事業承継補助金を申請できる企業の条件
事業承継補助金を申請するためには、自社の事業が条件に当てはまっていなければなりません。事業規模や事業承継の時期、事業承継後に予定している事業内容など、複数の項目をクリアしている必要があります。まずは、申請ができる状態であるかどうかをチェックしましょう。
以下では、事業承継補助金を申請できる企業の条件についてご説明します。
事業規模
所定の要件を満たしたうえで、事業承継の要件も満たしている中小企業、個人事業主、特定非営利活動法人が対象です。具体的な事業規模の例は以下です。
・中小企業事業者
中小企業基本法第2条に準じている企業が対象です。
・サービス業:資本金5,000万円以下、常勤従業員数100人以下
・製造業その他:資本金3億円以下、常勤従業員数300人以下
・小規模事業者
従業員数の定義を満たす小規模事業が対象です。
・製造その他:従業員数20人以下
・商業・サービス業:従業員数5人以下
事業承継の時期
2016年4月1日~2019年12月31日までの間が、事業承継補助金の対象となる期間です。そのため、補助金の申請をした企業は、2019年12月31日までの間に事業承継を実施する必要があります。
事業承継が完了したら、その日から30日以内または2020年1月30日のどちらかで早い日付までに、実績報告を行います。補助金はその後、手続きを行うと交付されます。交付後5年間は、事業化状況報告を行わなければいけません。
地域への貢献度
補助金交付の要件として、地域に貢献しているかどうかも大切です。具体的には企業がある地域や近隣から商品を仕入れていたり、地域の人材を雇用していたり、地域のインフラを活用した事業を実施していたりすることなどがあげられます。このほかにも、事業を行うことでその地域に経済効果をもたらす内容になっていれば対象となります。
事業の内容が地域貢献と関係のないものであった場合、要件に当てはまる可能性は低くなります。
承継後に新たな取り組みをすることが決まっている
事業承継後の取り組みの内容も、補助金交付の審査対象です。たとえば、新商品の生産や開発、新たな販売方式の導入、新たな仕事の提供などです。そのほかに販路の拡大や生産性の向上、従来の事業とは異なる新たな分野への進出なども含まれます。
事業承継補助金は事業承継を行うだけでなく、承継後に新しい取り組みを行う企業が対象です。そのため、事業承継を行って引き続き同じ事業のみを行う場合には、補助金を受けることはできません。
認定支援機関による支援がある
全国にあるいずれかの認定支援機関から支援が受けられる企業であることが、事業承継補助金を受けるための要件のひとつです。認定支援機関は、中小企業や小規模事業者を対象とした公的支援機関で、事業者は認定支援機関に経営相談ができます。認定支援機関は、弁護士、公認会計士、税理士や商工会議所などです。
認定支援機関からの支援を受けられていない場合、事業をしていて事業承継を行う予定があっても、事業承継補助金交付の要件には当てはまりません。
採択率をアップさせるポイント
事業承継補助金の採択率は上がっているものの、条件に当てはまっていても必ずしも補助金を受けられるわけではありません。補助金を受けられる可能性を上げるためには、申請内容をわかりやすいものにしたり、加点要素がある場合には伝えたりするなどの工夫が必要です。
以下では、採択率をアップさせるためのポイントについてご紹介します。
申請目的を明確にする
補助金を受けるためには、申請する目的が明確でなければいけません。「なぜ補助金が必要なのか」「補助金をどのようなことに活かしたいのか」が伝わらなければ、審査に通ることは難しくなります。
新たな取り組みを行うことが事業承継補助金交付の要件のひとつですから、オリジナリティがあり、かつ地域経済の活性化につながるビジネスである必要があります。事業承継後のイメージをはっきりさせ、説得力のある内容を考えることが大切です。
読みやすい申請書を作る
申請書の内容は、補助金の交付の可否を決める大きな要素です。申請書だけで決まるわけではないものの、「どんな取り組みをするのかよくわからない」と思われてしまうと、補助金を受けられる可能性が低くなります。採択率を上げるためには、読みやすくわかりやすい申請書を作成しなければいけません。
新たな事業のコンセプトやプロセス、マーケティングの結果、事業がうまくいかなかった時の対応策など、他者が読んでも伝わる内容を心掛けましょう。
加点要素をしっかりアピールする
事業承継補助金の審査には加点要素があり、加点要素があると補助金を受けられる可能性は高くなります。採択率をアップさせるために、加点要素がある場合はアピールしましょう。
加点要素の例としては、「中小企業の会計に関する基本要領、または指針の適用を受けている」「申請時に経営力向上計画の認定を受けている」「地域への貢献性が高い」などがあります。加点要素があるかしっかりと確認し、該当する場合はその旨を伝えましょう。
採択率は年度や募集時期によって変動する
事業承継補助金の募集は、平成29年度からスタートしました。初年度の補助金額は11億円で、採択率は13%と非常に低く、補助金を交付された企業は応募数の約1割程度でした。
一方で、2年目となる平成30年度の事業承継補助金の額は合計50億円、1次応募の採択率は78%、2次応募では82%と、初年度と比べて大幅に上がりました。平成31年度の事業承継補助金の実施はまだ確定していないものの、実施される場合は、引き続き採択率が高くなることも考えられます。
事業承継補助金を申請できる事業承継のタイプと補助金の額
事業承継補助金の対象となる事業承継は、2種類に分けられます。後継者の承継を支援するものと、事業の再編や経営統合を支援するものです。いずれも事業承継を行うことで新たな取り組みを行う企業が対象という点では共通していますが、受けられる補助金の額が異なります。
以下では、事業承継のタイプと補助金の金額について解説します。
【Ⅰ型】後継者承継支援型の事業承継
後継者承継支援型の事業承継とは、事業承継をきっかけに、ビジネスモデルの変換や新たな設備の導入などを実施する企業を支援することです。後継者承継支援型事業承継の補助金額は、最大200万円です。不採算事業などの廃業を行う際には、廃業費用として最大300万円が上乗せされます。
たとえば、小売店がこれまで取り扱っていなかったジャンルの商品の仕入れ・販売を開始したり、工場が新たな製品を作るために機材を購入したりするなどが該当します。ただし、後継者側は一定の経験や知識を持っている必要があり、承継に関する研修を受けていることが要件になります。
【Ⅱ型】事業再編・事業統合支援型の事業承継
事業再編・事業統合支援型の事業承継とは、ふたつの企業が事業再編・事業統合をすることを支援することです。事業再編・事業統合支援型の事業承継の補助金額は、最大600万円です。
教育事業を実施していたT社の社長が、親族の体調不良のため経営に専念できず別の方に運営を任せていました。しかし、安定した経営のためにT社を第三者に引き継ぐM&Aを決心しました。投資事業を行っていたX社がT社の事業や理念に共感し、X社がT社の管理をサポートすることになりました。
M&Aの結果、T社の創業者は利潤を得ることができ、X社は事業拡大を検討できるまでの状況になりました。
フローチャートを使って確認する
事業承継をしたことがない場合、「自分がI型とⅡ型のどちらのタイプに当てはまるのかわからない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
法人か個人事業主か、現在経営を行っているか、株式譲渡と事業譲渡のどちらの方法で承継するのかなどによって、適切なタイプは変わります。また、場合によっては補助金交付の対象外という可能性もあります。
中小企業庁のサイトにあるフローチャートから、自分の事業がどちらに当てはまるかチェックしてみてください。
(参考:『申請類型早わかりフローチャート』)
補助金の額は取り組み内容と補助率によって決まる
事業承継補助金の額は、その内容と補助率によって金額が決まります。
先代から事業承継を受け、新たな商品の生産のために補助金を利用して機材を購入し、販路を開拓するケースなどが該当します。
小規模事業者では補助率が3分の2以内で上限額200万円、小規模事業者以外では2分の1以内で上限額150万円の補助金を受けられます。ただし、事業所や事業の廃止などを実施した場合には、小規模事業者では3分の2以内で上限額300万円、小規模事業者以外では2分の1以内で上限額225万円が上乗せされます。
製造業を行う会社同士が経営統合し、製品の設計・製造・販売を総合して行える体制を作るために、補助金を利用して製造方法を変えるケースなどが該当します。
審査結果上位では補助率が3分の2以内で上限額600万円、審査結果上位以外では2分の1以内で上限額450万円の補助金を受けられます。ただし、事業所や事業の廃止などを実施した場合には、審査結果上位では3分の2以内で上限額600万円、審査結果上位以外では2分の1以内で上限額450万円が上乗せされます。
補助を受けた取り組みで利益が出たら収益の一部を返金する
補助金の交付を受けた企業は、その後の5年間、新事業の状況報告を行う必要があります。また、5年間の間に、補助金を利用して新たに開始した事業で利益が出た場合、その一部を返金しなければいけません。
「返金しなければいけない」と聞くと損をするように感じますが、5年以内に利益が出た場合のみ返金するため、利益が出なかったり赤字だったりする場合には対象外になります。また、返金額の上限は補助金の金額となるため、余分な金銭的負担が発生することはありません。
事業承継補助金の意義と補助金受け取りまでのフロー
事業承継補助金は、事業承継を実施することにより新たな価値を生み出すことを支援するものです。希望者は期限内に手続きを行う必要があるほか、交付後も状況報告をしたり、利益が出た場合は補助金を一部返金したりする必要があります。
以下では、事業承継補助金の意義と補助金を受け取れるまでの流れを解説します。
事業承継補助金は何のためにあるのか
事業承継補助金は、中小企業や小規模事業の事業承継を支援するためのものです。以前は、第二創業促進補助金という名称でした。
資金が潤沢にある大企業と比べると、規模の小さな会社が事業承継をする場合、費用が負担になってしまうことが少なくありません。その費用を一部負担することで事業承継をしやすくし、結果として経営者の交代や新規事業の開始につなげています。
中小企業や小規模事業が事業承継を行うことで、日本経済の活性化や後継者不足問題の解決などにつながることを目的としています。補助金の交付を受けることで経費を削減できるほか、廃業を防げることにもなります。
補助金受け取りフロー ①申請書類をそろえる
事業承継補助金の申請には、以下の書類の準備、提出が必要です。
・【Ⅰ型】後継者承継支援型
・補足説明資料
・住民票
・認定経営革新等支援機関の確認書
・承継者の書類
・承継に関する書類
・加点要素がある場合には、それを証明する書類
なお、承継者の書類は履歴事項全部証明書または閉鎖事項全部証明書、経歴書・在籍証明書、研修を受けたことを証明する証明書のいずれかです。
・【Ⅱ型】事業再編・事業統合支援型
・補足説明資料
・住民票
・認定経営革新等支援機関の確認書
・承継者の書類
・承継に関する書類
・加点要素がある場合には、それを証明する書類
なお、承継者の書類は承継年度の青色確定申告書一式か、議決権の過半数を取得していた法人の株主名簿を提出します。
補助金受け取りフロー ②申請手続き
インターネット上で、電子システムを使用して申請手続きを行います。仮登録後にログインし、交付申請に必要なプロフィールや事業内容、書類の添付などを行います。ページの申請ボタンを押し、事務局に送付して完了です。
申請手続きの際には、承継者・被承継者の概要や事業内容、資金計画や事業スケジュール、補助対象経費明細表などの入力が必要です。必要な情報や書類が揃わないと申請手続きができないため、事前の確認と準備が必要です。
補助金受け取りフロー ③採択結果の通知
申請手続き後は、事業承継補助金事務局に送付された情報や資料をもとに審査が実施されます。採択結果はマイページに通知されるほか、中小企業庁または事業承継補助金事務局のサイトからも閲覧が可能です。
補助金受け取りフロー ④新規取り組みの実施
新規事業の取り組みを始めます。補助金を受けて行う事業は、補助金の交付が決まってから始める必要があります。
交付が決まる前にかかった経費は、補助金の対象外となります。また、定められた補助事業期間内に行わなければいけません。
補助金受け取りフロー ⑤新規取り組みの報告と補助金受け取り
補助金交付決定後に事業承継を実施した事業者は、30日以内に実績報告書を提出します。その後、事業承継補助金事務局が内容を確認して補助金が決まり、約2~3ヶ月後に交付されます。
補助金の交付が決まっても、実際に受け取れるのは数か月後です。そのため、事前に運転資金を用意しておくか、場合によっては金融機関につなぎ融資を相談するなどの対策を取りましょう。
収益状況を5年間は報告する義務あり
補助金交付後の5年間は、事業の状況を報告することが定められています。また、利益が出た場合は補助金の一部を返金します。
事業がどうなったのか、利益はどの程度出たのかについて、継続的に報告する義務があります。
事業承継補助金は国や地方自治体で適宜実施されている
事業承継補助金は、国や地方自治体などでも行われています。自分が事業を行っている市のサイトなどに掲載されていることがあるため、確認してみることが大切です。
募集期間が数ヶ月程度と短く応募に間に合わなかったり、補助金の募集があるという情報自体が出回りにくかったりするため、定期的にインターネットで検索するか、市役所に問い合わせをして募集を見逃さないようにしましょう。
事業承継を成功させるためにやっておくべきこと
事業承継は、双方の会社にメリットをもたらす有意義なものである必要があります。満足のいく事業承継を行うためには、事前の準備が大切です。自社の課題を明確にしたり、市場価値を分析したり、詳細な事業承継計画を練ったりするなどの対策を行いましょう。
以下では、事業承継を成功させるためにやっておくべきことについてご説明します。
会社業務の棚卸や問題を明確にすること
事業承継を行う際には、現在の会社の業務を棚卸したり、問題点を洗い出したりしておくことが大切です。そうすることで事業承継の目的を再確認できたり、事業承継を実施することで得られるメリットが明確になったりします。
あいまいにしたまま事業承継を行うと、失敗したり思い描いていた結果が得られなくなったりすることにもつながります。時間をかけて今の事業と向き合い、納得のいく事業承継ができるよう準備を進めましょう。
自社の価値を知っておくこと
自社が市場でどの程度の価値があるのか、財務諸表の分析や財務調査などを行って知っておきましょう。正しい価値を知っておけば、市場価値よりも高く見積もりすぎたり、自社の魅力を正しく理解できずに価値を低く見積もったりすることも無くなります。
各種分析や調査を社内で自分達だけで行うことは難しいため、税理士や公認会計士などに依頼するとよいでしょう。
事業承継方法を決定し事業承継計画を作成すること
今の事業を事業承継したい場合、経営者を交代するか、事業を統合・再編するかのいずれかを選びます。事業承継方法が決まったら、事業承継計画を作成する必要があります。
事業承継計画を作成するうえでは、以下のことを整理します。
・事業の中長期目標
・事業承継を行ううえで必要な対策
社内への周知や財産の分配、売上高や利益の目標など、事業承継において必要な要素について考え、計画を立てることが大切です。
ときには専門家の手を借りることも重要
事業承継は自社だけで行うこともできますが、自社の業務を行いながら、事業承継の準備をするのは大変です。専門家に相談したり手伝ってもらったりすることで、事業承継をスムーズに進めることができます。
株式会社M&A DXでは、事業承継支援業務を実施しております。オーナー企業の相続税対策、製造業同士の事業譲渡や学習塾運営事業の株式譲渡、医療法人の持分譲渡など、幅広い分野の事業承継の実績があります。ぜひ、株式会社M&A DXにご相談ください。
今後も予測される短期間での事業承継補助金の募集
平成30年度の事業承継補助金は、2次募集が終了しているため現在は応募ができない状況です。しかし、中小企業庁は平成29年に、事業承継の5か年計画を策定しています。中小企業や小規模事業者が事業承継をしやすくするために、環境を整備したり、後継者マッチング支援を行ったりしています。
そのため、平成30年度の事業承継補助金の3次募集や、次年度の募集なども予測されます。今後事業承継を検討している経営者の方は、動向に注意しましょう。
まとめ
事業承継補助金には、事業承継が行いやすくなったり、事業承継後に新事業を開始できたりするというメリットがあります。採択率も上がっているため、今後新たな募集があった際には、応募を検討してみてもよいでしょう。
後継者選定のため、また、今後も予測される補助金へのスムーズな申請のためには、事業承継を専門とするパートナーと共に準備をしていくことが大切です。事業承継をお考えの方は、ぜひ株式会社M&A DXにご相談ください。