【M&A】垂直統合とは?メリット・デメリットに併せて水平垂直統合に関しても解説!

会計士 牧田彰俊

有限責任監査法人トーマツ入所、各種業務の法定監査、IPO支援に携わる。その後、ファイナンシャルアドバイザリーサービス部門にてM&A アドバイザリー業務・財務デューディリジェンス業務・企業価値評価業務等に従事。組織再編によりデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社に異動し、主に国内ミドルキャップ案件のM&Aアドバイザリーとして、豊富な成約実績を収める。2018年、これまで以上に柔軟に迅速に各種ニーズに応えるべく株式会社M&A DXを設立し、現在に至る。

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既存事業と異なる事業をM&Aによって短期間に実現する多角化戦略は、グローバル化やデジタル化が進む市場において有効な経営戦略の1つと考えられています。本記事では、多角化戦略の一つ「垂直統合」のメリット・デメリット、及び、よく比較される「水平統合」との違いについても詳しく解説します。

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垂直統合とは

1つの製品が開発され消費者の手に渡るまでには、バリューチェーン(価値連鎖)と呼ばれる一連のビジネス活動の流れがありますが、一般には次のようなプロセスになります。

「垂直統合」とは主力事業に関連するバリューチェーンの一部又は全てを一括して自社で行う垂直型・多角化戦略のことで、例えば、食品加工会社が良質な食材を安価で調達するために川上に位置する農場を経営する(原料の調達)、あるいは川下に位置するレストランやフードショップを経営する(販売)などが該当します。どれくらいの範囲で垂直統合するかは自由ですが、大きな付加価値を生み出す会社を垂直統合できれば、主力事業の強化及び内製化によるコスト削減に伴う利益の増加につながります。

逆に、「水平統合」とは既存事業と同じ業種や業態の会社とM&Aや業務提携等によってそれぞれの企業が持つリソースやノウハウを共有し、スケールメリットを活かして競争力を高める経営戦略を言います。

M&Aにおける垂直統合とM&Aにおける水平統合の具体的な違い

M&Aにおける垂直統合とM&Aにおける水平統合は、どのような目的で選択されるのか、また、実施することでどのような効果が期待できるのか、それぞれ見て行きましょう。

M&Aにおける垂直統合の目的と効果

M&Aにおける垂直統合の目的は多角化戦略の早期実現にあります。同じバリューチェーン上で既存事業と関係が深い会社を、M&Aによって自社に取り込み事業の多角化を図る手法は、新規事業をゼロから開発する手法よりも短期間に実現できます。

M&Aにおける水平統合の目的と効果

M&Aにおける水平統合の目的は事業規模拡大の早期実現にあります。既存事業と同じ業種・業態の会社をM&Aによって自社に取り込む手法は、経営資産の相互利用やスケールメリットなどのさまざまなシナジー効果が期待できます。

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M&Aにおける垂直統合のメリットとデメリット

M&Aにおける垂直統合には多くのメリットがありますが、同じバリューチェーン上の事業を統合することから生じるデメリットも存在するので、よく理解しておく必要があります。

M&Aにおける垂直統合のメリット

M&Aによる垂直統合を行う主なメリットには次の4つが考えられます。

短期間に事業の多角化が行える

M&Aの最大のメリットは、実際に事業を行っている会社を譲受するため、ゼロから新規事業を立ち上げるよりも短期間で事業化することが可能です。

低リスクで事業の多角化が可能となる

M&Aにおける垂直統合は、既存事業のリソースや技術が活かせる会社を取り込むため、全く初めての事業を展開するよりもリスクが低くなります。

取引コストを削減できる

バリューチェーン内で直接取引のある会社をM&Aによって垂直統合すれば、仕入コストの削減や合理化により、利益率の向上が期待できます。

市場競争力が高まる

M&Aによる垂直統合はバリューチェーンの安定・強化につながるため、市場における支配力・競争力の向上が期待できます。 

M&Aにおける垂直統合のデメリット

M&Aによる垂直統合の主なデメリットには、次の4つが考えられます。

多額の資金が必要となる

M&Aのスキームによっては金銭の移動を伴わずに行うことも可能ですが、一般的にはM&Aを行う際には多額の資金を支出することになります。

取引量にコストが影響される

例えば、衣料品メーカーがM&Aによって川上の生地メーカーを買収した場合、取引量が多ければ生地を安価で仕入れることができますが、逆に十分な数量を発注できなければコストが増加し、他社から仕入れるよりも仕入価格が高くなる可能性があります。

新技術・新製品の導入の障害となる

他社が新しい技術や製品を開発しても、自社の経営資源が制約となり、設備変更や工程の変更等の柔軟性が欠ける場合があります。また、バリューチェーンの中で内部調達するという経営方針が新技術や新製品の導入の障害になり、製品・サービスの市場競争力が低下する可能性があります。

販売にディスシナジーが生じる可能性がある

垂直統合によりグループ化した企業には自社以外にも取引先がおり、その取引先が自社のライバル企業である場合、グループ化を知ったライバル企業は取引先をスイッチする可能性があります。この場合、当該ライバル企業の剥落により、当初見込まれていた売上が減少する可能性があります。

M&Aにおける水平統合のメリットとデメリット

M&Aにおける水平統合は、バリューチェーンとは関係なく既存事業と同じ業種や業態の会社を取り込むものですから、多くのシナジー効果が期待できますが、その反面、類似する事業を統合することによるデメリットも存在します。

M&Aにおける水平統合のメリット

M&Aにおける水平統合を行う主なメリットには、次の2つが考えられます。

短期間でリスクを抑えて事業化することができる

M&Aの最大のメリットは、実際に類似事業を行っている会社を獲得することから、ゼロから新規エリアへの進出や取引先の発掘、さらには技術開発やノウハウを蓄積するよりも短期間でリスクを抑えて事業化することが可能になります。

既存事業を拡大・強化できる

既存事業とのシナジー効果によって買手、売手双方の顧客や技術・販売ルートなどの共有が可能となることをクロスセリングといいます。事業規模の拡大、市場競争力の強化、新技術の開発、共通化による製造コスト削減やボリュームディスカウントによる仕入コスト削減などが期待できます。

M&Aにおける水平統合のデメリット

M&Aにおける水平統合の主なデメリットには、次の2つが考えられます。

多額の資金が必要となる

M&Aにおける垂直統合と同様に、一般的なM&Aのスキームでは多額の資金を支出することになります。

シナジー効果が得られないリスクがある

従業員間の格差や優秀な人材の流出などによって、事前に期待していたようなシナジー効果が得られない可能性があります。

上記の他に、M&Aにおける水平統合は同じ市場におけるシェア拡大により独占禁止法の規制対象になる可能性もあります。

関連記事:「【必読】企業が注意すべき独占禁止法に基づくM&Aの規制とは?ケースごとに解説

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M&Aにおける垂直統合と水平統合の比較

M&Aにおける垂直統合と水平統合の違いについて、ここまで解説してきましたが整理すると次のようになります。

 M&Aにおける垂直統合M&Aにおける水平統合
実施目的・多角化の早期実現・市場拡大の早期実現
期待される効果・強力なバリューチェーンの構築・既存事業とのシナジー効果
メリット・短期間に事業の多角化が行える
・低リスクで事業の多角化が可能
となる
・取引コストを削減できる
・市場競争力が高まる
・短期間でリスクを抑えて事業化
することができる
・既存事業を拡大・強化できる
デメリット・多額の資金が必要となる
・取引量にコストが影響される
・新技術・新製品の導入の障害
となる
・販売にディスシナジーが生じる
可能性がある
・多額の資金が必要となる
・シナジー効果が得られないリス
クがある

M&Aにおける垂直統合の事例を紹介

M&Aにおける垂直統合の中で、異なる目的で成功したMicrosoftとAmazonの事例を紹介します。

Microsoftの事例

かつて、巨大IT会社は頭文字をとって「GAFMA」と呼ばれていましたが、いつの間にかMicrosoftの「M」が抜けて「GAFA」と呼ばれるようになりました。その理由は、Microsoftが圧倒的なシェアを誇るパソコン用OS 「Windows」にこだわりすぎて、スマートフォンやクラウドサービスなどの時代の流れに乗り遅れたからです。

そこで、Microsoftは数々のM&Aにおける垂直統合を実施し、2018年には時価総額でAppleを抜くまでになりましたが、その原動力となったM&Aの事例には次のようなものがあります。

1987年 パワーポイントを開発した「forethought」を買収
1997年 無料E-mailの「Hotmail」を買収
2011年 無料メッセージツール「Skype」を買収
2014年 Minecraftを開発したゲーム開発会社「Mojang」を買収
2016年 世界最大のビジネス用SNSツール「LinkedIn」を買収
2018年 4000万人が利用のソフト開発プラットフォーム「GitHub」を買収

MicrosoftはこのようなM&Aにおける垂直統合によって、OS「Windows」の川下に位置する強力なツールを手に入れるとともに、M&Aによって得た技術やノウハウを活かして主力の「Office」の強化、他社(特にスマートフォン)OSへの対応、クラウド化やサブスクリプションの導入などを実施。その結果、市場環境の変化に対応した多様性のある事業構造へと再構築することに成功しました。

Amazonの事例

M&Aにおける垂直統合によって事業構造を転換させ成功したMicrosoftに対し、次にあげるAmazonのM&Aにおける垂直統合は、まさにバリューチェーンの強化がメインターゲットでした。

2009年 米国で急成長の靴のネットショップ「Zappos」を買収
2014年 ゲームのライブストリーミング配信のプラットフォーム「Twitch」を買収
2017年 米国の自然食品やオーガニック・フードを中心とする大手スーパーマーケットチェーン「Whole FoodsMarket」を買収

ZapposやWhole FoodsMarketなどの買収によって、Amazonは川下に位置するネットショップの差別化や品揃えの拡充を実現し、Twitchの買収によってAmazonの動画配信サービス「Amazon Prime Video」に新たな人気コンテンツを加えるなど、多角化によってユーザーの拡大に成功しました。

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M&Aにおける垂直統合を成功させるポイント

ここまで、M&Aにおける垂直統合について詳しく解説してきましたが、ここでは、実際にM&Aにおける垂直統合を行う際に重要となる4つのポイントを紹介します。

目的や期待する効果を明確にする

前項で紹介した事例のようにM&Aにおける垂直統合の目的や期待する効果は、会社によってそれぞれ異なります。Microsoftの場合は事業構造の再構築、Amazonの場合はバリューチェーンの強化を、競合他社よりもスピーディに実現することがM&Aにおける垂直統合の目的でした。自社が行う場合であっても、最初に「垂直統合」を行う経営戦略上の目的やシナジー効果を明確にし、次に実行手段として「M&A」を選択する理由を明確にしなければなりません。

M&Aのスキームを選択する

M&Aには株式譲渡や事業譲渡などさまざまなスキームがあるので、M&Aにおける垂直統合の目的や期待する効果、さらには投資可能な資金などに適合するスキームの選択が必要になります。例えば、バリューチェーンのプロセスで、商品開発、製造、マーケティングなど弱い部分があれば、能力の高い会社を株式譲渡によって子会社化する、あるいは自社に欠けている事業を費用を抑制しながら自社内に取り込むために事業譲渡を選択するなどが考えられます。

M&A後の経営統合プロセスを考える

経営統合プロセス(PMI)は、M&Aの成否を左右すると言われるくらい重要な作業です。特に同じバリューチェーン上の垂直統合の場合には、同じ方向に向かって協力体制を構築できなければ成功は難しくなります。そこで、ビジョンや経営目標の共有、意思決定プロセスの明確化、さらには、人事評価制度や報酬制度など従業員間の格差が生じないよう配慮しなければなりません。また、事業だけではなく ITシステムやバックオフィスの統合も重要になるので、PMIをどのように進めるかについて事前にしっかりと考えておくことが重要です。

M&Aの専門家のアドバイスを得る

M&Aにおける垂直統合を行う場合には、経営戦略の策定と共に前述のM&Aにおけるスキームの選択や経営統合プロセスが非常に重要となりますが、M&Aの専門知識なしに自社だけで行う場合には大きなリスクを伴います。そこで、M&Aに関する知識や経験が豊富な専門家のアドバイスを得ながら進めることが、M&Aにおける垂直統合を成功に導くための大きなポイントとなります。

まとめ

M&Aにおける垂直統合は事業の多角化を目的とした経営戦略の一つです。一旦、垂直統合に向けてスタートすれば簡単に変更することはできないので、メリット・デメリット、水平統合との違いについて十分理解し、できれば事前に専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。

関連記事「M&Aの戦略策定の流れとは?目的と事例も紹介

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