廃業と事業承継の種類とその実態は?メリットとデメリットも徹底解説

会計士 牧田彰俊

有限責任監査法人トーマツ入所、各種業務の法定監査、IPO支援に携わる。その後、ファイナンシャルアドバイザリーサービス部門にてM&A アドバイザリー業務・財務デューディリジェンス業務・企業価値評価業務等に従事。組織再編によりデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社に異動し、主に国内ミドルキャップ案件のM&Aアドバイザリーとして、豊富な成約実績を収める。2018年、これまで以上に柔軟に迅速に各種ニーズに応えるべく株式会社M&A DXを設立し、現在に至る。

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少子高齢化が進み、中小企業の後継者不足は深刻化しています。ここ最近、4年連続で4万件を越える休廃業・解散件数があり、この状態からの脱却は簡単なことではありません。後継者不足問題を解決するには、積極的に事業承継を推し進めていく以外に道はないでしょう。廃業の実態、さらには事業承継の種類、メリット、デメリットなどをくわしく解説していきます。

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社会問題化している中小企業の廃業

社会問題化している中小企業の廃業

まず中小企業の廃業の実態を見ていきましょう。2020年4月24日に発表された、2020年版の 中小企業白書・小規模企業白書には驚くべき数字が掲載されています。

中小企業が黒字でも廃業を選択する理由

2019年に休廃業した企業の61.4%が黒字でした。赤字で廃業するならまだわかるのですが、黒字でもこれだけの高い数字で休廃業があるところに問題の根深さがあります。
なぜ黒字なのに廃業してしまうのでしょうか。大きな理由は後継者がいないことです。

なぜ後継者が不足しているのか

さて、ではなぜ後継者が不足しているのでしょう。くわしく解説していきます。

少子高齢化と経営者の高齢化

後継者不足の背景にあるのは、少子高齢化という日本の社会構造の変化です。この傾向は今後さらに加速していくことが予想されています。

また、現在の経営者がすでに高齢化していることも後継者不足を深刻化させています。「2025年問題」という言葉をご存知でしょうか?2025年には団塊の世代が75歳になるため、その年齢に該当する中小企業の経営者が一斉に廃業を選択するのではないかと危惧されている問題です。この問題の解消は簡単なことではありません。

後継者不足解消の難しさとは

中小企業の後継者として考えられるのはまずは子供(親族)です。少子化で子供の数が少なくなっていることに加えて、経営者に子供がいても、その本人が別の仕事をしていること等から跡を継ぎたがらないという傾向が見られるのです。経営者自身が跡を継がせたくないと思っているケースも少なくありません。事業の将来的な展望が明るくないことに加えて、債務や連帯保証を我が子に負担させることへの抵抗が大きな要因となっています。

親族内承継が難しいならば、従業員承継はどうでしょうか。やはりここでも債務が大きな問題となります。株式を買い取る資金力が必要になることも、承継へのハードルを高くしているでしょう。

事業承継税制の改正の目的

親族や従業員が承継しやすい状況になるように後押しすることを目的として、2018年に改正されたのが事業承継税制です。

法改正で変わる廃業と事業承継問題

事業承継税制は、法の改正によって、贈与税や相続税の納税を特例措置として猶予する制度が設けられ、使いやすくなりました。猶予される株式数の上限の撤廃、従業員の雇用維持要件の緩和など、法によって円滑な事業承継を支援する動きが顕著になっているのです。

事業承継先の3種類

経営者から見て、事業承継先と考えられるのは大きく分けて下記の3種類になります。
・「親族への承継」
・「従業員への承継」
・「M&Aによる承継」

親族への承継

中小企業が事業承継を考える上で最初に考えられるのが、親族への承継です。日本では何代目と呼ばれる慣習もあるように、息子や兄弟などに事業承継していくのが一般的と考えられております。会社の資産や財産を一族で所有できますが、一方で跡継ぎの気持ちや技量、他親族への振る舞いなど、親族だからこその問題も発生します。

従業員への承継

親族に後継者がいない場合や技量が足りなく不安な場合、役員や従業員への承継も選択肢としてあります。役員や従業員であれば、業務内容や社風などを理解しているため、会社の事業としてもリスクは少ないといえます。
ただ、従業員を後継者にする場合は、経営者へと育てる必要があります。短期でなれるものではないため、相応の時間と資金と計画が必要となります。また、従業員が引き継ぐ場合、株式取得のための資金や状況によっては借入金も引き継ぐ必要があります。そのため、辞退されるケースもありますので、早めにコミュニケーションを取る必要があります。

M&Aによる承継

後継者が親族にいなく、従業員にも承継できない場合、M&Aという解決策があります。もちろん、後継者が親族にいても、従業員にいても会社の存続や発展のためM&Aという選択をする企業も多くあります。かつての日本はM&Aに対して廃業前の最後の手段というイメージが強かったため、積極的ではありませんでしが、中小企業の事業承継問題が深刻になる中、会社を存続させていくために需要が高まっております。
親族への承継や従業員への承継と違い、経営者の育成に時間や資金がかからない点でもかなり有効的といえます。

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廃業のメリットとデメリット

廃業のメリットとデメリット

廃業を選択した場合のメリットとデメリットを見ていきましょう。

廃業のメリット

1.会社経営という責任からの解放

廃業における最大のメリットは会社経営という責任から解放されるということでしょう。会社の円滑な運営、従業員の生活の保障、取引先との良好な関係など、経営者の肩にのしかかる責任は重大です。長年の精神的な疲労の蓄積もあるでしょう。それらからの解放は大きなメリットといえます。

2.周囲への迷惑が最小限に抑えられる

倒産と違って廃業は計画的に行えるので、従業員や取引先への迷惑が最小限に抑えられます。あくでも倒産と比較してということになりますが、メリットとも言えるでしょう。

廃業のデメリット

1.会社の消失

廃業のデメリットは会社がなくなることです。その結果、従業員、取引先はもちろんのこと、顧客・地域への影響など、マイナスの影響は広範囲にわたります。また会社がなくなることで、それまで蓄積してきたノウハウ、技術が失われるなど、損失も大きいでしょう。

2.残る資産が少なくなる

M&Aと比較した場合、手元に残る経営者の財産は少なくなる傾向があります。場合によっては黒字ではなく赤字となり、債務が残るケースもあります。

親族内承継のメリットとデメリット

親族承継のメリットとデメリット

親族内承継のメリット、デメリットはどんなものがあるでしょうか?

親族内承継のメリット

1.資産の承継方法を選択可能

親族内承継での場合は資産の承継方法を相続、贈与、譲渡などから選択できるので、状況に応じた承継を行うことができます。

2.周囲の理解を得られやすい

家族や親戚が承継する場合は従業員をはじめとして周囲の人間の理解を得られやすくなり、円滑な承継が期待できます。

3.後継者教育の時間がある

後継者教育の期間をある程度確保することができるため、後継者を育てるなど、準備期間を持つことができます。その結果、会社の運営方法なども含めての踏襲が可能になります。

親族内承継のデメリット

1.経営者としての能力への不安

親子や親戚であるということだけで承継される場合に、経営者としての力量が十分でない可能性もあります。跡を継いだことによって、業績が悪化するという例も多々あります。

2.後継者争いの危険性

後継者の候補が一人ではなくて複数いる場合に、贈与や相続でトラブルが起こり、後継者争いが起こる心配があります。この場合、後継者争いというお家騒動の影響を受け、会社の業績自体が傾くケースもあります。

3.経営リスクも引き継ぐことになる

前経営者の個人保証など、債務も引き継ぐことになり、リスクも一緒に引き継ぐことになってしまいます。

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M&Aのメリットとデメリット

M&Aのメリットとデメリット

第三者承継、すなわちM&Aの場合はどうでしょうか?

M&Aのメリット

1.適任者を選べる可能性が高い

親族承継、従業員承継と違って、後継者になる選択肢の幅が広くなります。そのために後継者として適任な人材を迎えられる可能性が高くなります。

2.資産を残すことができる

会社の純資産だけでなく、会社の営業権も評価してもらえる可能性があるため、評価額が大きくなります。また廃業コストもかからないので、手元に残るキャッシュの額が多くなります。

3.従業員の雇用や取引先との関係を守れる

会社が継続することによって、従業員の雇用と取引先との関係を守ることができます。また、地域社会にとっても、顧客にとってもプラスとなるでしょう。

4.自社の発展に繋がる

M&Aでは一般的に売り手より大きい会社が買い手となることから、買い手の経営リソースも活かしながら、さらなる自社の発展に繋がるケースは大いにありえます。

M&Aのデメリット

1.最適な買手が見つからない可能性がある

理想とする買手が見つかればいいのですが、必ずしも思った通りの相手がいるとは限りません。仮に候補者がいたとしても、買い取り提示価格が低い、従業員の継続的な雇用を約束してくれない、などの事態となるケースもあります。

2.従業員が反発することもある

経営者が変わることで、おそらく会社の運営方針も大幅に変更になることが多いでしょう。そうした変化が従業員の反発、離職といった事態を招くこともあります。

M&Aが事業承継問題の最良の選択となる理由

M&Aが事業承継問題の最良の選択となる理由

ここまでは、廃業・親族内承継・M&A、それぞれのメリット、デメリットを見てきました。ふさわしい後継者がいるならば、親族内承継がベストの選択となることもありますが、そうした条件が揃うケースは多くありません。今後、会社経営をどうしたらいいかと悩んでいる経営者にお勧めしたいのはM&Aという選択肢です。くわしく説明していきます。

売手・買手双方にメリットがある

M&Aを選択した場合には広く候補者を探すことになり、最適な後継者を選べる可能性も高まります。M&Aによって多くのキャッシュを手元に残せることに加えて、優秀な経営者に引き継ぐことができれば、M&Aをきっかけとして会社がさらに発展する可能性もあります。

買い取った会社の事業内容とのシナジー効果が期待できるため、買手の会社運営にとってもプラスの材料が増えます。

会社が残り、経営者もうるおい、従業員の生活も安定、取引先との関係も円滑、さらに地域社会への貢献度も増すなど、周囲の人たち(ステークホルダー)がプラスになる可能性が高いのがM&Aです。

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メリットの多いM&Aで注意すべきこと

メリットの多いM&Aで注意すべきこと

メリットの多いM&Aですが、注意すべき点もあります。

会社の客観的な評価を知る

M&Aをするにあたってはまず自分の会社の客観的な評価を知ることが必要となってきます。M&Aの交渉をする上では譲渡価格が大きなポイントになるからです。適正価格はいくらぐらいなのか。判断する基準を知らなければ、交渉が思うように進みません。

会社の企業価値を高める努力が必要

M&Aをすると決めたからといって、会社運営への意欲を失ってはいけません。M&Aをするまで、会社の企業価値を少しでも高められるように動きましょう。

会社が高く売れるから、というだけでなく、M&A後も会社が円滑な運営を進めていけるように、しっかりとした準備と引継ぎを行えると安心です。

まとめ

まとめ

M&Aは人生での大きな決断となるものです。それだけに簡単に決めることはできません。メリットやデメリットをしっかり踏まえ、従業員や従業員の家族、取引先、顧客、地域の人々など、広い視野で検討すべきでしょう。判断したり、実行に移したりするには専門知識も必要になってきます。専門家に相談することが大切です。

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関連記事はこちら「廃業する会社を買うには?メリット・デメリット・買い方・注意ポイントをM&A専門家が解説」
関連記事はこちら「後継者不在では廃業するしかないのか!?後継者不在の事業承継」
関連記事はこちら「今後、廃業は増加する?廃業の手続きと必要な書類について詳しく解説」

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