金庫株とは?
金庫株とは、 企業が株主から買い戻した発行済み株式のなかで、譲渡や消却をせずに自社で保有している自己株式のことです。
元来、処分や他の理由なく、金庫株を保有していることは禁止されていました。しかし、2001年の商法改正により規制が緩和され、現在では特定の用途がなくても金庫株を保有できるようになっています。
金庫株の"処分”の定義と方法
金庫株の”処分”とは、会社法で定められた手続きに則り、自己株式を譲渡することです。金庫株を譲渡することで、資金を得られるのが特徴です。
金庫株の譲渡対価を企業が自由に決めてしまうと、既存の株主は損をしてしまう可能性があります。そこで金庫株の処分に関わる譲渡対価や処分数などは、原則として株主総会によって決議します。
金庫株の”消却” の定義と方法
金庫株の”消却”とは、その名のとおり、自己株式を消滅させることです。自己株式は消滅することになるため、消却によって発行済株式数は減少します。
金庫株を消却するには、取締役会の決議を必要とします(取締役会非設置会社は取締役の過半数の賛成を必要とします)。また、金庫株を消却した際には、登記の変更手続きを行う必要があります。
金庫株を活用するメリット
金庫株を取得すると、どのようなメリットがあるのでしょうか?金庫株活用の主なメリットを4つ紹介します。
事業承継の相続税負担を軽減できる
金庫株の活用により、事業承継時の相続税負担を軽減できるメリットがあります。事業承継のネックとなる点の1つに多額の相続税負担があり、後継者にとって重くのしかかります。
そこで、事業承継で後継者が承継した株式を金庫株として会社に買い取ってもらうことにより、譲渡代金を相続税の納税資金として活用することができます。
また「金庫株特例」を適用することで、相続税負担を軽減できる制度があります。本特例では、相続した株式を相続開始後3年以内に金庫株にするなど一定の要件を充足した場合には、みなし配当として総合課税の最高税率55%生じる税金が、譲渡所得として分離課税の約20%の税負担に軽減されます。
このように、金庫株をうまく活用することで納税負担を軽減できます。
M&Aの対価にできる
金庫株は、M&Aの際に対価として活用できます。自己株式を取得し、M&Aの対象とすることで、事業統合や企業価値の向上に貢献できます。
金庫株の利用により、取引条件や価値の調整が柔軟に行えるため、円滑なM&Aの実現が可能となります。
取得によって株価の上昇を期待できる
金庫株の取得によって、株価の上昇を期待できます。自己株式の取得は、市場での需要を増やし、株価上昇の期待が高まることがあります。
特に、取得後の株式数の減少に伴う1株あたりの価値の増加や、株主還元策の実施による株主の期待感などが、株価の上昇要因となることがあります。株式市場の動向や企業の業績などを考慮しながら、金庫株の取得による株価上昇の可能性を評価する必要があります。
敵対的買収の防衛策となる
金庫株は、敵対的買収の防衛策として活用できます。自己株式を取得し、所有権を確保することで、敵対的な買収を困難にできます。金庫株の存在は、企業の経営陣や株主に安心感を与え、経営の安定性や独立性を保つことに寄与します。
ただし、敵対的買収に対する効果や防衛策には個別の事例や企業状況に応じた検討が必要です。
また、敵対的買収の防衛策だけでなく、後継者以外の相続人から会社が金庫株として株式を取得することにより、後継者の株式保有割合を高め経営権を集中させることもできます。
金庫株を活用するデメリット
金庫株を活用することは、メリットだけでなく、デメリットも存在します。金庫株活用の主なデメリットを3つ紹介します。
資金繰りが悪化する可能性がある
金庫株の取得には資金が必要です。資金を捻出することによって資金繰りが悪化し、企業の経営に悪影響を及ぼす可能性があります。
特に、大量の金庫株取得や、処分に伴う資金が移動する場合には、資金計画や財務戦略の見直しが必要です。企業の将来の成長計画やキャッシュフローの予測を考慮しながら、金庫株の活用のリスクと資金ニーズを適切に評価する必要があります。
分配可能額を超えて買い取れない
金庫株の取得は、株主への配当とみなされるため、企業の剰余金分配可能額を超えて買い取ることはできません。
そのため、取得計画の策定時には、企業の財務状況や利益の予測、資本政策とのバランスを考慮して、適切な取得計画を立てる必要があります。
取得・処分に手間がかかる
金庫株の取得や処分には、手続きや手間がかかることがあります。例えば、株主総会での承認や特定の株主との交渉、市場での売却手続きなどが必要です。また、金庫株の処分や消却に関しても、適切な文書作成や手続きの実施が求められます。
これらの手続きには、法的な規制や企業の内部ルールに則り、正確かつ適切に行うことが必要です。
金庫株を取得する方法
金庫株を取得する方法は、主に5つあります。
株主を指定せずに取得する
金庫株の取得方法の一つは、株主を指定せずに、株主全員に申込みの機会を与えて自己株式を買い取ることです。この場合、株主全員に通知する必要があるなど一定の条件や手続きに基づき、自己株式を買い取ることになります。
特定の株主から取得する
金庫株の取得には、特定の株主から自己株式を取得する方法もあります。例えば、主要株主や関係者が譲渡を行うことで、金庫株を取得できます。
ただし、特定の株主との交渉や合意形成が必要となるため、株主間の関係性や利害の調整が求められます。
立会市場による買付け
金庫株の取得方法として、立会市場における買付けがあります。企業が自己株式の買付けを申し込み、株式市場において一般の株主から買い取る方法です。
この場合、市場での需要と供給に応じた価格で取引が行われます。取引のタイミングや価格設定には慎重な判断が求められます。
事前公表型の終値取引による買付け
金庫株の取得方法として、事前公表型の終値取引があります。企業が自己株式の買付けを事前に公表し、終値取引によって一般の株主から買い取る方法です。
取引日の終値で株式を取得することが特徴です。この方法は、市場での影響を最小限に抑えながら、効率的に買い付けを行うことができる場合があります。
事前公表型の自己株式立会外買付取引による買付け
金庫株の取得方法として、事前公表型の自己株式立会外買付取引があります。企業が自己株式の買付けを事前に公表し、立会外の取引所や証券会社を通じて一般の株主から買い取る方法です。
公表された条件に従って買い取りが行われます。この方法は、市場での公開買付けや買付け期間を設けずに、円滑に買い取りを実施する場合に最適です。
自己株公開買付け
金庫株の取得方法として、自己株公開買付けがあります。企業が自社の金庫株を一般の株主に公開買付けすることで、自己株式を取得します。この方法は、公開買付けの開始時期や価格、買付けの期間などを公表し、株主からの応募や売却申込によって取引が行われるものです。
公正な取引が確保されるように、証券取引所や金融当局の規制に沿って手続きを進める必要があります。
金庫株の仕訳・会計処理
最後に、金庫株の仕訳方法について解説します。
金庫株を取得した時
金庫株を取得した際の仕訳・会計処理では、取得原価で純資産の部の株主資本から控除され、純資産部のマイナスとして取り扱います。
具体的な仕訳は、下記のとおりです。
借方 | 自己株式 | 具体的な金額 | 貸方 | 現預金 (預り金)* | 具体的な金額 |
*源泉所得税が発生する場合
金庫株を処分した時
金庫株を処分する際の仕訳・会計処理では、自己株式の処分価格が取得価額を上回る場合には、自己株式処分差益が発生し、下回る場合には、自己株式処分差損が発生します。
具体的な仕訳は、下記のとおりです。
(自己株式の処分価格>取得原価の場合)
借方 | 現預金 | 具体的な金額 | 貸方 | 自己株式 自己株式処分差益 | 具体的な金額 |
(自己株式の処分価格<取得原価の場合)
借方 | 現預金 自己株式処分差損 | 具体的な金額 | 貸方 | 自己株式 | 具体的な金額 |
金庫株を消却した時
金庫株を消却する際の仕訳・会計処理では、自己株式の帳簿価額をその他資本剰余金から減額します(その他資本剰余金の金額がマイナスとなる場合には、そのマイナスの金額はその他利益剰余金の金額から減額します)。
具体的な仕訳は、下記のとおりです。
(その他資本剰余金の金額がマイナスとならない場合)
借方 | その他資本剰余金 | 具体的な金額 | 貸方 | 自己株式 | 具体的な金額 |
(その他資本剰余金の金額がマイナスとなる場合)
借方 | その他資本剰余金 その他利益剰余金 | 具体的な金額 | 貸方 | 自己株式 | 具体的な金額 |
まとめ
金庫株は、企業が自己株式を所有し、一定の条件下で処分や消却ができる株式です。 金庫株の活用には事業承継の相続税負担軽減やM&Aの対価、株価上昇期待、敵対的買収の防衛策などのメリットがありますが、資金繰り悪化や手続きの手間などのデメリットも存在します。そのため、金庫株の取得方法や会計処理を理解し、適切に活用することが重要です。
金庫株の処分や消却、金庫株の取得に関する適切な仕訳や会計処理も行うことで、企業の財務状況や経営効率の向上に貢献できます。金庫株の活用には、企業の特性や目的に合わせた戦略的な判断が求められます。
自己株式取得、処分や消却を検討中であれば、ぜひM&A DXにお任せください。M&A DXのM&Aサービスでは、会計などに関するさまざまなアドバイスも大手会計系M&Aファーム出身の公認会計士など実戦経験豊富なスタッフが行っています。
無料相談も実施しており、お電話やWebにていつでもお問い合わせを受け付けています。