事業譲渡の仕訳方法とは?会計処理や税務処理も紹介します!

税理士 安江一将

会計コンサルティング会社・税理士法人及びベンチャー企業2社に勤務。会計コンサルティング会社・税理士法人では税務顧問・税務申告のほかに、事業承継支援業務、組織再編業務、IPO支援業務、M&A業務を数多く実行。ベンチャー企業では管理部長・経営企画室を歴任し、上場のための体制構築・実行支援を推進する。大手コンサルティング会社名古屋支社副支社長を経て2019年8月に安江一将税理士事務所として開業した後、さらにM&A業務を推進することを目的として株式会社M&A DXに参画し、現在に至る。

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事業譲渡を検討している方の中には、取引内容をどのように仕訳すればよいか、税金面で何を注意しなければいけないか、悩んでいるという方もいるのではないでしょうか。

そこでこの記事では、事業譲渡の仕訳方法や会計処理・税務処理についてご紹介します。ケース別の仕訳方法を理解すれば、自社が事業譲渡を行う際の不安を取り除けるでしょう。ぜひ参考にしてみてください。

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事業譲渡とは

事業譲渡とは

事業譲渡とは、譲渡側(売り手側)の企業が譲受側(買い手側)の企業に事業の一部または全部を譲渡(売却)するM&Aの手法のひとつです。会社の全部を譲渡する株式譲渡とは異なり、事業に関連する資産の中で売りたいものだけを売却できます。たとえば、商品在庫や商標だけ売却して、設備や土地は売却しないという選択も可能です。

譲渡する内容に応じて仕訳方法も異なります。自社の立場やケースに合った仕訳ができるよう準備を整えておきましょう。

事業譲渡の基本的な仕訳方法

事業譲渡の基本的な仕訳方法

事業譲渡が成立した際の譲渡側(売り手側)と譲受側(買い手側)それぞれの仕訳方法を解説します。負債はなく資産のみを譲渡する以下のような事例で考えてみましょう。なお、表内の単位はすべて「千円」です。

勘定科目簿価(千円)時価(千円)
棚卸資産30,00030,000
土地300,000350,000
建物60,00055,000
機械装置100,00090,000
特許権2,000110,000
商標権5001,500
合計492,500636,500

譲渡(売り手)企業の仕訳方法

事業譲渡の際は、簿価ではなく時価で売却価格を決めるのが一般的です。一方、譲渡する資産は簿価で計上するため、時価総額から簿価総額を差し引いた金額が「事業譲渡益」となります。借方には現金預金(売却価格)、貸方には売却した資産や事業譲渡益を記載しましょう。

借方貸方
勘定科目金額(千円)勘定科目金額(千円)
現金預金636,500棚卸資産30,000
土地300,000
建物60,000
機械装置100,000
特許権2,000
商標権500
事業譲渡益144,000

消費税に関しては、貸方に「仮受消費税」を、借方に同額の現金預金を記載します。ただし、土地は非課税です。

譲受(買い手)企業の仕訳方法

譲受側(買い手側)は簿価ではなく時価で資産を譲受するため、資産の金額はすべて時価で記載します。今回のケースでは、簿価総額と時価総額の差額により譲渡側(売り手側)に利益が出る形です。譲渡側(売り手側)の仕訳とは反対に、「譲受する資産は借方に」「現金預金(売却価格)は貸方」に記載しましょう。

借方貸方
勘定科目金額(千円)勘定科目金額(千円)
棚卸資産30,000現金預金636,500
土地350,000
建物55,000
機械装置90,000
特許権110,000
商標権1,500

消費税に関しては、借方に「仮払消費税」を記入し、貸方に同額の現金預金を記入します。譲渡側(売り手側)の仕訳と同じく、土地に関しては非課税です。

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のれんが発生する場合の仕訳方法

のれんが発生する場合の仕訳方法

前述の例では、帳簿上にはない無形資産や将来的なキャッシュフローを加味していませんが、事業譲渡においては帳簿外の企業価値を表す「のれん(営業権)」を含めるのが一般的です。ここでは、のれんを計上する場合の仕訳方法を解説します。なお、使用するのは先ほどと同じ事例です。

譲渡(売り手)企業の仕訳方法

のれんが発生する場合、のれん分の事業譲渡益が加算されます。前述の例では時価6億3,650万円が売却価格でしたが、実際には9億円で売却したと考えましょう。この場合、譲渡側(売り手側)の仕訳内容は以下のとおりです。

借方貸方
勘定科目金額(千円)勘定科目金額(千円)
現金預金900,000棚卸資産30,000
土地300,000
建物60,000
機械装置100,000
特許権2,000
商標権500
事業譲渡益407,500

現金預金と事業譲渡益の金額以外は、前述の例と同じです。ただし、のれんも消費税の課税対象となるため、消費税額も大きくなることに注意しましょう。

譲受(買い手)企業の仕訳方法

譲渡側(売り手側)は事業譲渡益にのれん代を含めましたが、譲受側(買い手側)では勘定科目を追加する必要があります。貸方の現金預金を9億円とし、時価総額との差額は借方に「のれん」として記載しましょう。この場合、譲受側(買い手側)の仕訳内容は以下のとおりです。

借方貸方
勘定科目金額(千円)勘定科目金額(千円)
棚卸資産30,000現金預金900,000
土地350,000
建物55,000
機械装置90,000
特許権110,000
商標権1,500
のれん263,500

なお、のれんは償却資産なので、最長20年間に渡って減価償却できます。減価償却に関しては、借方に「のれん償却費」貸方に「のれん」と記載しましょう。

負ののれんが発生する場合の仕訳方法

負ののれんが発生する場合の仕訳方法

前章で解説したのは「正ののれん」が発生するケースでしたが、のれん代により売却価格が時価総額を下回る「負ののれん」が発生する場合もあります。たとえば、多額の簿外債務が発覚した際に発生するもので、仕訳方法はより複雑になります。ここでは、負ののれんが発生する場合の仕訳方法を解説します。なお、使用する事例は同じです。

譲渡(売り手)企業の仕訳方法

負ののれんが発生する場合、時価総額からのれん代を差し引いた金額が売却価格となるため、事業譲渡益は減少します。簿価を下回る金額になると仕訳が複雑になるため、5億5,000万円で売却したとして考えてみましょう。この場合、譲渡側(売り手側)の仕訳内容は以下のとおりです。

借方貸方
勘定科目金額(千円)勘定科目金額(千円)
現金預金550,000棚卸資産30,000
土地300,000
建物60,000
機械装置100,000
特許権2,000
商標権500
事業譲渡益57,500

正ののれんが発生した場合と同じく、譲渡側(売り手側)はのれん代について処理する必要はありません。

譲受(買い手)企業の仕訳方法

負ののれんが発生すると、譲受側(買い手側)は時価総額よりも安い価格で事業を譲受できます。正ののれんは借方に記載しましたが、負ののれんは貸方に時価総額との差額を記載しましょう。この場合、譲受側(買い手側)の仕訳内容は以下のとおりです。

借方貸方
勘定科目金額(千円)勘定科目金額(千円)
棚卸資産30,000現金預金550,000
土地350,000負ののれん86,500
建物55,000
機械装置90,000
特許権110,000
商標権1,500

ここで注意したいのは、のれん代を減価償却するのではなく、事業年度の「特別利益」として一括で処理することです。負ののれん分の利益が出ていると考えるとよいでしょう。

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事業譲渡の注意すべき税務

事業譲渡の注意すべき税務

事業譲渡では、会計だけでなく税務に関する理解も深めるとよいでしょう。会計と税務は関連していますが、会計上の処理と税務上の処理は一致しない場合もあります。ここでは、事業譲渡の税務処理で注意すべき点について見ていきましょう。

法人税の税務処理

事業譲渡が成立した際、譲渡側(売り手側)は売却価格を事業年度の益金に算入し、簿価は損金に算入します。売却価格が簿価総額を上回っている場合、差額が課税所得となり法人税が課税されます。一方、売却価格が簿価総額を下回る場合には課税所得はマイナスとなります。

のれんの(資産(負債)調整勘定)の税務処理

売却価格と簿価総額に差額が生じた場合、会計上ではのれんと呼びますが、税務上では「資産調整勘定」や「差額負債調整勘定」と呼びます。資産調整勘定や差額負債調整勘定は、60か月に渡って月割で償却していきます。会計上ののれんのように、最長20年以内の任意期の期間で償却する方法ではないことに注意しましょう。

負債調整勘定の税務処理

差額負債調整勘定に加え、「退職給与負債調整勘定」「短期重要負債調整勘定」の3つをまとめて「負債調整勘定」と呼びます。
退職給与負債調整勘定は、譲り受けた従業員に対する退職金の金額です。譲渡側(売り手側)で働いた期間に対応する退職金を支払うと約束し、その金額を負債として計上します。なお、退職給与債務引受額は事業譲渡後は増加することはなく、従業員がやめた際に対応する部分を取り崩していきます。
「短期重要負債調整勘定」は定義が漠然としていますが、事業譲渡により将来的にその事業に対して重大な影響を与える支払いが見込まれている場合に、その支払いを引き受けたときその見込額を計上します。

減価償却資産の税務処理

減価償却資産にあたる固定資産を譲受した場合、残りの使用可能年数を見積もって耐用年数を計算します。しかし、中には見積もりが難しいケースもあります。その場合、中古資産の耐用年数の計算方法を用いて、法定耐用年数を超えていないなら「(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×20%」で算出します。法定耐用年数を超えているなら「法定耐用年数×20%」で耐用年数の計算が可能です。

消費税の税務処理

事業譲渡では株式譲渡とは異なり、譲渡する資産に対して消費税が課税されます。つまり、譲渡側(売り手側)に消費税を納税する義務が発生するので、相当する金額を譲受側(買い手側)に請求します。

消費税額は、課税対象になる資産の売却価格に消費税率をかけて求めます。すべての資産が課税対象となるわけではないため、何が課税対象なのか把握する必要があります。

消費税がかかる取引、かからない取引

消費税の課税対象となるのは、土地以外の有形固定資産や棚卸資産・無形固定資産、のれんといった資産に関する取引です。一方、非課税となる取引は土地や有価証券、金銭債権の譲渡です。

非課税売上となる取引に注意

土地や有価証券、金銭債権の譲渡は非課税取引です。そのため、課税売上割合を下げる要因になることに注意しましょう。課税売上割合とは、消費税が課税された売上高の占める割合のことです。消費税は預かった消費税から仮払いした消費税を控除した差額を納付しますが、非課税売上が大きくなって課税売上割合が下がると仮払いした消費税のうち控除できる部分が減って納税額が大きくなるので事前に確認しましょう。
なお、課税売上割合の計算上、土地は対価の全額が非課税売上として取り扱われますが、有価証券や金銭債権は対価の5%相当額を非課税売上として取り扱いますので注意が必要です。

流通税がかかる取引

土地や建物を譲渡する際には、譲受側(買い手側)は不動産の所有権移転登記を行います。ここで発生するのが、「登録免許税」や「不動産取得税」といった流通税です。登録免許税は「固定資産税評価額×2%」不動産取得税は「固定資産税評価額×4%」で算出します。なお、これらの流通税は長らく特例措置が設けられているので事業譲渡時点で特例措置の有無と該当するかどうかを確認しましょう。

まとめ

まとめ

事業譲渡が成立した際には、時価やのれんを加味した売却価格をもとに、専門的な仕訳を行います。この記事で紹介した事例は仕訳方法を理解するための基礎的な内容で、実際の事業譲渡ではより複雑な仕訳が必要となるでしょう。売却価格は交渉により決定するため、例外的な処理をしなければならないケースも考えられます。

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