債務超過でもM&Aや事業譲渡は行える?メリット・デメリットを解説

会計士 村瀬達彦

新卒で有限責任監査法人トーマツに入所。主に製造業、卸売業、小売業を中心とした様々な企業の法定監査業務及びIPO支援業務に携わる。監査業務を遂行する中で企業が抱える様々な課題を目の当たりにし、監査業務とは異なった視点から世の中の企業の力になるべく、幅広いサービスラインを備える株式会社M&A DXに入所。現在に至る。

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M&Aや事業譲渡は業績の良い企業が行うイメージがある人も多いかもしれません。それでは債務超過の状態で、少しでも負債を減らすためにM&Aや事業譲渡はできるのでしょうか?この記事では債務超過の状態でM&Aや事業譲渡をするメリットやデメリットを分かりやすく解説します。

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債務超過とは

債務超過とは金融機関からの借入金や買掛金等の負債が、会社が保有している総資産よりも多い状態のことを表します
例えば不動産や株などを所有する会社の総資産が1億円あり、銀行からの借入金等の総負債が2億円あったとすると1億円の債務超過ということになります。

関連記事「債務超過とは?赤字との違いや対応策を紹介

債務超過企業の事業譲渡

事業譲渡は買手の企業が売手の企業の全て、もしくは一部の事業に対して魅力を感じた場合にはじめて成立するものです。
したがって、債務超過企業であっても売手の希望と買手の希望が一致すれば、事業譲渡することも充分ありえます。

そもそも債務超過の状態というのは、必ずしも会社の業績が悪いということではありません。
例えば人気の商品を大量生産するために工場を新設し、多額の融資を銀行から受けた状態の企業があったとします。
その企業はまだ工場を本格稼働して利益を出していないので、財務上は債務超過という状態になります。

しかしながら人気商品の大量生産なので、将来的に大きな売り上げを生み出すことが期待できるため、債務超過は一時的な状態であると想定されます。
このように財務上は債務超過であっても会社の事情や、事業計画などをしっかり見ていくと、必ずしも債務超過の状態が経営が危うい状態とは限りません。

他にもある程度の大きな会社で、複数の事業をやっている場合、会社の中で重要な事業と重要でない事業がある場合があります。
会社の中で重要な事業はビジネス用語でコア事業といい、重要ではない事業をノンコア事業と呼びます。
ノンコア事業の売り上げが立たず、会社の債務超過の原因となっている場合、その事業を他の会社に譲渡するという話はよくあることです。

例えば鉄道会社が不動産を多く持っており、不動産事業も経営している場合、不動産事業の部分を不動産事業を専門に経営している会社に売却すると、シナジー効果が期待でき、それまで鉄道会社では困難だった不動産についても有効活用が期待できるでしょう。

他にも一般的にイメージしやすく、よくニュースでも見かけることが多い事例としてはプロ野球チームなどのプロスポーツチームの譲渡があげられます。

プロスポーツチームの多くは基本的には赤字経営とはなりますが、広報としては非常に効果的なので、検討する企業が多くいることが想定されます。
つまりスポーツ事業に代表されるように債務超過の事業だと分かっていても、それ以上のメリットを買い手の企業が感じることができれば債務超過の企業でも事業譲渡は行われことがあります。

このように債務超過の企業の譲渡は会社ごと全て譲渡するのではなく、会社の事業の一部を譲渡する場合があります。 

関連記事「企業再生を解説|概要や手順、成功のポイントとは

債務超過の企業における譲渡金額の評価方法

債務超過の企業における譲渡金額はどのように評価されるのでしょうか。
まず注意点としては、債務超過の企業だからといって相場よりも安い値段で売ってしまうと、売手の企業と買手の企業の両方にとって不利益が生じる場合があります。

具体的には、詐害行為とみなされる可能性がある点です。
詐害行為とは債務超過を抱えている企業が、意図的に資産を減らして賠償金額を少なくする行為です。

通常であれば会社が倒産した場合、会社が持っている不動産などの資産を全て売却した上で会社の債権者である銀行などに賠償をします。
しかし賠償する前に会社が持っている資産を安く他の会社などに売ってしまうと、最終的に債権者が手にすることができる賠償額は安くなってしまいます。

このような行為を詐害行為といい、債権者は詐害行為の効力を取り消す「詐害行為取消権」が法律上保障されています。

詐害行為取消権を行使され、裁判所に認められると、会社の事業の譲渡自体が無効となってしまう場合があります。
つまり債務超過企業の事業を安く買ってしまうと、買手の企業にとっては売り手の企業の債権者から追加で料金を求められたり、事業譲渡の話自体が全て白紙になってしまうというリスクがあるのです。

このようなリスクを避けるためにも、事業を売却する際には適正価格で売却をするようにしなければなりません。
適正価格を決めるためには公認会計士や税理士等の専門家に客観的に評価してもらい、事業譲渡を進めていくことが一般的です。

企業の企業価値評価を決めるやり方は大きく分けて3つあり、「コストアプローチ」、「インカムアプローチ」、「マーケットアプローチ」の3つがあります。

関連記事「M&Aの企業価値評価とは?算定方法と企業価値を向上させる方法を解説!

債務超過の場合に事業譲渡や会社売却を行う方法

債務超過の場合に事業譲渡や会社売却を行う方法としては主に3つの方法があります。
「株式譲渡」、「事業譲渡」、「会社分割(吸収分割・新設分割)」の3種類です。

関連記事「M&Aのスキーム(種類)一覧を解説

株式譲渡

株式譲渡は株主が保有している株式を売却することで、会社の支配権や経営権を譲るという方法です。
株式譲渡で売却された場合は売り手の会社の子会社として存続することになります。

株式譲渡の場合は負債もそのまま計上することになるため、上述した詐害行為とみなされることはありません。
しかし債務超過の企業の場合は、債務も一緒に譲渡されるためなかなか買い手の企業は見つかりにくいということが実態としてあります。

事業譲渡

事業譲渡とは売手の企業の全てを売却するのではなく、一部の事業のみを買手の企業に譲渡するという方法です。
例えば売手の企業が焼き肉屋事業と居酒屋のブランドのチェーン店事業を展開しているとします。
そのうち焼き肉屋の事業のみを売却するというのが、事業譲渡に当たります。

売手の企業にとって焼き肉屋が赤字だった場合、赤字事業のみを切り離すことができるメリットがあるという一方、買手の企業としても焼き肉屋事業のノウハウを手にすることができるので、双方にメリットのあることだといえます。

会社分割

まず、会社分割には大別して以下の2種類の方法があります。
一つが、吸収分割という方法です。
吸収分割というのは買手の企業の中に対象となる事業を組み込む方法です。
もう一つが、新設分割という方法です。
新設分割では買手の企業の中に事業を組み込むのではなく、新たな会社として子会社で傘下に置く場合に使われます。

進め方としては、譲渡をする事業を新設分割によって設立した新会社に移し、その新会社の株式を買い手の企業に譲渡することで相手企業の傘下の子会社とすることができます。

これら会社分割というのは事業譲渡とよく似ていますが、権利義務がまとめて譲られる点が事業譲渡との違いです。事業譲渡の場合は特定承継となり、会社分割は包括承継となります。

事業譲渡の特定承継と会社分割の包括承継で異なる部分は、以下のような点です。
まず事業譲渡では対象事業に関係している債務まで承継する義務はありません。
つまり債務超過企業にとっては事業譲渡をすると事業だけを売却し、債務だけが残るということもありえます。

最も身近で大きな違いというと契約、債権者、労働契約及び許認可についてです。
会社分割では契約の相手、債権者や従業員の個別の同意なしにそのまま事業承継することができます。

一方、事業譲渡では契約の相手、債権者や従業員に対して個別に同意を得る必要があります。
売手の会社にとっては会社分割の方が手続きがスムーズであるものの、働いている従業員にとっては事業譲渡の方が納得の上で移ることが可能になります。
許認可の観点からは、保健所や各自治体からもらった営業許可などを再び取得しなければならない可能性があるという点です。
再び許可が必要か否かは、許可を出してもらった担当機関に確認しなければなりません。

このように会社の売却には様々な方法があります。売手と買手双方にとってメリットのある方法で事業の譲渡をするようにしましょう。

債務超過での事業譲渡のメリット、デメリット

債務超過への事業譲渡のメリットやデメリットはどのようなところにあるのでしょうか。
売手の企業と買手の企業の両方の立場に立って、それぞれメリットとデメリットを紹介していきます。

メリット

売手の企業にとって債務超過での事業譲渡のメリットは、事業譲渡で得た資金を債務の返済資金に充当できるという点です。
事業譲渡により債務超過の状態から抜け出すことができれば、健全な経営の足掛かりになるでしょう。

雇用の観点でいうと、事業譲渡や株式譲渡などいずれの譲渡方法であっても従業員の雇用は維持されることが多いです。加えて、良質な企業に譲渡されると待遇は良くなるケースもありあります。
債務超過を解消し、健全な経営が望める状態となれば社員の生活を守ることもでき、仮に倒産してしまうことがあっても迷惑がかかる人の数を少なくできるので、経営者の心理的負担は軽減されることが多いです。

また、買手の企業にとっては債務超過の企業をあえて買い取ることで、通常よりも有利な条件で譲受できる可能性がございます。
売手の企業にとってはすぐにでも売りたいという状況なので、買取金額の交渉をする際は買手の企業が非常に有利となります。

ただしあまりにも安く買ってしまうと、詐害行為とみなされる可能性もあるので注意が必要です。

デメリット

売手の会社のデメリットとしては、債務が全て解消できるとは限らないという点です。
通常の事業譲渡の場合、譲受したい事業のみを選んで取得します。

株式譲渡による場合だと、負債もそのまま引き継がれますが、債務超過を抱えている企業をあえて株式譲渡で買い取る企業はなかなか出てこないでしょう。

事業譲渡という形であれば、買い手の企業は負債を引き取らずに譲受したい事業の部分だけ買い取ることができます。

したがって株式をそのまま譲渡し会社ごと譲渡するというケースを除き、売り手の企業に債務はそのまま残ります。

売却することで債務をすべて返済できる可能性もあるものの、必ずしも債務超過の状態から抜け出せるわけではありません。
また、買手の企業にとっては、債務超過の企業ということで、通常より有利な条件で買い取ることができても、債権者から詐害行為としてみなされるというリスクもあります。

取引自体が詐害行為として裁判所に認められてしまうと、事業譲渡自体が無効となってしまいます。その場合事業譲渡のために費やした経費や時間が無駄になってしまいます。
とにかく債権者、売手、買手、すべての利害関係者が共に誠実な交渉をすることが重要です。

情報開示が不十分だと、買主側から表明保証違反を問われる

通常、事業譲渡をする契約書の中に表明保証という項目があり、相手方に伝えた内容が全て事実であるということを保証するという条項が含まれています。

表明保証違反とは契約書の中の表明保証に違反したということです。
意図的に違う数字を伝えたということであればもちろん問題ですが、伝えなければならない情報を伝えなかった場合でも表明保証違反に問われることもあります。
表明保証違反とはならなくても買手にとって不利益となる情報を「聞かれなかったから答えなかった」と言ってしまうと、その後の関係も悪くなってしまうことでしょう。
売手の企業としてはなるべく高く売りたいので、不都合な情報は公開しないようにすることもあるでしょう。

しかしながら事実を隠していたり虚偽の情報を伝えてしまったことが後で発覚した場合、契約解除だけでなく損害賠償の要求も求められ、結果的にさらに負債を抱えてしまうことになりかねません。
企業価値を落としてしまうような情報であっても、事業譲渡した後はいずれ分かってしまうことです。

交渉の後半の段階になって発覚してしまうと、今までの交渉が全て無駄になってしまい、売手と買手の双方にとっても良い結果とはなりません。
売手としては、あらかじめ債務超過であることを伝えた上で、それでも事業譲渡を検討したいという企業と交渉をしたほうがスムーズに話がまとまりやすくなります。

買手としても、あらかじめ債務超過の状態であることを知っておくと、あまりにも安い値段で買い取ってしまうと詐害行為とみなされるリスクがあると想定することができます。
また、事業譲渡を実行するまでにあまりにも時間を要してしまうと、その間抱えていた負債にどんどん利子がかかってしまい、さらに負債が膨れ上がってしまいます。

お互いにとって無駄な交渉時間を作らないためにも、なるべく早めに債務超過の状態であることを伝えておいた方が良いでしょう。
債務超過の状態で事業譲渡などを検討している売手の場合は、なるべく早めに話をまとめておいた方が最終的に手元に残る資金は多くなるはずです。

重要かつマイナスの印象がある情報を隠したり公開しなかったりするという行為は、買手と売手双方にとって良い結果を生みません。都合の悪い情報であっても全て事実を開示しておくようにしておきましょう。

まとめ

まとめ

債務超過の状態のM&Aや事業譲渡の注意点やメリット・デメリットについて解説しました。
債務超過の状態でも事業譲渡はできますが、詐害行為にならないように注意することが必要です。
詐害行為や表明保証違反にならないためにも、売り手の企業は債務超過の状態であることも含め全ての情報を開示して誠実に対応するようにしましょう。

関連記事はこちら「債務超過とは?倒産、赤字との違い・解消方法・予防策を解説」

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