事業継承に税理士は必要?役割業務や必要性を解説!税理士に求めるスキルとは?

税理士 藤本絢

新卒で大手証券会社へ入社。中小企業経営者、医師等の富裕層に向けた資産運用コンサルティング業務に従事する。会社経営、資産管理の面からお客様により役立てる存在になりたいと考え、税理士を志す。その後、大手税理士法人にて、法人顧問業務、相続税申告業務、事業承継コンサルティング等幅広い会計・税務に携わる。2022年友好的承継を掲げる株式会社M&A DXに入社、現在に至る。

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現在、多くの中小企業が後継者不足による廃業の危機に見舞われており、中小企業の事業承継は日本の経済社会全体の課題となっています。
中小企業の経営者が、事業承継のような難しい経営課題について相談する相手として、最初に思い浮かべるのは税務申告をお願いしている顧問税理士ではないでしょうか。一般的に、顧問税理士は中小企業経営者にとってもっとも身近な経営の相談相手です。
しかし、事業承継の相談では、必ずしも顧問税理士が貢献できるとは限りません。
本記事では、事業承継において税理士が果たす役割や、適切な税理士を選定するために役立つ情報をお伝えします。

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中小企業の事業承継と税理士業務との関係

はじめに、中小企業の事業承継と税理士業務との関係性について簡単に確認しておきましょう。

税理士は中小企業経営者の良き相談相手

ほぼすべての中小企業では、決算書の作成や法人税・消費税等の申告書の作成、日々の経理業務のサポートなどを依頼するため、税理士、公認会計士と顧問契約を結んでいます。(以下ではまとめて「顧問税理士」と呼びます)。

一般に顧問税理士は、会社の業績、財務状況をもっともよく(時には社長以上に)理解している人間であり、経営全般についての中小企業経営者のよき相談相手になっています。
この点は、以下の『2020年版 小規模企業白書』のデータからも明らかです。

▼企業規模別:経営者の日常の相談相手

相談相手小規模事業者中規模企業
税理士・公認会計士61.0%63.4%
同業種の経営者仲間(取引先除く)47.7%48.7%
経営陣、従業員32.4%52.1%
金融機関31.5%46.1%
異業種の経営者仲間(取引先除く)31.6%38.4%
取引先(仕入先・販売先)30.5%28.1%
士業(税理士・公認会計士以外)・コンサルタント20.4%28.3%
商工会・商工会議所21.2%13.4%
公的支援機関(商工会・商工会議所を除く)8.0%9.4%
親族・知人9.6%5.5%
株主4.5%8.5%
その他1.4%1.9%

経営者が税理士に求める相談内容は、決算書や月次試算表の内容分析、金融機関からの資金調達のサポート、税務申告を見据えた節税策のアドバイスなど多岐にわたりますが、大きく分類すれば、会計やファイナンスなどの「お金周り」の事柄を相談しているといえるでしょう。
しかし、中小企業経営者にとって、顧問税理士はもっとも身近な士業者・コンサルタントなので、場合によっては、人事・労務周りのことや、事業の戦略なども含めた経営全般について、相談されることもよくあります。
そういった流れから、高齢の中小企業経営者は「事業承継」について、まず顧問税理士に相談するというケースも多いようです。

後継者には「3つの要素」を承継させる必要がある

ここで事業承継の基本を確認しておきましょう。一言で「事業承継」といいますが、具体的に何を承継させるのでしょうか? 事業承継の具体的内容としては、「人(経営)」、「資産」、さらに「知的資産」という3つの要素があると一般にいわれています。
以下で、この3つの要素について簡単に説明していきます。

1つ目の要素である「人(経営)の承継」とは、代表取締役の交代など、現経営者から後継者へと会社の経営権を引き継ぐことを意味します。
2つ目の要素である「資産の承継」とは、事業承継の対象となる会社の株式や、その企業が事業活動を継続していくために必要な事業用資産(機械装置などの設備、不動産など)や資金(運転資金・借入金など)を引き継ぐことを意味します。
3つ目の要素である知的資産(無形資産と呼ばれることもあります)の承継とは、経営理念や従業員の技術・技能、ノウハウ、会社の信用、ブランド、取引先との人脈など、決算書には記載されていない無形の資産を引き継ぐことを意味します。

▼事業承継の3つの構成要素

構成要素具体的な承継内容
人(経営)会社の経営権
資産会社の株式や事業用資産(設備・不動産など)、資金(運転資金・借入金など)
知的資産経営理念や従業員の技術・技能、ノウハウ、経営者の信用、取引先との人脈、特許等の知的財産権、許認可 など

税理士の専門性が活かせるのは、資産の承継

上の3要素のうち、税理士としての専門的な知見が活かせるのは「資産の承継」です。
非上場会社であれば、資産の承継のうち、会社の株式(以下、「自社株」といいます)さえ後継者に承継ができれば、その他の事業用資産や資金は会社に帰属するものであり自動的に承継されることになります。このため、自社株以外の資産については、特段承継の方法等を考える必要は、通常はありません。

そして、自社株の承継に関しては、その評価額の算定、また承継コスト抑制のための株価対策など、企業の財務・税務面と、相続税、贈与税などの資産税面の両面で、幅広い知識やノウハウが求められます。自社株の承継は事業承継に欠かせないことから、上記の専門知識を持つ税理士に関与してもらうことは、一般的には“必須”だといえます。

さらに、多くの事業承継の実務を扱った経験があり、人(経営)や知的資産の承継に関する助言もできる顧問税理士がいれば“鬼に金棒”でしょう。
しかし、このような税理士は稀です。事業承継にあたって税理士に期待する能力や役割としては、まずは資産承継への対応、とりわけ資産税に関する知識がポイントになるでしょう。

適切な資産承継のためには「資産税」分野のノウハウが必要

会社の顧問税理士が通常おこなう業務は、法人の決算書の作成や、法人税、消費税などの税務申告業務です。しかし、資産承継について適切な助言をもらうためには、これらの一般的な法人税業務だけではなく、相続税や贈与税、譲渡所得に係る所得税など、いわゆる「資産税」と呼ばれる分野にも精通している必要があります。
事業承継の場合は、個人の相続と法人の承継が密接に関連しているため、両方を関連付けてベストなプランを導くために、資産税を中心として、法人税、所得税など全般に対する相応の知識やノウハウが必要になります。
さらには、税務に関する知識以外にも、民法や会社法などに関する基本的な知識も必要とされます。

「非上場株式」の評価に関する知識

自社株の承継は、譲渡、贈与、相続のいずれかの方法でおこなわれます。
譲渡の場合は、後継者が現経営者から譲り受けた株の「譲渡対価」が、また、相続や贈与の場合は後継者が納税しなければならない「相続税」や「贈与税」が必要とされる費用、つまり「承継コスト」となります。そして、自社株の評価額が高くなればなるほど、承継コストも高騰することが重要なポイントです。
社歴が長く内部留保の蓄積が厚い、あるいは好業績の会社において、特になんの対策も実施しない場合、自社株の評価額が非常に高騰してしまうことがあります。自社株の高騰は、中小企業のスムーズな事業承継を妨げる要因の1つになっているともいわれており、自社株式の株価(評価減)対策は、事業承継の準備段階において、非常に重要な課題となります。

なお、非上場企業の株価は、国税庁の「財産評価基本通達」により、相続税評価額が算定されます。その方法は非常に複雑なので、詳細は割愛しますが、概要だけを簡単にまとめておきます。

▼非上場株式の評価方式の概略

評価の方式概要評価額の高低
原則的
評価方式
純資産価額方式自社が解散したとみなし、自社の純資産額(評価通達ベース)をもって評価額を算出する一般的に評価額が最も高い
類似業種比準価額方式自社の利益・配当・純資産額を同業種の上場企業と比較することで評価額を算出する純資産価額方式よりも評価額は低いことが多い
併用方式純資産価額方式と類似業種比準価額方式を一定の割合で併用し評価額を算出する純資産価額方式と類似業種比準価額方式の間となる
特例的
評価方式
配当還元方式自社株から得られる配当金額を一定の利率(10%)で還元して評価額を算出する一般的に評価額が最も低い

「事業承継税制」を利用すれば、自社株の承継コストを“実質ゼロ”にできる場合も

前述のように、中小企業の事業承継においては、高騰した自社株の承継コストが、承継の妨げになっている実態が、かねてより指摘されてきました。
後継者不足による中小企業の大量廃業が国家的な問題としてクローズアップされる中で、国としての承継コスト対策が求められるようになったため、自社株承継後の相続税・贈与税の“納税の猶予”を認める、「事業承継税制」と呼ばれる制度が設けられました。

事業承継税制は、後継者が、一定の条件のもとで事業承継して経営を続ける限りにおいて、課税が猶予され続けるので、事実上、自社株式に対する相続税、贈与税などの課税が“実質的にゼロ”になる、非常にメリットが大きい制度です。
事業承継税制には、「一般措置」と「特例措置」とがあり、適用条件などが多少異なりますが、現在では通常、特例措置が用いられます。
ただし、特例措置については、2024年3月31日までに事業承継に関する計画書を提出し、2027年12月31日までに相続または贈与による自社株承継をおこなわなければならない(※)という期限付きの措置であることに注意が必要です。
(※本記事執筆時点。これまで何度か延長が繰り返されてきたので、今後も延長となる可能性もあります。)

「事業承継税制」には、制限やデメリットもあり、慎重な検討が必要

事業承継税制は、自社株の承継コスト対策という点では、大きなメリットがある反面、その適用要件など、制度自体が複雑で、なおかつ、承継後に一定の事由に該当した場合には納税猶予が取り消され、猶予されていた税金を一括して支払わなければならないという大きなリスク(デメリット)もあわせもちます。
そのため、後継者の承継意図や会社の状況によっては、この制度は使わないほうがいい、ということもあります。たとえば、後継者が事業承継後にM&Aを検討したい場合などは、適用しないほうがベターでしょう。
事業承継税制の適用を数多くサポートしたことのない税理士の場合、これらのメリット、デメリットを十分に把握しておらず、対象企業にとって事業承継税制の適用がふさわしいかどうか判断できない場合もあるかもしれません。

自社株評価対策には、他にもさまざまな選択肢がある

事業承継に関する上記のような検討をおこなうにあたっては、税理士は税務面の知識だけを有していればよいという訳ではありません。
課税関係を考える上で、その前提となる民法や会社法などの法律知識も身に着けていなければ、顧客への適切な助言、あるいは弁護士や司法書士などへの円滑な取次ぎをおこなうことができません。

また、会社によっては円滑な事業承継のため、組織再編やその他のスキームが検討されることもあります。
たとえば、自社株の評価額引き下げのため、持株会社化を図るべく組織再編行為である「会社分割」や「株式交換(株式移転)」がおこなわれることもあります。
また、同じく自社株の評価額引き下げのため、相対的に評価額の低い類似業種比準価額方式を採用できるよう、グループ会社を合併して会社規模を大会社の区分へと引き上げることもあります。

他にも、さまざまな自社株評価対策の方法があります。事業承継に携わる税理士には、こういった、やや特殊な分野の法務や税務に関する経験や知見も求められます。

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「資産税」業務に不慣れな税理士が多い? その理由は?

これまで説明をしてきた資産税と呼ばれる分野は、専門性が高く、税理士の持つ知識やノウハウの高低が相続税や贈与税などの税負担に直結します。特に事業承継においては、顧客の感情面の要望なども踏まえた総合的な提案も必要となってきます。
ところが、先にも述べたとおり、一般的な税理士の主要業務は決算と法人税・消費税の申告業務です。「相続専門」とうたっている税理士事務所などを別として、一般的には、資産税関連の業務や、事業承継関連の業務は、不慣れで得意ではないという税理士は、意外に多いというのが現実です。
その理由は簡単なことです。

法人の決算や税務申告は、毎年1回必ず生じます。たとえば、顧問先企業を20社抱えている税理士なら、毎年20回、10年間で200回の決算、法人税申告業務を経験することになります。自ずと、数多くの経験から得られた役立つノウハウが蓄積されていき、経営者に有益なアドバイスができることになります。

ところが、事業承継というのは、1つの会社において、30~40年に1回程度しか発生しません。顧問先を20社抱えていたとしても、1~2年に1回経験するか、しないか程度の頻度です。税法が毎年少しずつ改正されることもあわせて考えると、これでは知見、ノウハウを蓄積できないでしょう。
そのために、法人決算や法人税申告業務に比べて、資産税分野を苦手としている税理士が多いのが現状になっているのです。

もちろん、上記はあくまで全般的、一般的な傾向の話です。法人税申告を専門にしていながら、資産税についてもよく勉強していて詳しいという税理士もおり、個人個人の差が大きいことはいうまでもないでしょう。

顧問税理士が資産税関係に強くない場合、税理士を併用するほうがいい

事業承継に関する相談をおこなうにあたって、自社の顧問税理士が資産税の知識も持ち合わせている場合には、その顧問税理士に相談すればよいでしょう。
また、さほど自社株の評価が高くならず、承継コストの面でも、他の面でも大きなトラブルにつながる問題がない場合は、それほど深いノウハウを持たない税理士でも対応可能な場合もあります。

しかし、そうではなくて高度なノウハウが必要だと考えられるなら、相続、事業承継などに専門特化している税理士事務所、コンサルティング会社などに相談するほうが、一般的には良い結果につながりやすいでしょう。
「餅は餅屋」として、決算・申告業務はこれまでどおりの顧問税理士に依頼を続け、それとは別に、事業承継については、その専門の税理士に相談するという税理士の併用は、まったくおかしなことではありません。

事業承継には他にもさまざまな分野で専門家の支援が必要

ここまで、事業承継に際しての、税理士の役割などを中心に説明してきました。事業承継には、税理士以外にも弁護士、中小企業診断士、金融機関などさまざまな分野の専門家の支援が必要となります。相談したい内容によって、税理士以外の士業者、専門家を適宜利用しましょう。
それに加えて、第三者承継(M&A)を検討する場合には、「M&A仲介業者」などの専門家の力を借りることが必要になります。

▼事業承継を支援する専門家

専門家・支援機関役割・業務
税理士・公認会計士自社株の株価評価、事業承継税制の適用申請、事業承継にかかる税負担軽減策の考案などを担う
弁護士親族間の相続争いの予防・解決、種類株や持株会の活用といった高度な自社株対策の考案などを担う
司法書士遺言書の作成や相続登記、民事信託に関する業務などを担う
中小企業診断士事業承継計画の策定や後継者の教育支援、その他事業承継全体のコーディネート業務などを担う
金融機関・生命保険会社納税資金や退職金の原資など事業承継のための資金需要への対応や情報提供、専門家紹介などを担う
事業承継・引継ぎ支援センター中小企業の事業承継を総合的に支援、M&Aのマッチング支援もおこなう(各都道府県に設置)
商工会議所・商工会事業承継に関する経営相談や経営指導、セミナー開催による情報提供など
M&A仲介会社M&Aの相談やマッチング、契約実務

(注)上記はあくまで一例です。法律で規制のある場合を除き、各専門家が事業承継に関する他の業務を担うこともあります(例:税理士が遺言書を作成するなど)。

まとめ

事業承継における「資産の承継」面については、税理士の関与は絶対に必要です。ただし、税理士なら誰でもいいとはいえません。自社株の評価が高く、承継コストが多額になることが見込まれる場合は特に、高度な専門ノウハウを持つ税理士に相談するべきでしょう。
税理士も得意分野によって使い分け、さらに税理士以外の専門家も適宜活用することが、事業承継で失敗しないための秘訣です。

関連記事はこちら「M&Aの相談を税理士にすべき?よくある失敗事例や税理士の選び方」
関連記事はこちら「M&Aは税理士に相談すべき?そのメリットや注意すべき点を紹介」

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