旅行業界の「押さえておくべき」動向とM&Aの事例を解説!

栗原史明

メガバンクに入行、主にM&A、買収ファイナンス、マネジメントバイアウト投資業務に従事、円滑な事業承継や出資先のIPOを支援。外資系ベンチャーキャピタルの海外拠点に単身出向後、中国拠点にて営業、アドバイザリーチームのマネジメント業務を歴任。その後、ファンド会社に転身しグロース、ベンチャー投資を多数実行、取締役としてバリューアップに従事。大手流通小売企業でのDX業務推進や新規事業開発を経て、現在に至る。

この記事は約6分で読めます。

旅行業界は経済情勢や社会情勢に大きく影響を受ける業界です。2019年まではインバウンド需要の堅実な成長により、市場規模としては拡大傾向にあったものの、2020年のコロナ禍によって、行動制限や旅行の自粛、キャンセルが進んだため、一気に窮地に追い込まれてしまいました。一方で、昨今ではアフターコロナに向けた巻き返しの動きが見られることも事実です。今回はこのように変化の大きい旅行業界におけるM&Aについて解説します。さらに、旅行業界におけるM&A動向を始め、M&Aを行うメリット、注意点を含めて解説していきます。実際にM&Aに関わる人にとっても役に立つ内容ですのでぜひ最後までお読みいただけると幸いです。

  目次  【閉じる】

相談先を迷っている方はM&A DXへ!
資料ダウンロード
M&A DXのメルマガ登録する
セカンド オピニオン

旅行業界の動向

ここでは、そもそも旅行業界とは何かといった基本的な部分を始め、業界の現状、M&Aの動向について解説します。

旅行業界とは

まず今回のテーマである旅行業について解説します。一般的に旅行業は法的に旅行会社と旅行代理店に分類されます。旅行会社は以下の図にある通り、企画できる旅行の種類によって第1種~第3種、地域限定等の区分に分類されます。一方で、旅行代理店は旅行会社と代理店契約を結び、パックツアーなどの旅行商品を代理で販売する業者です。また、近年はインターネット上での旅行商品販売に特化したOTA(OnlineTravelAgent)という分類も登場しています。

旅行業界の分類

旅行会社第1種国内外の旅行を企画
第2種国内旅行のみ企画
第3種一定の条件下で国内旅行を企画
地域限定特定区域のみの国内旅行を企画
旅行代理店旅行会社と代理店契約を結んで旅行商品を販売
OTAオンラインに特化した旅行代理店

旅行業界の現状

コロナ禍前はインバウンド観光の需要を取り込んだことで、業界全体では成長軌道にありました。しかし、2020年から始まったコロナ禍により壊滅的な打撃を受けたことは周知のとおりです。実際、旅行業界における2021年度の売上はコロナ禍前である2019年から2兆464億4,000万円の減少と実に70%以上も減少しています。(出典:東京商工リサーチ)長引く移動制限や外出自粛の広がりをに加え、インバウンド観光客も消え、売り上げ減少から赤字経営に直面する旅行業者が増えました。

アフターコロナを見据えた旅行業界の今後

コロナ禍が旅行業界に多大な影響を及ぼしましたが、アフターコロナを見据えた動きも出ています。コロナ禍が始まって以来、長らく続けられていた入国制限も今後緩和されていく見通しであり、インバウンド観光の活性化が期待されます。このような動きを見据え、各地で富裕層向けのホテル建設が進むなど旅行業界にとって希望が持てる材料が増えつつあるのです。一方で、感染者の急増はいつ発生してもおかしくなく、場合によっては再度行動制限が設けられるなど予断を許さない情勢でもあるでしょう。

旅行業界のM&A動向

旅行業界においてはコロナ禍前からOTAを中心としたM&Aが活発化しています。従来型の大手旅行会社や旅行代理店はインターネットを介した予約サイトなどのノウハウを有しておらず、新興のOTA企業との資本提携や買収を通してノウハウを獲得するケースが多いです。2015年にはJTBが日本最大のレジャー予約サイトを運営するアソビューとの資本提携を発表し、エイチ・アイ・エスも2016年にアクティビティ予約サイトを運営するアクティビティジャパンを買収しました。コロナ禍によって非対面型のビジネスが拡大傾向にあることから、同様の事例は増加していくでしょう。

旅行業界でM&Aを行うメリット

旅行業界でM&Aを行うメリットについて、買手と売手の双方の視点から解説します。

買手のメリット

事業拡大のスピードアップ

旅行業界におけるM&Aには事業拡大のスピードを上げられるというメリットがあります。ここでは、店舗で旅行商品を販売する従来型の旅行会社がオンラインでの販売事業を展開するケースを考えてみましょう。この企業で一からオンラインでの販売事業を立ち上げる場合、予約サイトを作るためのシステム開発やオンライン予約のノウハウがないため長い時間と試行錯誤が必要になります。しかし、オンライン販売のノウハウを持つOTA企業をM&Aによって買収すれば、買収資金は必要になるものの、ゼロからの立ち上げよりも短い時間で必要なノウハウを獲得することができるのです。この場合、M&Aによってビジネスを迅速に拡大させるための時間を買っているという見方ができるでしょう。

異業種参入によるシナジー効果創出

旅行業界においては、IT企業などの異業種からM&Aによって参入するケースがあります。例えば、既に施設の利用予約サイトの開発・運営においてノウハウが蓄積された企業がOTAの企業をM&Aによって買収した場合、本来持つ強みを旅行業界においても生かすことができます。このように、自社が本来持つ強みと買収した企業が持つ強みの相乗効果を生み出すことをシナジー効果と呼びます。これは旅行業界に限らず、M&Aによって得られる主要なメリットの一つです。

売手のメリット

後継者の確保

一般社団法人全国旅行業協会の2021年の調査によると、旅行業界では社員が5名以下の企業が80%近くを占めており(出典:小規模旅行業者の特徴と将来一般社団法人全国旅行業協会)、中には経営者が高齢であるケースも少なくありません。そのような企業では、後継者難によって廃業を選ばざるを得ないこともあります。後継者難に悩む企業にとって、M&Aによる売却は事業の継続性を高めるとともに、従業員の雇用確保においてもメリットがあります。

経営の安定化

旅行業の多数を占める小規模企業は、大企業に比べて経営基盤や資金力が弱いことが多く、コロナ禍のような経営危機において倒産のリスクが高くなります。実際に2021年の旅行業界における倒産件数は31件と7年ぶりに30件を超える高水準となっているのです。(出典:東京商工リサーチ)小規模な企業単独ではコロナ禍のような経営危機を乗り越えることは難しいですが、M&Aによる売却を通して経営基盤の強固な企業の傘下に入ることで、資金面での懸念が少なくなり経営の安定化が図れます。

旅行業界でM&Aを行うメリット

買手事業拡大のスピードアップ
異業種参入によるシナジー効果創出
売手後継者の確保
経営の安定化
M&A DXのサービスはこちら
相談先を迷っている方はM&A DXへ!
資料ダウンロード
M&A DXのメルマガ登録する
セカンド オピニオン

旅行業界でM&Aを行う際の注意点

ここでは、旅行業界でM&Aを行う注意点について、買手の視点で解説します。

シナジーが発揮できる要素があるか精査する

先述の通り、M&Aを実施することで買手・売手ともにシナジー効果が生まれることが期待できます。しかし、実際にどのようなシナジー効果をどれだけ生み出せるかを正確に把握することは容易ではありません。M&Aの実施にあたっては、買収対象の企業が持つ強み、強みを持つ旅行商品、高いシェアを持つ地域などを綿密に調査し、期待するシナジー効果が得られるのかを精査する必要があります。旅行業界においては、パックツアーの対面販売を得意とする会社、参加型レクリエーションの予約に強みがある会社、オンラインでの販売を専業とするOTAなど各企業が持つ強みは多種多様です。買収を目指す企業に、自社が足りない部分を補う要素、あるいは強みを伸ばす要素があるのかをM&A実施前に十分に調査しましょう。

事業の将来性を精査する

M&Aにおいては、買収対象の企業が展開するビジネスに将来性があるかどうかを見極めることが大切です。例えば、既に競争が激しくなりレッドオーシャンと化している地域で、競争に巻き込まれて疲弊している企業を買収したとしても、自社にとって重荷になるだけで将来性のあるビジネスを生み出しません。それどころか、買収した企業が既に多額の負債を抱えている場合には、M&Aが経営上のリスクをもたらすでしょう。M&Aを行う際には、買収しようとしている企業が持つビジネスの将来性や企業の財務状況などを踏まえて、自社にとって有益な選択になるかどうかを精査することが重要です。

旅行業界におけるM&A事例

ここでは、旅行業界におけるM&A事例について解説します。

旅行代理店によるIT企業のM&A

FindTravelは旅行に関する情報を手軽に探せるサイトを目的に2014年に設立された企業です。設立からわずか半年後に、ゲームや球団運営を手掛けるDeNAによって買収されました。DeNAは一般的にはIT企業に分類されますが、FindTravelを買収したことでエンタメ分野におけるシナジー効果を狙ったと考えられます。

海外におけるM&A事例

海外を舞台にしたM&A事例もあります。2014年に設立されグローバルに旅行商品を展開するFunGroupは、2022年にタイのビッグカントリーエクスペリエンス(BigCountryExperience)を買収しました。これまで進出できていなかった東南アジアのマーケットを狙うとともに、アフターコロナを見据えたM&Aといえるでしょう。コロナ禍で大打撃を受けた旅行業界ですが、経済活動の正常化を見据えてM&Aという形で攻勢に出る企業もあるのです。

まとめ

旅行業界は世界の情勢によって浮き沈みが激しい業界であり、実際にコロナ禍でも大きな影響を受けました。また、小規模な企業が多数を占めるため後継者難に悩まされるケースも見られます。様々な課題が存在する旅行業界にとって、後継者の確保や経営の安定化につながるのがM&Aです。M&Aによって売手・買手ともにシナジー効果の創出や事業拡大のスピードアップなど様々メリットが期待できます。一方で、綿密な事前調査を通してM&Aの妥当性を見極めることも必要です。今回の記事を通して、旅行業界のM&Aについて知っていただき、実際にM&Aを検討する際に役立てていただければと思います。

株式会社M&A DXについて

M&A DXのM&Aサービスでは、大手会計系M&Aファーム出身の公認会計士、 M&A経験豊富な金融機関出身者や弁護士が、豊富なサービスラインに基づき、最適なM&Aをサポートしております。セカンドオピニオンサービスも提供しておりますので、M&Aでお悩みの方は、お気軽にM&A DXの無料相談をご活用下さい。 無料相談はお電話またはWebより随時お受けしておりますので、M&Aをご検討の際はどうぞお気軽にお問い合わせください。


相談先を迷っている方はM&A DXへ!
資料ダウンロード
M&A DXのメルマガ登録する
セカンド オピニオン

SHARE

M&Aセカンドオピニオン

セカンドオピニオンとは、M&Aを検討する中で生じる不安や迷い・懸念を第三者視点で全体を俯瞰しながら、個々の状況に寄り添ってアドバイスするサービスです。
こんなお悩みの方におすすめです。

✓ M&A業者が進めるスキームで適切なのか知りたい
✓ M&A業者と契約したが連絡が途絶えがちで不安だ
✓ 相手から提示された株価が妥当なものか疑問に感じる
✓ 契約書に問題がないか確認したい
✓ M&A業者が頼りなく感じる

どんな細かいことでも、ぜひ【M&A DXセカンドオピニオンサービス】にご相談ください。
漠然とした不安や疑問を解消できます。

無料会員登録

会員の皆様向けに週1回、M&A・事業承継・相続に関わるお役立ち記事、動画などをお知らせするメールマガジンを配信させていただきます。
お役立ち記事はこちらからピックアップしてお届けいたします。
動画はM&A DXチャンネルからピックアップしてお届けします。
配信を希望される方はメールアドレスをご登録の上、お申し込みください。登録料は無料です。

LINE登録

LINE友達登録で、M&A・事業承継・相続に関わることを気軽に専門家に相談できます。
その他にも、友達の皆様向けに、動画などをお知らせするメールマガジンを配信させていただきます。
相談を希望される方は、ぜひお気軽にLINE友達登録へお申し込みください。

M&A用語集

M&A DX用語集では、M&Aに関する専門用語についての意味や内容についてご紹介しております。
M&Aや事業承継は英語を使うケースが多く、初めて聞くと意味が分からないまま会話が進み、後で急いで意味を調べるような経験がある方もいらっしゃると思います。M&Aの用語に関しては、一度理解してしまえばその後の会話で使えるようになるため、辞書代わりにご利用下さい。
※会計士の当社代表牧田が、動画で解説している用語もあります。

まんがでわかる事業承継

すべての人を幸せにするM&Aを、まんがでわかりやすく解説します。
「事業承継は乗っ取りではないのか?」と不安に思う社長に対し、友好的事業承継のコンセプトをわかりやすく解説します。

~あらすじ~
社長は悩んでいた。
創業して40年、生涯かけて取り組んだ技術も途絶えてしまうことに。
何より、社員を裏切る訳にもいかない…

そんな折、真っ直ぐな瞳の男が社長を訪ねてきた。
内に秘めた熱い心を持つ彼は、会計士でもある。
「いかがなさいましたか?」
この青年が声をかけたことにより、社長の運命が劇的に変わっていく。

資料請求

あなたの会社が【M&Aで売れる会社になるための秘訣】を徹底解説した資料を無料で提供しております。
下記のお悩みをお持ちの方は一読ください。

✓ M&Aを検討するための参考にしたい
✓ 売れる会社になるための足りない部分が知りたい
✓ 買手企業が高く買ってくれる評価基準が知りたい

【売れる会社になるためのコツを徹底解説】一部ご紹介します。

✓ 解説 1 定性的ポイント

業種、人材、マネジメント体制などの6つの焦点

✓ 解説 2 定量的ポイント

財務的に価値がある会社かどうか、BS・PLの評価基準

✓ 解説 3 総合的リスト

売れる会社と売れない会社を表にまとめて解説

詳細は無料ダウンロード資料「M&Aで売れる会社と売れない会社の違い」にてご確認ください。