株主総会の決議事項とは?決議の種類や要件、省略できる場合など解説

税理士 安江一将

会計コンサルティング会社・税理士法人及びベンチャー企業2社に勤務。会計コンサルティング会社・税理士法人では税務顧問・税務申告のほかに、事業承継支援業務、組織再編業務、IPO支援業務、M&A業務を数多く実行。ベンチャー企業では管理部長・経営企画室を歴任し、上場のための体制構築・実行支援を推進する。大手コンサルティング会社名古屋支社副支社長を経て2019年8月に安江一将税理士事務所として開業した後、さらにM&A業務を推進することを目的として株式会社M&A DXに参画し、現在に至る。

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株主総会の決議事項とは、会社経営に関わる重要な事項です。株主総会で株主からの承認を得ることで、決議事項を実行できるようになります。ただし、決議事項も株主総会の決議の種類によって承認の条件が異なるため、詳しく理解しておく必要があります。

そこでこの記事では、株主総会の決議事項とは何か、株主総会の決議事項ごとの決議要件などを解説しています。株主総会の決議事項について詳しく知りたい方は、ぜひ参考にしてみてください。

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株主総会の決議事項とは

株主総会の決議事項とは、会社運営について、株主総会で決議する重要事項です。役員の選解任や計算書類の承認、資本金の増額などが株主総会の決議事項に該当します。会社運営の重要な事項の承認を株主から得るものであって、決議事項が承認されるには、決議ごとに定足数と決議要件を満たす必要があります。

定足数決議するのに必要な最小限の人数
決議要件決議が可決になるための条件

定足数と決議要件が満たされることで、株主総会決議が可決されたことになり、決議事項を実行できるようになります。

取締役会の決議事項との違い

決議事項について、よく混同されるものに「株主総会」と「取締役会」の2つがあります。
取締役会の決議事項には「重要な財産の処分および譲受け」や「多額の借財」などが該当します。「株主総会の招集に関する決定事項」も、取締役会の決議によって行われます。

株主総会は会社の最高意思決定機関であり、取締役会よりもさらに重要な、会社の経営に関わる内容の決議を行います。

なお、取締役会設置会社と取締役会“非”設置会社では、株主総会の決議事項が異なります。具体的には、取締役会“非”設置会社のほうが、株主総会決議事項の範囲は広くなります。取締役会設置会社はこれから記載する決議事項のうちの一部を取締役会決議事項とすることもできます。

株主総会決議の種類と決議事項・要件

株主総会の決議は、次の表のとおり、大きく4種類にわけられます。

普通決議(特別普通決議を含む)議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席出席した株主の議決権の過半数の賛成
特別決議議決権を行使できる株主の議決権の過半数(定款で1/3以上の割合で定めた場合は1/3以上)を有する株主が出席出席した株主の議決権の2/3(これを上回る割合を定款で定めた場合はその割合)以上の賛成
特殊決議(特別特殊決議を含む)なし

【頭数】

議決権を行使できる株主の半数(これを上回る割合を定款で定めた場合はその割合)以上

【議決】

出席した株主の議決権の2/3(これを上回る割合を定款で定めた場合はその割合)以上の賛成

株主全員の同意なし(株主総会で一同に会することが条件ではない)株主全員の賛成

①普通決議

株主総会の普通決議とは、会社の基本的事項に関する決議です。

【普通決議】

定足数議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席
決議要件出席した株主の議決権の過半数の賛成

取締役会設置会社の株主総会の普通決議の決議事項は、次のとおりです。

●自己株式の取得
●総会検査役の選任
●業務財産検査役の選任
●役員の選解任
●会社と取締役の間の訴えにおける会社の代表者の選定
●会計監査人の出席要求決議
●計算書類の承認
●資本金の額の減少
●準備金の額の減少
●剰余金の処分・配当

取締役会非設置会社の場合、株主総会の決議事項は次のように変わります。

●譲渡制限株式・譲渡制限新株予約権の譲渡による取得承認
●譲渡制限株式の買取人の指定
●譲渡制限株式の割当
●募集新株予約権の割当
●取得条項付株式・取得条項付新株予約権の取得日
●取得する取得条項付新株予約権の決定
●株式分割
●新株予約権無償割当
●代表取締役その他の代表者の選定
●取締役の競業および利益相反取引の承認
●会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項
●また、普通決議には「特則普通決議」があります。これは通常の普通決議と異なり、定款に定足数1/3未満とすることができないものをいいます。

【特則普通決議】

定足数議決権を行使できる株主の議決権の過半数(定款の定めによっても1/3未満と定めることはできない)を有する株主が出席
決議要件出席した株主の議決権の過半数の賛成

特則普通決議の決議事項は、次の2つです。

●取締役・会計参与・監査役の選任
●取締役の解任

②特別決議

特別決議とは、「議決権を行使できる株主の過半数を有する株主が出席し(定款で1/3以上の割合で定めた場合は1/3以上)」かつ「出席した株主の議決権の2/3(これを上回る割合を定款で定めた場合はその割合)の賛成」を必要とする決議です。特別決議は、会社経営の中でも特に重要な事項を決めるものです。

【特別決議】

定足数議決権を行使できる株主の議決権の過半数(定款で1/3以上の割合で定めた場合は1/3以上)を有する株主が出席
決議要件出席した株主の議決権の2/3(これを上回る割合を定款で定めた場合はその割合)以上の賛成

特別決議の決議事項は、次のとおりです。

●譲渡制限株式の買取
●特定株主からの自己株式の取得
●全部取得条項付種類株式の取得
●一般承継人に対する株式売渡請求
●株式の併合
●全株式譲渡制限会社における募集株式・新株予約権の発行等
●特に有利な払込金額による募集株式の発行等
●特に有利な条件による新株予約権の発行等
●累積投票取締役・監査役の解任
●役員の責任の一部免除
●資本金の額の減少
●現物配当
●定款の変更
●事業譲渡の承認
●解散
●解散した株式会社の継続
●吸収合併契約・吸収分割契約・株式交換契約の承認
●新設合併契約・新設分割計画・株式移転計画の承認

③特殊決議

特殊決議とは、議決権を行使できる株主の半数(これを上回る割合を定款で定めた場合はその割合)以上が、議決権の2/3(これを上回る割合を定款で定めた場合はその割合)以上の賛成を必要とする決議です。

【特殊決議】

定足数なし
決議要件【頭数】
議決権を行使できる株主の半数(これを上回る割合を定款で定めた場合はその割合)以上
【可決】
議決権を行使することができる株主の議決権の2/3(定款でこれを引き上げることは可能)以上の賛成

特殊決議は、会社の非常に重要な事項を決めるものです。ほかの決議事項と異なり定足数の定めはないものの、頭数と議決権の両方が要求される、多数決に比重を置いたものとなっています。

特殊決議の決議事項は、次の2つです。

●株式が定款変更により譲渡制限株式になる場合
●組織再編行為により譲渡制限株式を交付される場合

さらに、特殊決議よりも議決要件が厳しい「特別特殊決議」があります。特別特殊決議とは、議決権を行使できる株主の半数(これを上回る割合を定款で定めた場合はその割合)以上が、議決権の3/4(これを上回る割合を定款で定めた場合はその割合)以上の賛成を必要とする決議です(会社法309条4項)。

【特別特殊決議】

定足数なし
決議要件 【頭数】
議決権を行使できる株主の半数(これを上回る割合を定款で定めた場合はその割合)以上
【可決】
総株主の議決権の3/4(定款でこれを引き上げることは可能)以上の賛成

特別特殊決議の決議事項は、次のとおりです。

剰余金の配当・残余財産の分配・株主総会の議決権につき株主ごとに(属人的に)異なる取り扱いを行う旨の定款の変更する

④株主全員の同意が必要な決議

株主総会の決議事項の中には、株主全員の同意が必要なものもあります。株主全員
の同意が必要ですが、全員の株主が一同に会する必要はなく、株主全員にそれぞれ同意を得られれば決議できます。

株主全員の同意が必要な決議事項は、次のとおりです。

●役員等の責任の全部免除
●全ての株式への取得条項の設定、変更
●自己株式取得にかかる会社法第160条の規定の排除
●組織変更

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株主総会の決議を省略できる場合がある

株主総会でとある決議事項が提案された場合、株主全員が書面または電磁的記録により同意の意思表示をしている場合は、可決されたものとみなし、株主総会の決議を省略できます。これを「書面決議」といいます。

書面決議は株主全員の同意が必要なため、株主が少数の会社で実施されやすく、株主が多い上場企業などでは現実的に困難です。

書面または電磁的記録は10年間保存する

書面決議を実施した場合、決議の日から10年間は、書面または電磁的記録を10年間本店に備え置く必要があります。また、株主および債権者は、会社の営業時間内であれば、保存された書面または電磁的記録の閲覧などを請求できます(会社法319条2項・3項)。

株主全員の同意で株主総会への報告も省略可

取締役は、計算書類の内容を定時株主総会で報告する必要があります。この株主総会への報告について、取締役が株主全員に報告すべき事項を通知し、当該事項を株主総会に報告しないことを株主全員が書面または電磁的記録で同意の意思表示をしたときは、株主総会への報告を省略できます(会社法320条)。

先ほどと同様、株主の少ない会社においては、株主総会の手続きを省略できる有効な手段です。

M&Aと株主総会決議の関係

最後に、株主総会の決議が必要なM&Aの手法を2つ紹介します。

事業譲渡

事業譲渡とは、会社の事業の全部または一部を譲渡することです。事業譲渡には、譲渡企業または譲受企業で株主総会の特別決議が必要になるケースがあります。

株主総会の特別決議が必要な事業譲渡について、会社法467条で次のように定められています。

●事業の全部の譲渡
●事業の重要な一部の譲渡
●子会社の株式または持分の全部または一部の譲渡
●他の会社の事業の全部の譲受け
●事業の全部の賃貸、事業の全部の経営の委任、他人と事業上の損益の全部を共通にする契約その他これらに準ずる契約の締結、変更または解約

一方で、上記の事項に当てはまっていたとしても、以下のケースでは株主総会の特別決議は必要ありません(会社法468条)。

●略式事業譲渡…譲受企業が、譲渡会社の総株主の議決権の90%以上を有するときの事業譲渡。なお、譲渡会社の議決権の90%以上を所有している会社のことを特別支配会社という。最終的に特別支配会社の意向となるため、特別決議を省略できる。
●簡易事業譲渡…譲渡する資産の帳簿価額が当該会社の総資産額の5分の1を超えない、小型の事業譲渡。特別決議が省略できる。

参考:事業譲渡の際に株主総会は必要?不要?譲渡の流れも併せて解説

株式譲渡

株式譲渡とは、会社の経営者やオーナーが所有する株式を、親族や第三者へ譲渡することです。

株式譲渡の場合、譲受側(買い手)またが譲渡側(売り手)で、株主総会が必要かどうか変わります。

●譲受側(買い手)…不要
●譲渡側(売り手)…原則不要だが、①譲渡対象である株式・持分の帳簿価額が親会社の総資産額の5分の1を超え、かつ、②効力発生日において当該子会社の議決権の総数の過半数を有しない結果となるときは、株主総会の特別決議が必要となる

ただし、株主総会は不要であったとしても、取締役会の決議を取るケースが多くなっています。

まとめ

株主総会の決議事項は、会社運営について、株主総会で決議する重要事項のことです。株主総会の決議は、大きく「普通決議」「特別決議」「特殊決議」「株主全員の同意」の4種類があります。

それぞれに定足数と決議要件が定められているため、株主総会の決議を取りたい場合は、それぞれ承認に必要な条件を確認するようにしましょう。

関連記事「事業譲渡の際に株主総会は必要?不要?譲渡の流れも併せて解説

関連記事「経営権とは?獲得するための条件と事業承継のポイント

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