SPA(株式譲渡契約書)のポイントとは?記載事項、注意点、条文例を解説

弁護士 善利友一

弁護士登録後、大手法律事務所に入所。企業法務、一般民事、刑事事件等の幅広い分野の案件に携わる。パートナー弁護士に就任後、企業法務、不動産法務、相続法務に注力し、顧問業務、法務デューディリジェンス業務に携わるとともに、多くの企業訴訟、不動産訴訟、相続紛争を解決に導く。クライアントによりマッチした法的サービスを提供すべく、善利法律事務所を開所し、代表弁護士に就任。2017年からは、上場企業及び上場を目指す企業の社外監査役に就任し、弁護士としての経験を活かし、コーポレート・ガバナンスの一翼を担う。 2019年、株式会社M&A DXの社外監査役に就任。2022年、弁護士法人Zenos代表弁護士に就任、現在に至る。

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M&Aにおいて譲渡企業と譲受企業が大筋で合意しても、M&Aを完了するまでには複雑な手続や様々な条件があるため、株式譲渡の場合にはさまざまなルールや条件などを定めたSPAの締結が必要です。本稿では、SPAを締結する目的、記載事項、注意点などについて条文例を紹介しながら分かりやすく解説します。

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SPAとは

SPAとは

SPAとは「Stock Purchase Agreement」の略称で、日本語では「株式譲渡契約書」と呼ばれます。M&Aの諸条件について譲渡企業と譲受企業が合意に至ると最終契約書を締結しますが、株式譲渡においては「株式譲渡契約書」が最終契約書です。M&Aの種類によって最終契約書の形態も異なり、事業譲渡の場合には「事業譲渡契約書」、吸収合併の場合には「吸収合併契約書」です。

関連記事:「株式譲渡契約書取り交わしの流れと契約書の作成方法【雛形・テンプレート付き】

SPAを締結する目的

譲渡企業と譲受企業が、たとえ口頭であっても株式の譲渡について合意すれば株式譲渡契約は成立します。また、対象会社が株券発行会社であれば、譲受企業が支払う金銭と譲渡企業が保有する対象会社の株券を交換すれば株式譲渡自体は完了です。しかし、契約書がなければ株式譲渡に関するさまざまな取決めを記憶に頼ることになり、トラブルになったときに両者の合意内容を客観的に確認することが困難です。

このように、株式譲渡における譲渡企業と譲受企業の権利・義務・免責事項、株式譲渡の前後における各種義務などについて明文化し、M&Aを円滑に進めるためにSPAを締結します。

SPAの記載事項

SPAに記載する項目はM&Aのケースによって多少異なりますが、基本的な項目は共通しますので、その中から押さえておきたい11の項目を紹介します。

⒈ 基本合意事項

基本合意事項とは、SPAに不可欠な、譲渡企業、譲受企業、株式の発行会社、株式の種類、株式数、譲渡価格、譲渡日などの基本事項を記載します。特に決まった形式はありませんが、支払方法・譲渡手続・契約当事者の権利義務・表明及び保証・免責事項・損害賠償などに関しては、それぞれ分けて記載するのが一般的です。

⒋ 株式譲渡に要する手続

株式会社には、株券発行会社と株券不発行会社が存在し、それぞれ株式譲渡の手続が異なるので注意が必要です。

株券発行会社の場合

中小企業の多くは、発行する株式を譲渡する場合に発行会社の承認を必要とする「譲渡制限株式」であるため、株式の発行会社が中小企業の場合には譲渡制限がついているかどうか確認し、譲渡制限がある場合には株式譲渡について発行会社の承認を得る旨を規定します。

また、2006年5月1日に施行された会社法によって、株式会社は株券を発行しないことが原則となりましたが、施行前に設立した非上場企業は、定款で「株券を発行しない旨の定め」がなければ株券を発行する旨の定款の定めがあるものとみなされるため、株式譲渡には、当事者の合意だけではなく、株券の交付も必要となります。

株券不発行会社の場合

2006年5月1日に施行された会社法によって、株式会社は株券を発行しないことが原則となりました

対象会社が株券不発行会社である場合には、株式の譲渡は当事者の合意により成立し、株主名簿の名義書換えが会社その他の第三者に対する対抗要件となります。

⒌ クロージングの前提条件

クロージングは、M&Aに必要な取引を実行し経営権の移転を完了させることで、株式譲渡の場合には、譲渡企業からの株式の譲渡と譲受企業からの対価の支払いによって完了します。しかし、クロージングを履行する前に対象企業に何らかの変化が生じたり、クロージング後の事業に悪影響を与える事態が生じたりする懸念があるので、クロージングを完了するための前提条件をSPAで明確に規定しなければなりません。

クロージングの前提条件の代表的なものには、SPAの締結日からクロージング日(支払日)までの間に、対象会社の事業や財務状態に悪影響を及ぼす重大な変化が生じていないことを条件とする「MAC条項」や、対象会社の事業継続に必要な従業員や役員などがクロージング後も従事することを条件とする「キーマン条項」などがあります。

⒍ クロージング前後の双方の義務

クロージング前後の譲渡企業及び譲受企業の義務には、前述の「株式譲渡に要する手続」で解説したように株式に譲渡制限が付いている場合には、クロージング前に、譲渡企業から対象会社に対し譲渡承認請求を行い、株式譲渡の承認を得なければなりません。同様に、クロージング後は、譲渡企業と譲受企業は共同で株式の対象会社に対し名義書換請求を行い株主名簿の書換えを行いますが、譲受企業が対象会社に株券を提示し単独で名義書換請求を行うことも可能です。対象会社が上場会社の場合には、譲渡企業が口座を開設している証券保管機構及び証券会社等に対し振替手続を行わなければなりません。

⒎ 表明保証

SPAにおける表明保証とは、契約当事者の一方が相手方に対して、自社が正当な契約締結能力を有していること、株式譲渡に関する手続や開示した内容が真実かつ正確であることなどを表明し保証するもので、具体的には次のような項目があります。

契約締結に必要な法令や社内規定などの手続、及び各種届出を履行していること
反社会的勢力に該当せず、反社会的勢力との関係がないこと
譲渡企業が、対象会社の株式の正当な所有者であること
対象会社の株式には、抵当権、質権、譲渡担保権などが設定されていないこと
対象会社の財務諸表や各種計算書類が、公正な企業会計原則に従い作成され、内容が適正であること、及び開示した債務以外に「簿外債務」「偶発債務」などが存在しないこと
対象会社においては、法令違反や第三者との係争・紛争が存在しないこと

⒏ 解除条件

SPAにおける解除条件は、契約の相手方に重大な表明保証違反や契約違反などが判明した場合に契約を解除できるようにするもので、M&Aにおけるリスクを最小限にとどめるためには不可欠な条項です。解除可能期間は、SPA締結日からクロージング日までに設定するのが一般的で、天災事変などの不可抗力を除き、相手方の事由により契約を解除する場合の損害賠償責任についても規定します。

⒐ 損害賠償

損害賠償条項は、契約の相手方に起因して損害を被った場合に賠償金を請求できる旨規定するものですが、SPAにおいてはクロージングの前提条件、表明保証、解除条件などで規定する相手方の契約違反や表明保証違反などに起因して損害・損失・不利益などを被った場合の損害賠償請求権を規定するものです。この場合、損害賠償の対象とはしない免責事項や請求できる賠償金の上限を規定することも可能です。

10. 競業避止義務

競業避止義務は、M&Aの譲渡企業が、対象企業が行う事業についての競業行為を行わない旨規定するものです。「事業譲渡」については、会社法21条で譲渡企業の特定地域・特定期間における同一事業の実施を禁止していますが、株式譲渡では法令の定めがないので、譲受企業が譲渡企業の競業避止義務を求める場合にはSPAの中で規定しなければなりません。ただし、譲渡企業としては、条件設定によっては譲渡企業の事業活動を制限することになるので、不要に広範囲とならないように配慮が必要です。

11. 合意管轄・準拠法

SPAでは、契約の当事者間でトラブルが発生した場合に、管轄する裁判所(専属的合意管轄裁判所)を指定することができます。例えば、東京の企業と大阪の企業が専属的合意管轄裁判所を東京地方裁判所に指定すると、大阪の企業は裁判を行うために毎回東京に行く必要があり、交通費や移動時間などが東京の企業よりも増加するため不利な条件となります。公平性を保つためには、被告の本店所在地を管轄する地方裁判所に指定するなどの方法があります。また、準拠法は、日本国内の企業同士の場合には問題になりませんが、海外の企業と契約する場合には、どの国の法律を適用するか(準拠法)も規定する必要があります。

関連記事:「株式譲渡で用意する書類を紹介!メリットや注意点を知り、譲渡契約書を作ろう

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SPAの作成における注意点

株式譲渡をトラブルがなく円滑に完了するにはSPAの作成が重要ですが、内容に誤りや漏れがあると、契約の解除や最悪の場合には損害賠償責任を負う可能性もあります。そこで、SPAの作成における5つの注意点を解説します。

SPAの締結後は変更・取消しはできない

M&AにおけるSPAは、譲渡企業と譲受企業が長い交渉期間を経て合意した内容をまとめた最終契約なので、途中で交わした変更可能な基本合意書などと異なり、締結した後は内容の変更や取消しはできません。例え、クロージングの前提条件や表明保証などに漏れや誤りがあったり、競業避止義務の範囲や期間が不十分であったとしてもSPAの締結後には内容について責任を持たなければならないので、経営者や担当者はもちろんですがM&Aの専門家なども加えてSPAの細部までチェックする必要があります。

会社法上の手続について

SPAの対象会社の株式に譲渡制限が付いている場合には、SPAを締結しても株式譲渡を円滑に実行することはできません。この場合には、SPAを締結する前に会社法で定められている以下の手続を完了する必要があります。
譲渡企業による対象会社への株式譲渡承認請求
対象会社における株式譲渡承認決議

また、SPAの締結後には、原則として譲渡企業と譲受企業が共同で発行会社に対し株主名簿の書換え請求を行い、株主名簿への記録を行う必要があるので、SPAの中でこれらの手続についても規定しなければなりません。

表明保証の範囲は慎重に設定する

表明保証に関しては、譲渡企業と譲受企業では立場が大きく異なります。譲渡企業はできるだけ表明保証の対象を絞り込むことでリスクを軽減することができ、譲受企業は対象の範囲を広げることがリスク回避につながるため、表明保証の範囲の設定は両者にとって非常に重要な作業になります。

譲渡企業が表明保証の範囲を設定する場合は、SPA締結後に表明保証違反とならないように、①ネガティブな情報であっても隠さず開示することと、②虚偽の申告を行わないことが損害賠償責任を負わないためのポイントになります。

譲受企業においては、対象企業のデューデリジェンスを徹底して行い、公表されていない重要事実を洗い出し表明保証に網羅することがポイントです。また、譲渡企業の表明保証違反に対する認識の有無に関わらず、損害賠償請求できる旨を規定する「サンドバッキング条項」を加えることもリスク回避の1つになります。

収入印紙が必要な場合がある

SPAは印紙税の対象となる課税文書に該当しないため、通常は収入印紙を貼付する必要はありませんが、譲渡企業が株式の対価を受領した旨の記載がある場合には印紙税法における第17号文書(売上代金に係る金銭または有価証券の受領書)に該当するため受領金額に応じた収入印紙を貼付しなければなりません。

役員や従業員の処遇は重要

事業譲渡においては、譲受企業が既存の従業員の継続雇用を希望する場合は当該従業員と再度雇用契約を交わす必要がありますが、株式譲渡で会社の経営権が移動しても雇用契約には影響がないので従業員を一方的に解雇することはありませんが、配属替えやそれに伴う報酬の変更などの可能性はあります。また、取締役は株主総会の普通決議で解任することができるので、株式譲渡によって50%を超える株式を取得した場合には、譲受企業の意思で解任することが可能です。

そのため、譲渡企業が役員や従業員の処遇維持を望む場合には、SPAの中で規定する必要があります。逆に、譲受企業にとっては、事業の中心的役割を担う役員や従業員が離反することは回避したいので、役員や従業員の処遇維持について一定期間保証する旨を規定ことも考えられます。

SPAの条文例

ここからは、SPAに必要な10の主要項目について標準的な条文例の紹介と、その解説を行います。

基本合意事項

※甲=譲渡企業、乙=譲受企業

第1条
甲は、甲が所有する下記の株式(以下「本件株式」という。)を乙に譲渡し、乙はこれを譲り受ける。

発行会社 〇〇〇〇株式会社(以下「対象会社」という。)
本件株式 普通株式 〇〇〇株
譲渡代金 〇〇〇〇円(1株あたり〇〇円)

本条文例では、基本事項として、①株式の発行会社、②株式の種類、③株式数、④譲渡代金について規定していますが、譲渡代金については、独立して項目を設けたり、支払方法と合わせて記載することも可能です。また、事業譲渡と異なり、株式譲渡は消費税の対象外となるので税込・税別の記載はありません。

譲渡代金の支払方法

第2条
乙は、甲に対し、第1条に規定する本件株式の譲渡代金を、クロージング日に、下記の甲の指定口座に振込む方法により支払う。なお、譲渡代金の振込費用は乙の負担とする。

金融機関 〇〇銀行
支店名  〇〇支店 
口座種類 〇〇口座
口座番号 ××××××××
名義人  〇〇〇〇〇〇〇〇

SPAの雛形には、譲渡代金の振込手数料などの記載がないものが多くありますが、本条文例ではトラブルを回避するために記載しています。

株式譲渡に要する手続

第3条
甲は、クロージング日に、乙の譲渡代金の支払いと引換えに、以下に定める書類等を交付する。
甲の印鑑証明書
本件株式に係る株券
本件株式の譲渡承認に関する対象会社の取締役会決議の議事録(写し)
クロージング日の前日における対象会社の株主名簿(写し)
対象会社の登録印、及び法務省発行の印鑑カード
乙は、クロージング日に、前項各号に定める書類の交付と引換えに、本件株式の譲渡代金を、第2条に定める銀行口座に振込送金により支払う。
乙は、甲に対し第1項に定める書類等の交付と引換えに、その受領書を交付する。

本条文例は、対象会社が株券発行会社で本件株式が譲渡制限付きのケースを前提としていますが、対象会社の役員の辞任を株式譲渡の条件とする場合には、第1項の交付書類に「対象会社の取締役及び監査役の辞任届」を加えます。

クロージングの前提条件

第4条
乙は、クロージング日において以下の各号の事由が全て充足されていることを条件として、譲渡代金の支払義務を履行する。
第6条に規定する甲の表明保証の全てが、重要な点で真実かつ正確であること
甲が本契約上の義務について、全て誠実に遵守又は履行していること
対象会社に関して、訴訟、法令違反、その他、対象会社の事業、財務、経営その他に重大な悪影響を与えるおそれのある事由等が発生し又は判明していないこと

クロージングの前提条件には上記の他に、対象企業と取引先間の契約に、経営権の移動があった場合に取引を停止するなどと定めたCOC条項がある場合には、事前に当該取引先の取引継続の同意を得ること、大企業の株式譲渡の場合には独占禁止法による届出を完了していること、及び前述の「MAC条項」や「キーマン条項」などが考えられます。

クロージング前後の双方の義務

第5条
甲は、本契約締結日からクロージング日までの間に、以下の各号に定める義務を履行しなければならない。
対象会社に対し、本件株式の譲渡承認請求を行い譲渡承認の決議を得る。
対象会社の取締役及び監査役の辞任届を受領する。
対象会社に、通常の事業運営を行わせ、資産の売却や担保設定などの通常の事業範囲を超える活動をさせない。
対象会社に、株式の発行、株式分割、合併、株式交換などの資本構成に影響を与える行為を行わせない。
対象会社に、従業員の配置転換や報酬の変更などを行わせない。
第6条に定める表明保証に対する違反行為を行わず、違反の事実が判明し、又は違反の恐れが生じた場合には、直ちにその旨を乙に通知する。
甲及び乙は、共同で、本件株式の譲渡後直ちに、対象会社に対し、本件株式の譲渡にかかる株主名簿記載事項書換請求を行う。

対象会社が上場会社の場合には、甲の義務として「株主名簿記載事項書換請求」の代わりに、甲が口座を開設している証券保管機構及び証券会社等に対し「振替手続」を行う旨を規定します。

表明保証

第6条
甲は、乙に対し、本契約締結日において、本条各号の事実を表明し保証する。
甲は、本件株式を適法かつ有効に保有し、株主名簿上も対象会社の株主であること
甲は、本契約に規定する株式譲渡に必要な、法令上の手続き及び対象会社の内部規定に従った手続を全て履行していること。
甲及び対象会社は、反社会的勢力ではなく、反社会的勢力と何ら関係がないこと。
本件株式には、抵当権、譲渡担保権、質権、その他いかなる権利や制限も設定されていないこと。
本契約書に貼付する対象会社の貸借対照表、損益計算書、その他の財務諸表は公正な企業会計原則に従い作成されたものであり、対象会社の財務状況を適正に表示していること。
対象会社において、取引先への重大な債務不履行がなく、かつ、取引先による重大な債務不履行がないこと。
対象会社が、訴訟、調停、仲裁、仮処分など、第三者との係争や紛争の当事者となっていないこと。
対象会社は、従業員に対する給与、退職金などの未払金がないこと。
対象会社は、事業の運営において法令を遵守し、必要な許認可を有していること

本条文例では、甲の表明保証のみを記載していますが、乙の契約締結能力、譲渡代金の支払能力、反社に関することなどを別途設けることも可能です。

解除条件

第7条
甲又は乙が本契約に違反した場合、相手方は書面による催告後〇〇日以内に当該違反が是正されないとき、又は、クロージング日までに是正されないときは、本契約を解除し、その損害賠償を請求することができる。
第6条の表明保証の内容が事実と相違することが判明した場合、乙は直ちに本契約を解除し、その損害賠償を甲に請求することができる。

本条文例は、第6条の表明保証が甲のみの場合を前提としているので、乙の表明保証も規定する場合には、第2項の解除権及び損害賠償請求権は双方に帰属することになります。また、「解除」と「損害賠償請求」は同じ条項で扱うこともありますが、それぞれ細かく規定する場合には独立させることも可能です。

損害賠償

第8条
第7条に基づく違反者への損害賠償請求は〇〇〇〇円を限度とする。
前項の定めにかかわらず、本契約第7条第2項で規定する甲の表明保証違反により乙に生じた損害については、甲に故意又は重過失があり、違反内容が重大である場合には、乙は甲に対し前項の限度額を超えて損害賠償を請求することができる。

損害賠償の請求額を無制限にすると双方にとってリスクが大きいので、株式譲渡価格を上限とするなど、一定の限度を設けることも可能です。また、表明保証は譲受企業にとっては非常に重要な項目となるので、第2項で損害賠償請求額の上限を排除しています。

競業避止義務

第9条
甲は、クロージング日から〇〇年間、対象会社の事業と同一、若しくは競合する事業を直接又は間接に行わないものとする。
前項の定めに関わらず、乙の書面による承諾を得た場合にはこの限りではない。

競業避止義務の適用範囲は、上記のように期間や事業内容について設定することもできますが、さらに地域を加えることも可能です。

合意管轄

第10条
甲及び乙は、本契約に関する一切の紛争(調停手続を含む)は、被告の本社所在地を管轄する地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とすることに合意する。

海外企業とのSPAを交わす場合には合意管轄だけではなく、準拠法についても規定する必要があります。契約当事者はお互いに、自国の裁判所、自国の法律、自国の言語で裁判する方が有利であり費用も少なくて済みますが、仮に日本で勝訴しても相手企業が所在する国では当該判決に基づく強制執行が難しいという問題も存在するため、争いが生じた場合には被告が所在する国の裁判所・法律を指定する、あるいは国際仲裁裁判を指定することもあります。

実際の契約書には上記項目以外に「秘密保持義務」「権利義務の譲渡禁止」「完全合意」「誠実協議」などの一般条項が加わります。

まとめ

M&Aにおける株式譲渡は、譲渡企業・譲受企業の双方にとって非常に重要な経営判断なので、実施に際してはSPAの締結は不可欠となります。特に、「クロージングの前提条件」「表明保証」「解除条件」は、リスク回避と株式譲渡の円滑な実行に対して非常に重要な項目となります。

一旦SPAを締結するとその後は変更・修正ができないので、SPAを作成する際には専門知識や経験が豊富な専門家のアドバイスやサポートを受けることをおすすめします。

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