業務移管とは?事業譲渡との違いやメリット・デメリット、進め方など

会計士 江森豊

EY新日本有限責任監査法人に入所、累計100 社超の幅広い業種への法定監査、IPO支援、内部統制構築支援等に従事。 EY在籍中に大手総合商社へ出向し、経理業務全般および国際会計基準の導入支援を行う。EYグループのコンサルティング会社では財務デュー・ディリジェンスを多数経験。その後、大手信託銀行及び中堅税理士法人を経て、よりM&Aサービスに注力するため株式会社M&A DXに参画し、現在に至る。法人・個人の会計税務顧問サービス、会計監査、IPO支援、事業承継支援、相続対策、財務デューディリジェンス、株価評価算定、PMI支援、決算早期化支援等に豊富な実績を有する。株式会社M&A DXに入社、現在に至る。

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業務移管とは、業務を他部署や外部企業に移すことです。業務移管にはどのようなメリット・デメリットがあり、どのような手順があるのでしょうか?

この記事では、業務移管の内容や事業譲渡との違い、業務移管のメリット・デメリット、手順などを解説します。業務移管を検討している企業は、ぜひ参考にしてみてください。

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業務移管とは

業務移管とは、会社の業務を、同じ会社内の他部署や外部の企業に移動させることです。会社が管轄する業務の責任や権限、財源などを、他部署や外部の事業体に移転することになります。

また、業務移管先は国内に留まらず、海外に移転することもあります。海外の企業に業務の全部または一部を移転することを「オフショアリング」といいます。オフショアリングの一番の目的は「コスト削減」で、バックオフィス業務やコールセンター業務などを、コストの安い海外に移管する動きが進んでいます。

事業譲渡との違い

業務移管とよく混同される用語の1つに「事業譲渡」があります。事業譲渡とは、譲渡企業(売り手側)の事業の全部または一部を、譲受企業(買い手側)に承継させることです。

業務移管は、会社の業務を「移す」ものであるのに対し、事業譲渡は事業を「売る」ものになります。業務移管は業務を移すだけなので、移管した事業に関する経営や今後の方針などは、自社が決められます。一方で、事業譲渡は事業を売却しているので、売却後は経営などに関与できません。

参考:事業譲渡とは?メリットや注意点を徹底解説!

業務移管のメリット

自社の業務を、他部署や外部の企業に移管することは、どのようなメリットがあるのでしょうか?業務移管の主なメリットを3つ紹介します。

業務の一元化によって業務効率化やコスト削減を図れる

業務移管の大きなメリットの1つに、業務を一元化できる点があります。

たとえば、全国の各拠点でシステム管理業務を行っていたとしましょう。拠点ごとにシステム管理業務を行ってしまうと、業務マニュアル作成やトラブル対応などが拠点ごとに実施されるため、業務遂行に多くの時間が割かれてしまうデメリットがあります。

そこで、本社にシステム管理業務を一元化することで、業務が一極集中し、業務効率やコスト削減などの効果を見込めます。社内で業務がバラバラに実行されている場合、業務移管で業務を一元化を検討するのはおすすめです。

不採算事業を立て直しできる

経営を悪化させている不採算事業を外部の専門会社に移管することで、立て直しを図れることがあります。業務移管による採算事業に集中することで、不採算事業で無駄に抱えていたコストを削減し、組織の立て直しを図れます。

また、事業譲渡と違い、業務移管では事業の経営権は移転しません。そのため、業務移管による利益を、そのまま自社が享受できます。

従業員の業務負担を軽減できる

業務移管は、従業員の業務負担の軽減につながります。たとえば、従業員が本業とバックオフィス業務を兼任していて負担が大きい場合、専門企業に移管すれば、従業員は本業に集中できます。

ノンコア事業を外部に移管し、自社の従業員は本業に集中することで、売上を伸ばす余地も大きくなります。

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業務移管のデメリット

事業移管にはメリットだけでなく、デメリットもあります。業務移管の主なデメリットを2つ紹介します。

多くの時間と手間がかかる

業務移管では、手続きが煩雑になりがちで、多くの時間を要します。社内の他部署へ移管する場合、システムの変更や、従業員の転籍などの手続きが必要です。

さらに外部へ業務を移管する時、個別契約や労働契約の引き継ぎのほか、許認可の引き継ぎもかかわってくるケースがあります。

従業員が離職する恐れがある

これは事業譲渡にも共通するデメリットですが、業務移管による転籍や部署異動をきっかけに、従業員が離職する恐れがあります。特に、移管する業務で優秀な人材がいた場合、離職されると会社に大きなダメージを負ってしまいます。

そのため、業務移管をする場合は、トップダウンのみで進めるのではなく、関係する従業員と綿密にコミュニケーションを取るようにしましょう。業務移管によって社員が離職しそうだが、会社としては引き留めたい時は、あらかじめ対策を講じる必要があります。

事業譲渡(譲渡側)のメリット

業務移管と比較した、譲渡側の事業譲渡のメリットを2つ紹介します。

譲渡による売却益を得られる

事業譲渡は事業を売却することなので、売却対価を得られます。売却対価をもとに、新規事業や設備などに投資でき、さらに会社が成長する見込みは高くなります。また、財務が悪化している場合でも、現金を得られれば債務の返済などにも充てられます。

事業譲渡ではまとまった対価を得られることが多いので、将来へ向けた投資や、財務状態の健全化を目指したい時に適しています。

後継者問題を解決できる

事業譲渡は、後継者不足問題を解決する方法となります。事業譲渡によって第三者から後継者を選ぶことができます。

昨今、後継者が親族に跡継ぎがいない場合や、自社の役員・従業員に後継者がおらず、廃業を迫られるケースも増えています。そこで、注目されているのがM&Aです。M&Aの手法の1つである事業譲渡は、第三者から後継者を選定できるため、親族や社内に後継者がいない場合におすすめの手法です。

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事業譲渡(譲渡側)のデメリット

続いて、業務移管と比較した譲渡側の事業譲渡のデメリットを2つ紹介します。

株主総会の決議が必要

業務移管と異なり、事業譲渡には原則株主総会の「特別決議」を経る必要があります。事業譲渡で株主総会の決議を経る必要があるケースは、次の2つです。

・譲渡企業の事業のすべてを譲渡する
・譲渡企業の事業の重要な一部を譲渡する場合
・譲渡企業の子会社の株式または持分の全部又は一部の譲渡

株主総会の特別決議では、議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成票を得なければなりません。株主の反対によって、3分の2以上の賛成を得られなければ、事業譲渡は実行できません。

参考:事業譲渡の際に株主総会は必要?不要?譲渡の流れも併せて解説

譲渡すると長期間同様の事業を行えない

業務移管では業務を他部署または外部に移転するだけなので、移管後も引き続き当業務を継続できます。しかし、事業譲渡の場合、同一市区町村および隣接市区町村内で、譲渡後原則20年間は同種の事業を行うことはできません。これを「競業避止義務」といいます。

競業避止義務の目的は、譲受側(買い手)の保護です。譲受したにもかかわらず、譲渡企業が譲渡後すぐに事業を再開してしまうと、譲受側にとって競争相手となってしまい大金を出して譲受した意味がありません。

なお、競業避止義務の期間は、特約により30年以内の範囲で期間を変更できます。両社が合意すれば、競業避止義務を短縮・排除することも可能です。

業務移管に適している業務

業務移管に適している業務を3つ紹介します。

バックオフィス業務

伝票記入や会計データ入力などの経理、コールセンターなどのバックオフィス業務は、業務移管されやすい業務です。バックオフィス業務はマニュアルを整備すれば業務を遂行しやすく、かつ専門性を必要としないため、外部に業務移管されることが多くなっています。

IT業務

IT人材が不足する現代社会において、IT人材を確保できない企業が、IT業務を外部に移管するケースもあります。費用はかかるものの、昨今のIT保守業務は重要性の高さやめまぐるしい技術の進化により、外部に移管する企業も増えています。

専門性の高い業務

単純な業務だけでなく、専門企業が、専門性の高い業務も外部へ移管するケースも見られます。海外拠点に専門性の高い業務を移管して、コストを抑える企業も存在します。

BPO業者は高い専門性を有していることがあり、自社にはないノウハウを取り入れられるメリットもあります。

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BPOで業務移管を進める方法

BPOとは、業務の一部を外部企業に委託することです。BPO業者に業務を移管する手順を紹介します。

①現状の業務を分析する

BPO業者に移管する際、まずは現状の業務を把握することから始まります。業務内容やプロセスを可視化し、どの業務を移管すべきか明確にします。

移管する業務のポイントは、次のとおりです。

・リソースが不足している
・業務が効率的ではなく、時間がかかりすぎている
・専門性の高い業務にもかかわらず、専門人材が不足している など

このような課題を洗い出すことで、どのような課題を解決するために、どの業務を移管すべきか明確になります。

②業務フローを組み立て直す

現状の業務を明確にしたあとは、業務フローを組み立て直します。具体的には「自社で担当する業務」と「BOP業者に移管する業務」の2つにわけます。

業務フローを組み立て直すうえで重要なことは、自社とBPO業者の業務の棲み分けを、可能な限り明確にしておくことです。ここでお互いにズレが発生すると、顧客対応などでトラブルを生むことにつながります。

③RFP(提案依頼書)を作成する

移管する業務が明確になれば、次にRFP(提案依頼書)を作成します。RFPとは、自社の要望を相手業者に伝え、それに対してサービス内容や金額などの提案を依頼する書類です。

RFPがあることによって、文書でお互いに認識を確認できるため、BPO業者との齟齬が生じにくくなります。また、相手方からサービス内容や料金を提示されるため、自社はその材料を基にBPO業者を選定しやすくなります。

④BPO事業者を選定する

RFPを基に、BPO業者を選定します。一口にBPO業者と言っても、サービス内容や料金などは多岐にわたります。そこで、BPO業者を選定する際に重視したいポイントは、次のとおりです。

・自社が移管したい業務を満たしているか
・初期費用やランニングコストは適正か
・(特に自社が移管したい業務に関連する)実績が豊富か
・セキュリティ体制は万全か など

費用だけでBPO業者を選定すると、移管した業務の一部しか遂行してくれない場合や、セキュリティ体制が万全ではない可能性が考えられます。上記事項を総合的に判断し、なるべく自社の要望に適うような業者を選定しましょう。

⑤契約締結~運用

BPO事業者を選定できれば、契約を締結し、運用を開始します。BPO業者に委託する場合、まずはテスト運用から始めるのが一般的です。

テスト運用によって移管した業務が適正に運用されているか確認しつつ、自社でも順次業務移管に合わせて業務を対応させていきます。

業務移管に必要な契約書

外部に業務を移管する時に、いくつか契約を締結します。外部への業務移管に必要な契約書を2つ紹介します。

事業譲渡契約書

事業譲渡による業務移管を行う場合、事業譲渡契約書を締結します(ここでの事業譲渡と業務移管は、ほぼ同義です)。事業譲渡契約書は、事業譲渡後のトラブルを防ぐ目的で締結されます。

事業譲渡契約書で記載する主な内容は、次のとおりです。

・譲渡の対象となる事業内容
・譲渡する財産
・従業員の雇用に関する扱い
・公租公課の負担
・表明保証(譲渡する事業に関する情報が正確であることを宣言するもの) など

事業譲渡契約書のひな形はインターネット上でも取得できますが、個々の譲渡の事情まで汲み取れていないこともあります。そのため、弁護士などの専門家にリーガルチェックを依頼するようにしましょう。

秘密保持契約書(NDA)

業務移管による情報の漏洩を防止する目的で、BPO業者と秘密保持契約書(NDA)を締結します。

ただし、秘密保持契約書を締結するといっても、移管先の従業員が情報を漏洩させる恐れもあります。そこで、重要な情報に関しては、次のような内容を取り決めておきましょう。

・個人情報や機密情報などに当たる情報
・重大な情報にアクセスできる人
・情報の保管やアクセス方法
・万が一情報が漏洩した時のプロセス など

昨今、情報の漏洩は企業への信頼を大きく損なう恐れがあるので、上記のような事項は綿密に移管先とともに注意するようにしましょう。

まとめ

業務移管とは、会社の業務を、同じ会社内の他部署や外部の企業に移動させることです。事業譲渡は事業の全部または一部を「売却」することであり、業務移管の「移す」とは異なります。業務移管はコア事業への集中や、不採算事業の立て直しなどの目的で実施されるものです。

一方で、事業譲渡は現金を手元に得るためや、後継者問題を解決する目的で実行されます。業務移管よりも事業譲渡が適している場合、M&A仲介会社であるM&A DXまでご相談ください。

関連記事「M&AにおけるPMIとは一体?特徴や重要性を徹底解説!

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