廃業の定義とは?
廃業とはさまざまな理由で事業をやめることを指し、会社でも個人事業主でも使われる言葉です。廃業というとマイナスのイメージを持つ人が多いですが、業績が良くても何らかの理由で廃業を選ぶ場合もあり、背景にある事情は会社によってさまざまです。資金面以外の理由で廃業する場合を指して「自主廃業」という言葉も使われます。
廃業という言葉には広い意味で倒産や破産という状況も含まれますので、この記事では自主廃業に限らず倒産や破産のパターンも含めて説明していきます。単純に「事業をやめる」といっても、その方法はさまざまです。ぜひ最後まで目を通して、廃業の基礎知識を身につけてください。
廃業とは?休業や倒産との違い
廃業と似た言葉に「休業」「閉店」「倒産」「破産」「解散」「清算」というものがあります。意味の違いがあいまいな人も多いと思いますので、廃業について詳しく見ていく前に、改めてそれぞれの内容を確認しておきましょう。
これらの言葉はしばしば廃業と混同されがちですが、実際は廃業とは違うニュアンスや事実を含んでいます。廃業を考えている人でも、実は廃業ではなく休業や閉店で対応できる場合もあるということはぜひ知っておいてください。
休業と廃業の違い
休業とは、事業を完全にやめるのではなく一時休止することをいいます。法人登記を残したまま事業をやめることに特徴があります。しばらく事情があって事業をできなくなりそうな時には、会社を解散したり廃業届を出したりしなくても休業の手続きを行うことで対応可能です。休業中は一切の所得が発生しないので、法人税や事業税などの納税負担も小さくなります。
休業期間中に事業活動をまったく行わない場合は、税務署や自治体に「異動届出書」と呼ばれる書類を提出することになります。
倒産と廃業の違い
倒産とは、会社が資金繰りに窮して債務の支払いができなかったり、経済活動が難しくなってしまったりした状況を指して使われる言葉です。倒産は正式な法律用語ではありませんが、金銭的理由で事業活動を継続することが出来ない状態を表現するのに一般的に使われています。
債務の支払いが滞ったままで事業活動を停止するため、取引先にも大きな影響が発生します。倒産に至るほどの資金繰り悪化は何としても避けたい事態です。
破産と廃業の違い
破産とは、資金繰りに窮して実質的に倒産状態にある会社が資産や負債を整理している状況をいいます。具体的な手続きは「破産法」という法律に準じて進められ、破産という言葉も一般的に用いられています。
会社が破産しても代表者まで破産するわけではありません。ただし会社の借入金や各種債務の保証人になっている場合、代表者はたとえ個人であっても返済の義務があることに注意してください。
閉店と廃業の違い
閉店とは、複数ある店舗のうち一部の運営をやめることを指す言葉です。店舗を持たないビジネスでは用いられることがない言葉です。
店舗型ビジネスで店舗が1つだけの場合は閉店がそのまま廃業につながりますが、複数店舗を運営していたり他分野の事業も行っていたりする場合は、単にその店舗の運営をやめることを指します。この点経営戦略として一部店舗を閉店し経営リソースの見直しを行う場合もあるため、閉店が必ずしもネガティブな意味合いを持つものではありません。
解散と廃業の違い
解散とは、事業活動を停止し、債権債務を整理する等廃業手続きを開始するためのスタート地点と位置付けられています。
解散すると、会社(法人格)がたちまち消滅する印象を持たれるかもしれませんが、合併を除き、解散によって会社の法人格が直ちに消滅するわけではありません。
解散は株主総会の決議や、定款で定めた存続期間が満了した・解散事由が発生した、破産手続き開始の決定や裁判所から解散命令を受けた時など全部で7つの理由が会社法によって定められています。
例えば資金繰りや業績の悪化、後継者不在等の理由の場合は「株主総会の決議」もしくは「破産手続き開始の決定」が解散理由となります。
清算と廃業の違い
前述した通り何らかの事由で解散しただけでは会社は消滅しません。それだけでは、会社に資産と負債が残ったままの状態になってしまい、それぞれを処分する法的な手続きを行う必要があります。これを清算手続きといいます。
具体的には、定款で特別の定めがある場合や株主総会決議により選任された者がない場合には、清算の開始により当該会社の取締役が「清算人」に就任します。
清算人によって「現務の結了(取引先や従業員との契約解除、解消)」、「債権の回収(売掛金などの債権の回収)」、「債務の弁済(借入金などの、債務の返済)」等の手続きが行われることを表します。
廃業件数は増加傾向
廃業件数は近年一貫して高い水準にあり、減少の傾向は見られません。東京商工リサーチ全国企業「休廃業・解散」動向調査(2021年見通し・速報)によると、2021年はコロナ禍を理由にした手厚い融資や給付金などの影響で廃業件数自体は減ったものの、自主廃業の件数が倒産件数の9倍に達するなど廃業の割合が高いこと自体に変化はありませんでした。
参考:東京商工リサーチ全国企業「休廃業・解散」動向調査(2021年見通し・速報)
なぜ日本全国で廃業件数が多くなってしまっているのでしょうか。その理由を知るキーワードは「後継者不足」です。後継者不在を理由に廃業する企業が多いことは、業績が良いのに廃業を選ばざるを得ない企業が多いことからもうかがえます。
ここからは、日本の企業と廃業を取り巻く現状について詳しく分析していきます。廃業が増加する背景にある事情について、ぜひ理解を深めてください。
後継者不足が廃業につながっている
日本では、全国的な経営者の高齢化と後継者不在が社会問題になっています。経営者が高齢になると引退を見据えて後継者を育成することになりますが、今は経営者の親族が当たり前のように家業を継ぐ時代ではなくなってきています。実力と意欲の両方を兼ね備えた人材がなかなか見つからなくなっているのが実情です。
中小企業を取り巻く経営環境が厳しさを増していることもあり、気軽に親族に事業を引き継げないという心理的要因もあるでしょう。
帝国データバンクの調査全国企業「後継者不在率」動向調査(2020年)によれば、後継者不在率の全国平均は過去5年の調査において連続で65%以上を推移しており、半分以上の経営者が後継者不在に悩んでいることが分かります。
こうしたデータから、たとえ黒字経営している優良企業であっても「後継者不在」を理由に廃業を余儀なくされている企業が一定数あることが読み取れます。後継者さえ見つかれば継続できたかもしれない企業の貴重な経営資源がむやみに失われている現状は、日本全体にとっても大きな損失です。
コロナ禍の影響で廃業を考える企業もある
2021年の廃業傾向としては、コロナ禍の影響を直接受けた業種の廃業件数が増加しました。業種別にはクリニックや薬局、歯医者など通院自粛の影響を受けた医療環境業種や、移動自粛の影響を受けた旅館・ホテル業などで廃業件数の増加が顕著でした。
同様の理由で居酒屋やパチンコも廃業件数が増加し、社会情勢が廃業に大きな影響を与えることがデータからも読み取れます。
ただしこうした外部要因は一時の傾向であり、廃業が増加する根本的な要因とまでは言えません。コロナ禍の影響が収まってくれば、業種別の廃業傾向にも変化が見られるでしょう。
好業績で廃業する企業も多い
東京商工リサーチが実施した2020年「休廃業・解散企業」動向調査では、2020年に休廃業もしくは解散した企業のうち、61.5%が当期黒字となっていました。これは2020年だけの傾向ではなく、過去5年間の調査ではいずれも60%以上の企業が当期黒字にも関わらず休廃業を選んでいます。
黒字企業が廃業を選ぶ理由として、資金繰りの行き詰まりが直接的な原因になっているとは考えづらいでしょう。これは将来的な見通しの不透明さ、業界の先行き不安、後継者不在など間接的な要因によって廃業を選ぶ企業が多いことを表しています。
黒字企業にはM&Aが有効
後継者不在の場合、廃業以外の選択肢としてM&Aがあります。M&Aは会社や事業を売却することを指すため、売却という言葉のイメージから「業績の悪い会社で行われるもの」というイメージを持っている人もいるようです。
しかし黒字企業であるほど、売手側に良い条件でM&Aを成立させることが可能です。単に後継者不在なだけで事業自体は順調な会社があれば、そのまま経営するだけで利益を生み出してくれるので買手にとっては魅力的な会社であるといえます。そのためM&Aに際して提示される金額も高額になりやすく、売手優位で交渉を進められるのです。
満足のいく条件でM&Aが成立すれば、事業が継続できるだけでなく従業員の雇用も守られます。事業は順調でも後継者不在で廃業を考えているなら、廃業を決めてしまう前にM&Aによる解決も検討してみてはいかがでしょうか。
廃業のメリット・デメリットとは?
事業をやめるには休業や破産、M&Aなどのパターンがあることを説明しました。ここからは、廃業を選ぶことで得られるメリットと留意しておきたいデメリットを解説していきます。計画的に廃業を進められれば周囲への影響を比較的小さく留められる反面、会社がなくなることになるため従業員や取引先への影響は避けられません。メリット・デメリットを比較することで、実際に廃業することのイメージを膨らませてください。
廃業から得られるメリット
廃業から得られるメリットには、大きく以下の2つがあります。
● 経営のプレッシャーなど、精神的負担から解放される
● 廃業後も手元に資産を残せる
将来的な見通しが厳しい企業では、本格的に経営が悪化する前に廃業の選択をすることで経営者の手元に資産を残すことも可能です。倒産の可能性もあると考えている経営者にとっては、早めに廃業を考えた方が、メリットが大きくなる場合もあります。
精神的負担から解放される
経営者が抱えている精神的負担は、第三者からは計り知れないほどのものがあります。長年事業を営んできて、「正直に言えばもう疲れてしまった」という人も少なくないのではないでしょうか。
経営から離れるには後継者を探して事業承継を進めることになりますが、一般的には事業承継は10年程度の時間をかけてじっくり進めていくものです。そこまでの体力や時間的余裕がない人もいるかと思います。廃業であれば、後継者探しの悩みや経営のストレスから解放され、精神的余裕のある生活を送ることが可能です。
計画的に廃業を進める自主廃業を選べば、周囲から経営手腕を疑われることもなく名誉も守ることができます。
手元に資産が残る
廃業とは会社そのものがなくなることを指すため、従業員に退職金を支払うなどの経費が発生します。この他にも借入金や債務をすべて清算し、最終的に残ったお金が経営者の手元に残ることになります。
経営不振や赤字経営の会社でなければ、最終的に手元にお金が残る可能性が高いです。いくら残るかはシミュレーションをしてみないと分かりませんが、「廃業すれば今まで積み上げてきたものが何もかもなくなってしまう」ということではないので安心してください。
廃業によって起こるデメリット
廃業には、他の選択肢を選べば避けられるデメリットもあります。廃業のデメリットは以下の2つです。
● 従業員や取引先に迷惑がかかる
● 長年積み上げてきた実績や事業、ノウハウが途絶えてしまう
会社や従業員のことを大切に想う経営者こそ、受け入れるのが辛いデメリットではないでしょうか。それぞれ具体的にどのような状況なのか、詳しく見ていきましょう。
従業員や取引先に迷惑がかかる
会社を廃業すると、従業員は全員失業することになります。業績が悪くない状態で廃業する場合は特に従業員からの理解を得づらいので、理解してもらえるように時間をかけてしっかり説明していく作業が欠かせません。
日本経済は長らく低迷が続き、コロナ禍をきっかけにした消費の落ち込みも終わりが見えない状況が続いています。このような状況では、再就職先を探すのも非常に困難だと言わざるを得ないでしょう。今まで会社に貢献してくれた従業員が路頭に迷うことがないように、ていねいな再就職に向けたサポートが求められます。
廃業すれば、取引先にも迷惑がかかることが想定されます。例えば他の会社が作っていないものを納品していたり、他社よりも低いコストで納品していたりするような場合には、取引先は代替品探しに奔走することを余儀なくされてしまいます。
取引先に迷惑をかけることがないようゆとりを持ったスケジュールで廃業を伝えておくことが大切です。
事業が途絶えてしまう
従業員を安定雇用できる規模に会社を育てるまでには、経営者の大変な苦労があったはずです。廃業してしまえば、そんな事業も途絶えてしまうことになります。
会社が解散すると資産や人材、ノウハウもすべてなくなってしまい、事業を再建するのは困難です。事業承継やM&Aであれば会社も事業も継続させることが可能ですので、そうした可能性も検討してみてはいかがでしょうか。
企業が廃業を検討する4つの理由
企業が廃業を検討するに至るまでの経緯はさまざまですが、その理由を大別すると次の4つに分類が可能です。
● 後継者が見つからない
● 会社の将来への不安
● 財務面に懸念がある(債務超過である)
● 資金繰りが悪化している(資金ショートの可能性がある)
今廃業を検討している経営者は、この4つの理由のいずれか、もしくは複数で悩んでいるかと思います。財務面や資金繰りの悪化は想像しやすいかもしれませんが、後継者問題や漠然とした将来への不安も廃業を検討する十分な理由です。
1.後継者の不在
自分の後継者になりうる人材が見つからず、やむなく廃業を検討する経営者が増加の傾向にあります。従来は後継者というと息子や親族が当たり前という考え方もありましたが、近年では本人の意向も重視して後継者を決める傾向があります。
厳しいビジネス環境で生き残っていくことを考えれば、積極的に社内人材や外部人材を招いて後継者に据える動きもありますので、そのような可能性を考えたことがなかったという方はぜひ検討してみてください。
後継者をしっかりと育成するためには10年近くもの時間がかかると言われています。着手が遅くなると経営者の高齢化や病気等の諸事情によりタイムリミットとなってしまいかねませんので、黒字経営で事業が順調でも問題を後回しにせず、引退を意識したタイミングから後継者探しをスタートすることが賢明です。
2.将来への不安
経済のグローバル化、材料費・人件費の高騰など中小企業を苦しめるビジネス環境の悪化は無視できないところまで来ています。真剣に会社の将来を考える方ほど、今後の経営に関して不安を覚えるものです。
現在の業績は順調でも、業界全体が先細りの傾向にあり、このままの状態が続けば経営が悪化するかもしれないと考える経営者は多いです。廃業理由にしては漠然としすぎているのではないかと感じる人もいるかもしれませんが、将来への不安が判断に影響を与えるのはおかしなことではありません。
経営が厳しくならないうちに、計画的な廃業を選ぶのは有効な選択肢です。会社に余力があるうちなら、借入金や負債を完済し、従業員にも十分な退職金を支給し再就職に向けたサポートをすることが可能になります。
3.財務面の懸念(債務超過など)
経営が悪化し赤字経営が続くと、負債が資産を上回る「債務超過」と呼ばれる状態になります。債務超過が常態化した企業は、金融機関からの融資や投資家からの出資を受けることが難しくなり、資金調達能力が著しく悪化してしまいます。債務超過の状態が長引くと経営上取りうる選択肢が狭まり、柔軟な経営戦略が取れなくなってしまう虞もあります。
経営再建の目途が立たないほどの状況であれば、早めに廃業を選ぶとダメージを最小で食い止められるかもしれません。
4.資金繰りの悪化(資金ショート)
資金繰りの悪化は、ただちに廃業を考える直接的な原因になります。特に資金ショートを起こし、支払期限までに債務の支払いができないような事態であれば、それはすでに事業活動が破綻した状態であると考えられます。資金繰りがショートしてしまう前に、悪化の兆候が出てきた時点で対応策を検討しましょう。自主廃業ではなく倒産となると、取引先や従業員にも多大な迷惑をかけてしまいます。
手形・小切手の支払いが期日までにできないことを「不渡り」といい、一度不渡りを起こすと取引銀行だけでなくあらゆる金融機関にその情報が共有され、新規の借入が困難になります。また、6ヶ月以内に不渡りが2度発生すると銀行取引停止処分の対象となり、当座預金の利用も停止されます。こうなると正常な事業活動を続けることはすでに不可能な状態で、実質的に倒産と同じ状態といって差し支えありません。
また、黒字経営をしていても資金ショートを起こすことがあります。このことを一般的に「黒字倒産」と呼びます。黒字倒産は売上の発生から現金の回収までにタイムラグがあることが原因で発生するため、資金繰り悪化の兆候がある場合はむやみに売掛金を増やさず、取引条件の改善に取り組むことが大切です。
廃業にあたって考えられる手続方法
ひとことで廃業といっても、法的には手続き方法が複数あり、会社が置かれた状況に応じて細分化されています。廃業する目的や状況によって最適な廃業手続きは異なりますので、廃業を円滑に進めるためには適切な方法を選ぶことが欠かせません。
ここでは、廃業までに行うことになる手続き方法の概要と、それぞれどのような状況の会社に向いているのかをまとめました。具体的な廃業手続きをイメージする際の参考にしてください。
1.通常清算
自主廃業を選ぶ企業の大半が選ぶことになるのが通常清算の手続きです。会社が資金ショートしておらず、資産が負債を上回っていて、すべての債務を返済できる状況であれば通常清算の手続きを踏むことで会社を解散させられます。
通常清算の手続きは後ほど詳しく説明しますが、大まかに説明すると株主総会で会社の解散を決議し、債権の取り立てや債務の支払いを行い、税務署や自治体に廃業の届出を行うのが一連の流れです。最終的に残った資産は株主に分配されるため、経営者の手元にもある程度の資産が残ることが期待できます。
通常清算は一番オーソドックスな方法ではありますが、手続きに手間と時間がかかるのが難点です。
2.特別清算
特別清算は、財務的な理由で通常清算の手続きが難しい会社が用いる解散の手続きです。明確な倒産状態ではないまでも、債務超過の可能性がある場合に用いられることが多くなっています。
通常清算では株主総会で選ばれた清算人が清算手続きを執行していきますが、特別清算では債権者や監査役、株主であっても特別清算の申し立てが可能なところに特徴があります。
特別清算を行う会社は債務超過に陥っていますので、すべての債務を償還することができません。そのため、債権者との協議や裁判所の許可を受けて、一部の債務を免除してもらうことで清算手続きを進めていきます。
特別清算には「協定型」と「和解型」の2つがあり、協定型では債権者集会を開き、協定を作ってそれに基づき債務を弁済します。和解型は債権者集会を開くのが困難な場合に行われる方法で、清算する会社が個別に債務者と交渉し和解契約をまとめていきます。のちほど協定型特別清算を例にして具体的な手続きを解説しますので、参考にしてください。
3.破産
破産は、明確な支払不能状態や債務超過の場合に用いられる方法です。清算の事務を進めるのは裁判所が選任した破産管財人で、債務整理の手続きも法律と破産管財人の判断に準じて行われるため、経営者が関与できる部分はほとんどありません。
破産手続きを始めると会社の全財産が債務の弁済に充てられるため、会社の資産から経営者の取り分として残る部分は一切ありません。破産する会社はすべての債務を弁済するのは不可能なので、残りの負債があったとしても会社が消滅して手続きは完了となります。
経営者としては、会社が破産するとどこまで経営者個人に責任が及ぶのかが気になるのではないでしょうか。結論からいうと、代表者個人の資産が没収されることはありません。経営者と会社(法人)は、法律上はあくまで別のものとされているからです。
ただし、銀行からの借入などで経営者が個人保証している場合は話が異なります。経営者が保証人になっている借入金は、たとえ個人であっても全額肩代わりをしなければなりません。近年でこそ経営者保証なしの融資も見受けられるようになってきましたが、従来の中小企業向け融資は経営者が連帯保証人となるのが当たり前でした。会社の借入金の連帯保証人になっているという経営者は、会社が破産しても返済を続けることになりますのでご留意ください。
4.経営者保証債務の整理
会社が特別清算や破産すると、返済できなかった分の債務が残ってしまいます。経営者が会社の債務の連帯保証人となっているケースでは、経営者個人の資産を使ってこれらの債務を返済することになります。
しかし、個人の資産では会社の債務をすべて返せないこともあるでしょう。とはいえ、全財産を没収されればその後の生活さえままなりません。こうした場合には経営者個人として債務整理を行うことになります。
経営者の債務整理をする際には、「経営者保証に関するガイドライン」を守る形で手続きが行われます。経営者保証に関するガイドラインでは、以下の資産は最低限残す形で債務整理を行うこととされています。
● 90日~330日の生計費に相当する預貯金等
● 華美でない自宅不動産
● 破産手続の自由財産に該当する財産
参考:経営者保証に関するガイドライン(経営者保証に関するガイドライン研究会)
上記のように債務整理を行っても最低限の資産は保全されますが、特別清算や破産となると今まで通りの生活を送るのが難しくなることは覚悟しておかなければなりません。
5.私的整理
私的整理とは、債務超過や支払不能状態が明確な場合でも破産のように裁判所の関与を受けず、債権者と個別の交渉を行う方法のことをいいます。支払不能状態に陥っても裁判所の指示に従って債務整理を行うのは義務ではありませんので、私的整理のように任意の和解契約の交渉を行うことも可能です。
ただし、私的整理では債務免除や支払期限の交渉を自力で行うことになるので、交渉は非常に難しいものになることが想定されます。金融機関等の債権者との交渉がなかなかまとまらない場合は、全国銀行協会と経団連が策定した「私的整理に関するガイドライン」を参考にして交渉を進めるとよいでしょう。
参考:私的整理に関するガイドライン(私的整理に関するガイドライン研究会)
6.その他の方法(会社更生、民事再生)
資金ショートを起こし経営破たん状態になっても会社を残したい場合、破産せずに行う「会社更生」や「民事再生」と呼ばれる手続きがあります。これらはいずれも、法律で定められた手続きに従って経営再建を目指すものです。
会社更生は、会社更生法に則って行われる企業再建手法です。裁判所が選任した更生管財人や債権者の同意を得て更生計画をつくり、関係者の利害調整に気を配りながら計画を遂行していきます。
会社更生では株主の権利を制約することが可能なだけでなく、経営者も基本的に交代になります。いくら会社が存続するといっても、今まで通りに経営者として関わることは不可能であることを意味します。
民事再生は民事再生法という法律に基づいて行われる企業再生手法です。法律に基づいて進める点は会社更生と同じですが、個人事業主から大企業まで幅広く利用されており、比較的柔軟性の高い再生手法といえます。
民事再生では再生手続開始の申し立てを行い、再生計画を策定して利害関係者や裁判所の認可を受けることで事業活動の継続が可能です。ただし、民事再生を開始したにもかかわらず改善の兆しが見られない場合は、破産手続きを行うことになる場合があります。
廃業の流れ(通常清算の場合)
すべての債務を返済しても資産が残る企業が行う「通常清算」の手続きを具体的に解説します。業績が好調にもかかわらず後継者不在などの理由で廃業する企業の多くが、通常清算の手続きに則って会社を清算することになるでしょう。
通常清算の手続きは手間と時間がかかりますので、スケジュール感を確認しながら抜け漏れがないように進めることが大切です。
1.手続開始前の準備
清算手続きが開始すると事業活動に一定の制限がかかるため、手続きが始まる前に行っておかなければならない準備がいくつかあります。
まず一つ目が従業員に対する説明です。通常清算の場合、経営不振から廃業する訳ではないことが想定されますので、廃業を伝えられた従業員は驚きや困惑をもって受け止めることになるでしょう。従業員は廃業に伴って失業することになりますので、再就職先を探す時間がかかります。廃業直前になって急に廃業の事実を伝えることは避けるのが賢明です。反発や混乱を招かないように、経営者自身の言葉で理解を得られるように説明してください。
従業員の次に、取引先への説明も丁寧に行うことが大切です。取引先によっては廃業する会社からの仕入れに依存しているケースもあります。こうした場合には、代わりの仕入れ先を探してもらうなど対策を講じてもらわなければなりません。廃業する旨を丁寧に説明し、適宜今後の対応を協議していきましょう。
従業員や取引先への説明の他に準備段階で必ず行っておくこととしては、買掛金などの日常的な取引に関連した債務の弁済があります。清算手続きが始まると債務の弁済が禁止されてしまうので、取引先への影響を避けるために事前に買掛金を支払っておくことが通例となっています。
2.解散決議・清算人の選任
清算手続き開始の第一歩は、臨時株主総会を開いて会社の解散を決議することから始まります。解散が決議されてからは、会社は清算に関する事務のみを行う組織(清算株式会社)となり、一切の営業活動がストップします。
清算株式会社は清算人という役割の人を選出しなくてはなりません。清算人に選ばれた人は、現務の完了(解散時点で途中になっている仕事を完了させること)、債権の取り立て、債務の弁済、残余財産の分配(債権債務を整理した後に残った資産を適切に分配すること)を行う義務があります。
清算人にはあらかじめ定款で定められた人か、株主総会決議で選ばれた人が就任します。清算人を定款に定めるかどうかは任意なため、実際は定款に定められているケースは稀です。実務上は株主総会で選ばれた人に決まるか、選任決議も行われない場合には取締役が就任し、取締役もいない場合には裁判所が選任した人物が清算人となります。
なお、株主総会で解散が決議されてから2週間以内に解散と清算人の登記を行うこととされています。
3.税金や社会保険関係の手続き
解散が決定したら、会社の税金関係の届出や、従業員の税金・社会保険関係の手続きを進めることになります。
まずは事業廃止の届出を管轄の税務署と都道府県税事務所、自治体に提出し、廃業が決まった旨を通知します。会社関係の書類を提出したら、従業員の税金や社会保険についての届出も行いましょう。健康保険や厚生年金は「適用事業所全喪届」を年金事務所に、雇用保険は「雇用保険適用事業所廃止届」をハローワークに提出します。
4.債権の取り立て
会社が保有する債権(売掛金など)の回収を進めます。債権回収と並行して、現務の完了(着手している仕事をきちんと完了させること)も行いましょう。廃業するからといって受けた仕事を中途半端に投げ出すのはあってはならないことです。
なお、先ほど清算株式会社は清算に関する事務しかできないと説明しましたが、現務を完了させるために避けられない取引であれば新規の仕入れや棚卸資産の売却が認められています。
5.解散の公告・個別催告
解散の事実と債権申出に関する内容を公告し、会社が認識している債権者については個別に通知し催告を行います。公告とは会社に関する重要事項を利害関係者に広く通知することで、解散の公告は官報において行うことになっています。
清算人は、申出のあった債権額について調査し、廃業する会社の認識と合っているか確認します。債権者との間で認識が異なり争いがある場合は、訴訟を通して債権額を確定することになります。
6.財産の調査、目録の作成
清算人は、清算人に就任したらすぐに財産目録と貸借対照表を作成することとなっています。これらの資料は解散時点の財産や資産、負債を調査して作成したものでなければなりません。財産を改めて調査することで、清算株式会社の債権債務や資産額を正確に認識することが可能です。
清算人が作成した財産目録と貸借対照表は株主総会で承認を受け、清算決了登記が終わるまで保管しておく義務があります。
7.解散年度の確定申告
会社が解散した年度は、年度開始の日から完了した日までを1つの事業年度として確定申告するように定められています。この事業年度を「解散事業年度」と呼び、解散事業年度の確定申告は解散の翌日から2ヶ月以内に行うこととされています。
それ以降の確定申告を行う場合は、解散の翌日から1年ごとに事業年度を区切って、事業年度終了の日から2ヶ月以内に確定申告します。
8.資産売却、債務弁済
会社に残っている資産はすべて売却し、現金化して債務の返済に充当します。このタイミングで、債権者から申し出があったすべての債務は返済が完了することになります。債務の返済が完了してもなお手元に残る財産(これを残余財産と呼びます)がある場合は、清算人の手によって株主に分配されます。
経営者が株式のほとんどを保有するオーナー企業の場合は、残余財産の大半が経営者の手元に残ることとなります。
9.残余財産に関する確定申告
残余財産の金額が確定した時点で金銭関係の処理が完了したことになり、会社として最後の事業年度が完了します。この事業年度のことを「残余財産確定事業年度」と呼びます。
残余財産の金額が確定したら、その翌日から1ヶ月以内に残余財産確定事業年度の確定申告書を税務署に提出してください。もし1ヶ月の間に残余財産の分配が完了する場合は、分配完了日の前日までに確定申告書を提出することとされています。
10.決算報告と株主総会の承認
残余財産に関する確定申告まで完了すれば、廃業手続きのほとんどが完了したといえます。清算人は確定申告終了後速やかに決算報告書を作成し、報告書は株主総会に提出し承認を受けなければなりません。決算報告書には、解散日の翌日から残余財産確定日までの収入額、費用額、残余財産額、1株あたりの分配額を記載します。
株主総会で決算報告書が承認されれば会社の清算手続きは完了となり、法人格は消滅します。
11.清算結了の登記
決算報告書が株主総会で承認されたら、すみやかに清算結了(会社の清算が完了したということ)の登記を行わなければなりません。本店所在地での登記は2週間以内、支店所在地においては3週間以内に清算結了登記を行うことと定められています。
登記が完了したら、管轄の税務署に清算結了した旨の異動届出書を提出しましょう。これにて通常清算の一連の手続きは完了となります。
廃業の流れ(協定型特別清算の場合)
特別清算とは、債務超過の疑いがあるなどの理由で通常清算が難しい場合に選ばれる廃業方法です。最初は通常清算の手続きで進めていても、途中で債務超過が発覚したり債権債務関係が複雑で手続きが進められなくなったりすると特別清算の手続きに切り替えることもあります。
特別清算でも通常清算と同じく清算人を選出しますが、債権者の協力を受けて一部債務の免除を受けながら清算を進める点に違いがあります。特別清算には債権者集会を開き協定案を決議する「協定型」と、廃業する会社がそれぞれの債権者と個別に条件交渉を行う「和解型」がありますが、ここでは協定型特別清算を例にとって説明していきます。
特別清算は破産に比べるとマイナスのイメージを持たれづらい方法です。しかし、清算を結了させるまでには債権者の協力が欠かせず、協力を得られない場合には破産を選ぶことになります。手続きの大まかな流れは通常清算と共通していますので、ここでは通常清算と違うポイントに注目しながら解説していきたいと思います。
1.特別清算開始の申立てを行う
特別清算開始の第一歩は、裁判所に協定による特別清算の申し立てをすることからスタートします。申立ての際には、債権者が特別清算開始に同意していることが確認できる書類を添付するようになっています。
特別清算に合意しない債権者が3分の1以上いる場合は、協定が成立しない恐れがあります。その場合は破産手続きに移行する可能性があるため、破産手続きの場合の予納金を同時に納付することになります。予納金の金額は債権額に応じて変動します。
2.財産目録の作成
会社の財産と資産・負債を改めて調査し、財産目録と貸借対照表を作成します。株主総会で承認を受けたら、裁判所にすみやかに提出しましょう。
完成した財産目録と貸借対照表をもとに、債権者集会を開いて財産調査の結果や清算の見込みについて説明を行います。債権者集会を開くのが難しい場合は、書面での説明でも問題ありません。
3.資産売却、債務弁済
会社の資産を現金化して、債務弁済費用を捻出していきます。債務の弁済は、債権者集会で合意を得た協定案に基づいたものでなければなりません。しかし、少額の債権など他の債権者に与える影響が軽微なものについては協定に基づかず弁済することが可能です。
なお資産売却の過程で、100万円以上の価値がある資産を売却する際には裁判所の許可を得なくてはなりません。特別清算中の会社には財産処分の制限がかけられていますので、勝手に処分しないよう留意が必要です。
4.協定案の作成、債権者集会
特別清算の協定案は、清算人が個別に債権者と交渉しながら案を策定します。協定案は債務の減免や返済期限の猶予など、債権者に譲歩を強いる内容です。そのため、債権者間の不平等がないようにしなければなりません。
協定案がまとまったら裁判所に提出し了承を得ます。問題点を指摘される場合もありますので、その場合は適宜修正してください。
裁判所の了承を得た協定案は、債権者集会を開いて採決を行います。債権者集会を開くのは裁判所ですが、開催日時の調整や債権者に対する通知は清算会社が行うこととなっています。債権者は債権者集会に参加して投票するか、代理人に票を委ねるか、書面などの方法で投票する方法を選択できます。
債権者の過半数が合意するか、合意する債権者の債権額が3分の2以上となれば協定案は採決されます。
5.協定実行
債権者集会で採決された協定案は、すみやかに裁判所に持ち込んで協定認可の申立てを行いましょう。裁判所は、協定内容が法律に則っていて実現可能なものかどうかチェックし、問題がなければ認可します。
裁判所の認可が下りれば協定案は確定しますので、内容に基づいて協定内容を実行していくことになります。これにて清算会社と債権者とのやり取りは終了です。
6.特別清算終結決定の申立てを行う
協定に記載した内容をすべて実行したら、特別清算の主な手続きは終了となります。裁判所に特別清算終結決定の申立てを行い、裁判所は特別清算終結決定の申立てを審査します。
申立ての審査が完了するとただちに、官報にその旨が公告されます。特別清算が完了した旨の登記(終結決定の登記)は裁判所が行うことになっており、清算人が登記の手続きを行うことはありません。
これにて協定型特別清算の一連の流れは終了となります。
国による事業承継支援
事業承継税制
事業承継税制とは円滑化法の認定を受けている非上場企業の事業承継に際して、後継者が会社の事業を承継することを条件に、相続税や贈与税の納税を猶予または免除される制度です。中小企業に後継者がいる場合でも、後継者が相続税を支払うことができなければ、廃業を選ぶこともあり得ます。そのため相続税や贈与税の負担を軽減することにより中小企業の事業承継を促進する事を目的に創設された制度となります。
事業承継補助金制度
事業承継補助金制度は、事業承継、事業再編・事業統合を促進することで、経済の活性化を図ることを目的として創設されています。
このため事業承継補助金は、事業承継やM&Aをきっかけとして新しい取り組み等を行う中小企業者等、ならびに事業再編、事業統合に伴う経営資源の引継ぎを行う中小企業者等に発生した経費の一部に対して補助金が支払われます。
廃業で準備する書類
廃業にあたって最低限準備しなければならない書類は以下の通りです。特別清算や倒産の場合はここで紹介した以外の書類を準備することもありますので、参考程度にご覧ください。
書類名 | 提出先 | 提出期限 |
解散届出書 | 税務署 | 解散または清算結了後 |
清算結了届出書 | 税務署 | 解散または清算結了後 |
給与支払事務所の廃止届出書 | 税務署 | 解散または清算結了後 |
消費税事務所廃止届 | 税務署 | 解散または清算結了後 |
解散確定申告 | 税務署 | 解散または清算結了後 |
清算確定申告書 | 税務署 | 解散または清算結了後 |
雇用保険適用事務所の廃止届 | ハローワーク | 事業所廃止の翌日から10日以内 |
雇用保険被保険者廃止届 | ハローワーク | 事業所廃止の翌日から10日以内 |
厚生年金保険被保険者資格届 | 年金事務所 | 廃業日の翌日から5日以内 |
健康保険被保険者資格届 | 年金事務所 | 廃業日の翌日から5日以内 |
適用事業所全喪届 | 年金事務所 | 廃業日の翌日から5日以内 |
労働保険確定保険料申告書 | 労働基準監督署 | 廃業日の翌日から50日以内 |
労働保険料還付請求書 | 労働基準監督署 | 廃業日の翌日から50日以内 |
清算結了登記申請書 | 法務局 | 清算決了後すみやかに提出 |
上記は事務手続きで提出することになる書類をまとめたものですが、廃業手続きの中で財産目録、貸借対照表、清算確定申告書も作成する義務があります。廃業する際には非常に煩雑な手続きが求められることをご理解いただけたのではないでしょうか。
廃業にかかる時間
廃業にかかる時間はそれぞれの会社の事情もあるので千差万別です。あくまで例にはなりますが、一般的には通常清算で3ヶ月~6ヶ月の時間を要することが多いようです。特別清算の場合はスムーズにいって3ヶ月、債権者との交渉が長引く場合は3年もの時間がかかるケースもあります。
廃業手続きは多くの債権者や取引先が関わることもあり、スムーズに進まないのが当たり前です。時間には余裕をもって計画しておくとよいでしょう。
廃業以外に考えられる方法
ここまでの説明で、廃業するには大変な手間と時間、労力が求められることが分かったことと思います。また、今まで会社のために働いてくれた従業員のことを考えると、そう簡単には廃業を決めることができないという経営者も多いのではないでしょうか。
廃業すれば会社は消滅してしまいますが、廃業の他にも取りうる選択肢はあります。ここでは、廃業とあわせて検討されることが多い「休眠会社にする」「M&Aを検討する」という2つの方法について概要をまとめました。
休眠会社の手続きをする
いったん事業活動は休止するが、チャンスが訪れればまた事業を再開したいと考えている場合には会社を「休眠会社」にするのが有効です。
休眠会社にすると、法人格は残したまま事業活動をストップすることが可能です。廃業すると事業の再開が不可能になりますが、休眠会社ならある程度の期間がたった後でも事業を再開できます。
休眠会社は税務上の義務が一部免除されるため、税負担も軽くなります。税務署や自治体に届け出をする義務がありますが、廃業に比べれば事務負担もそれほど大きなものではありません。
廃業の意志が明確でない場合には、いったん休眠会社にするという選択肢を考えてみても良いのではないでしょうか。ただし休眠会社は問題の先送りでしかありません。最終的には事業を継続できない原因を解決して事業を再開するか、廃業やM&Aなどの方法を考えなくてはなりません。
M&Aを検討する
M&Aとは、第三者である企業に会社ごと、もしくは事業を買収してもらうことを指します。M&Aは、バブル期以前には「ハゲタカファンド」などという呼称で悪いイメージを持たれることもありました。しかし近年では、後継者不在に悩む企業の解決策としてM&Aが行われるのは珍しくありません。
中小企業の事業承継で行われるM&Aでは、双方にとってメリットのある取引を目指す「友好的承継」が主流です。M&Aの交渉が上手くいけば、事業活動と従業員の雇用の継続が可能になり、経営者の手元に残る金額も多くなることが期待できます。
廃業ではなくM&Aを選ぶ4つのメリット
廃業の代替案としてM&Aを選ぶことには、多くのメリットがあります。廃業のデメリットとして挙げられる「従業員の雇用を維持できない」「取引先に迷惑がかかる」「事業が途絶えてしまう」「経営者の資産としての手残りが少ない」といったデメリットは、いずれもM&Aで解決が可能です。
「M&Aは難しそうな印象があるので検討したことがない」という経営者こそ、これを機にM&Aも選択肢のひとつとして考えてみてください。
1.従業員を雇用し続けられる
M&Aでは、従業員の雇用が維持されるケースが大半です。その理由としては、ほとんどの売手企業の経営者が「従業員の雇用維持」を絶対条件にして買手企業を探しているからです。よって、M&Aで従業員の雇用維持を条件にすることは珍しいことではなく、それによって売買成立が極端に難しくなるということもありません。
また、買手企業としても従業員は貴重な経営資源であると考えています。買収後のスムーズな事業運営にはノウハウを熟知した従業員が欠かせませんので、むやみに従業員を解雇するということも考えづらいです。
2.取引先への影響が最小限に抑えられる
廃業することで、取引先によっては貴重な仕入れ先を失ったり、取引条件が悪い業者と契約せざるを得なくなったりといった影響を受けることが想定されます。債務をすべて弁済して解散する通常清算でなければ、取引先が債権を回収できなくなることもあり得ます。取引先に金銭的な迷惑をかけてしまうのは避けたい事態です。
また最悪の場合には、廃業した企業に仕入れや販売を大きく依存していた企業が仕入れ先や販売先を失って、連鎖的に倒産する事態もないとは言い切れません。
M&Aであれば、買収されても事業は継続されます。そのため多少取引条件が変動することはあっても、債権が回収できなくなったり連鎖的に倒産したりといった事態は避けることが可能です。廃業ではなくM&Aを選ぶことによって、取引先への影響は最低限に留めることができるでしょう。
3.事業を継続させられる
事業を大きくし、従業員を雇用するのは一朝一夕でできることではありません。後継者不在や経営不振などの理由で価値のある事業がなくなってしまうのは、社会全体にとっても大きな損失です。たとえ業績不振や後継者不在で苦しんでいるとしても、事業そのものの価値というのは決算書に出てくる数字では表現できないものです。廃業によって目に見えない経営資源が失われてしまうのは非常に惜しいことだと言わざるを得ないでしょう。
また、M&Aとは事業や会社の価値を認め、相応の対価を払って購入する手続きです。長年の経営によって培われた経営資源は、M&Aにおいて「のれん」という形で評価されます。苦労して育ててきた事業の価値を正当に評価してもらうという意味でも、M&Aは事業承継の効果的な方法です。
売却後に事業がきちんと継続されるか不安に感じる経営者も多いでしょう。しかし例え買収されたとしても、条件交渉次第ではこれまでに近い形で事業を継続するのは難しいことではありません。
廃業は法人格をなくして恒久的に事業をやめるための手続きなので、一度廃業してしまえば事業を再開するのは困難です。これまで積み上げてきたものをゼロにしてしまうのではなく、買収先での事業継続に期待してみてはいかがでしょうか。
M&Aによって後継者不在などの問題が解決するのであれば、事業を継続するための方法として真剣に検討してみる価値があるでしょう。
4.廃業より多くの手残りが期待できる
廃業の手続きでは、会社の資産を個別に現金化して債務の返済に充てていきます。最終的に資産から負債を引いて残った額は株主に分配されますが、分配の原資は基本的に帳簿上の資産価額以上となることはありません。
これに対してM&Aでは、会社独自のノウハウやブランド力、人材、将来性などの帳簿には載ってこない「見えない資産」も評価の対象になります。事業全体としての価値に対して売却価格を設定するM&Aでは、単純に廃業した時の資産売却よりも高額な対価を得ることが期待できます。
M&Aにおける売り手企業の評価は、買い手企業によって異なります。目に見えない資産は価値の算定が難しいため、企業の価値観によって評価額にバラつきが生まれるからです。M&Aでは会社の将来性や売り手企業とのシナジー効果まで検討して価格が検討されるため、相性の良い企業であれば想像以上の価格で売買がまとまる可能性があります。
「大切に育てた会社だから、なるべく高い価格で売却したい」そう思うのは経営者であれば当たり前のことです。しかし、相性の良い買い手企業を自力で探すのは容易なことではありません。そんな場合には、M&Aのマッチングを行うM&A仲介業者に依頼するとよいでしょう。M&A仲介業者は常に多数の買い手企業候補を抱えているため、効率的なマッチングが可能です。
まとめ
この記事では、廃業の定義やメリット・デメリット、具体的な廃業手続きの流れを詳しく解説してきました。何となく廃業を考えている方も、最後まで読めば廃業のイメージが明確になったのではないでしょうか。
廃業の手続きは、会社を立ち上げる手続きよりも関係者が多い分大変になりがちです。廃業ありきで考えるのではなく、休眠会社やM&Aなどの選択肢も含めて最適な選択肢を柔軟に考えてみてください。
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