EV/EBITDA倍率とは?計算法や目安倍率などの疑問点を解説!

会計士 山田武弥

有限責任監査法人トーマツ入所。金融業及び卸売業を中心とした各種業務の法定監査業務に携わる。 その後、大手税理士法人及びコンサルティング会社にて事業承継・事業再生・法人顧問業務に従事。 組織再編税制を活用した事業承継スキームの構築や株価対策、事業再生計画の立案やその後のモニタリング及び金融機関対応等に豊富な経験を有する。 山田武弥公認会計士・税理士事務所として独立後、株式会社M&A DXに参画し、現在に至る。

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M&Aの初期段階で候補企業を絞り込む際にEV/EBITDA(イーブイ/イービッダー)倍率という指標が利用されますが、日常的に使う指標ではないのできちんと理解していない方も多いのではないでしょうか。そこで、本稿ではEV/EBITDA倍率について、計算方法や使い方、メリット・デメリットなどについて、初めての方にも分かりやすく解説します。

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EV/EBITDA倍率とは?

M&Aにおいて企業買収を検討する際にはいろいろな指標を利用しますが、EV/EBITDA倍率は簡単な計算式で算出できるため「簡易買収倍率」とも呼ばれ、M&Aの初期段階において広く使用されています。EV/EBITDA倍率の使用目的は、M&Aで投資した資金を回収するには何年必要か、およその期間を把握することができます。

EV/EBITDA倍率は、EV(企業価値)をEBITDA(企業の収益力)で割って算出しますが、計算方法を説明する前に「EV」と「EBITDA」について詳しく理解する必要があります。

M&Aにおける企業価値とは

M&Aにおける企業価値は買収価格と同様の意味を持っており、上場企業の場合には次の計算式で求めることができます。

企業価値 = 株式価値(時価総額)+ 債権者価値(有利子負債)

株式の時価総額が企業価値であると考えがちですが、その会社が借金をしていれば企業の一部は債権者に帰属していることになるので、企業全体の価値は株主に帰属する株式価値と債権者に帰属する債権者価値の合計になります。M&Aにおいても、株式を全て入手しても借金は返済しなければならないので、買収に必要な資金は時価総額に有利子負債を加えた金額になります。
なお、非上場企業の企業価値を算出する代表的な方法には次の3つがあります。

・インカムアプローチ
・コストアプローチ
・マーケットアプローチ

関連記事「企業価値評価とは?おもな算出方法のメリットとデメリットも解説

EVはM&Aにおける実質の企業価値

EV(イーブイ)は、Enterprise Valueの略で、日本語に訳すと「企業価値」になりますが、一般の企業価値とは少し異なり「事業価値」とも呼ばれています。
EVは、M&Aにおける企業価値をより現実的に算出したもので、次の計算式で求めることができます。

EV = 企業価値 − 現金等

「現金等」とは、事業とは直接関係のない現金・預金・有価証券・土地などの非事業資産のことです。企業価値から差し引く理由は、対象企業を買収した場合にその企業が持っている現金等も同時に取得するため、企業価値からその分を差し引いた金額がM&Aにおける「実質の企業価値(EV)」になるからです。

EBITDAは企業の収益力を表す

EBITDA(イービッダー)とは、英語のEarnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortizationの略で、日本語に訳すと「利息・税金・減価償却費を控除する前の収益」を意味し、企業の収益力を表します。M&Aにおいて、買い手が企業の買収を検討する場合、対象企業の現在の価値(EV)とともに、買収後どれくらいの収益を上げるかが非常に重要な判断材料になります。

利息は金融機関や負債額によって異なり、税率や減価償却費も国の制度によって異なります。このような変動要素を含んだ「営業利益」や「経常利益」では、正しい収益性の比較ができないため、同じ条件で「収益力」を評価するために変動要素を取り除いた「EBITDA」が世界で広く用いられています。

関連記事「EBITDAとは?意味や特徴・算出方法と活用上のポイントを解説

EV/EBITDA倍率の計算方法

EV/EBITDA倍率の計算は、Step1(EVの算出)、Step2(EBITDAの算出)、Step3(EV/EBITDA倍率の算出)という順序で行います。

Step1 EVを算出する

M&Aにおける実質の企業価値「EV」の計算式は前項でも説明しましたが、次のように分解することができます。

EV = 企業価値 – 現金等
EV = 時価総額 + 有利子負債 – 現金等
EV = 時価総額(株価×発行済株式数)+ 純有利子負債(有利子負債 – 現金等)

Step2 EBITDAを算出する

EBITDAは、損益計算書のどの数字を基に算出するかで計算式は変わるので、よく利用される計算式を紹介します。いずれの計算式も、基準とする利益に金融機関や国の制度によって変動する費用を足し戻しています。

EBITDA = 営業利益 + 減価償却費
EBITDA = 経常利益 + 支払利息 + 減価償却費
EBITDA = 税引前当期純利益 + 特別損出 + 支払利息 + 減価償却費
EBITDA = 前当期純利益 + 法人税等+ 特別損出 + 支払利息 + 減価償却費

Step3 EV/EBITDA倍率を算出する

EV/EBITDA倍率は前述したように「EV ÷ EBITDA」で求めることができるので、次の企業を例に実際にEV/EBITDA倍率を計算してみましょう。

時価総額 :5億円
有利子負債:3,000万円
現金等  :4,000万円
営業利益 :5,000万円
減価償却費:2,000万円

EV = 5億円 + 3,000万円 – 4,000万円 = 4億9,000万円
EBITDA = 5,000万円 + 2,000万円 = 7,000万円
EV/EBITDA倍率 = 4億9,000万円 ÷ 7,000万円 = 7

計算の結果、この企業に対しM&Aによる買収を行った場合にはEV/EBITDA倍率は7となり、買収コストはおよそ7年間で回収できる可能性があることが分かります。

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EV/EBITDA倍率の平均と目安

EV/EBITDA倍率で買収資金の回収可能年数を割り出しても、基準がなければその倍率が割高なのか割安なのかを判断できません。そこで、EV/EBITDA倍率の判断基準となる平均および目安について解説します。

EV/EBITDA倍率の平均

EV/EBITDA倍率の平均は、業種によって大きく異なりますので、業種別のEV/EBITDA倍率の平均(2019年12月)を紹介します。このデータは、代表的な株価指数(JPX日経400、S&P500、CSI300)の構成銘柄を基に算出されたものです。

業種EV/EBITDA平均倍率
医療・ヘルスケア16.6倍
消費財・小売12.1倍
IT・インターネット11.9倍
素材・資本財10.2倍
自動車・耐久消費財8.2倍
エナジー・公共事業・通信7.6倍

データの出典:KPMGジャパン

EV/EBITDA倍率の目安

上記データでも分かるように、目安とするEV/EBITDA倍率はM&Aの対象企業の業種によって判断する必要があります。ただし、非上場の中小企業の場合には株式の市場価格などEVの計算に必要な情報が得られないので、何年で買収資金を回収したいかによって判断することになります。業種を別にすれば、中小企業の場合には3〜5年で買収資金の回収を目指すケースが多いことを考えると、5倍以上は割高、3倍未満は割安と考えられます。

EV/EBITDA倍率は万能ではない

EV/EBITDA倍率の目安となる平均値は、現実には同じ業種であってもばらつきがあるため、この指標だけを参考にすると判断を誤る可能性があります。そのため、EV/EBITDA倍率はM&Aの対象企業の割安感・割高感を大まかに判断するために利用し、実際に判断する場合にはいろいろな角度から分析しなければなりません。

EV/EBITDA倍率による企業価値の求め方

前述したEVの計算方法は、時価総額を求めることができない非上場の中小企業に対しては使うことができません。しかし、上場企業のEV/EBITDA倍率を利用することで企業価値を求めることができます。これは、企業価値の評価法の1つ、マーケットアプローチの「類似企業比較法」と呼ばれる手法で、以下の手順で非上場の中小企業の企業価値を算出します。

対象企業と類似する企業のEV/EBITDA倍率を算出

最初に、M&Aの対象企業と業種、規模、財務状況などが類似する上場企業を選びます。次に、有価証券報告書などの公開されているデータを基に選択した企業のEV/EBITDA倍率を算出します。

対象企業のEBITDAを算出

類似企業のEV/EBITDA倍率が算出できたら、M&Aの対象となる企業の損益計算書に記載された「営業利益」や「減価償却費」などを基に、金融機関や国の制度によって変動する費用を足し戻しEBITDAを算出します。

類似企業のEV/EBITDA倍率を元に、対象企業の企業価値を算出

例えば、類似企業のEV/EBITDA倍率が「8」、M&Aの対象企業のEBITDAが「7,000万円」とすると、対象企業の企業価値の計算は次のようになります。
企業価値(EV)= EV/EBITDA倍率 × EBITDA = 8 × 7,000万円 = 56,000万円
この計算によってM&Aの対象企業の企業価値(EV)は、5億6,000万円であることが分かります。

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EV/EBITDA倍率のメリット

EV/EBITDA倍率が、国内外で広く利用されているのは、2つの大きなメリットがあるからです。

簡単な計算式で算出できる

EV/EBITDA倍率は「簡易買収倍率」とも呼ばれるように、容易に入手できるデータを基に簡単な計算式で算出できる点が大きなメリットです。特に、M&Aの初期段階で候補企業を絞り込む際の目安として広く利用されています。

企業の収益力をより正確に把握できる

企業の収益力を表すEBITDAは、金融機関や国の制度によって変動する利息・税金・減価償却費などが差し引かれる前の数値なので、営業利益などと比べてより正確に企業の収益力を把握でき、海外企業のM&Aの際にも同じ条件で比較検討ができる点がメリットです。

EV/EBITDA倍率のデメリット

EV/EBITDA倍率は、簡単に買収資金の回収期間を算出できる反面、シンプルな計算式から生じるデメリットもあります。

投資効率を判断するための要素が全て含まれてはいない

EV/EBITDA倍率は、過去の実績を基に算出するため将来のキャッシュフローなどは反映されていません。また、医薬品業や不動産業のように売上高に対する設備投資比率の高い事業の場合には、減価償却費や支払利息などを含めた分析も必要となるなど、より正確な企業価値の評価には向いていません。

買収費用の回収期間を正確に表してはいない

前項で指摘したように、EV/EBITDA倍率には投資効率を判断するための要素が全て含まれていないため、EV/EBITDA倍率で算定した買収費用の回収に必要な年数は実際の年数と必ずしも同じではありません。

類似企業の EV/EBITDA倍率を用いる場合には、選定企業の影響を受ける

非上場の中小企業の企業価値を、上場企業のEV/EBITDA倍率を利用して算出する場合、どうしても選定した上場企業の影響を受けて数値が変動します。そこで、リスクを低減させるために1社だけのEV/EBITDA倍率ではなく、複数の類似企業を選定しEV/EBITDA倍率の平均値を使用することも考えられます。

EV/EBITDA倍率とは? まとめ

EV/EBITDA倍率の意味、計算方法、平均・目安、メリット・デメリットなどを解説しました。
EV/EBITDA倍率はM&Aの対象企業の割安感・割高感を大まかに把握するための指標なので、目的に応じて使い分けましょう。また、実際にM&Aにおける売買価格について検討する場合には、さまざまな分析が必要となるためM&Aの知識や経験が豊富な専門家のサポートが必要となります。

関連記事はこちら「会社を10億円以上で売却するには?交渉を上手に進めるポイントをご紹介」
関連記事はこちら「EBITDAとは?意味や特徴・算出方法と活用上のポイントを解説」

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