食品卸業界におけるM&A動向は?メリット、注意点を含めてわかりやすく解説

会計士 牧田彰俊

有限責任監査法人トーマツ入所、各種業務の法定監査、IPO支援に携わる。その後、ファイナンシャルアドバイザリーサービス部門にてM&A アドバイザリー業務・財務デューディリジェンス業務・企業価値評価業務等に従事。組織再編によりデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社に異動し、主に国内ミドルキャップ案件のM&Aアドバイザリーとして、豊富な成約実績を収める。2018年、これまで以上に柔軟に迅速に各種ニーズに応えるべく株式会社M&A DXを設立し、現在に至る。

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食品卸業界は市場規模が拡大傾向にありますが、ECの拡大や生産者と小売業者の直接取引が増えていることが業界の課題となっています。今回は食品卸業界の概要からそのM&A動向、M&Aを行う際のメリット、注意点を含めて解説しましょう。また、食品卸業界におけるM&A事例についても紹介しますので、直近の事例を知りたい方にも有益な内容となっています。ぜひ最後まで読んでいただき、食品卸業界におけるM&Aについて詳しく知るきっかけとなれば幸いです。

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食品卸業界の現状と動向

ここでは、食品卸業界とは何かという基本的な部分を始めとして、食品卸業界におけるM&A動向を含めて解説します。

食品卸業界とは

食品卸売業とは、食品全般を商材として小売業者や他の卸売業者に販売する事業を営む業態です。売買の代理、仲介人としての売買斡旋なども卸売業のビジネスに含まれます。具体的には、卸売商、商社、問屋などが卸売業に分類され、スーパーや飲食店向けに食品を販売する形が一般的です。

食品卸業界の特徴としては、商流に沿って一次卸から三次卸までの階層構造になっていることが挙げられます。以下の図の通り、生産者から仕入れる一次卸、一次卸から三次卸につなぐ二次卸、二次卸から小売店などにつなぐ三次卸から構成されています。

図1 食品卸業界の階層構造

食品卸業界の階層構造

また、中間的な立場でマージンを稼ぐビジネスモデルであることから、原価率が高くなり大きな利益率が望めないことも特徴です。三井住友銀行の調査によると、食品卸売業の原価率は84%と高い数値であり、他の業界と比べても利益を稼ぎにくいことがわかります。

食品卸業界の現状

食品卸業界の現状はどのようになっているのでしょうか。統計局の調査によると、飲料を含む食品卸業界の販売額は2020年以降増加傾向にあり、市場としては成長しているといえます。

一方で、近年はコンビニやスーパーを始めとした小売業の大規模化に伴う直接取引の増加、EC販売の拡大によって、卸売業者を介さない取引が増えており、食品卸業界にとっては逆風となっています。

さらに、2024年から物流業界のドライバーに対しても時間外労働の上限規制が課せられる、いわゆる「物流の2024年問題」も食品卸業界の脅威となっています。元々、原価率の高い食品卸業界にとって物流費の高騰は利益の減少に直結するでしょう。食品卸業界にとっては、より悩ましい環境になりつつあるといえます。

食品卸業界の今後

苦しい状況にある食品卸業界ですが、今後はどのように変わっていくのでしょうか。

人口減少が進む日本国内では、小売業と卸売業の市場は縮小することが予想されます。また、仕入れ価格や物流費の高騰により利益率も伸ばしにくくなるでしょう。

このような背景から、今後は小規模な食品卸売企業同士の合併といったM&Aを通じた再編が進んでいくと予想されています。また、成長が予想される海外市場に活路を見出すケースも増えていくでしょう。

食品卸業界のM&A動向

縮小が予想される国内市場を見越して、近年は食品卸業界においてもM&Aが生き残りの手段として認知されつつあります。2022年度に食品業界全体で成立したM&A132件のうち、55件は食品卸業界の事例です。

市場の縮小とコストの増加が同時に続く厳しい環境においては、M&Aを通した卸売事業者の規模拡大と業界の再編は避けられないでしょう。また、小規模な卸売事業者では経営者の高齢化も進んでおり、後継者確保の手段としてもM&Aが注目されています。このことから、今後も食品卸業界におけるM&A件数は増えていくと予想されます。

食品卸業界でM&Aを行うメリット

ここでは、食品卸業界のM&Aにおける譲受企業と譲渡企業のそれぞれの立場で期待できるメリットについて解説します。

譲受企業のメリット

商材ごとのシェアを高められる

縮小が予想される国内市場で競争力を維持するためには、商材ごとのシェアを高めることが一つの手段となります。

同じ商材を扱う企業をM&Aによって買収することができれば、特定の領域におけるシェアが高まり、競合他社に対して優位性を持つことができるでしょう。

未進出の地域に事業展開できる

食品卸業界においては、地域でのシェアも競争力を向上させるための重要な要素になります。

これまで進出していなかった地域での流通網を開拓するには、様々な関係者との交渉や市場調査が必要となり、決して容易ではありません。事業規模の拡大を迅速に進めるためには、M&Aは検討すべき手段といえるでしょう。

新たな商材・ブランドを扱うことができる

食品卸業界で扱う商材は食品全般に及ぶため、大手企業であっても進出できていない分野があります。

特に、地方においては名産品として独自のブランド力を有している食材が存在し、それらを優先的に扱える企業の優位性は高くなるでしょう。

ブランド力の構築は本来短期間で成し遂げることは難しいことから、M&Aによって既存の商材やブランドを獲得できれば譲受企業にとっては大きなアドバンテージとなるでしょう。

譲渡企業のメリット

後継者の確保

東京商工リサーチの調査によると、2022年時点で経営者の平均年齢は過去最高齢の63歳となっており、食品卸業界に限らず経営者の高齢化が進展しています。

中小規模の食品卸企業で経営者が高齢である場合は、M&Aが後継者問題を解決する手段になる可能性もあります。食品卸業界は、長年築き上げた独自の販路や取引先との信頼関係によってビジネスが行われているケースもあるため、短期間で後継者を育成することは簡単ではないでしょう。自社での後継者育成にこだわらず、M&Aによって事業承継する企業を探すことも有力な選択肢になりえます。

経営の安定化

中小あるいは零細の食品卸企業では、業界内で台頭する大手企業と比べて縮小する国内市場への対応が難しくなる可能性があります。また、今後激化する競争やコストの増加に耐えられるだけの経営体力を備えていないケースもあるでしょう。

このことから、将来的な経営の安定化と従業員の雇用確保においては、M&Aによる売却や事業承継が有効な選択肢といえます。

デジタル化の進展

近年は業界に関わらずDX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が認識され、デジタル技術を使った業務の改革や生産性の向上に取り組む企業が増えています。食品卸業界においても例外ではなく、物流費や仕入価格の上昇という逆境に対して、DXによる生産性の向上が喫緊の課題となっているのです。

しかし、DXに向けた設備投資は中小規模や零細の食品卸事業者にとって、資金やノウハウの不足といった壁があるため、容易ではありません。

一方で、M&Aの譲受企業には大企業が多いことから、比較的DXが進んでいるケースがあります。M&Aを通して、譲渡企業に対するDXのノウハウ継承や設備投資が行われる可能性があるでしょう。

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食品卸業界でM&Aを行う際の注意点

ここでは、食品卸業界のM&Aにおける譲受企業と譲渡企業のそれぞれの立場で注意すべき点について解説します。

譲受企業の視点

商材やブランドに強みがあるか

食品卸業界でのM&Aにおいて、譲受企業は譲渡企業が扱う商材のブランド力について、正しく把握することが重要です。また、自社の既存事業にとってシナジー効果を生み出すかどうかについても調査する必要があります。

例えば、日本酒や果実など地域でブランド化されている商材を独占的に扱う企業であれば、たとえ小規模であっても競合他社に対して強みをもっているといえます。

このような企業をM&Aによって買収することができれば、本来は長い時間を要するブランド力の獲得を短期間で実現することが可能になるでしょう。

自社にはない販路を有しているか

食品卸業界では、一見小規模な企業であっても、ある地域や商品においては有力な販路や顧客を持っていることがあります。

日々の経営の中で蓄積された事業ノウハウと同様に、独自の販路や顧客基盤は短期間では実現しないものです。これは、財務諸表などの数字だけでは気付きづらい企業の強みとなります。

M&Aにおける買収にあたっては候補となる企業の取引先、地域での評価など経営指標に表れない部分についても入念に調査する必要があるでしょう。

譲渡企業の視点

自社の強みが正しく把握できているか

M&Aによる売却を成功させるためには、譲受企業が求めるニーズに対して自社の強みが何かを正しく把握することが非常に重要です。

例えば、大手企業が持っていない独自の販路や顧客を有している、特定の商品で大きなシェアと高い評価を得ているなど他社との差別化につながる強みを訴求していく必要があります。

自社の強みを正しく知ることは、譲受企業と売却価格の交渉をする上でも役立ちます。一般的にM&Aにおける価格交渉は譲受企業側が有利とされています。しかし、譲受企業が持っていない強み、ノウハウ、販路などの差別化要素があれば、強い立場で交渉に臨むことができるでしょう。

従業員の安定的な雇用につながるか

M&Aが実施される際、多くの従業員は自身の雇用が安定的に継続されるのかという不安を抱きます。経営者が従業員に対してM&Aによって何が変わるのかを正しく説明し、納得してもらわなければ、従業員のモチベーション低下や大規模な離職につながるリスクがあります。

M&Aを実施する際には、譲受企業がビジネスを安定的に継続させるだけの経営基盤を持っているか、事業を承継するに値する社会的信頼があるかなどについて事前に調査することが重要です。

食品卸業界でのM&A事例

ここでは、食品卸業界におけるM&A事例について代表的なものを紹介します。

亀田製菓がマイセンを子会社化

亀田製菓は2019年に玄米を扱う食品卸であるマイセンを買収しています。亀田製菓では主力製品である米菓以外の事業を開拓しようとしていました。亀田製菓にとって、玄米を材料とした菓子やパンに強みがあるマイセンは、まさにシナジーを発揮できるパートナーでした。食品卸業者へのM&Aを通じて、新たな商材と販路を獲得した事例といえるでしょう。

やまやがチムニーを子会社化

2013年に酒類卸のやまやが居酒屋チェーンを展開するチムニーを買収しました。これによって、やまやは傘下に収めた居酒屋向けに酒類の販路を拡大させています。異業種へのM&Aを通じて自社が扱う商材の販路を広げ、卸売業におけるM&Aのメリットを大いに享受した事例といえるでしょう。

トーホーが海外の同業他社を子会社化

業務用食品卸のトーホーは、縮小する国内市場を見越して海外でのM&Aを加速させています。2020年には、香港で同業他社を買収して3か国目の海外進出となりました。トーホーが重点的に進出する東南アジアでは現在も人口増加と経済成長が続いています。M&Aによって海外市場の成長を取り込んでいる事例といえるでしょう。

まとめ

食品卸業界には、国内の少子高齢化や人口減少による市場縮小に加え、物価上昇や物流の2024年問題など乗り越えるべき課題が山積しています。その中で成長していくためには、規模の拡大や新たな商材、販路の拡大が欠かせません。これらを実現するために、M&Aは有効な選択肢となりえます。逆境を乗り越える手段の一つとしてM&Aを検討してみてはいかがでしょうか。

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