株式譲渡とは?
株式譲渡とは、売却企業オーナーが保有株式を買い手側の企業または個人へ譲渡し、会社の経営権を買い手側へ譲渡する手法のことです。事業譲渡のようなほかのM&Aの手続きより簡単なため、中小企業のM&Aで最も多く行われる手法になります。ほかの手法では、債権者保護手続き等の各種手続きをしなければなりませんが、株式譲渡はこれらの手続きをグッと抑えることが出来ます。
譲渡側は株式対価(金銭)を獲得し、譲受側は比較的簡便な手続きで会社を手に入れることができる手法なので、会社継承の方法として株式譲渡を利用するケースが多くなっています。ただし、上場企業の場合は特別な手続きが必要となり、中小企業より手続きの難易度が異なりますので注意してください。
株式譲渡をするメリット
株式譲渡のメリットはどのような点にあるのでしょうか。一番は、手続きが比較的簡単であることですが、そのほかの5つのメリットについてもこの章で解説していきます。株式譲渡を検討中の人はぜひご覧ください。
売却益を多く獲得できる
オーナーは株式公開よりも早く迅速に株式対価、つまりキャッシュを手に入れることができるでしょう。早期にキャッシュが必要な場合は株式譲渡がおすすめです。
株式譲渡の場合は売り手株主に売却益の約20%の所得税・住民税しか課税されません。事業譲渡では対価が法人に入り、売却益の約30%の実効税率が発生してしまいます。事業譲渡やほかのM&Aを利用するより、株式譲渡のほうが納める税金の額が少なくて済みます。
また、株式譲渡では企業まるごと譲渡することになるため、企業の有利子負債もそのまま譲渡することになります。この場合、通常有利子負債に紐づくオーナー経営者による連帯保証や自宅担保等の債務保証を解除することを条件とすることが出来ます。
手続きが比較的簡単にできる
株式譲渡は株式譲渡契約書を締結して、お金さえ支払えば成立するM&Aです。そのため、迅速に手続きを進めることができます。
株式の譲渡制限がある会社の場合は、定款の定めに基づき株式譲渡を許可する機関決定が必要となります。しかし、ほかのM&Aの手法に比べると迅速かつ簡便に手続きを完了できます。そのため、株式公開をするよりも早くどのような規模感の会社であってもキャッシュを手に入れることができるでしょう。
廃業コストを抑えることができる
経営者の高齢化や引退を理由に、黒字経営をしていた企業でも廃業や解散をするケースが近年増えています。特に中小企業の場合は顕著です。廃業ではなく株式譲渡をして事業継承することにより、廃業コストを抑えることができるでしょう。
仮に廃業するとしても「解散や清算の登記」「官報公告」「保険の廃止手続き」といった費用が発生します。廃業のための手続きを専門家に依頼した場合は、その分の費用も必要になるでしょう。
株式譲渡をして事業承継をすることで、手続きの費用を上回る対価を得ることができる可能性があります。
独立性を維持できる
株式譲渡を行った場合、株主以外は大きく変わらないケースが多々あります。経営権や所有権は譲渡しても経営者は譲渡前と同じ人物だったり、会社名や役員の構成などもそのまま引き継がれたり、株式譲渡後もこれまでの経営スタイルを続けることが可能です。
そのためには、株式譲渡の際に従業員の雇用や待遇の維持を条件にする必要があります。株式譲渡をきっかけに従業員が退職するリスクも減るでしょう。従業員の継続雇用に関しては、譲受側にとってもメリットがあることです。
株式譲渡のデメリット
株式譲渡はメリットの大きい手法ですが、少なからずデメリットも存在します。
最も注意しておきたいのは包括的承継になってしまうという点です。包括的承継とは買い手が売り手の会社の全てを承継することです。
その際、売り手の会社の事業や従業員、資産などはポジティブなものはもちろん、負債や訴訟などネガティブなものも引き継ぐことになるはずです。そして引き継がれたネガティブなものがトラブルの要因になりやすくなります。
この章では、株式譲渡のデメリットについて解説をしていきます。
株式の50%以上を売却した場合、支配権を失う
株式譲渡は会社全体が取引対象のため、株式を全体の50%以上手放せば単独で取締役の選任などの重要な議決ができなくなり、売却会社の実質の支配権を失います。事業譲渡では特定の事業だけ切り出して売却することができるため、会社名を含む法人格は売却側の手元に残すことができますが、株式譲渡で100%の株式を売却した場合には自分の手元に法人を残すことはできません。
売却会社の負債が大きすぎて買い手がつかない
株式譲渡は負債も財産の一部として買い手に引き継いでもらうことができます。ただし、あまりにもその負債が大きすぎる場合は、買い手がつきにくい場合もあります。そういったケースでは特定の事業のみ切り出すことのできる事業譲渡に切り替えることで、買い手がつき現金化しやすい事業のみ売却することができます。
不採算事業があることで譲渡価額が減る
採算が取れない事業が会社内にあると、その部分がマイナス評価となり、譲渡価額が減ってしまいます。少しでも高い価額で株式譲渡するためには、不採算事業を会社分割で切り離したり、採算が取れない分野から撤退したりすることが有効です。何かしらの方法で不採算事業を切り離すことで、マイナス要素が減るため、譲渡価額を高める効果が期待できます。
株式譲渡をする注意点
株式譲渡をする際、譲受側の負担となる可能性がある事項が調査結果により判明するケースがあります。譲受側の負担になるということは、譲受側ははじめからリスクを抱えて買収することになるので、リスクが判明した時点で株式譲渡の話がブレイクする可能性もあります。
この章では株式譲渡をする際の注意点を解説していきます。
想定外のトラブルに発展する場合がある
株式譲渡の場合、「債権」「債務」「契約関係」が引き継がれます。一般的に株式譲渡を行う場合、デューデリジェンス(DD)を行います。
デューデリジェンスはM&Aにおいて必要な買収調査のことです。デューデリジェンスが甘かった場合、簿外債務の存在に気付くことができないケースがあります。
株式譲渡後に簿外債務の存在や取引会社間でのトラブルが発覚すると、簿外債務やトラブルもそのまま譲受することになり、トラブルの原因となります。
すべての株式を買い集められない場合がある
株主が分散していると、買い手側はすべての株式を買い集められないリスクがあります。この場合、売り手側の大株主になる経営者がほかの少数株主に説明し理解を求めていくことになるでしょう。
実務としては、M&Aプロセスの最初もしくは中途から少数株主と対話し、株価や諸条件に関して少数株主の意見を吸い上げることが重要になります。また、経営者が少数株主から委任状を提出してもらい、株式の譲渡契約を売り手経営者が代理として行うケースもあります。株主の意見がまとまらなければ、株主総会の特別決議を可決出来ず、株式の譲渡承認が取れない可能性があります。
株式譲渡の方法
株式譲渡の方法は、大きく分けて3種類に分類することができます。3種類とは「市場買付」「公開買付(TOB)」「相対取引」です。
この章では、3種類の方法について詳しく解説をしていきます。それぞれ譲渡方法が大きく異なりますので注意してください。
市場買付
上場株式であれば、株式市場から株式を買い集めることができます。しかし、発行済株式総数および潜在株式総数の合計の5%を超えて株式・潜在株式を取得した場合、取得日より5営業日以内に大量保有報告書を管轄の財務局へ提出する義務があります。これを5%ルールといいます。
その後、1%を超えて保有割合の変動があった場合、変更報告書の提出が必要です。市場買付の場合、買い付け動向が明らかになります。また、買い集めたことにより株価が上昇し買収金額が高騰する可能性もあるでしょう。過半数の株式取得を目指すのであれば、この方法は不向きです。
公開買付(TOB)
公開買付(TOB:Take Over Bid)とは、株式公開買い付けの略称です。上場企業の発行する株式を通常の市場売買ではなく、あらかじめ買い取る期間、株数、価格を提示して市場外で一括して買い付けることを指します。公開買付は上場会社を買収したり、経営の実権を握ったりするために用いられる手法です。
対象企業の3分の1を超える株式の取得で株主総会での特別決議の拒否権、50%を超える株式の取得で経営権を入手することができます。
相対取引
非上場株式の場合、株式譲渡の方法は相対取引(あいたいとりひき)しかありません。これは、大株主から市場を介さずに直接株式を買い取る方法です。仮想通貨や株式、外貨取引でも用いられる手段でもあります。
株主が分散している場合、株式をいかにして買い集めるかが問題となります。あくまでも相対取引であるため、買い取り価格は株主によって異なることもありえます。実務上では、同一価格で買い集めることが一般的です。
株式譲渡の必要書類
株式譲渡を行う際は、主に下記の書類が必要となります。ただし、これらは取締役会非設置の企業と株主総会が承認機関である企業に必要な書類です。
株式譲渡の必要書類は下記のとおりです。
・株式譲渡承認請求書
・株主総会招集に関する取締役の決定書
・臨時株主総会招集通知
・臨時株主総会議事録
・株式譲渡承認通知
・株式譲渡契約書
・株式名義書換請求書
・株主名簿
・株主名簿記載事項証明書交付請求書
・株主名簿記載事項証明書
株式の譲渡が制限されている「株式譲渡制限会社」の場合は、株式譲渡を認めてもらうための請求を会社に行います。さらに、株主総会を招集するための通知や臨時株主総会の内容を記録した議事録も必要です。株主から承認を受けた場合、株式譲渡契約書を双方で結び、株式名義の書き換えを会社に請求します。
株式譲渡の手続きを行う手順
株式譲渡をする際には、自身の会社の株式譲渡に制限がある会社なのか確認する必要があります。制限があった場合、株主もしくは取締役会から承認を受け、譲渡側・譲受側が合意して契約が成立すれば、株主名簿の書き換えをして譲渡が終了します。
この章では、株式譲渡の手続きを行う際の手順について解説をします。
1. 株式譲渡承認請求をする
株式譲渡に興味をもったら、まず自社の株式を確認しましょう。非上場会社の多くは株式の譲渡に制限が設けられています。譲渡の制限がない会社を公開会社、制限がある会社を非公開会社や株式譲渡制限会社と呼びます。譲渡制限の有無は登記簿謄本、企業の定款から確認が可能です。
自社が株式譲渡制限会社であった場合、株主または譲渡人は譲渡承認請求を行います。
2. 取締役会・株主総会を開催する
譲渡承認請求を受けた場合、定款で別段の定めがなければ取締役会設置会社では取締役会、それ以外は株主総会にて譲渡の承認の可否を決めます。株主総会または取締役会での承認を得たら、譲渡ができるようになります。
否決された場合で、会社もしくは指定買取人が株式を買い取ることの請求を受けていた場合は、会社は「企業が買い取る」「指定した買い取り人が買い取る」、このいずれかを会社が選択します。なお、会社は請求のあった日から2週間以内に株主に通知をしなかった場合、会社は譲渡を承認したものとみなされるので注意しましょう。
3. 株式譲渡契約を締結させる
株式譲渡に譲渡側と譲受側の双方が条件に合意した場合、株式譲渡契約書を作成し契約を結ぶのが一般的です。株式譲渡契約書には株式と現金を交換することを保証する目的があります。株式譲渡の目的や実行日、取引に関する内容や誓約事項などが記載されています。
株式譲渡契約は金銭が絡むものですから、しっかりと作成しましょう。後述しますが、無償で株式譲渡する場合は、株式譲渡契約書を作らないケースもあります。しかし、有償の場合でも無償の場合でも、口約束で済ませると後日問題となりますので作成するのがおすすめです。
4. 株主名義の書き換えをする
株式譲渡契約を締結し資金決済も完了したら、会社に対して株主名簿の名義書き換え請求を行います。会社側は書き換えを行ったのち、株主名簿記載事項証明書を譲受側に交付して、株式譲渡の手続きはすべて完了となります。
株主名簿記載事項証明書とは会社法の規定により、株主の請求があれば会社が株主名簿からその株主に関する記載事項を抜粋して作成・交付しなければならない書面です。この株主名簿記載事項証明書には、株主の氏名や住所、株主の有する株式の数、取得年月日などが記載されています。
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無償で株式譲渡をする場合の手続き
無償での株式譲渡とは、買い手側が売り手に対価を支払うことなく株式を譲渡することです。手続き自体は有償での株式譲渡とほとんど変わりがありません。ただ、無償の場合は売買ではないため、有償の株式譲渡の際に行うデューデリジェンスなどの手続きを省くことがあります。
無償でも株式譲渡契約書は作成することをおすすめしますが、省略して口約束で譲渡を実施することも実務上散見されます。
まとめ
株式譲渡は、ほかのM&Aとは異なり手続きが非常に簡便なので、中小企業の中ではもっとも人気のある方法です。メリットとしては、「売却益を多く獲得できる」「手続きが比較的簡単である」「廃業コストを抑えることができる」「独立性を維持できる」などがあります。特に、事業承継を考える場合には有効でしょう。
株式譲渡を行う場合には専門のM&Aの仲介業者を利用するのが一般的です。株式譲渡に強いM&A仲介業者に「M&A DX」があります。大手監査法人系M&Aファーム出身の公認会計士や税理士等が多数在籍しており、「製造業」「サービス業」「物流会社」「商社」「外食チェーン」「IT企業」の株式譲渡の成立実績があります。ぜひ、ご利用ください。