譲渡制限株式とは?メリット、譲渡制限の方法、譲渡手続き、注意点などについて詳しく解説します。

弁護士 善利友一

弁護士登録後、大手法律事務所に入所。企業法務、一般民事、刑事事件等の幅広い分野の案件に携わる。パートナー弁護士に就任後、企業法務、不動産法務、相続法務に注力し、顧問業務、法務デューディリジェンス業務に携わるとともに、多くの企業訴訟、不動産訴訟、相続紛争を解決に導く。クライアントによりマッチした法的サービスを提供すべく、善利法律事務所を開所し、代表弁護士に就任。2017年からは、上場企業及び上場を目指す企業の社外監査役に就任し、弁護士としての経験を活かし、コーポレート・ガバナンスの一翼を担う。 2019年、株式会社M&A DXの社外監査役に就任。2022年、弁護士法人Zenos代表弁護士に就任、現在に至る。

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会社が発行する株式にはいくつかの種類が認められていますが、その中でもベンチャー企業や中小のオーナー企業などにとって、意図しない第三者の経営介入や買収の防止に効果がある「譲渡制限株式」があります。本稿では、譲渡制限株式の正しい意味や、メリット、譲渡制限の方法、譲渡手続き、注意点などについて詳しく解説します。

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株式譲渡自由の原則

株式譲渡自由の原則

株主が、所有する株式を第三者に対して自由に譲渡できることを「株式譲渡自由の原則」と言い、会社法第127条で定められています。

会社法 第127条(株式の譲渡)
株主は、その有する株式を譲渡することができる。

この原則に従い、株主は所有する株式を市場で売却したり第三者に譲渡したりして投資した資金を回収することができます。株式譲渡自由の原則は、株主が所有する株式に関する自由な取引を保護し、株式市場の活性化や投資家の投下資本の回収を保障することで投資家を安心させ、企業の資金調達に資する役割を担っているとも言えるでしょう。

譲渡制限株式とは

譲渡制限株式は、前項の株式譲渡自由の原則の例外として、会社法第2条17号で定める要件を満たすことで譲渡制限が付された株式を言います。

会社法 第2条17号(譲渡制限株式)
株式会社がその発行する全部又は一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定めを設けている場合における当該株式をいう。

譲渡制限株式の要件は、①発行する全部又は一部の株式に対し、②譲渡によって取得するには発行会社の承認が必要と定款に定めていることです。承認機関は定款に別段の定めがない限りは、取締役会設置会社においては取締役会、取締役会がない場合には株主総会の決議が必要になります。また、株式の譲渡制限は譲渡制限株式以外に株主間契約で定めることもできますが、会社法で定める譲渡制限株式とは異なります。

関連記事:「種類株式とは?種類やメリット・デメリットを解説

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譲渡制限株式のメリット

株式を譲渡制限株式にすることにより、発行会社が株式の譲渡をコントロールできるようになることから、経営の安定化やリスク回避などのメリットが得られます。

株式の拡散を防止する

譲渡制限株式の譲渡には必ず会社の承認が必要になるため、仮に株主が発行会社の知らないところで株式を第三者に譲渡しても、当該第三者は会社に対し株主として権利を行使することはできません。そのため、譲渡制限株式には株式の拡散を防止する効果があり、発行会社の意向に反して株主構成が大きく変動することはありません。

望まない第三者が株主となるのを防止する

ベンチャー企業や中小のオーナー企業などの場合には、競合企業や望まない第三者が株式を取得し経営に対して強い影響力を持ってしまうと、株主の同意が必要となる重要な意思決定や経営方針の変更を株主総会で否決され、自由な経営判断が困難になる可能性があるとともに、買収リスクも高まります。このようなリスクを防止し、安定的な経営を行うためにも譲渡制限株式は有効な手段になります。

株式譲渡制限会社となるメリット

会社が発行する全ての株式に対し、定款で会社の承認を必要とする旨を定めた会社を株式譲渡制限会社と言います。株式譲渡制限会社では、会社の組織や運営において公開会社とは異なるルールが適用されます。なお、会社が発行する株式の中で一部だけが譲渡制限株式の場合には、株式譲渡制限会社には該当しないので注意が必要です。

役員の任期が延長できる

一般的には、株式会社の取締役の任期は2年、監査役の任期は4年ですが、株式譲渡制限会社では、定款で定めることによって、取締役及び監査役の任期を最長10年まで延長することが可能です。

取締役会を設置しなくても良い

会社法の定義では、発行する全ての株式に譲渡制限を設けていない会社を「公開会社」として取締役会の設置を義務付けており、取締役3名以上、監査役(又は会計参与)1名以上が必要になります。一方、株式譲渡制限会社の場合には、取締役が1名以上いればよく取締役会の設置義務もありません。

譲渡制限株式の相続人に対し売渡請求ができる

通常、株式の名義人が亡くなった場合には、譲渡制限株式であっても相続によって株主としての地位は相続人に移転しますが、定款で定めることにより譲渡制限株式の相続人に対し対象株式の売渡請求ができるようになります。

株主総会の招集手続きが簡単になる

公開会社が株主総会を開催する場合には、株主に対し開催日の2週間前までに書面又はメールで招集通知を発する必要がありますが、株式譲渡制限会社の場合には原則として開催日の1週間前までに書面又はメールで招集通知を発すれば良いとされています。また、取締役会設置会社でなければ定款によって1週間を下回る期間を定めることも可能です。さらに、株式譲渡制限会社(取締役会非設置)には招集通知は書面やメール以外に口頭で行うことも認められている場合があります。

関連記事:「株式譲渡制限会社(非公開会社)とは?メリット・デメリットを解説!

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譲渡制限の設定方法

譲渡制限の設定方法には前述したように、定款で規定する方法と株主間契約で規定する方法の2種類があります。

定款で規定する

一般には会社設立時の定款で株式の譲渡により取得する場合には会社の承認を要する旨を規定しますが、会社設立後に株式の譲渡制限を設定する場合には株主総会の特殊決議が必要です。特殊決議とは、総株主の半数以上(※① これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)であって、総株主の議決権の2/3(※① に同じ)以上に当たる多数による決議のことです。

株主間契約で規定する

株主間契約とは、特定の会社における複数の株主が株式の取扱いや経営に関する重要判断などの取決めについて合意し締結する契約のことですが、株式の譲渡制限についても株主間契約で定めるケースがあります。しかし、株主間契約で定めた譲渡制限は契約に参加した株主間だけに有効で、会社法で定められた譲渡制限株式と比べると法的拘束力が弱い点が大きく異なります。

譲渡制限株式の譲渡手続き

譲渡制限株式の譲渡手続きには、発行会社に対する譲渡承認請求から最後の株主名簿記載事項証明書の交付請求まで、以下の6つのプロセスがあります。

⒈ 譲渡承認請求

譲渡承認請求は、①譲渡制限株式を譲渡しようとする株主が発行会社に対して行う方法と、②譲渡制限株式を取得した株式取得者から発行会社に対して行う方法がありますが、②の場合には原則として譲渡制限株式の株主と共同で行う必要があります。また、譲渡承認請求には次の事項を明らかにしなければなりません。
譲渡制限株式の数
譲渡制限株式を譲り受ける者(又は取得した者)の氏名又は名称
会社が承認をしない場合に、会社又は指定買取人が譲渡制限株式を買い取ることを請求するときにはその旨

⒉ 会社の承認機関による譲渡承認の決定

譲渡承認請求を受けた譲渡制限株式の発行会社は承認の可否を決議しなければなりませんが、承認機関は、定款で別途定めている場合には定款で定めた機関、定款で別段の定めがない場合には、取締役会設置会社においては取締役会、取締役会がない場合には株主総会になります。取締役会で承認するには出席取締役の過半数、株主総会で承認するには普通決議において、株式譲渡を承認する決議が必要です。

株式の譲渡を承認しない決定をした場合

譲渡制限株式の発行会社が譲渡承認請求に対し承認しない決定をした場合には、A.発行会社、B.発行会社及び指定買取人、C.指定買取人のいずれかが譲渡承認請求の対象株式を買い取ることになります。発行会社が買取る場合には株主総会の特別決議、指定買取人が買取る場合には、取締役会設置会社においては取締役会、取締役会がない場合には株主総会の特別決議で決定します。

⒊ 請求者に対する決定内容の通知

譲渡制限株式の発行会社は、譲渡承認請求者に対して承認の可否を通知しなければならず、発行会社が譲渡承認請求を受けた日から原則として2週間以内に通知しなかった場合には、譲渡制限株式の譲渡を承認する決定がなされたものとみなされます。また、譲渡制限株式の発行会社が譲渡承認請求に対し承認しない旨を通知した場合には、①対象株式を買い取る旨、②株式会社が買い取る対象株式の数、③発行会社が指定買取人を指定した場合にはその旨を通知しなければなりません。発行会社は承認しない旨を通知した日から原則として40日以内に当該通知をしなかった場合にも譲渡制限株式の譲渡を承認する決定がなされたものとみなされます。

ただし、指定買取人による買取の場合には、指定買取人が譲渡承認請求者に対して、発行会社が承認しない旨を通知した日から原則として10日以内に、指定買取人として指定を受けた旨等を通知しなければなりません。なお、対象株式の売買価格は発行会社と譲渡承認請求者との協議で決定されます。

⒋ 株式譲渡契約の締結

譲渡承認請求が承認された場合には対象株式の株主と株式取得者(承認されなかった場合には発行会社や指定買取人)と対象株式の譲渡に関し株式譲渡契約を締結します。株式譲渡契約の内容は一般的な契約と同様に、株式譲渡の合意や対象株式の種類・株数・譲渡価格などの他に表明保証や損害賠償などが記載されます。ただし、譲渡制限株式の場合には発行会社の譲渡承認を得る(又は得ている)旨を明記します。

⒌ 株主名簿の書換

譲渡制限株式の株式取得者は、前項の株式譲渡契約を締結し売買代金を支払っても、発行会社に対し株主としての権利行使をする、あるいは第三者に株主であることを主張するためには株主名簿の書換えが必要です。発行会社に対する株主名簿書換請求は、原則として株主と株式取得者が共同して行いますが、株券発行会社の場合には、株式取得者が株券を発行会社に提示すれば単独で株主名簿書換請求書を行うことができます。

⒍ 株主名簿記載事項証明書の交付

株主名簿の書換が完了すれば株式取得者は発行会社に対し株主名簿記載事項証明書の交付を請求できます。株券不発行会社の場合には、この証明書があれば第三者に対しても株主であることを証明できます。

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譲渡制限株式の注意点

譲渡制限株式については、株式取得者と発行会社それぞれに注意しなければならないポイントがあります。

会社の承認を得ないで譲渡した場合

譲渡制限株式を会社の承認を得ないで譲渡した場合には、株主と株式取得者の間では有効ですが、株主名簿の書換えを行っていないと株式取得者は発行会社に対し株主としての権利行使ができず、第三者に対する対象株式の譲渡の効力は生じないため注意が必要です。株主名簿の書換え請求するためには前項で解説したように、株券不発行会社の場合には発行会社の承認を得た後、株主と株式取得者が共同して株主名簿書換請求を行う必要があります。

譲渡制限株式は、所有者の死亡によって一定の身分関係にある人に財産が承継される場合には譲渡に該当しないため、発行会社の承認がなくても株主としての地位は相続人に移転します。この場合、譲渡制限株式のメリットの1つである「望まない第三者が株主となるのを防止する」ことができず、株式数によっては相続人が発行会社の経営に強い影響力を持ってしまうリスクがあります。このようなリスクを回避するためにも、発行会社は譲渡制限株式の相続人に対し対象株式の売渡請求ができる旨を定款で定めておくことが重要です。

まとめ

ここまで、株式譲渡自由の原則、譲渡制限株式とは、譲渡制限株式のメリット、株式譲渡制限会社となるメリット、譲渡制限の設定方法、譲渡制限株式の譲渡手続き、譲渡制限株式の注意点を解説してきました。発行会社の承認を得ずに譲渡制限株式を取得しても株主としての権利行使ができず、第三者に対抗することができません。ベンチャー企業や中小のオーナー企業などは、株式譲渡制限会社であることが多いので、株式を譲渡によって取得しようとするときには必ず株式の種類を確認し、譲渡制限株式であった場合には正しい譲渡手続きで行うようにしましょう。

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