事業承継の専門家について
事業承継は、事業運営に欠かせない資産や知的財産、経営権を後継者に承継することです。事業承継により成長させてきた企業を廃業させることなく、次の世代へバトンタッチすることができます。
事業承継を実施するには、専門的な知識を要するさまざまな手続きを行わなければいけません。手続きに不備があると事業承継は円滑に進まず、余計に時間を要する場合もあります。スムーズに手続きを進めるには、「事業承継の専門家」に相談することが大切です。ここでの事業承継の専門家とは、事業承継の業務を支援する人を指す総称を示します。
事業承継においては、さまざまな専門家が事業承継の業務に携わっています。代表的なものとしては弁護士や行政書士、税理士などが挙げられます。なぜなら事業承継の業務は会計や税務、法務などあらゆる分野の知識が総合的に求められるからです。
事業承継における専門家の役割
中小企業の事業承継をサポートする専門家には、次のような役割があります。
● 専門的な知識を駆使し、最適な道筋を依頼者に示すこと
● 業務を正確かつ円滑に遂行すること
事業承継は税務や法務、会計などあらゆる知識が求められるため、専門的な知識がない人が単独で準備を進めるのは困難です。事業承継の専門家が、どのような役割を担っているのか確認していきましょう。
専門的な知識を依頼者に提供すること
事業承継の専門家が担う役割は、専門的な知識を依頼者に提供することです。事業承継は税務や法務、会計など、あらゆる業務で専門的な知識が求められます。特定分野における専門的な知識を持つ弁護士や会計士、行政書士などに依頼すれば、手続きを進める際に適切な助言を得ることが可能です。
また、自分で作成した書類に不備がないか事実確認も依頼できます。特に、事業承継は専門用語も多いため、専門家に確認してもらうことで契約におけるトラブルの回避にも役立つでしょう。不明な部分があれば専門家に確認することもできるため心強い存在です。
知識を活かして業務を遂行すること
事業承継の専門家は、専門知識を活かして業務を遂行する役割があります。事業承継を実施すると、経営者は自分の業務と並行して手続き作業を行わなければいけません。しかし、専門家に依頼すれば作業を第三者に託せるため、自分の業務に集中する時間を確保できます。
例えば、司法書士や行政書士など書類作成の専門家に依頼すれば助言してもらえるだけでなく、書類の作成もサポートしてもらえます。自分で書類を作成することはないため手間を省けるのもメリットです。通常、時間や手間がかかる手続きも専門家に依頼することで効率的に業務を進められます。
事業承継で活用できる専門家10選
事業承継の手続きに関して相談したい場合、次のような専門家が活躍してくれます。
● 弁護士
● 公認会計士
● 税理士
● 行政書士
● 司法書士
● 公的機関
● 事業承継再生士
● 中小企業診断士
● 事業承継士
事業承継の専門家がいるのではなく、法律や税務など各分野の専門家に依頼しなければいけません。それぞれの特徴を確認していきましょう。
1.弁護士
弁護士は、法律全般の知識を保有する専門家です。事業承継では法律に基づいた手続きが求められる場面があるため、弁護士に相談するのがいいでしょう。また、事業承継では後継人との間でトラブルが発生するおそれもあります。一度問題が起こると当事者だけで解決するのは困難なこともあり、解決に向けて弁護士に依頼する企業も少なくありません。
M&Aで事業承継を実施する場合は、法務デューデリジェンスを行う場合がございます。。法務デューデリジェンスとは、事業承継する対象会社の事業状況を法務面から把握するための調査です。
提出された書類に虚偽はないか、リスクとなり得る未開示の情報はないかなど、企業価値の妥当性やリスクを把握することを目的としています。こういった専門的な調査は、法律家しか行えないため弁護士に依頼することが一般的です。
2.公認会計士
公認会計士は、会計の専門家です。公認会計士は事業承継の専門家ではありませんが、M&Aの事業承継に関する相談も行っています。例えば、対象会社の事業状況を把握するために行うデューデリジェンスは法務や税務、労務など幅広い領域で実施されますが、公認会計士は財務の担当です。財務諸表の確認に加え、帳簿記録の過去データや企業価値、事業計画の妥当性など将来の利益性を調査します。
また、公認会計士はバリュエーションも実施します。バリュエーションとは、事業価値を評価することです。M&Aは買い手側が売り手企業の価値を評価し、評価額をもとに買収価格の交渉が行われます。公認会計士に依頼してバリュエーションを実施しないと適正な価格で交渉できません。M&A仲介会社には、公認会計士が在籍するケースも多いです。
3.税理士
税理士は会計や税務に関する専門家で、主に確定申告書など税務書類を作成したり税金に関する相談を受けたりしています。事業承継では、相続税や贈与税に関する相談を行いたいときに適した相談先です。会社の経営者や個人事業主の場合は、確定申告の作成を税理士に依頼しているケースも多いでしょう。
事業承継を進めるにあたって、相続税や贈与税に関して分からないことがあった場合は、いつも依頼する税理士を頼るのが望ましいです。相談相手がなじみのある税理士なら、会社の内情にも詳しいため的確なアドバイスをもらえます。M&Aによる事業承継を実施する場合は、税務デューデリジェンスを担うことになるのが一般的です。
4.行政書士
行政書士は、行政手続きを専門に行う法律の専門家です。都道府県庁や市役所など官公庁に提出する書類の作成や許認可申請の代行を行います。行政手続きに関する相談にも応じているため、事業承継の相談先として最適です。事業承継で行政書士に依頼すれば、時間のかかる行政手続きを任せられます。
また、記入漏れや記入ミスも確認してもらえるため書き直しや再提出の手間も省くことが可能です。事業承継の場合は、行政書士が相続や贈与、許認可の申請を行ってくれる場合があります。確実かつ迅速に手続きを進めるなら、書類作成や許認可申請の代行を行う行政書士に依頼しましょう。
5.司法書士
司法書士は、法務局や裁判所、検察庁などに提出する書類を作成する法律の専門家です。主に登記業務や供託業務、書類作成、企業法務などの業務を行なっています。司法書士と行政書士はいずれも書類を作成する業務がメインであるため混同されることがありますが、業務分野が異なります。
行政書士は行政の手続きに関する書類の作成を行っているのに対し、司法書士は裁判所や法務局に提出する書類を作成するのが仕事です。司法書士は事業承継の相談にも対応しています。特に、不動産分野の法律問題に強いため、事業承継でも専門家としてのアドバイスを受けられるでしょう。
6.公的機関
中小企業庁では、事業承継に関して積極的な支援を行っています。中小企業庁が事業承継に取り組むのは、後継者問題で悩む中小企業を守るためです。近年は多くの中小企業が後継者不足の問題を抱えており、なかには事業承継を実施せず、そのまま廃業に追い込まれるケースも少なくありません。
中小企業が廃業すると従業員の雇用が失われるため、事業承継を支援することを目的とした公的機関の設置を行っています。中小企業庁による公的機関には「事業承継・引継ぎ支援センター」があり、主にM&Aによる事業承継の支援を実施しています。また、贈与税や相続税の納税を猶予する税制優遇措置も行っているため、事業を承継する際に費用を抑えたい方は検討しましょう。
7.事業承継再生士
事業承継再生士は、一般社団法人日本ターンアラウンド・マネジメント協会が認定する民間資格です。事業再生に欠かせない法律や会計、財務など幅広い知識を持っています。経営全般に対応できる幅広い知識を保有しているため、事業承継に関する相談にも対応することが可能です。事業承継再生士の資格を持つ専門家が近くにいる場合は、事業承継を進めるうえでの良き相談相手になってくれます。
8.中小企業診断士
中小企業診断士は、中小企業の経営課題に対応するための診断やアドバイスを行う専門家です。経営コンサルタントの仕事に対する唯一の国家資格で、資格取得に向けて会計や財務、経営理論などさまざまな分野を勉強しなければいけません。
中小企業診断士は、中小企業の経営者が抱える悩みを解決するのが仕事であるため、事業承継の相談にも対応しています。しかし、中小企業診断士によって得意な分野が異なることも多いです。事業承継の相談をしたい場合は、事業承継に関する知識を保有する中小企業診断士を選びましょう。
9.事業承継士
事業承継士は、事業承継における専門家です。一般社団法人事業承継協会が運営する民間資格で、事業承継の問題や課題を総合的に解決できる知識や能力を持っています。事業承継に関しては、弁護士や公認会計士、税理士など専門家を割り当てて全面的に支援してくれるのが特徴です。
事業承継は、弁護士や税理士のように資格制度がありません。事業承継について詳しく知りたい場合や問題が起きたときは、事業承継士のように民間資格を保有する専門家に相談するのもいいでしょう。後継者の成長を図るための儲かる仕組みやノウハウなども教えてくれるため、経営を継続するなかで頼れる存在になってくれます。
種類別!事業承継の主な相談先
事業承継は、親族内承継・親族外承継・従業員承継に分類されます。それぞれの事業承継は後継者を選定する対象範囲が異なっており、作業を進めるうえで異なる疑問や課題が生まれることも多いです。しかし、事業承継に関する疑問や課題が出てきた場合誰に相談したほうがいいのか悩む方も少なくありません。そこで事業承継の種類の概要を説明しつつ、疑問や問対に応じた適切な相談先をご紹介します。
参考:事業承継の相談先はどこにすべき?おすすめの相談相手や選び方を紹介
1.親族内承継
親族内承継とは、親族に事業を承継する方法です。先代から引き継いだ会社を引き続き親族に継がせたい場合に親族内承継が採用されます。子供や親族など事業を継がせる後継者が決まったら、税理士や公認会計士に相談しましょう。
後継者が身内であっても株式の譲渡を行う場合は、税金対策を行わなければいけません。税金対策の相談は税理士が最適です。もし株式や現経営者以外の株主が保有している場合、買い取りに難航しそうであれば法律に詳しい弁護士に相談しましょう。
参考:親族内承継
2.親族外承継
親族外承継は、親族に後継者としての適任者がいない場合に第三者に事業を引き継ぐ方法です。近年は、後継者不足の課題を抱える中小企業は少なくありません。後継者が見つからないと廃業に追い込まれることもあるため、廃業を回避するために親族外承継を選択する企業が増えています。
親族だけでなく社内にも次期代表を担える人材がいない場合は、M&A仲介業者に相談するのがいいでしょう。M&A仲介業者は、買い手企業と売り手企業のマッチングから条件の交渉、契約までM&Aのサポートを行ってくれます。あくまでも中立的な立場でサポートするため。どちらか一方が有利な条件で契約が進むリスクはありません。
近年はM&Aによる事業承継が増えています。その背景からかM&A仲介業者でも事業承継をサポートする企業も多くなっています。また、M&A仲介業者には幅広いネットワークを持っている業者が多く、弁護士や税理士、公認会計士など各専門家との繋がりを持っていることも多いです。専門的な知識が求められる場合、信頼できる専門家を紹介してくれることも期待できます。M&A仲介会社以外にも金融機関や公的機関でも後継探しを行ってくれるため、並行して依頼する方法もあります。
3.従業員承継
従業員承継は、自社の従業員や役員の中から後継者を選ぶ方法です。従業員継承を選択する場合、税理士に相談するのがいいでしょう。現経営者から後継者に対して株式の譲渡を行う場合、税金対策を行わなければいけません。税務に関する知識を持つ税理士は、相談先として適任です。
また、後継者の中には株式を買い取れるだけの資金を用意できない場合もあります。資金を用意できない場合は、金融機関の支援を受けるために金融機関に相談しましょう。
税理士や公認会計士に依頼する際の注意点3つ
税理士や公認会計士に依頼する際は、次のような注意点があります。
● 事業承継の業務は専門分野の業務とは別物である
● できる限り正直な情報を伝える
● 専門的な知識がない場合がある
事業承継を実施する際は、税理士や公認会計士の支援を要する場面が多いです。しかし、税理士や公認会計士に依頼するときに注意したいポイントがいくつかあります。ここで紹介する注意点を踏まえ、事業承継で依頼する税理士や公認会計士を選びましょう。
1.事業承継の業務は専門分野の業務とは別物である
税理士や公認会計士は、それぞれ税や会計の専門家として業務を行っています。しかし専門分野の業務とは別物であるため、必ずしも事業承継の知識や経験を持っているわけではありません。
事業承継の専門家として支援を受けようとすると、期待したような情報や支援を得られない場合もあります。そのため税理士や公認会計士によっては、事業承継に関しては自身より詳しい専門家を紹介してくれる場合も多いです。そういった意味では、事業承継の実施における初めの相談先として適切だといえます。
2.できる限り正直な情報を伝える
税理士や公認会計士に事業承継の相談をする際には、できる限り正確な情報を伝えましょう。事業承継は相続問題が関わってくることも多いため、家族関係や個人資産に関する質問を受ける場合もあります。
プライベートな情報であるため、どこまで正直に話すかは本人次第です。しかし、能力や実績が高い税理士や公認会計士でも十分な情報がないと、適切なアドバイスを伝えることはできません。答えたくない質問に無理やり答えることはないですが、できる限り正直な情報を伝えるように心がけましょう。
3.専門的な知識がない場合がある
税理士や公認会計士は、必ずしも事業承継の知識やノウハウを持っているわけではありません。しかし、顧問の税理士や公認会計士の場合は、契約の打ち切りを恐れて無責任なアドバイスをするケースもあります。
無責任なアドバイスを信じて指示通りに行動した結果、事業承継が進まないといった最悪の事態に陥ることもあるかもしれません。税理士や公認会計士の中には、事業承継に関して専門的な知識がない場合があることを覚えておきましょう。
事業承継の相談先を選ぶ際のポイント4つ
事業承継に関する相談先を選ぶ際に注意したいポイントは、次のようなものがあります。
● 事業承継の実績を確認する
● 他専門家のネットワークを確認する
● 担当者の人柄や経験を確認する
● セカンドオピニオンを検討する
相談先を選び間違えると、場合によっては事業承継が失敗に終わる可能性がございます。。ここで紹介するポイントを踏まえて適切な相談先を選びましょう。
1.事業承継の実績を確認する
事業承継の相談先を選ぶときは、どのくらいの実績があるのか確認することが大切です。実績数が多いほどノウハウも溜まってくるため、状況に応じた適切なアドバイスを行えるようになります。また、税理士や公認会計士の中には申告業務は対応しているものの、資産税業務は実績がないといった場合もあります。弁護士の場合は、企業案件を多く取り扱う事務所を選ぶのがいいでしょう。
2.他専門家のネットワークを確認する
事業承継は、資産や責務の問題、取引先や従業員への対応、税務対策などあらゆる場面で専門的な知識が求められるため、1人の専門家がすべてに対応することは困難です。。専門的な知識を要する場面で、各専門分野の専門家を配置することが求められます。税理士や公認会計士、弁護士などに相談する際は、他の専門家との連携状況を確認しておきましょう。いざという時に適切な人材を紹介してもらえます。
3.担当者の人柄や経験を確認する
事業承継に関して各専門家に相談するときは、担当者の経験や人柄を確認しましょう。特に担当者の人柄の確認は大切で、気持ちに寄り添ってくれない人の場合は、意思疎通が図れない問題が起こる可能性もあります。事業承継の手続きが始まると密に連絡を取り合わなければいけないため、気持ちに配慮して行動できない担当者には任せるべきではありません。担当者と少し話をして自分にあうか確認しましょう。
4.セカンドオピニオンを検討する
事業承継する場合は、セカンドオピニオンを検討しましょう。セカンドオピニオンとは、より良い判断を下すために依頼した専門家以外の人に意見を求めることです。失敗が許されない状況で、何が正しい情報でどのような方法が適切なのか判断する基準となります。M&A DXでは、個々の状況に寄り添ったアドバイスをするセカンドオピニオンのサービスを提供しています。セカンドオピニオンを探しているなら、M&A DXにご相談ください。
まとめ
事業承継には専門家はおらず、税務や法律、会計など各分野における専門家に相談しなければいけません。特に、事業承継の相談先として活用される税理士や公認会計士は、事業承継に関して深い知識を持っていない人もいます。