相続手続きで必要な残高証明とは?発行方法や注意点などを解説

税理士 安江一将

会計コンサルティング会社・税理士法人及びベンチャー企業2社に勤務。会計コンサルティング会社・税理士法人では税務顧問・税務申告のほかに、事業承継支援業務、組織再編業務、IPO支援業務、M&A業務を数多く実行。ベンチャー企業では管理部長・経営企画室を歴任し、上場のための体制構築・実行支援を推進する。大手コンサルティング会社名古屋支社副支社長を経て2019年8月に安江一将税理士事務所として開業した後、さらにM&A業務を推進することを目的として株式会社M&A DXに参画し、現在に至る。

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相続が発生して、遺産分割や、相続税の申告書作成などの手続きを進める際には、被相続人(被相続人)が残した相続財産がいくらなのかを、正しく把握しなければなりません。そのために必要となる書類のひとつに、金融機関などから発行される「残高証明書」があります。
本記事では、残高証明書とはどんな書類であり、どんな時に必要となるのか、どのようにして発行してもらうのか、などといった点について解説します。

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金融機関の残高証明書とは

「残高証明書」は、銀行、証券会社などの金融機関が、一定時点での口座残高がいくらあるのかを証明してくれる書類です。
たとえば、銀行であれば、請求者が指定した日における、普通預金口座や定期預金口座の預金残高金額、もしローンなどの借入をしていれば、その借入残高金額、などが記載されています。
また、証券会社であれば、同じく請求者が指定した日における、証券口座の預かり金や、預かり有価証券(株式、投資信託など)の残高が記載されています。

▼残高証明書のサンプル
残高証明書のサンプル

横浜銀行ホームページより引用

なぜ、相続手続きで残高証明書が必要となるのか

相続の際には、被相続人が口座を開設して取引していた、すべての金融機関について、残高証明を発行してもらう必要があります。
金融機関の残高証明書が必要となる理由は、主に次の4点です。

(1)相続財産を正確に把握するため
(2)相続税の申告書に添付するため
(3)遺産分割協議を円滑に進めるため
(4)相続人の不正を防ぐため

それぞれを見ていきましょう

(1)相続財産を正確に把握するため

被相続人の相続財産(遺産)を引き継ぐ相続人は、相続財産の金額によっては、相続税を申告、納付する必要があります。
ちなみに、相続税には基礎控除額が定められており、基礎控除の金額を超えた場合に、その超えている金額部分に対して、相続税額の課税計算がなされます。なお、基礎控除額は「(3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」です。
相続財産の計算の基準となるのは、原則的に、相続発生時点(=被相続人が死亡した日)で、被相続人が所有していた財産や負債のすべてです。したがって、相続発生時点での正確な金融機関の口座残高を把握するために、残高証明書が必要となるのです。

預金通帳ではだめなのか?

銀行の預金口座残高であれば預金通帳を見ればわかると考える方もいるでしょう。もちろん、預金通帳でもおおむね把握できますが、記帳漏れなどの場合もあります。また、被相続人が多くの金融機関に口座を開いていた場合は、通帳を紛失しているといった場合もあります。
さらに、最近増えているネット銀行の場合、そもそも紙の通帳が発行されません。
そういった事情があるため、被相続人が取引していたすべての金融機関に残高証明書を発行してもらうように一律で手続きした方が、間違いが起こりにくいでしょう。

限定承認、相続放棄の判断にも必要

相続財産には、被相続人のプラスの資産だけではなく、マイナスの資産(負債)も含まれます。もし、負債の方が大きければ、相続放棄や限定承認といった手続きを取ることで、相続人が資産を引き継がない代わりに負債も引き継がなくてもよくなります。
限定承認、相続放棄の手続きをするには、相続開始(相続の開始を知った時)から、3か月以内に家庭裁判所に申立てをしなければなりません。
限定承認、相続放棄をするかどうかを判断するためには、被相続人の相続財産、特に負債額を正確に把握する必要があるため残高証明書は重要になります。

(2)相続税の申告書に添付するため

相続財産を計算した結果、相続税の申告が必要となった場合は、その申告の際に、金融機関口座の残高証明書を添付して申告することが一般的です。この添付は法律で定められた義務ではありませんが、残高証明書を添付して、より正確な資料での申告を心がければ、後で税務署からの問い合わせなどを受ける可能性も減らせます。

(3)遺産分割協議を円滑に進めるため

複数の相続人がいる場合で、かつ遺言書が残されていない場合には、相続人間での「遺産分割協議」での話し合いによって、相続財産の分割割合が決められます。
遺産分割協議の対象となる相続財産も、相続発生時に被相続人が所有していた資産や負債のすべてになります。それを証明するために、残高証明書が必要になります。
特に、相続人のうち特定の人だけが被相続人と同居していた場合や、その人が年老いた被相続人の資産を管理していた場合においては、他の相続人から「通帳の一部を隠しているのではないか」といった疑念が持たれないとも限りません。
そのような疑念を持たれないためにも、残高証明書を取得する必要があります。

(4)相続人の不正を防ぐため

上記と似た意味ですが、特定の相続人が、被相続人の財産を管理していたような場合、相続の発生後に、被相続人の預金口座などから現金を引き出して、葬儀費用などに使ったりすることもあるでしょう。時には、私的に流用されることがあるかもしれません。
もし、遺産分割協議が始まる時点での預金口座残高しかわからなければ、相続発生後から遺産分割協議までの預金口座の動きがはっきりわかりません。
そこで、相続発生時の預金残高をはっきり証明する残高証明書を取得しておくべきです。なお、次に説明しますが、相続発生により残高証明書の取得を請求すると、原則的に金融機関はその口座を凍結して、預金等を引き出せないようにします。このことも、一部の相続人の不正を防止する効果があります。

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残高証明書を発行の手続き

金融機関に残高証明書を発行してもらうための手続きは、金融機関のホームページなどに必ず記載されています。金融機関によって、多少プロセスが異なる部分があるので、まずホームページで手続き方法を確認の上、不明点があれば、コールセンターに電話で問い合わせてみるのがよいでしょう。
以下では、一般的な手続きを紹介します。

残高証明書の発行に必要な書類

まず、各金融機関のstrong>「残高証明書発行依頼書」を取り寄せて、必要事項を記載します。「残高証明書発行依頼書」はホームページからダウンロードできる場合もあります。
「残高証明書発行依頼書」に必要事項を記入後、以下の添付書類を添えて、金融機関に提出します。

▼残高証明書の発行に必要な書類

・残高証明書発行依頼書(金融機関所定のもの)
・被相続人の戸籍謄本など、死亡年月日が確認できる書類
・相続人の戸籍謄本など、手続きする人が相続人、遺言執行者、相続財産管理人であることが確認できる書類
(上記の戸籍謄本に代えて、「法定相続情報一覧図の写し」でも可能)
・手続きする人の実印と印鑑証明書
・手続きする人の本人確認書類(運転免許証など)
・通帳、預金証書、キャッシュカードなど取引内容がわかるもの(見つからない場合は、なくても可能)
・代理人が申請する場合は、委任状

残高証明書を発行にかかる費用

残高証明書の発行には、一定の手数料が必要です。金融機関によって異なりますが、主な銀行の例を掲載しておきます。

▼残高証明書発行手数料の例

三菱UFJ銀行770円
三井住友銀行880円
みずほ銀行880円
ゆうちょ銀行1,100円

h3>残高証明書の発行までにかかる期間

金融機関によって異なりますが、多くの場合、請求から1~2週間程度です。

残高証明書の請求漏れの有無調べ

遺産分割協議等に備えて残高証明書は早期の取得が望ましいのですが、口座の存在や口座情報がわからない場合には残高証明書の請求が出来ない場合があります。しかし、通帳やキャッシュカード以外で口座情報がわかることや、銀行に口座の有無を調査依頼もできるのです。例えば、被相続人が過去に確定申告をしていれば、確定申告書から銀行名や口座番号がわかります。また、支払いに口座振替を使用していれば、申込書や契約書の控えから口座番号がわかる場合もあるため、税理士に確認したり遺品整理をしながら細かくチェックすることも必要です。
取引銀行がわかっていれば、被相続人の個人情報などから口座の有無を調べてもらえるため、最寄りの支店に問合せてみましょう。ただし、通知があるのは口座開設をした支店のみの情報なので、口座番号や残高証明書は口座開設をした支店に直接請求となります。

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残高証明書を発行する際の注意点

最後に、残高証明書を発行する際の注意点についてまとめておきます。

残高証明書を請求すると口座が凍結される

金融機関は、口座の名義人が死亡したことを知ると、その口座からの預金等の引き出しができなくなるようにします。これを口座の凍結と呼びます。
相続の発生による残高証明書の発行を請求すれば、当然、その時点で、金融機関は名義人が亡くなったことを認識しますので、口座は凍結され、以後、口座凍結解除の手続きをするまで、原則的に預金が引き出せなくなります。
(残高証明書の発行請求前でも、なんらかの理由によって、名義人が死亡したことを銀行が知れば、その時点で口座は凍結されます)。
これは、誰かが勝手に預金を引き出して使ってしまうことなどを防ぐためであり、必要な措置ではありますが、もし、被相続人の預金から葬儀費用などを支払おうと考えていた場合は、困ったことになります。
そこで、2019年7月に、仮払制度が創設され、一定の条件のもとで、一定の金額(死亡時の預貯金残高×法定相続分×1/3」あるいは「150万円」のいずれは低い方)までは、引き出せるようになっています。
ただし、仮払制度を利用すると、相続放棄、限定承認ができなくなる点に注意してください。

残高証明書の発行請求に、相続人全員の合意は不要

残高証明書は、相続人のうちの任意の人が単独で発行を請求できます。相続人全員の共同で請求するものではなく、相続人全員の合意なども不要です。
また、相続人の代理人、遺言執行者、相続財産管理人などが請求することも可能です。

相続発生日の残高を証明してもらう

残高証明書の証明日は、相続発生、つまり被相続人が亡くなった日です。たまに、請求する日を証明日と勘違いしてしまう人がいますので、注意してください。

定期預金では、経過利息の計算も忘れずに

なお、定期預金の場合、最後に利息が支払われた日から、相続発生時までに生じている未払いの利息分(経過利息)も相続財産に含まれます。その経過利息については、金融機関により、残高証明書にあわせて記載してもらえる場合もあれば、残高証明書とは別に「経過利息計算書」の発行を請求しなければならないところもあります。
いずれにしても、被相続人に定期預金の残高があり、残高証明書の発行を請求する際には、経過利息の計算もあわせて依頼しましょう。
なお、普通預金の場合、現在の金融情勢下では利率が非常に低く、利息金額がわずかであるため、通常は経過利息の計算は必要ないと考えられています。ただし、普通預金額が数億円以上もあるような場合は、計算が必要なケースもあるでしょう。

まとめ

遺産分割や相続税申告をトラブルなく進めるために、残高証明書は重要です。しかし、相続発生後はなにかと忙しくなり、ついその発行請求を後回しにしてしまいがちです。
請求から発行まで、1~2週間程度の時間がかかることが多いため、早めに請求しておきましょう。ただし、請求をすれば必ず預金口座が凍結されることも、念頭に置いておいてください。

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