事業譲渡にかかる消費税とは
売り手側として自社の事業を買い手側に譲渡した場合、譲渡の対象となった資産に対しては消費税が課税されます。
資産というとモノやカネをイメージするかもしれませんが、会社の事業には資産や負債だけでなく、人材やブランドといったヒトや権利といった財産も含まれます。事業譲渡はこうした財産を売却することで利益を得ていると考えられるため、消費税が課税されます。
なお、消費税の納税にあたっては、事業を譲渡するときに譲り受ける側から消費税を含めた金額を徴収し、譲渡側が申告・納税します。
消費税の課税・非課税資産の分類
事業譲渡における消費税は売却する金額のすべてに対して課税されるわけではありません。あくまでも課税の対象となる資産に対してのみ課税されます。
課税されない資産についての知識を持つことは、M&Aを事業譲渡で対応すべきか、他の手段で対応すべきかを判断するのに重要です。
どのような分類があるのかをまずは見ていきましょう。
課税される資産
消費税の対象となる資産については、主に次の4つの資産があります。
・棚卸資産
・有形固定資産(ただし、土地を除く)
・無形固定資産
・のれん(営業権)
棚卸資産とはその会社が販売することを目的として保有している、いわゆる在庫のことです。
有形固定資産は、会社が保有する建物、営業車などの車、機械類や什器備品などです。なお、土地は課税資産に含まれません。
無形固定資産は物理的な存在形態のないもので、特許権や意匠権、商標権などの法的権利のことをいいます。
のれんは決算書上、営業権とされる勘定項目のことです。企業のブランドや従業員の能力など無形の資産を指すもので、譲渡企業の純資産と買収価格の差額がそれにあたります。
上記の資産に対しては事業譲渡の際に消費税が課税されます。
課税対象とならない資産
事業譲渡をしても消費税が課税されない資産もあります。これを非課税資産といいます。非課税資産には、主に次の3つがあります。
・土地
・有価証券
・債権
土地は有形の固定資産ですが、例外的に消費税が非課税となっています。本来消費税は事業の対価に対して課税されるものですが、土地はそうした消費税の性格になじまないことなどから非課税になっています。
有価証券は株式や債券、手形や小切手などのことです。債権は売掛金など、相手方に対して行為を請求する権利を指します。
ここまで課税対象となる資産、ならない資産をご紹介しましたが、これらはあくまでも代表的なものです。細かく対象となるかどうかを確認したい方は、M&Aの仲介サービス会社に相談してみましょう。
負ののれん(差額負債調整勘定)とは?
負ののれんとは税務上は差額負債調整勘定ともいい、非適格組織再編時に交付される再編対価が受け入れる純資産額の時価を下回る場合に計上される負債勘定です。
なお、消費税ではありませんが、負ののれんは税務上発生月から5年間の月割均等償却が必要となりますのでこちらも併せて注意が必要です。
消費税の計算方法
事業譲渡を検討している方は、実際に譲渡した際にどれくらいの消費税がかかるか計算しておきましょう。あらかじめ計算しておくことで事業譲渡を判断する際の材料になります。
今回は次のような例で計算します。
・売却金額 …… 2億1,500万円
・棚卸資産 …… 3,000万円
・建物 …… 4,000万円
・土地 …… 3,000万円
・車両運搬具 …… 2,000万円
・機械 …… 1,000万円
・有価証券 …… 1,500万円
・特許権 …… 2,000万円
・債権 …… 2,000万円
・のれん代 …… 3,000万円
この場合、消費税が課税される資産は棚卸資産、有形固定資産として建物、車両運搬具、機械、無形固定資産として特許権、そしてのれん代が課税資産となります。
これを合計すると次のようになります。
そして課税資産に対し消費税を乗じます。
<2019年9月まで>
1億5,000万円×8%=1,200万円(消費税額)
<2019年10月以降>
1億5,000万円×10%=1,500万円(消費税額)
事業譲渡での消費税の注意点
ここまで紹介したとおり、事業譲渡における消費税額は課税の対象となる資産が多ければ多いほど高額になります。せっかく譲渡しても課税資産が多いため、実際に残る金額はかなり減ってしまうこともあります。
それではどのような場合に消費税額が高くなってしまうのでしょうか。事業譲渡での消費税の注意点について解説します。
のれん代の額が大きくなる可能性がある
のれん代はその事業に含まれるノウハウや人材、ブランドといった利益を生み出す価値をいいます。のれん代は目に見えない価値であるため計算が難しく、一般的には営業利益の1~5年分で計算されます。
そのため営業利益が大きかったりブランド力が強力であったりした場合、のれん代の額も大きくなりがちです。のれん代は課税の対象となる資産であるため、必然的に消費税額も高くなる可能性があります。
【関連記事】事業譲渡でののれんとは一体?会計・税務上の取り扱いは?
棚卸資産には不確実性がある
棚卸資産はあらかじめ予想した金額で算出するわけではなく、事業譲渡の日を基準に決められます。在庫の状況は日々変動するため、事業譲渡を検討し始めた時の在庫数より事業譲渡をした日の在庫数が多ければその分消費税額も高額になります。
また、日々の変動が大きくなくても、多くの在庫を抱えざるを得ない事業を展開しているような場合は、消費税を計算する際のインパクトが大きくなります。あまりにも高額になる場合は、譲渡対象棚卸資産を絞ったり、場合によっては事業譲渡そのものを見直さなくてはならないため注意しましょう。
消費税が引き上げられる可能性がある
2019年10月から消費税が10%に引き上げられます。事業譲渡は消費税の額と手元に残る金額とのバランスを考えることが大切であるため、まさに増税は事業譲渡にとっての大敵と言えるでしょう。
事業譲渡は消費税が数パーセント異なるだけで手元に残る金額が大きく異なります。事業譲渡を検討する際は消費税の影響をよく考えてから判断するようにしましょう。
消費税対策の方法は?
事業譲渡における消費税の影響は大きいため、有効な消費税対策を講じることが重要です。特に2019年10月からは消費税が10%になるため、そもそも事業譲渡がベストなスキームであるのか慎重に検討する必要があります。
そこでここからは消費税対策の方法について紹介します。現在事業譲渡について検討している方はぜひ参考にしてみてください。
増税前に事業譲渡を行う
増税の導入が近い時期の場合、増税前であれば消費税をより多く支払うことになるリスクは避けられます。増税前のわずかな期間で事業譲渡を行うことは難しいかもしれません。
しかしそれ以降に事業譲渡する場合は、次の増税時期に注意して増税前に事業譲渡を行うようにしましょう。ちなみに消費税の導入から増税までの流れは次のとおりです。
1989年4月 …… 消費税法施行。税率は3%
1997年4月 …… 消費税率を5%に引き上げ
2014年4月 …… 消費税率を8%に引き上げ
2019年10月 …… 消費税率を10%に引き上げ
サイクルがあるわけではないため、次の増税時期を見極めることは難しいですが、今後も国の財政状況によって消費税が増税される可能性は否定できません。
事業譲渡における消費税は、M&Aの手法を選択する上での大事な判断材料となるため、リスクを最小限に留めるようにしましょう。
事業譲渡ではなく、会社分割や合併を行う
事業譲渡は、会社そのものではなく事業の全部あるいは一部のみを売却するM&Aのスキームです。会社を存続させることができるというメリットがありますが、同様の目的であれば会社分割という選択肢もあります。
会社分割は、事業の全部あるいは一部を切り離して別法人化させるため、会社法上は組織再編行為とされています。そのため消費税は課税されません。
もちろん、事業譲渡と会社分割は少なからず相違点も存在しますが、事業譲渡に限ったメリットにこだわらないのであれば、会社分割や合併といった他のM&Aのスキームを検討するのもひとつの手段でしょう。
会社分割や合併であれば、包括承継となり、すべての権利義務を承継できます。加えて消費税が課税されないことは大きなメリットと言えるのではないでしょうか。
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間違った消費税対策
企業としての資産価値が高ければ高いほど消費税は高くなりがちです。だからといって消費税額を下げるために企業としての価値を下げるべきではありません。
単純に消費税対策として利益を下げるようなことをしてしまうと、事業譲渡がしにくくなるばかりでなく、事業を売却する際の売却対価まで少なくなってしまいます。
また、不正な会計を行うことや必要以上の物資を買い込むようなことも信用を失い大きなペナルティを受ける可能性があります。間違った消費税対策をしないよう気をつけましょう。
まとめ
本記事では事業譲渡にかかる消費税の基本知識についてご紹介しました。ポイントとしては、消費税が課税される資産と課税されない資産があり、課税される資産が多いほど消費税も高くなることがおわかりいただけたかと思います。
しかし、事業譲渡では消費税の他に法人税もかかります。また、M&Aへ依頼するような場合は、仲介会社の手数料などさまざまな費用も発生します。
実際に事業譲渡をする場合どれくらいの費用がかかるのか、譲渡の際の税金や費用について詳しく相談したいのなら、ぜひ株式会社M&A DXの仲介サービスをご利用ください。