事業承継のスキームとは?
事業承継のスキームとは、経営者が会社を引き継ぐ際に活用する方法のことを指します。かつては、親族内承継で株式を相続・贈与・譲渡することが事業承継として当たり前のように行われていました。
ところが、最近は親族内で承継する中小企業が減少しており、承継問題を解決するために整えられた制度や法律を適用した多種多様な事業承継スキームが広がりつつあります。
たとえば、自社の株式を管理する持株会社の設立や親族以外の既存社員への株式譲渡、M&A・投資ファンド・信託を活用した事業承継スキームが活用されています。それぞれの特徴やメリットを押さえて、目的や要望に最適な事業承継スキームを選択することが大切です。
事業承継スキームにはどんな種類がある?
今では事業承継スキームとしてさまざまな方法が発案されており、それぞれに違った特徴があります。従来までの中小企業の事業承継といえば親族内で行われるのが一般的でしたが、最近ではM&Aやファンドなどを活用して親族以外の第三者に事業承継するスキームも広く取り入れられ始めています。
ここでは、現在活用できる具体的な事業承継スキームを6種類ご案内します。
親族内での事業承継
最もシンプルな方法が親族内で株式を贈与や相続によって譲り渡す方法です。
承継する親族がすでにいる場合は、一般的に生前贈与という形で事業継承が行われます。後継者となり得る親族には事前に本人と周りからの理解を得て、経営の能力を育成していく必要があります。
また、相続によって後継者に資産を承継することも可能です。この場合、通常遺言を作成し、譲り渡したい資産を後継者が相続するよう手配します。また、後継者が相続権のない人の場合も遺言により譲り渡すことが可能です。これを遺贈と呼びます。
従業員への事業承継
会社に在籍する親族外の従業員へ事業承継するスキームもあります。会社の内部事情などに精通している従業員なら円滑な事業承継が可能でしょう。
親族ではない従業員へ引き継ぐ場合は、株式の贈与・譲渡によって事業承継することになります。贈与の場合は親族内継承と同じように、後継者の候補者に対して生前贈与を採用する傾向にあります。また、あまり採用されるケースはないですが、遺贈による方法も可能です。
持株会社・資産管理会社への事業承継
会社が所有する土地や建物、設備、有価証券といったように、会社の資産を管理する目的で設立されるのが資産管理会社です。とくに、事業を行う会社の株式のみを管理する会社のことを持株会社といいます。
持株会社を用いた事業承継スキームは大きく2つあります。1つは後継者が持株会社を設立し、その会社に現オーナーが株式を譲渡する方法です。もう1つは株式移転という組織再編により新たに持ち株会社を作る方法です。こちらの場合は株主構成に変化がないので、併せて譲り渡す方法を検討する必要があります。
M&Aによる第三者への事業承継
中小企業では後継者が不足しており、従業員への承継では従業員の方に株式を購入するための十分な資力がないといった問題が発生する可能性が高いです。
そのため外部の会社に、株式譲渡や事業譲渡によって事業を承継するM&Aによる事業承継が広く活用されています。
事業承継ファンドを活用した事業承継
M&Aと同じように、外部への引き継ぎを目的とした方法もあります。そのひとつが事業承継ファンドによる事業承継スキームです。事業承継ファンドとは事業承継問題に直面している中小企業に対して経営支援を行う投資ファンドで、代表的なものに公的なファンドとして中小企業基盤整備機構(中小機構)があります。中小機構の場合では最大で発行済株式の半分を出資が可能です。
また、プライベートファンドでも事業承継の受け皿として購入する会社が多く存在します。プライベートファンドの場合は、最終的には第三者に再度売却するケースが多いと言えます。
事業承継を最大目標として後継者の選定や人材教育などをサポートしてくれますので、比較的スムーズな事業承継が期待できるでしょう。
信託を活用した事業承継
事業承継のスキームには、信託を利用したものもあります。信託とは財産管理を目的として、財産を託す人(委託者)と託される人(受託者)、利益を得る人(受益者)が信託契約で結びついて財産の管理や運用を行うもの形を言います。信託を利用することで自分に不慮のことが起きた場合でも受託者が委託者の希望通りの事業承継を進めてくれます。
信託を活用して行う場合には、信託銀行のように金融機関に依頼するケースや、遺言の代用として信託を用いるケース、受託者を親族として無償で財産管理を委託する民事信託やなどがあります。
各事業承継スキームのメリットや注意点
事業承継スキームとして上記で6種類の方法を挙げましたが、それぞれの事業承継スキームにはメリットと注意点があります。
ここでは上記で挙げた事業承継スキーム6つについて、それぞれのメリットや注意点についてご紹介します。利点と欠点を比較してみて、自社に最適な方法を選択しましょう。
親族内での事業承継
相続や生前贈与が積極的に選択できるのが、親族内で行うメリットです。ただし、相続や贈与には高額な税金が課される場合がありますので、暦年贈与や相続時精算課税制度などを利用して税負担を少なくするよう工夫しましょう。
また、事業承継税制の適用も検討しましょう。事業承継税制とは、後継者が中小企業の株式を相続や贈与で引き継いだときに、本来支払うべき多額の相続税や贈与税の納税を猶予する制度です。特に各都道府県から認定を受けることで利用できる特例事業承継税制では株式にかかる相続税・贈与税の全額猶予が可能です。自社に事業承継税制が適用できるかどうかは顧問税理士や認定支援機関などに相談してみましょう。
従業員への事業承継
従業員に対する事業承継の場合は、主に贈与または譲渡によって事業承継が行われます。ただし、会社が保有する負債や担保などもまとめて引き継ぐことになり、従業員個人からの承諾を得るのが難しくなります。
また、銀行からの負債の場合は、従業員の経済力が信用に関わってきます。従業員個人の経済力が負債を保証するには不十分と判断されることもあります。また、贈与ではなく譲渡の場合には従業員自身の資金で購入することになりますが、資力が十分でない場合が多く、従業員への事業承継では主に経済力が問題点となることが多いです。このため、従業員へ譲渡する場合には、その従業員が会社を設立し、会社が金融機関から融資を受けて株式を購入するスキームにするケースも多くあります。
持株会社・資産管理会社への事業承継
後継者が設立した持株会社・資産管理会社へ株式を譲渡する方法の場合、譲渡の時点で株式の承継は完了するため、その後の贈与や相続を考慮する必要がなくなります。また、株式を譲渡することで資産を現金化できるため、相続税の納税資金や相続人への遺産分割用の資金として利用することができます。ただし、株式の譲渡時に譲渡益に対して譲渡所得税がかかることや、財産が株式から現金に変わっただけですので相続税の節税効果が出るわけはないため、その後の資産の移転方法は別途検討する必要があります。
2つめの方法として、株式移転によって持株会社を設立した場合、自社株価の上昇による利益に関しては、株式の評価上、持株会社・資産管理会社の含み益として処理されます。相続税評価額の計算では、含み益に対して法人税率を掛けた分が控除されるので、純資産価額方式の場合で法人税相当額である37%が控除でき、株価の上昇を抑えられます。短期的というよりは長期的に株価の上昇を抑えるスキームであり、税額の上昇を鈍化させる効果に期待できるのが、株式移転による持株会社・資産管理会社を活用した事業承継の魅力です。
M&Aによる第三者への事業承継
M&Aでの事業承継では、業界の垣根を越えた幅広い領域から後継者を探せるメリットがあります。M&A仲介会社を利用することで、会社の文化や要望に合った取引相手を探してくれます。
したがって、M&Aでの事業承継が成功するためにはM&A仲介会社を慎重に選ぶ必要があります。実績が豊富で専門性が高い仲介会社を選ぶことで、資金面や後継者の問題などがすべて解決するM&Aを成立させてくれるでしょう。
ただし、M&Aでの事業承継はあくまでも株式あるいは金銭による譲渡となり、譲渡益が発生している場合は所得税などの税金を納める必要があります。
事業承継ファンドを活用した事業承継
事業承継ファンドを活用した事業承継では、従業員への事業承継のように経済的な問題が発生する可能性は低いです。
中小機構ではあまりありませんが、プライベートファンドでは会社の株式を取得することで新たな経営権を握りマネジメントを行うことになります。そのうえで、その会社内の人材を育てるだけでなく、会社の後継者に足り得る人材を発見することも可能です。
また、中小機構の場合は配当を継続的に出すことで株式を保有し続けるケースがほとんどですが、プライベートファンドの場合は購入したコストを回収するため、最終的には他の第三者へ売却することが多いと言えます。そのため、売却先のプライベートファンドが将来どのような方針を持っているかは事前に確認しておく方がよいと言えます。
事業承継を完遂させるためには、実績があって信頼できる事業承継ファンドを選びましょう。
信託を活用した事業承継
信託は様々な活用方法がありますが、事業承継の場合のおけるメリットは、相続時に自社株式を渡したい後継者に渡せること、相続や意思決定が出来なくなった場合においても受託者が委託者の意志に従って承継を進めてくれること、です。相続の場合だと、引き継がせたい相手以外の親族にも相続権利が発生するため、通常は遺言で後継者に渡るよう手配します。信託ではさらにその執行についても指定するため、実際に委託者の遺言や意志の通りに承継が行われる確実性が高くなります。
ただし、信託では受託者が委託者の指示通りに資産管理や株式の移転を行いますので、親族内で信託を活用する場合は後継者を早い段階から指定・育成しておくことが望ましいです。また信託は前経営者の主観が大きく介入してきますので、最善な事業承継になっているかの客観的判断が難しくなります。
法律の専門家や事業継承のプロといった第三者からのアドバイスを受けて、客観的にベストな信託を活用することが大切です。
事業承継を成功させるポイントはベストなスキームを選ぶこと!
数十年前まで事業承継は親族内で行われるのが一般的でしたが、中小企業の後継者問題を背景に事業承継スキームが多様化しています。さまざまなスキームが選択できるようになったからこそ、自分の会社に最適なスキームを選ぶことが事業承継を成功させるポイントだといえます。
ここでは、事業承継を成功させるためにベストなスキームを選び出すポイントについてご紹介します。
どのスキームを選ぶのがベストなのか?
実際のところ、どのスキームがベストなのかはオーナーの意向や会社の状況によります。親族内での事業承継が最も適している会社もあれば、M&Aやファンドなどを利用したほうが最善な会社もあります。
大切なことは、自分の会社にとってどのスキームがベストなのかをしっかりと見極めることです。主観的にベストだと思われる事業承継スキームが見つかったとしても、一度専門家に相談して客観的なアドバイスを受けることをおすすめします。
どのスキームにするのかを選択するためには、専門的な知識や業界内の情報が必要となるのです。
信頼できる相談先を見つけよう!
事業承継の成功の秘訣は、信頼できる相談先が必要不可欠です。専門家からの適切なアドバイスを受けながら手続きや準備を進めていくことで、スムーズな事業承継が実現できます。信頼できる専門家を相談先として、二人三脚で事業承継を実行していくことをおすすめします。
信頼できるかどうかの判断はその専門家のこれまでの実績が判断材料となります。多様な事業承継において、さまざまな業種で成立実績がある業者が望ましいです。また、弁護士や税理士、公認会計士などの幅広いジャンルの専門家が在籍しているかどうかも重要です。
まとめ
今回は事業承継スキームについて代表的なものを6種類挙げて、それぞれのメリットや注意点をご紹介しました。事業承継は今や身内で引き継いでいくだけでなく、M&Aやファンドを用いて外部と取引するケースも増えています。自分の会社にとって最適な事業承継スキームは何かを見極めるために、M&A仲介会社のような事業承継のプロに相談することをおすすめします。