事業承継対策は計画的に
事業承継とは会社の支配権や経営権を後継者に引き継ぐことです。株式・顧客・従業員・取引先との関係など、会社の経営に関わる全てを承継します。計画的な事業承継対策を取り、後継者へのスムーズな経営移行をサポートすることをおすすめします。ここでは、事業承継に求められる3つの要素を紹介します。
事業承継を行う際にはしっかりした対策を
安定した経営を続けている会社でも、事業承継の対策が甘いと事業承継後の業績悪化や廃業に追い込まれる場合があります。以下の例で考えてみましょう。
経営者のA氏には4人の子供がいます。会社の経営は長男であるB氏に任せるつもりでしたが、病気によってA氏が急死するというトラブルが発生しました。しかし、A氏はB氏への事業承継をしていなかったために、会社の株式は子供たち4人へ均等に分配されることになりました。会社の支配権は、持株比率に応じて変わります。このケースでは株式を過半以上持つ方が存在しないことから株主総会の普通決議を可決させるのに二人以上の合意が必要になります。B氏に持株比率を集めるなどの事業承継対策をしておけば、会社の意思決定がスムーズに実施できた可能性があります。
事業承継対策による相続トラブル防止
裁判所のホームページによると、2019年に発生した遺産分割事件は 12,785件です。2010年は 10,849件でしたので、2,000件近く増えたことが分かります。
事業承継による会社の相続は、トラブルが発生すると解決するのに苦労する場合があります。相続トラブルが表面化することで、従業員や取引先に迷惑をかける場合があるので用心することをおすすめします。
相続トラブルを避けるためにも計画的な事業承継対策を実施しましょう。
(参考: 『司法統計情報 年報|裁判所』)
事業承継対策をすることで後継者がスムーズに経営できるようになる
事業承継は業務の引き継ぎだけではありません。事業承継をして安定した経営を続けるには、後継者の育成が求められます。経営者が培った事業運営のノウハウを引き継ぐには、しっかりとした教育や指導を要します。
後継者の育成方法の一つは社内教育です。経営理念の共有、営業・財務・人事などの知識、経営権限のある役職での経験などは後継者の育成に役立つでしょう。
また、取引先や同業者に依頼して他社での勤務経験を積ませたり、セミナーに参加して知識を蓄えたりする方法もあります。
事業承継対策をすることで税金が猶予や免除される
平成30年度税制改正により一定期間限定の特別措置として事業承継税制が新設されました。事業承継税制の利用により、事業承継時の相続税や贈与税の納付が猶予や免除されます。
関連記事 事業承継税制は活用すべき?メリット・デメリットや申請方法を解説
事業承継の流れ
事業承継は計画的に対策することをおすすめします。事業承継を実行するには、様々な課題があるので、ひとつひとつ対策しましょう。ここでは、事業承継の流れを3つに分けて解説します。いずれもスムーズな事業承継を進めるのに欠かせません。
現在の会社の状況を把握する
スムーズな事業承継を進めるには、自社の経営状況がどのような状態なのかを把握しましょう。最初に自社の従業員数や年齢構成を調査します。
また、将来の経営戦略や競合他社との優位性もチェックしましょう。事業承継では現金や株式などの目に見える資産だけではなく、技術・ブランド・取引先などの目に見えない資産も引き継ぎます。
会社の目に見えない資産を把握した後は、目に見える資産を確認します。事業に供される資産の評価額を算出します。正確な評価額をしっかり出したい場合は、専門家に依頼することをおすすめします。
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事業承継ではプラスの資産の他に、マイナスの負債も引き継がねばなりません。取引先の金融機関からどのくらいの借入をしているのか、将来のために取引先の金融機関を一本化できないかなどを検討します。
後継者の選定を行う
経営者の意思を引き継げる適切な後継者を選ばなければ、会社の存続や成長は望めないかもしれません。2代目や3代目の経営に対する意識や管理能力の不足により廃業に追い込まれる場合があるからです。
後継者の選定では能力とマインドの2つの面に着目しましょう。小規模の会社の場合は実務能力、中規模の会社の場合は役員や従業員を引っ張る能力が求められます。また、物事を適切に判断して処理する能力も経営者としてのポイントです。
また、従業員の生活を背負う覚悟や、経営者からの借入や担保を引き継ぐ責任もあります。人的ネットワークを広げられる能力や、心身ともに健康であることも考慮しましょう。
後継者を親族以外から選ぶときには、家族や親族の理解が大きな支えになります。事業承継を検討する際に親族と話し合い、後継者選定に関する理解を得ることをおすすめします。
事業承継計画書を作成する
事業承継では事業承継計画書を用意すると、スムーズに進行します。事業承継計画書とは、事業承継に必要な情報を記載した一覧表です。事業承継や相続対策などについて、頭の中でイメージした計画を明文化します。
事業承継計画書を作成し、「何を承継するのか」「どのプランで承継するのか」を明確にします。また、後継者を育成する際に事業承継計画書があると、経営に関する互いの認識をすり合わせることができます。
事業承継計画に記載する内容は、事業承継の大枠と中長期の見通しです。年数ごとの計画一覧表を用意しましょう。
事業承継を対策するポイント
事業承継の対策には、自社の状況に合った方法の選択が求められます。また、事業承継対策を実行するのに時間がかかるため、スケジュール管理もポイントとなります。ここでは、事業承継を成功させる4つのポイントを解説します。法務面・財務面・労務面での手続きもあるため、慎重に進めることをおすすめします。
事業承継の種類
事業承継は「親族内承継」「親族外承継」「M&A」の3種類です。それぞれにメリットやデメリットがあるので前もって理解しておきましょう。
手法 | 概要 | メリット | デメリット |
親族内承継 | 息子や配偶者など、親族へ引き継ぐ | ・特に親族を後継者とする場合、早くから後継者として指名することにより後継者 教育に時間をかけられる ・企業の経営理念や社風を維持したまま事業を承継することができる ・比較的他の役員や従業員の理解を得られやすい ・従業員の雇用を維持できる ・取引先や金融機関との信頼関係を維持できる ・後継者を選びやすい ・業務に精通している | ・後継者への株式異動に伴う贈与税や先代の死後多額の相続税が発生することがある ・その親族が後継者として資質に欠けるときがある |
親族外承継(MBO) | 従業員や役員などに引き継ぐ | ・創業者が得られる創業者利潤がM&Aに比べ少なくなる ・後継者への株式異動に伴う贈与税が発生することがある ・株式取得のための資金を役職員が準備しなくてはならない ・債務に関する個人保証の引き継ぎに後継者が抵抗を感じる ・後継者教育に数年単位の時間がかかる | |
M&A | 第三者へ引き継ぐ | ・事業を存続させることができる ・従業員の雇用や取引先を維持できる可能性が高い ・経営者の連帯債務保証を外すことができる ・経営者は保有する株式の売却によって、十分な老後資金を確保できる ・買手にとって、買収企業とのシナジー効果により事業拡大などが期待できる | ・自社の希望通りの買収企業とのマッチングに時間がかかる場合があるほか、マッチングできない場合もある ・デューディリジェンスなど、一定の対応を求められる ・希望通りの売却価格や買取条件で合意できないこともある |
親族内承継とは社長の子供や兄弟などの親族に事業を承継する方法で、幼少時から経営者になるための教育ができることがメリットです。しかし、近年では「会社は子供が継ぐべき」という価値観が変わりつつあり、親族内承継は減少傾向にあります。
親族外承継とは、親族ではない従業員や役員などに経営を引き継ぐ方法です。スムーズな経営権の移行は可能ですが、株式取得のための資金を新しい経営者が用意しなければなりません。
M&Aとは事業を第三者に譲渡することです。親族内承継や親族外承継が難しい場合は、M&Aがよいでしょう。優秀な人材を見つけやすいので、経営の安定化を目指したい方にはおすすめです。
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会社の状況に合った事業承継の方法を選ぶ
事業承継の種類は3種類ありますが、会社の状況によって適切な方法は異なります。例えば親族内承継(相続)を検討する際、経営者に子供がいても、本人が拒否した場合は事業承継が難しいでしょう。本人が了承した場合でも、他の相続人への分配方法を決めるなどの処理が発生します。
親族外承継(MBO)は、勤務経験が豊富な社員であれば経営方針・事業内容・ノウハウを熟知しているので安心して承継ができるという魅力があります。ただし、小規模の会社の場合は従業員が少なく、経営者に適した人材を見つけるのが難しいケースもあります。その場合、M&Aを選択肢に入れるをことをおすすめします。事業承継の方法を選択する際には、自社の状況と照らし合わせながら慎重に選ばなければなりません。
計画的な事業承継対策を行う
事業承継では自社の状況の把握・候補者選び・承継後のフォローなど、実行するべきことが多くあります。将来を見据えて長期的な計画を立てることをおすすめします。後継者を選定しないまま健康を害してしまえば、満足のいく事業承継が難しくなる場合があります。
具体的な方法として、信頼できる役員や従業員に相談することをおすすめします。また、事業承継専門会社に相談すれば、事業承継に関する適切なアドバイスを聞ける場合があります。
事業承継の関係者周知は引継ぎ先が見つかるまで行わない
事業承継に着手しても、はじめのうちは情報伏せることをおすすめします。
従業員や役員に事業継承の話をする際は、適切なタイミングを図ります。従業員が心配しないようにとの思いから、あまりに早い段階で全て情報を伝えてしまうと、反対に動揺や混乱が生まれる場合があります。場合によってはモチベーションの低下や従業員の退職につながります。
事業承継を実行した後もフォローを行う
後継者が見つかり、全ての準備が整えば事業承継を実行します。事業承継を実行したら、新しい経営者の元で従業員が一致団結して事業を継続できるようサポートすることをおすすめします
可能ならば役員として経営者をフォローする側に回りましょう。取引先との関係を強めたり、培ってきた経営のノウハウを伝えます。2年~3年会社にとどまることで、会社の成長をサポートすることが可能です。
計画的な事業承継の対策を行うべき企業
事業承継には興味があるものの、すぐに着手するべきか悩む経営者もいるのではないでしょうか。事業承継により事業の拡大や継続した収入を得られる場合があります。ここでは事業承継の対策を計画的に行うべき3つのケースを紹介します。事業承継を検討する際の参考にしてください。
後継者がいない
「子供がいない」「子供に継ぐ意思がない」「適当な後継者が見つからない」という理由で廃業を検討する経営者がいるとします。
廃業の場合、経営者が培ってきた経営のノウハウを承継できないことに加え、従業員が職を失うことになり、従業員の家族など多くの人が路頭に迷う可能性があります。日本は少子高齢化により後継者不足の問題が進んでいるため、計画的に後継者を探すことをおすすめします。
オーナー企業
オーナー経営者の企業は、外部の株主からの要請を意識せず経営することができます。一方で、会社の支配権が経営者に集中しており、経営者が病気や事故に遭遇すると事業存続が難しくなります。
特に、経営者の高齢化が進んでいる企業の場合は、不測の事態に対処しなければなりません。場合によっては廃業することも考えられます。事業承継の対策を計画的にすることをおすすめします。
相続トラブルの可能性がある
事業に用いている資産を経営者個人が所有している場合がありますが、対策を施さないまま経営者が亡くなると資産は法定相続人に相続されます。
相続人同士の折り合いがつかず、会社の経営が滞ったり廃業に追い込まれたりするでしょう。相続トラブルが原因で家族が分裂するケースもあります。相続人が多い場合は計画的に事業承継の対策をすることをおすすめします。
事業承継対策を行う必要がない企業
何らかの理由により清算(廃業)を決定している会社では、事業承継の対策は必要ありません。
また、事業承継についてのトラブルがないケースであれば事業承継対策が不要かもしれません。事業承継すべきかどうかは会社や関係者の状況によって異なるため、専門家への相談をおすすめします。
事業承継対策の実施なら株式会社M&A DXへ
事業承継の対策は、計画的であることが求められる場合があります。しかし、事業承継の経験を持つオーナーや経営者は多くなく、具体的な進め方に懸念がある方もいるのではないでしょうか。
事業承継の対策を検討している方はM&A DXにご相談ください。M&A DXは、事業承継やM&Aの仲介・FA(ファイナンシャルアドバイザリー)・DD(デューデリジェンス)などのノウハウと経験を有しています。事業承継に精通した専門家集団がプロセス全体を通じて万全のサポートをします。私達はまず経営者が抱える悩みを聞き、最適な解決策をともに考え、実行するサポートをいたします。
まとめ
事業承継の対策を計画的に行うことで、相続トラブルを予防することができ、場合によっては多額の相続税や贈与税などの納税を猶予することができます。事業承継を対策したいものの、どこから始めればよいのか分からない専門家の力を借りることがおすすめです。
M&A DXではM&Aに関するワンストップサービス、事業承継や相続のサポートを提供しています。相談は無料で受け付けているため、M&Aに関する悩みを気軽に解消できるでしょう。事業承継についてお困りの方は、ぜひM&A DXにお問い合わせください。