事業ドメインとは?メリット、設定方法、注意点、フレームワーク、成功事例を解説

栗原史明

メガバンクに入行、主にM&A、買収ファイナンス、マネジメントバイアウト投資業務に従事、円滑な事業承継や出資先のIPOを支援。外資系ベンチャーキャピタルの海外拠点に単身出向後、中国拠点にて営業、アドバイザリーチームのマネジメント業務を歴任。その後、ファンド会社に転身しグロース、ベンチャー投資を多数実行、取締役としてバリューアップに従事。大手流通小売企業でのDX業務推進や新規事業開発を経て、現在に至る。

この記事は約10分で読めます。

会社の事業戦略を成功させるためには、事業ドメインをどのように設定するかが大きなカギになります。自社に適した事業ドメインを設定することができれば、経営資源を効率よく活用し、市場での競争優位性を高めることができます。そこで、本稿では事業ドメインを設定するメリット、設定方法、注意点、フレームワーク、成功事例などを分かりやすく解説します。

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事業ドメインとは

事業ドメインとは

英語のDomainは、領地、領土、領域、分野などを意味しますが、企業が経済活動を行う事業領域も「事業ドメイン」と呼ばれています。事業ドメインによって、①だれをメインターゲットにし、②競合他社とどのように差別化し、③何を提供し収益を得るかが明確になるので、事業の構築に必要な経営資源の配分が効率的に行えます。また、事業ドメインは既存事業だけではなく、新規事業などの立上げの際に不可欠な事業戦略の策定にも非常に重要です。

事業ドメインと経営理念の違い

「理念」とは、最高の理想的概念や、物事について考える際の基礎となる最も根底の考えを意味し、「経営理念」は会社の経営に対する根本的な考えです。会社の存在意義や経営のあるべき姿をまとめたものなので、「経営方針」や従業員の「行動指針」の基本となります。従って、事業ドメインは、抽象的な概念である「経営理念」に基づいて、会社が事業展開する際の活動範囲を具体的に表したものです。

関連記事「経営理念とは?重要性や目的・作り方を解説

事業ドメインと市場セグメンテーションの違い

英語の「Segmentation」は、区分、区分け、細分化などを意味します。「市場セグメンテーション」は、ターゲット(顧客)の趣味・嗜好・属性などを分類し市場を細分化した上で、自社が活躍できる魅力的なセグメント(細分化された市場)を絞り込むことです。事業ドメインが自社の強みなどによって最適な事業領域を設定するのに対し、市場セグメンテーションはターゲットに重点をおいて事業領域を設定する点が大きく異なります。

事業ドメインを設定するメリット

単一事業によって経済活動をしている中小企業の場合には、事業ドメインがそのまま企業ドメインとなるため、事業ドメインを設定することによって得られるさまざまなメリットは経営面でも大きなメリットとなります。

成功可能性の高い事業に経営資源を集中できる

事業ドメインを設定することは、自社の強みを活かせる中核事業とそれ以外の事業を明確に区分することです。その結果、成功可能性の高い事業領域に経営資源を集中することができるので、事業資金が限られている中小企業にとってはより効率的な資金運用が可能になるメリットがあります。

組織の方向性が明確になる

事業ドメインを文書化し全ての従業員と共有すれば、全員が組織の方向性を明確に理解することができます。その結果、各自が何をすればよいかを判断できるようになり、組織全体のモチベーションや一体感を高める効果が期待できます。また、事業ドメインの設定は、中核事業を優先した効率的な人員配置や組織編成を行える点でもメリットがあります。

ステークホルダーにアピールできる

事業ドメインを設定し、その根拠と成功可能性を合理的に説明することにより、株主、顧客、金融機関、取引先などのステークホルダーに対し、会社の将来性を強くアピールできます。また、事業ドメインの公表によって投資家や金融機関などの評価が高まれば、思い切った投資に必要な資金調達にも良い影響が出てくるはずです。

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事業ドメインを設定する方法

事業ドメインを設定する際には手順が非常に重要で、手順を間違うと誤った結果が出る可能性があるため、基本的な流れをしっかり理解し進めることが大切です。

⒈ 現状の分析・把握

事業ドメインの設定で、最初に行うプロセスは自社の現状を分析し、正しく把握することです。特に重要なのは、自社が保有する技術、ノウハウ、知的財産、生産能力、販売能力などを客観的に評価・分析し、事業の核となる「自社の強み」を明確にすることです。実際に、現状の分析・把握を行う場合には、後述する「CTMフレームワーク分析」や「SWOT分析」などのフレームワークを活用するとよいでしょう。

⒉ 事業ドメインの方向性を検討

現状の分析・把握によって「自社の強み」が把握できたら、次に、事業ドメインの方向性を決定します。具体的には、自社の強みを活かせる事業領域を「既存の市場」に設定するのか、「新たな市場」に設定するのかについて検討し、大きな方向性を決定します。このプロセスでも「CTMフレームワーク分析」や「SWOT分析」などのフレームワークを活用すると、判断に迷うことが少なくなります。

⒊ 事業ドメインの設定と効果・リスクの検証

事業ドメインの大まかな方向性を決定しても、その事業ドメインを設定することによって①期待する効果を出せるのか、②どのようなリスクが想定されるのか、③競合他社は存在するのかなどの視点で調査・分析し、効果とリスクを検証する必要があります。この検証は現在だけでなく将来予測も含めて行うことがポイントです。

⒋ 取締役会の承認決議

設定した事業ドメインは、取締役会を開催し期待できる効果および想定されるリスクを各役員にしっかりと説明した上で承認決議を得ておくことが重要です。このプロセスを経ておかなければ、新たに設定した事業ドメインに基づく活動に対して、取締役会の承認が得られず資金や人材の確保が難しくなる可能性があります。

事業ドメインを設定するときの注意点

事業ドメインを設定する際に、特に重要な注意点が2つあります。それは、「市場の選択」と「事業ドメインの設定範囲」を間違わないことです。この2点を意識して事業ドメインを設定することで大きな判断ミスを回避することができます。

競争優位性を活かせる市場を選択する

市場の選択に際しては、将来に向けた成長市場であることはもちろん重要な要素ですが、同時に「自社の強み」を活かし差別化や競争優位性を構築できる市場を選択することが重要となります。判断の基準になるのは、競合他社に対する競争優位性がどの程度勝っているかであり、競争優位性が弱ければ競合会社に短期間で逆転されてしまい、持続的な事業の発展が困難にかるかもしれません。市場の選択を間違わないためには、「現状の把握・分析」で行った、自社の技術、ノウハウ、知的財産、生産能力、販売能力などの客観的評価と、競合他社の客観的評価を基に判断することが必要です。

事業ドメインの設定範囲は慎重に検討する

事業ドメインは企業が経済活動を行う事業領域のことですが、事業領域を設定する際に設定範囲を広くしすぎると、競合企業が増加するとともに事業内容が曖昧になることで選択と集中が難しくなります。逆に設定範囲が狭すぎると市場規模が小さくなり、事業の発展性や大きな売上高が期待できなくなる可能性があります。さらに、成長期にある市場もあれば衰退期にある市場もあるため、市場の選択に際しては規模、ライフサイクル、将来性などを分析し、事業にとって魅力的な事業領域を設定しなければなりません。

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事業ドメインの設定に役立つフレームワーク

事業ドメインを設定するときの注意点

「現状の把握・分析」に役立つフレームワークにはいろいろなタイプがありますが、その中から事業ドメインの設定に広く利用されているフレームワークを2つ紹介します。

CTMフレームワーク分析

CTMフレームワーク分析は、経営学者のフレデリック・F・エーベルが考案した、事業を定義する際に用いられる手法で、事業を「Customer(顧客)」「Technology(技術)」「Function(機能)」の3つの軸によって分析します。

顧客軸(Customer)

顧客軸では、自社の商品やサービスにふさわしいのは どのような顧客なのかを定義します。具体的には、居住地、年齢、性別、趣味・嗜好、家族構成などの属性を分析することにより、市場を細分化しターゲットを絞り込みます。

技術軸(Technology)

技術軸では、自社が保有する技術の中で、競合他社よりも優れている技術や競合他社が持たない技術を特定し差別化します。技術軸の分析によって特定された技術は、事業基盤と直結するためこのプロセスは特に重要です。

機能軸(Function)

機能軸では、「自社の商品やサービスがどのような価値を顧客に提供できるか」を徹底して突き詰めます。このプロセスによって事業の「機能/役割」を明確化することで、事業の方向性が明確になり、より付加価値の高い商品やサービスの開発が可能になります。

SWOT分析

SWOT(スウォット)分析は、自社を取り巻く「外部環境」と自社の「内部環境」をバランスよく分析し、事業の現状を把握するフレームワークです。内部環境を「強み(Strength)」と「弱み(Weakness)」、外部環境を「機会(Opportunity)」と「脅威(Threat)」の4項目で分類することから、それぞれの頭文字をとり「SWOT分析」と呼ばれています。

強み(Strength)

内部環境における「強み」の分析は、技術力・企画力・販売力・ブランド力など事業に影響を与える要素の中から、競合他社に対して優位性のあるものを見つけ出すプロセスです。

弱み(Weakness)

内部環境における「弱み」の分析は、事業を構成する要素の中で競合他社に勝ち抜くために克服しなければならない自社の課題を見つけ出すプロセスです。

機会(Opportunity)

外部環境における「機会」は、政治・経済・法律など(マクロ環境)と、事業が属する業界の市場規模・成長性・競合企業の存在など(ミクロ環境)を整理し、魅力的な事業機会を見つけ出すプロセスです。

脅威(Threat)

外部環境における「脅威」は、「機会」の分析と同様にマクロ環境とミクロ環境を整理し、自社にとってマイナス要因となり得る発生可能性の高い重大な脅威を分析するプロセスです。

SWOT分析の手順は、最初に、自社の「強み」と魅力的な「機会」が合致するケースを見つけ出してから、「脅威」と「弱み」に対する対応策を検討します。

事業ドメイン設定の成功事例

各業界を代表する企業がどのようなドメインを設定しているのか、CTMフレームワーク分析の「顧客軸」「技術軸」「機能軸」に当てはめて紹介します。

マクドナルド

マクドナルドは世界100ヵ国以上で36,000店以上の店舗を展開する、グローバルレストランカンパニーで、日本国内では約2,900店舗を運営し年間延べ13億人の顧客が利用しています。マクドナルドの現在の機能軸は、顧客だけにとどまらず従業員も含めた「地域の人々に笑顔を届ける」と設定されています。

顧 客 軸地域で暮らしているすべての人々
技 術 軸安全安心で高品質な食事を提供するための「食品管理システム」
機 能 軸おいしさと笑顔を地域の人々に届ける

セブンイレブン

セブンイレブンは、全世界70,000店、国内20,000店を超える世界最大のコンビニエンスストア・チェーンです。当初は、食品や雑貨などのモノの提供がメインでしたが、現在ではセブン銀行ATM、マルチコピー機、宅配便受付など生活に必要なサービスの提供へと機能軸をシフト・拡大しています。

顧 客 軸あらゆるお客様
技 術 軸独自の商品開発体制、デジタル技術
機 能 軸近くて便利な「生活サービスの拠点」となる

タニタ

タニタは、体組成計やヘルスメーター歩数計などのヘルスケアに関わる、計測器を数多く手がけ、体組成計では世界トップクラスのシェアを持っています。機能軸は、時代の変化とともに「何かをはかる」から「健康をはかる」に変化し、現在では「健康をつくる」と変化して来ています。

顧 客 軸世界の人々
技 術 軸計測機器に関する開発技術、タニタ健康プログラム
機 能 軸健康をつくる

まとめ

ここまで、事業戦略を成功させるために非常に重要な「事業ドメイン」について、設定するメリット、設定方法および注意点、現状分析に活用できるフレームワーク、事業ドメインの成功事例などを解説して来ました。事業ドメインを設定する際には手銃が非常に重要となりますが、中でも「現状の分析・把握」と「事業ドメインの方向性決定」は非常に重要なプロセスとなります。自社で設定するのが難しければ経験・知識が豊富な専門家のアドバイスを受けながら進めることも考えられますが、その前に、ご自身で自社の中核事業の事業ドメインを設定してみることをおすすめします。

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