株式持ち合いとは
株式持ち合いとは、2社以上の会社がお互いの発行済み株式を保有し合うことです。株式持ち合いによって、会社間の協力体制を築くことができます。また、限りある経営資源を有効活用するために、株式持ち合いという選択をする企業もあります。
日本では財閥解体の後から株式持ち合いが見られるようになったといわれています。財閥解体によって企業としては別々になった財閥のグループ会社が、お互いの株式を保有することでグループとしての結束を図るようになりました。また、外資や投機グループなどによる企業買収の対処策として、持ち合いが進行しました。
株式持ち合い解消が起きる理由
企業間の結束力を高めるために行われる株式の持ち合いですが、様々な事情によって持ち合いを解消する企業も少なくありません。企業が株式持ち合い解消を行う理由としては、次の点を挙げられます。
●「物言わぬ株主」が増えることにより企業統治の維持・改善が損なわれる恐れがある
●他の株主の意見が反映されにくくなっている
●業績悪化や株価暴落などのあおりを受けることを回避したい
●社会や投資家から、経営の健全性や資産効率の観点からの要請
相手企業の持株比率が多いほど、企業の支配権は高まります。
株式持ち合いによる持株比率が高まると、株主総会における議決権による監視機能が形骸化して損なわれる可能性があります。株主の意見が反映される健全な企業体質を作るためにも、持ち合いを解消するという動きが生じる場合があります。
また、株式会社は株主が経営者の選任や経営方針に対して株主総会などを通じて意見できる仕組みです。しかし、特定の株主が(この場合は持ち合いの相手企業)多数の株式を保有すると、他の株主たちの意見は反映されにくくなります。
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お互いの株式を保有するということは、リスクも共有するということです。どちらか一方の業績が著しく悪化した場合や株価が暴落した場合、もう片方の企業の決算や株価にも影響を与える可能性があります。
近年における株式持ち合いの発展と衰退
1960年代に財閥解体が行われてから、元財閥グループ内企業の結束力を高めるなどの目的で株式の持ち合いが発展しました。しかし、どの時代でも株式の持ち合いが積極的に行われていたわけではありません。時代の流れや経済の動きに合わせて、持ち合いをする企業は増減しています。近年における株式持ち合いの発展と衰退について見ていきましょう。
1980年代までは慣習的に持ち合いを実施
1960年代には結束力強化などの目的で行われることが多かった株式持ち合いですが、徐々にグループ内企業や結びつきの強い企業間なら持ち合いをすることが当然と、慣習的に行われるようになります。
また、企業によっては、主に外資企業からの買収を防ぐ目的で持ち合いをすることも増えてました。強い結びつきのある相手企業が多数の株式を保有していることで、知らない間に買い占めが行われるのを防ぐ狙いです。
90年代以降は株式持ち合い解消が発展
バブル景気によって景気への期待感が高まっていた1980年代後半は、資金調達の目的で株式を発行し、出資側の成長企業を見つけ業容を拡大させたいという需要や、事業会社と関係を深め輸出や海外事業の活動を行う担保として株式持ち合いを行う企業が増えましたしかし、バブル景気がはじけると、業績の悪い会社の株式を保有することが、出資側企業の決算に悪影響を与える等のリスクを鑑みて、株式持ち合いの解消が見られるようになりました。
2000年代中盤は一時持ち合いが進む
2000年代に入ると、会計基準の変更により有価証券の評価損などに伴う損失を含み益で補うには、株式の売り切りで売却することが必要となったことを背景に、株式持ち合いの解消がさらに進んでいきます。しかし、2005年ころになると外資系企業からの買収防衛策が活発化したため、対抗する目的で持ち合いをする企業も一時増加しました。
2015年の企業統治指針施行で解消促進
2008年のリーマンショックによる株価の急落を受け、再び持ち合いを解消する企業は増えてます。2015年には「上場企業は持ち合いに関して合理的な説明をしなくてはいけない」と定める企業統治指針が金融庁と東京証券取引所により導入され、株式持ち合いを解消する企業が増加を促進しました。
株式持ち合いのメリット・デメリット
ここからは株式持ち合いのメリットとデメリットをご紹介します。
メリット1.長期的に安定した関係を築ける
お互いの株式を持ち合い、リスクも共有することで、長期的な関係を築けるようになります。また、一定数の株式をお互いに持つことで、お互いが安定株主となり株主総会を円滑に勧めることが可能となります。
メリット2.大企業と対抗する勢力の構築
中小企業が株式を持ち合うことで、大企業と対抗できる勢力を構築できる可能性があります。お互いの販売経路や拠点、蓄積したノウハウを活用できる業務提携により、経営の向上を期待できます。
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メリット3.敵対的買収の回避
株式を持ち合う相手企業が一定以上の議決権を保有する株主として存在することで、支配権を奪われるほどの株式取得が進められてしまうような「敵対的買収」を回避することができます。
デメリット1.株主の意見が反映されない
メリットがある一方で、デメリットもあります。特に、議決権の割合に応じて、自社と(株式持ち合いの)相手企業によって経営方針が決議される場合があり、少数持分の株主の意見が決議に反映されにくい傾向があります。
デメリット2.不透明なイメージの定着
また、株主による監視機能が形骸化して損なわれてしまう可能性があります。すべての決議が相手企業を意識したものとなり、不透明なイメージが定着しかねません。また、限りある資産を株式持ち合いに費やしてしまうという資産効率の観点から、マイナスイメージを抱く投資家がいることも事実です。
デメリット3.議決権の制限を受ける
会社法308条では、A社がB社の株式を25%以上保有している場合で、B社もA社株を保有しているときは、B社はA社の株主総会で議決権を行使できないと定められています。そのため、株式持ち合いの相手企業が保有する株式の割合によっては議決権を行使できない場合があります。
株式持ち合いの解消方法
株式持ち合いは関係強化やリスク共有の意味を持つ行為でもあるため、お互いの合意を持って解消を検討することをおすすめします
株式持ち合いの解消ステップ1.相手会社との話し合い
まずは相手会社と持ち合い解消について話し合うことをおすすめします。株式持ち合いによるデメリットを強く感じている場合でも、相手会社がメリットを感じている場合は、すぐには解消の合意を得られないかもしれません。
今後の協力体制を検討し、メリット・デメリットの認識合わせをすることをおすすめします。
株式持ち合いの解消ステップ2.株式売却先の決定
株式持ち合い解消の合意を得られたら、次は株式の売却先を探します。第三者に売却するか自社で取得するかなど選択肢はありますが、特定株主からの自己株式の取得には株主総会の特別決議を必要とします。
手続きが複雑になることもあるため、株式持ち合い解消に経験が豊富な専門家へ相談することをおすすめします。
株式持ち合いの解消ステップ3. 株式持ち合い解消の税務処理
株式持ち合い解消後は、税務処理が発生します。課税対象や税額の計算などについて深い知識が求められるため、専門家へ相談することをおすすめします。
まとめ
株式持ち合いは、企業間の結束を強める方法のひとつです。業績へのリスクを共有し、長期にわたった強固な関係を築く役割があります。
一方、株式持ち合いの合理的な理由が求められるようになり、株式持ち合いを解消する企業が増えています。株式持ち合いの解消を検討する際は専門知識を求められるため、専門家へ相談することをおすすめします。
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