事業承継士とは
中小企業庁が2016年に発表した「事業承継に関する現状と課題について」によると、2020年頃には団塊経営者が大量に引退するであろうと予測されていました。中小企業の後継者不足も深刻なため、経営状態は悪くなくても廃業せざるをえないという状況も今後さらに増加していくことが予想されます。
そこで注目されているのが、大切な自分の事業や従業員を守るための事業承継という手段です。事業承継士はこの深刻な問題を解決するために活動する専門家であり、各分野の専門家たちをコーディネートする立場にあります。
一般社団法人事業承継協会が認定する資格
事業承継士は、会社の理念やノウハウを承継し、後継者の更なる成長をサポートする数少ない資格で、一般社団法人事業承継協会が認定団体です。この団体は、主に事業承継の重要性を普及することなどを目的として設立され、他に事業承継プランナーの認定もおこなっています。
事業承継は会社の事業承継のみを考えれば良いわけではなく、代表者個人の相続も検討しなくてはなりません。その点を考慮し、この資格は「社長個人の相続」と「会社の事業承継」の両方の分野を融合させたものになっています。
気になる難易度や合格率は?
実際に取得を目指すとなると、気になるのがその難易度や合格率です。60点以上の得点で合格できます。。後述するように資格取得講座も5日間であり、試験も60点以上で合格できるという点を踏まえると、試験自体は決して難関ではなく、日々の業務と並行しながらの合格が充分可能といえるでしょう。
ただし、後ほど解説するように合格まで様々な条件がありますので、人によってはそれを大きなハードルに感じるかもしれません。
事業承継士の資格を取得するメリットとは
どんな資格試験でも、合格を勝ち取るためには、そのメリットを知ることでモチベーションを高めることが重要です。事業承継士には、この資格ならではのメリットがいくつもあります。
取引先に専門知識をアピールできる
事業承継士を取得すると、事業承継士を名乗ることができるのはもちろん、HPや名刺に掲載することもできます。冒頭で述べたように、今、事業承継は日本で重要なトピックです。
そのため、どの業種であってもこの問題に関心の強い取引先は多いので、事業承継に特化した資格を持っているということで取引先の経営者に自分をアピールできます。また、資格の取得過程で営業手法の習得できます。事業承継以外の場面でも、交渉局面などで学習したことを生かせるはずです。
事業承継支援の仕事を優先的に受託できる
一般社団法人事業承継協会の業務委託先である事業承継センター株式会社では、事業承継支援の仕事が発生したり、各種セミナーを催したりすることがあります。事業承継士を取得していると、これら事業承継関する業務を優先的に受託できるため、今まで以上に仕事の幅が広がることでしょう。
高年収が狙える
各個人の営業力によって異なりますが、近年事業承継の相談は増加傾向にあるため、資格習得後年収アップも期待できます。そのためには、もちろん各方面との人脈形成も重要です。
他の資格との関係性
企業と関わる士業には、他にも弁護士、会計士、税理士など様々な資格が存在します。では、他の資格と事業承継士のつながりはどのようになっているのでしょうか。実は、事業承継士は他の士業と競合するものではなく、むしろ共存する存在ともいえるでしょう。
中小企業診断士とチームを組むこともある
事業承継士は1つの分野に特化するのではなく、幅広い分野への知識やノウハウが必要とされ、コーディネーター的な役割があります。実際に案件に携わる中で中小企業診断士や税理士とチームを組む場面も出てくるでしょう。
そのため、常日頃各方面の有資格者と接点を持っていることが、顧客の満足いく提案にも繋がってくるはずです。
事業承継アドバイザーの資格もある
少し紛らわしいのですが、同じく事業承継に携わる資格として事業承継アドバイザー認定試験や事業承継アドバイザー3級などがあります。事業承継アドバイザー認定試験(BSA)は金融検定協会が実施するもので、事業承継の基礎知識や親族内承継、従業員・役員・外部への承継とM&Aについての知識が問われます。
一方、事業承継アドバイザー3級は経済法令研究会が運営する試験で、銀行業務検定に分類されるので、金融機関の職員が受験する機会が多いです。同じく、金融機関に勤める方に馴染みのある試験として金融財政事情研究会が実施する金融業務2級(事業承継・M&Aコース)もあります。
どの資格を職場で求められるか、また自分がどのような形で事業承継に資格を活かしていきたいかによって、目指すものを決めましょう。
事業承継士取得までの流れ
事業承継士の特徴やメリットを知り、受験を決意したら、早速試験準備が必要です。事業承継士は、他の多くの試験と異なり受験前に必要とされる事項があるため、事前に把握しておき、慌てることのないようにしましょう。
1.事業承継センターの資格取得講座を受講
いきなり試験を受験することはできず、まずは事業承継センターのおこなう事業承継士資格講座を受講しなくてはなりません。講義は東京、大阪、福岡の3会場で全5日間にわたりおこなわれます。
全部で30時間に及ぶカリキュラムの中では、概論に始まり相続、後継者、保険、ケーススタディなど学ぶ内容は多岐にわたり、実践でも役立つものです。本試験ではこの講義で使用したテキストを中心に出題されるので、しっかりと授業内容を把握しておきましょう。
なお、次のステップである認定試験を受験には、講義への出席率が75%以上である必要があります。講義は、ゴールデンウィークや休日におこなわれることが多く、働きながらでも受講しやすい仕組みが整っているといえます。
受講には一定の資格を要する
ここで注意しなくてはいけないのが、この講座にも受講資格があるという点です。受講資格は、中小企業診断士、税理士、公認会計士、弁護士、司法書士、社会保険労務士、行政書士、土地家屋調査士、一級建築士、不動産鑑定士、宅地建物取引士、ファイナンシャル・プランニング技能士等、事業承継協会の認めた国家資格保有者又は、それと同等の知識と能力がある者とされています。
試験の受験資格ではなく、講座の受講資格というのは珍しいので驚く方もいるかもしれません。しかし、それだけ事業承継士が選ばれし資格であるともいえます。いずれの資格も事業承継に関連のある資格なので、まだ保有していない方は自分がとっかかりやすい資格からチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
2.試験に合格する
講座を修了すると、いよいよ試験です。試験では、選択と記述が混合で出題され、60点以上の得点で晴れて合格となります。なお、試験日などの詳しい情報は講座受講時に発表されるため、まずは講義に集中しましょう。
3.事業承継協会に入会する
無事試験に合格すると、一般社団法人事業承継協会への入会資格が与えられます。この段階でも、倫理規定、懲罰基準、資格要件等一定の審査があることにご注意ください。
入会すると、講義で使用した資料をいただくことができます。講義資料はワードやエクセルで加工して使用することも許可されているので、資格取得後の業務で早速生かすことができるでしょう。
事業承継士取得後はどうなる?
事業承継士は取得してそれで終わりではありません。自己研鑽を繰り返すことで、さらなるステップアップや収入アップにもつながるでしょう。
セミナーで講師として活躍することもある
事業承継士を取得すると、セミナーに特別価格で参加できるメリットがあります。さらに、事業承継に関する案件や自らが講師側に回るチャンスもあるので、資格取得後はより事業承継との関わりが強くなるでしょう。
また、すでに述べたように講座は難関資格を保持している人しか参加できない特別なものです。そのため、受講時に知り合った方達と、事業承継に関する案件などで長いお付き合いになることもあります。
定期的に資格更新が必要
事業承継士は資格更新が必要な資格です。具体的には、3年間の継続研修期間内に30単位を取得しなくてはなりません。
セミナー参加や専門誌への執筆、講師を務めるなどで単位取得を積み重ねます。一度取得すれば生涯有効というわけではないので、面倒に感じるかもしれませんが、どれも自己研鑽に有効な手段なので、顧客によりよい提案をするためにも、前向きに取り組んでいきましょう。
まとめ
以上、事業承継士という資格の特徴やメリットを解説してきました。他の多くの資格と異なり、事業承継士は受験するまでに必要とされる項目がいくつかあります。
特に、国家試験などの難関資格を保有していなくてはいけないのはやや厳しい条件といえるでしょう。しかし、そのハードルをクリアしてから取得する資格ゆえ、価値も大きいと思われますし、受講過程で事業承継に関わる様々なスペシャリストと知り合えることも大きなメリットです。
今後ますます重要になる事業承継分野ですので、興味を持った方はぜひチャレンジしてみてください。