を株式公開買付(TOB)し連結子会社化した事例では、適切なパートナーを選ぶことで、ココイチの事業拡大が可能となりました。

従業員や取引先に悪影響を及ぼすことも

M&Aは雇用や取引先の維持につながる一方で、不十分な説明や対応は反発を招くこともあります。例えば、2018年にウォルマートがフリップカートを買収した際、従業員や取引先に対する十分な説明がなく、一部からは反発の声が上がりました。

経営権を失う

会社を売却すると、売手は経営権を失います。会社を売却した後、自社の経営に対する影響力が低下すると、売却前とは違う経営方針にストレスを感じることがあります。

大切に育ててきた会社を他人に託すのは、心理的な負担となります。

M&Aの譲渡価額はどのように決めるのか

インカム・アプローチ

インカム・アプローチは将来の利益を見込んで企業価値を算出する方法で、過去や将来のキャッシュフローや損益に基づきます。具体的には、将来にわたるキャッシュフローを現在価値に割り引くDCF法(Discounted Cash Flow Method)が有名です。

対象会社の将来的な収益性や、財政状態および類似企業の割引率等を元に価値を計算しますが、そのためには相応の専門知識が必要となります。

マーケット・アプローチ

マーケット・アプローチは、似たような業態や規模の他社の株価や取引価格を参考にして企業価値を算出します。具体的には、類似企業の株価や純資産を比較するPBR法(Price Book-value Ratio)や、売上や利益に対する倍率で価格を出すPER法(Price Earnings Ratio)やEBITDA倍率法などがあります。

なおマーケット・アプローチには、マーケットの動向を読む視点が求められます。

コスト・アプローチ

コスト・アプローチは、企業の純資産額を基準に、企業価値の算出をします。具体的には、企業の賃借対照表(バランスシート)を使用し、(時価)資産額から(時価)負債額を差し引くことで、算出を行い評価します。

ただし、ブランド価値や人的資産などの無形資産は考慮しづらいという難点があります。

会社を高く売却する5つのポイント

①財務・法務状況が健全である

買手は健全な財務・法務状況の会社を好む傾向にあります。なぜなら、それは予期せぬリスクを避けることができるからです。

ただし、財務状況が悪いとしても、その原因や改善の可能性がはっきりしているなら、それを交渉材料にすることで価格を引き上げることも可能です。

②取引先や商圏に魅力がある

取引先や商圏の魅力は、会社の売却価格に大きく影響します。 例えば、一部の製品を専売している信頼性のある取引先や、独占的な商圏を持っている会社は、買手から見て価値があると判断されます。

③競合会社に優位性がある

競合他社と比較して独自の強みがある企業は、買手から高い評価を受けやすいです。 特許技術や独特なビジネスモデル、専門的な知識など、他社にはない独自性が価格アップに繋がります。

④経営者不在でも回る組織体制になっている

経営者が不在でも組織が自立して機能する会社は、買手にとって安心感を提供します。 経営者に依存しすぎていると、譲渡後の事業継続が難しくなるため、自律的な組織体制の構築は重要なポイントとなります。

⑤入札方式で買手から高い評価を得る

多くの買手から入札を受けることで、市場価格以上の高額な評価を得られる可能性があります。そのため、多くの買手候補を持つM&A仲介会社との契約がポイントとなります。

入札方式にすることで、買手候補同士が競い合い、結果的に譲渡価額を引き上げることが期待できます。

まとめ

会社の売却は、単に価格だけではなく、多くの要素が絡み合う複雑なプロセスです。譲渡価額の決定方法や、会社の価値を高めるポイントを理解して、最善の決定を下しましょう。

株式会社M&A DXについて

M&A DXのM&Aサービスでは、大手会計系M&Aファーム出身の公認会計士、 M&A経験豊富な金融機関出身者や弁護士が、豊富なサービスラインに基づき、最適なM&Aをサポートしております。セカンドオピニオンサービスも提供しておりますので、M&Aでお悩みの方は、お気軽にM&A DXの無料相談をご活用下さい。 無料相談はお電話またはWebより随時お受けしておりますので、M&Aをご検討の際はどうぞお気軽にお問い合わせください。


相談先を迷っている方はM&A DXへ!
資料ダウンロード
M&A DXのメルマガ登録する
セカンド オピニオン

SHARE

M&Aセカンドオピニオン

セカンドオピニオンとは、M&Aを検討する中で生じる不安や迷い・懸念を第三者視点で全体を俯瞰しながら、個々の状況に寄り添ってアドバイスするサービスです。
こんなお悩みの方におすすめです。

✓ M&A業者が進めるスキームで適切なのか知りたい
✓ M&A業者と契約したが連絡が途絶えがちで不安だ
✓ 相手から提示された株価が妥当なものか疑問に感じる
✓ 契約書に問題がないか確認したい
✓ M&A業者が頼りなく感じる

どんな細かいことでも、ぜひ【M&A DXセカンドオピニオンサービス】にご相談ください。
漠然とした不安や疑問を解消できます。

無料会員登録

会員の皆様向けに週1回、M&A・事業承継・相続に関わるお役立ち記事、動画などをお知らせするメールマガジンを配信させていただきます。
お役立ち記事はこちらからピックアップしてお届けいたします。
動画はM&A DXチャンネルからピックアップしてお届けします。
配信を希望される方はメールアドレスをご登録の上、お申し込みください。登録料は無料です。

LINE登録

LINE友達登録で、M&A・事業承継・相続に関わることを気軽に専門家に相談できます。
その他にも、友達の皆様向けに、動画などをお知らせするメールマガジンを配信させていただきます。
相談を希望される方は、ぜひお気軽にLINE友達登録へお申し込みください。

M&A用語集

M&A DX用語集では、M&Aに関する専門用語についての意味や内容についてご紹介しております。
M&Aや事業承継は英語を使うケースが多く、初めて聞くと意味が分からないまま会話が進み、後で急いで意味を調べるような経験がある方もいらっしゃると思います。M&Aの用語に関しては、一度理解してしまえばその後の会話で使えるようになるため、辞書代わりにご利用下さい。
※会計士の当社代表牧田が、動画で解説している用語もあります。

まんがでわかる事業承継

すべての人を幸せにするM&Aを、まんがでわかりやすく解説します。
「事業承継は乗っ取りではないのか?」と不安に思う社長に対し、友好的事業承継のコンセプトをわかりやすく解説します。

~あらすじ~
社長は悩んでいた。
創業して40年、生涯かけて取り組んだ技術も途絶えてしまうことに。
何より、社員を裏切る訳にもいかない…

そんな折、真っ直ぐな瞳の男が社長を訪ねてきた。
内に秘めた熱い心を持つ彼は、会計士でもある。
「いかがなさいましたか?」
この青年が声をかけたことにより、社長の運命が劇的に変わっていく。

資料請求

あなたの会社が【M&Aで売れる会社になるための秘訣】を徹底解説した資料を無料で提供しております。
下記のお悩みをお持ちの方は一読ください。

✓ M&Aを検討するための参考にしたい
✓ 売れる会社になるための足りない部分が知りたい
✓ 買手企業が高く買ってくれる評価基準が知りたい

【売れる会社になるためのコツを徹底解説】一部ご紹介します。

✓ 解説 1 定性的ポイント

業種、人材、マネジメント体制などの6つの焦点

✓ 解説 2 定量的ポイント

財務的に価値がある会社かどうか、BS・PLの評価基準

✓ 解説 3 総合的リスト

売れる会社と売れない会社を表にまとめて解説

詳細は無料ダウンロード資料「M&Aで売れる会社と売れない会社の違い」にてご確認ください。