会社の休眠とは? 廃業と休眠の違いは?
何らかの事情によって、会社経営者が事業を停止したいと考える場合があります。その際には、「廃業」と「休眠」という2つの選択肢があります。
まず「廃業」とは、事業をやめてその法人を解散・清算させることです。法人が解散した場合、法人は清算手続きに入ります。清算とは、法人が解散した時に残った資産の換金や借金の返済などの手続きをすることです。最終的に、清算結了登記という登記を行うことで、法人が完全に消滅します。
次に「休眠」とは、法人組織は残したまま、事業だけを休業している状態を表す言葉です。法的には「休業」とも呼ばれ、自治体や税務署などに、休業する旨を届け出る「異動届出書」を提出しなければなりません。
廃業した場合、当然ながら、それ以後、その会社としての事業活動はできません。人間でいえば「死亡」と同じです。一方、休眠・休業の場合、法人自体は生きており、単に「眠っている状態」です。そのため、その会社で、再び事業活動を行うことができます。
つまり、今後、その会社での事業は再開しない、と決めているのであれば廃業を選び、一時的には事業を休止するものの、将来再開する可能性があるのなら、休業・休眠を選ぶということになります。
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「休眠」という言葉の2つの意味
会社の「休眠」という言葉には、一般用語としての使われ方と、会社法上の用語としての使われ方があります。
一般用語としては、休業の異動届出書を提出して、公的に法人が休業していると認められた場合はもちろんのこと、そういった手続きを経ずに、単に長期間事業を行っていない「放置状態」になっている場合も含めて、休眠状態と呼ばれます。届出を出さずに単に事業をストップしているだけの場合は、事業の何を、どこまで、いつまで止めれば、休業もしくは休眠にあたるかという明確な基準はなく、あいまいなものです。
会社法で規定されている「休眠会社」とは?
一方、会社法では、「休眠会社」は明確に定義されています。最後に登記を行った日から12年以上経過している株式会社が休眠会社とされます(特例有限会社は除きます)。つまり、数年間事業活動を停止している会社でも、たとえば6年前に登記を行っていれば、会社法の定義では、「休眠会社」に該当しません。
しかし、一般的な感覚からすれば、5年間もまったく事業活動を行っていなければ、「休眠状態」だと感じられるはずです。
そこで、「会社休眠」「休眠会社」といった言葉を見た場合には、それが一般用語としてのものなのか、会社法上のものなのかで意味が異なるので、注意しておく必要があります。
「最後に登記を行った日」の意味
ところで会社法上の休眠会社の定義にある、「最後に登記を行った日」とはどういう意味でしょうか?
株式会社は、事業を継続していくにあたり、様々な登記が必要になります。たとえば、役員の改選、本店の移転、商号の変更、資本金の変更などの登記などです。
なかでも、会社法の規定により、株式会社の取締役任期は、原則として2年、最長でも10年とされています。取締役の交替や重任の場合にはその都度、取締役の交替や重任についての登記が必要です。そのため、株式会社については、取締役の任期毎(最長でも10年ごと)に、取締役の変更の登記がされることとなります。この背景があるにも関わらず、登記を行わないまま12年も経過している状態では事業を行っているといえない、ということで休眠している会社であると会社法では判断するということです。
しかし、実際上は、「面倒臭い」「忘れていた」あるいは「登記費用がもったいない」などの理由で登記をしてない会社も多数あります。そのような会社は、事業活動を行っている=一般的な意味での休眠とはなっていないにもかかわらず、会社法上の休眠会社とされて、次に説明する「みなし解散」の対象となってしまう場合があります。
会社休眠と「みなし解散」との違いとは?
会社休眠と密接な関係がある、「みなし解散」(正式には、「『休眠会社・休眠一般法人の整理作業』によるみなし解散」)という制度があります。会社休眠を検討する場合、あわせてこの制度についても知っておいたほうがいいでしょう。
ひと言でいえば、「みなし解散」とは、会社法上の休眠会社のうち、事業を継続する意思がないと思われる会社を、国が強制的に解散登記してしまう手続きのことです。ただし、みなし解散をさせられても、法人は消滅しません。
みなし解散のプロセス
みなし解散のプロセスの最初は、法務大臣が「会社法上の休眠会社」に対し、2か月以内に、本店の所在地を管轄する登記所に「まだ事業を廃止していない」旨の届出をすべき旨を官報に公告し、同時に通知書も発送することです。
公告または通知でそのことを知った経営者が、2か月以内に「まだ事業を廃止していない旨」を登記所に届け出て登記をすれば、そのまま事業を続けることができ、みなし解散とはなりません。
一方、会社がその届出をしない時は、公告・通知から2か月が経った時点で、会社が解散したものとみなされる「みなし解散」の状態になります。
みなし解散が適用されると、登記官が職権で「法人解散の登記」を行います。しかし、法人解散の登記が行われても、法人が消滅するわけではありません。
そのため、みなし解散となった以後も、それから3年以内に「会社継続登記」を行えば、事業を継続することは可能です。みなし解散から3年が経過すると、もうその会社で事業を継続することはできなくなります。
ただし、「みなし解散」が登記された状態でも、それから3年経過して事業継続ができない状態になった時でも、法人格は消滅するわけではなく、存在し続けることになります。みなし解散とされた際に、事業を継続する意思がないのなら、「会社清算」をして、清算結了登記という登記をしなければなりません。清算結了登記がされない限り、法人を完全に消滅させることはできないのです。
なぜ「みなし解散」制度があるのか
みなし解散は、国によって強制的に会社が解散させられ、事業停止状態にさせられてしまうのです。なぜこんな制度が必要なのでしょうか?
それは、休眠会社には、意図があって届出もきちんとして休眠させている会社ばかりではなく、単に、放置状態にされている会社が多数あるためです。
そのような事業を行う組織という実態を失った会社を、いつまでも登記上公示されたままにしておくのは、登記の意味と信頼が失われかねません。行政上の手続きも増えることとなり、また、休眠会社を売買するなどして、犯罪に利用される可能性もあります。そこで、事業の実態がなくなっている休眠会社は名目上も綺麗に整理をしようということでこのような制度が設けられているのです。
毎年、15,000もの会社が「みなし解散」の対象になっている
日本には休眠会社が9万社弱ほど存在しているといわれています。そして、官報公告によれば、毎年1万5,000社以上の株式会社がみなし解散の対象となっています。
現在、「休眠会社・休眠一般法人の整理作業」は毎年1回行われています。
直近の令和3年度の場合は、令和3年10月14日の時点で休眠会社に該当していた場合、令和2年12月14日までに登記の申請、または、「まだ事業を廃止していない」旨の届出をしていない限り、解散したものとみなされ、登記官が職権で解散の登記をしています。
なお、「まだ事業を廃止していない」旨の届出をした場合であっても、役員変更等の登記の申請を行わない限り、翌年も「休眠会社・休眠一般法人の整理作業」の対象となってしまうので、必要な登記を忘れないようにしましょう。
会社休眠は、あくまでも、会社の事業活動を一時的に停止させることですが、それが長期にわたり、会社法上の休眠会社に該当してしまうと、みなし解散の対象となる場合があります。もし、休眠をさせていても、いつかは事業を再開させたい場合は、みなし解散とならないように注意しておきましょう。
会社を休眠させる理由は?
事業を停止したい場合に、廃業ではなく休眠を選ぶ理由は様々ですが、よくあるのは、以下のようなケースです。
①経営者が病気や事故によるケガなどでしばらくの間働けなくなり、快復したあとに再開したい。それまで休眠させておく。
②経営者の高齢化により事業を行うことが難しくなった。会社自体は子どもに継がせたいが、子どもが継げるようになるまで数年間かかるため、その間、休眠させておく。
このような場合、会社を休眠させている間は、利益も生じないので、法人税がかかりません。また、従業員については退職してもらえば、給与を支払う必要もありません。
③複数の会社を経営していて、ある会社に力を入れるために、他の会社を休眠させる。
④事業環境が悪化しているので、良化するまで休眠させる。
たとえば、不動産会社と飲食会社を別々に経営しているような経営者が、コロナ感染症の流行が拡大した時、それが沈静化するまでしばらく飲食会社のほうは休眠させる、といった場合があります。
他にも、事業は行わないが、会社と経営者のとの間に、債権債務関係があるため、会社を解散できないとか、本当は廃業をしたいが、廃業にかかる費用が捻出できないため、とりあえず休眠させておくといったケースもあります。
会社休眠中もしなければならないこと
①税務申告が必要
会社休眠中も、税務申告は必要となります。所得がなければ法人税は課税されないため、申告をしない場合でも課税自体には影響がありません。しかし、2年連続して期限内申告を行わなかった場合には、青色申告の承認が取り消されてしまいます。また、休眠中に無申告の年度があった場合には、欠損金の繰越しの適用が受けられなくなってしまいます。なお、事業年度の途中から休眠する場合には、営業最終日までの税務申告も忘れずに行いましょう。
②役員変更登記が必要
会社休眠中も、役員変更登記が必要となります。取締役などの役員には任期がありますので、任期満了時には役員の改選をし、役員変更登記をしなければなりません。同じ人が引き続き役員になる場合でも、重任登記が必要になります。多くの会社では取締役の任期は2年になっているため、2年に1回は役員変更登記が必要になるということが多いです。
会社法上では、変更登記を怠った場合、代表者が100万円以下の過料に処せられるとされています。会社休眠中も役員変更登記は必ず行いましょう。
従って会社休眠中も、税務申告や役員変更登記が必要になります。将来的に事業を行う予定がないのであれば、休眠ではなく廃業を選んだ方が、余計な費用や手間の発生を抑えられる可能性があります。会社休眠については、専門家に相談したうえで決めるのがおすすめです。
会社休眠のメリット
届出をして正規に会社を休眠させることには、いくつかのメリットがあります。
将来、同じ会社で事業活動を再開できる
会社休眠の場合は、簡単な手続きを行えば事業を再開したい時にすぐに事業を再開することが可能です。一方、廃業してしまうと、会社での事業を再開するためには、会社設立からやり直さなければならず、手間も設立費用もかかります。
事業再開の意思があるのであれば、廃業ではなく会社休眠を選ぶのが妥当です。
事業活動の再開時に許認可を取り直す必要がない
許認可が必要な事業の場合、事業を再開する際に、原則として再び許認可を取得する必要がないこともメリットです。許認可の新規取得のハードルが高い業種では、特に大きなメリットとなるでしょう。
解散・清算にかかる費用が不要
会社を正式に廃業して消滅させるには、意外とお金と手間がかかります。まず、「解散登記」と「清算人選任登記」が必要であり、そのあと、残余財産を調べて「解散確定申告」及び「清算確定申告」を行ない、それらがすべて済んだら「清算結了登記」をする必要があります。また、官報へ公告をする必要もあります。
それらの費用は下記の通りです。
・解散登記:30,000円
・清算人選任登記:9,000円
・清算結了登記:2,000円
・官報公告料:32,000円
・司法書士、税理士などの報酬:10万円程度~
さらに、店舗の什器、工場の機械設備、商品在庫などがあればその廃棄費用などもかかります。状況によりますが、数十万円から数百万円になることもあるでしょう。
休眠であれば、こういった費用はとりあえず不要です。
社会保険、厚生年金を国民健康保険、国民年金に切り替えて、保険料を抑制できる
従業員を雇用している場合はもちろん、たとえ社長1人の会社であっても、社会保険、厚生年金には加入する義務があります。ご存じのように、社会保険、厚生年金は、会社負担分と個人負担分とをあわせると、かなり大きな負担金額になります。
会社を休眠して届出を出すと、社会保険、厚生年金から、国民健康保険、国民年金へ切り替えることができます。これにより、各保険料の支払額を抑制できる可能性があります(ただし、国民年金に切り替えた場合、一般的には将来受け取る年金受給額も減少します)。
法人税・消費税がかからなくなる
法人税は、法人が事業で得た所得に対して課せられる税です。また、消費税は、原則として売上により受け取った消費税と、仕入により支払った消費税の差額を納付する税です。事業活動を停止して売上、所得がなくなれば、当然これらの税を納付する必要もありません。
ただし、法人住民税(地方税)均等割は、休眠状態の会社にも発生する場合があります。これについてはデメリットの項目で述べます。
会社休眠のデメリット
会社を休眠させると、以下のようなデメリットもあります。メリットと同時にデメリットも把握しておきましょう。
休眠状態でも、会社法に定められた登記は必要
休眠状態の会社でも、事業を行っている会社と同様に、登記などの手続きが求められる場合があります。
たとえば、役員の任期が満了した場合には、役員の変更登記が必要です。たとえ同じ人が引き続き役員になる場合でも、重任登記が必要になります。多くの会社では取締役の任期は2年になっています。もし登記を怠った場合には、代表者が100万円以下の過料に処せられる可能性があります。
廃業をしてしまえば、当然ながらこういった手続きは一切必要なくなります。
休眠状態でも、税務申告は必要
休眠状態で売上がなく、法人税が課税されない場合でも、毎年の税務申告は行わなくてはなりません。それにともなう決算書の作成も必要です。
この手間も、廃業すれば不要になるので、休眠のデメリットだといえます。
固定資産税がかかる場合がある
会社が、事務所、店舗や工場などの不動産を所有しており、将来の事業再開時に必要であるため、売却もできないという場合は注意が必要です。
会社が不動産などの固定資産を保有している場合、休眠状態でも固定資産税は毎年納付しなければなりません。
会社休眠状態でも届出をしないと法人住民税の均等割が課される
法人に課せられる税には、法人税とは別に「法人住民税」(道府県民税と市町村民税)があります。
法人住民税は、地域社会の費用について、その構成員である法人にも、個人と同様幅広く負担が求められているものです。法人税と異なり、法人住民税には「均等割」というものが存在します。これは、所得金額に関係なく、資本金等の額、従業者数などの外形的な基準に応じて定額が課される税です。
地方自治体への届出をせず、単に休眠状態としているだけの場合は、所得がゼロでも、法人住民税の均等割は課税されます。一方、届出を正式に提出し、事業活動を行っていないことを自治体に対して伝えれば、原則として均等割は課税されないはずです。たとえば、東京都の場合なら、「均等割免除申請書」という届出書が用意されているので、これを提出すればいいのです。
会社休眠の手続き・費用
正規の手続きによって会社を休眠させるには、以下の関係各機関への届出を行わなければなりません。
なお、これらの届出、手続きに費用はかかりません。ただし、手続きの代行を士業などの専門家に依頼する場合は、その報酬が発生します。
届出先 | 届出書類 | 内容・備考 |
都道府県・市区町村 | 異動届出書(自治体によっては休業届出書など) | 都道府県と市町村の両方に届け出ます。届け出ないと、法人住民税の均等割が課せられ続けます。 |
税務署 | 異動届出書 | 税務署に、休業したことを知らせる書類です。 |
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書 | 給与の支払いをやめることの届け出です。 | |
年金事務所 | 健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届 | 会社が社会保険の適用から外れるための届出です。 |
健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届 | 勤めている人(社長含む)が社会保険の資格を失う届出です。 | |
ハローワーク | 雇用保険適用事業所廃止届 | 会社が雇用保険の適用から外れるための届出です。 |
雇用保険被保険者資格喪失届 | 雇用している人(社長除く)が雇用保険の資格を失う届出です。 | |
労働基準監督署 | 労働保険確定保険料申告書 | 労働保険料を確定させて申告するための書類です。 |
まとめ
会社を休眠しても、維持の手間やコストが完全になくなるわけではありません。あくまで、会社休眠はあくまで、事業再開を念頭に入れた一時的な対応です。そのため、自分が将来事業を再開させることが、本当に可能かどうかしっかりと考えることが必要です。
その結果、廃業をしたほうがよいケースもあるでしょう。また、場合によってはM&Aでの会社売却を検討したほうがいいかもしれません。
いずれにせよ、なんの手続きもせずに「放置状態」にしておくことはおすすめできません。休眠をするにしろ、廃業をするにしろ、しかるべき準備をして、正しい手続きで進めるようにしましょう。