中小企業の後継者問題について
まず、中小企業の後継者問題について、具体的な数値から実態を把握します。
2019年の会社社長の平均年齢
帝国データバンクによると、2019年の社長の平均年齢は59.9歳と過去最高年齢を更新しています。年代構成別では、「60代」が28.1%と最多であり、次に「50代」が26.4%、「70代」が19.7%と続きます。下記グラフからも、社長の高齢化が進んでいることがわかります。
※参考:帝国データバンク「特別企画 全国社長年齢分析(2020年)」
事業承継に関する最新の調査結果
経営者の高齢化が進むなか、事業承継の重要性はより一層高まっていますが、実際にどれほどの企業で後継者が決まっているのでしょうか。
日本政策金融公庫よる調査結果は、次のとおりです。
・後継者決定企業(後継者が決まっており後継者自身の承諾も得ている)は12.5%
・後継者未定企業(事業承継の意向はあるが後継者が決まっていない)は22.0%
・廃業予定企業は52.6%
・時期尚早企業は12.9%
「後継者決定企業」における後継者は、「長男」が45.2%、「役員・従業員(親族以外)」が16.3%、「長男以外の男の実子」が10.1%です。依然として子どもが事業を引き継ぐケースが多い結果となっていますが、親族以外を後継者に選択する割合が、2015年の調査結果に比べると上昇傾向にあります。
また、「後継者未定企業」では、「現在売却を具体的に検討している」(4.5%)、「事業を継続させるためなら売却してもよい」(45.5%)と事業売却の可能性がある企業が約半数を占めています。具体的に引き継いでもらいたい経営資源は、「事業全体」(50.3%)のほか、「従業員」(26.0%)、「販売先・受注先(企業・一般消費者など)」(17.8%)、「設備(機械・車両など)」(16.0%)などとなっており、「引き継いでもらいたい経営資源はない」(28.8%)を除き、約7割の企業が何らかの経営資源を引き継いでもらいたいと回答しています。
一方、「廃業予定企業」の内、約3割の企業が「子どもがいない」、「子どもに継ぐ意思がない」、「適当な後継者が見つからない」など後継者難を廃業の理由に挙げています。
※参考:日本政策金融公庫「中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2019年調査)」
後継者不在の経営者が取ることのできる4つの選択肢
「後継者がいない」経営者が取ることのできる4つの選択肢は、「廃業」、「事業承継(後継者を探す)」、「M&A」「株式公開」の4つが挙げられます。それぞれの手法には一長一短があるため、自社のケースに最も適した選択をしましょう。
後継者がいない場合の廃業とは
後継者がいない場合の選択肢として廃業が挙げられます。
廃業とは、債務の弁済ができないことなどにより事業を継続できなくなる倒産とは異なり、自ら計画的に事業をやめることです。たとえば、経営者が病気になったり高齢であったりすることにより、事業を続けることが困難と判断した場合に行います。
上記の調査結果からも廃業予定企業の割合が高いことがわかります。まずは、廃業を選んだ場合のメリットとデメリットから把握しましょう。
廃業を選択した際のメリット
廃業を選択した際のメリットは、次のとおりです。
・計画的に事業をやめることができる
・事前に従業員や取引先に通知することにより、影響を軽微にすることができる
・経営者としての重責から解放される
廃業を選択した際のデメリット
廃業を選択した場合のデメリットは、次のとおりです。
・従業員が職場を失う
・取引先との関係を失う
・経営権や資産、技術、ノウハウなど全てがなくなる
・残余財産の分配があった場合、みなし配当課税などの税金が発生することがある
・経営者が債務の連帯保証人となっている場合、経営者個人に返済義務が生じる
経営状況にもよりますが、廃業を選択しても連帯保証人となっている場合には、廃業後も経営者個人に債務返済義務が生じることが予想されます。したがって、廃業は最終的な選択肢として考えましょう。
後継者がいない場合の事業承継とは
後継者がいない場合、事業を承継するためには後継者を探すことになります。親族や役員・従業員が有力な後継者の候補となりますが、親族や役員・従業員への事業承継を選択するメリットとデメリットを確認しましょう。
親族内承継と役員・従業員承継の2とおり
後継者を探す場合の事業承継は、主に親族内承継と役員・従業員承継の2とおりにわかれます。従来から最も多いのは、長男など親族内で引き継ぐ親族内承継ですが、1990年代以降は、引き継ぐ子どもがいないことや価値観の多様性から、親族外承継やM&Aが増えつつあります。
親族や役員・従業員への事業承継を選択した際のメリット
親族や役員・従業員への事業承継を選択した際のメリットは、次のとおりです。
・特に親族を後継者とする場合、早くから後継者として指名することにより後継者
教育に時間をかけられる
・企業の経営理念や社風を維持したまま事業を承継することができる
・比較的他の役員や従業員の理解を得られやすい
・従業員の雇用を維持できる
・取引先や金融機関との信頼関係を維持できる
親族や役員・従業員への事業承継を選択した際のデメリット
親族や役員・従業員への事業承継を選択した際のデメリットは、次のとおりです。
・後継者への株式異動に伴う贈与税が発生することがある
・親族内承継の場合、その親族が後継者として資質に欠けるときがある
・親族内承継の場合、後継者教育に数年単位の時間がかかる
・特に役員・従業員承継の場合、経営権(株式)を取得するために、多額の株式購入資金が必要となる
・役員・従業員承継の場合、債務に関する個人保証の引き継ぎに抵抗を感じる
親族や役員・従業員への事業承継には、上記のようにさまざまなメリットとデメリットがあり、後継者の選定は容易ではありません。経営者の子供に経営者としての能力が備わっており、かつ、十分な意欲があれば親族内承継がベストな選択かもしれませんが、そういう恵まれた経営者は少ないかもしれません。
後継者がいない場合のM&Aとは
後継者がいない場合、M&Aを活用する企業が増えつつあります。M&Aとは企業の合併や買収のことです。ひと昔前までは、M&Aは、大企業が事業拡大や新規参入のために行うひとつの手段と考えられていましたが、昨今は後継者不足の解決策として注目を集めています。
ここでは、M&Aを選択した際のメリットとデメリットをそれぞれ紹介しましょう。
M&Aを選択した際のメリット
M&Aを選択する際のメリットは、次のとおりです。
・事業を存続させることができる
・従業員の雇用や取引先を維持できる可能性が高い
・経営者の連帯債務保証を外すことができる
・経営者は保有する株式の売却によって、十分な老後資金を確保できる
・買手にとって、買収企業とのシナジー効果により事業拡大などが期待できる
M&Aを選択した際のデメリット
M&Aを選択した際のデメリットは、次のとおりです。
・自社の希望通りの買収企業とのマッチングに時間がかかる場合があるほか、マッチングできない場合もある
・デューディリジェンスなど、一定の対応を求められる
・希望通りの売却価格や買い取り条件で合意できないこともある
M&Aは相手との交渉であるため、自社の都合のみで事業承継を進めるわけにはいきません。そこで、M&Aを成功させるためのポイントを次に説明します。
M&Aを成功に導くポイント
M&Aを成功に導くためには、次のポイントに気をつけましょう。対外的に自社が魅力的な企業であると評価されるよう努力し、早い段階で専門のアドバイザーや仲介会社へ相談することが成功へのカギとなるでしょう。
・業績向上を意識し経費削減に心掛けるなど魅力的な企業となるよう努力する
・不要な資産を持たないなど貸借対照表をスリム化し筋肉質の会社にする
・自社の強みをつくる
・会社と個人の支出を明確に区分し、公私混同をしない
・分散した株式を整理する
・M&Aを検討していることの情報漏洩に気をつける
・早めに専門のアドバイザーや仲介会社に相談する
後継者がいない場合のIPOとは
後継者がいない場合の選択肢のひとつとしてIPOが挙げられます。IPOとはInitial(最初の) Public(公開の) Offering(売り物)の略で、未上場企業が、株式を証券取引所に新規上場させ、投資家に株式を取得させることをいい、IPOを選択した場合のメリットとデメリットを説明します。
IPOを選んだ際のメリット
IPOを選択できる企業は多くありませんが、選択できる場合のメリットは、次のとおりです。
・多額の資金調達が可能となる
・知名度や信用力が向上する
・より優秀な従業員を確保できる
・従業員のモチベーションが上がる
・内部管理体制が整う
・株主とストックオプション保有者が利益を享受できる
上場することで世間から注目を集めるため、コンプライアンスの遵守などの意識が高まります。また株式価格が上昇することで、株式保有者の利益も上がるためモチベーションの向上につながりやすくなるでしょう。
IPOを選んだ際のデメリット
IPOを選択した際のデメリットは、次のとおりです。
・上場審査をクリアするためには、時間と費用がかかる
・公開企業となるため、自由な経営が困難となる
・企業価値を向上させなければならないというプレッシャーが大きくなる
・タイムリーで正確な情報開示が求められる
・経営者は自分の都合により容易に株式を売却できない
継続的に成長していく企業であれば、IPOはひとつの選択肢ですが、安定成長企業で内部留保が十分であれば、あえてIPOを選択する必要はないでしょう。
まとめ
後継者がいない場合、経営者はさまざまな選択肢を考えることになります。安易に廃業を選択せず、自社の経営資源や技術、ノウハウ、また従業員や取引先を守るためにも、廃業以外の選択肢を考えてみることもおすすめです。
ひとつとして同じ企業は存在せず、どの手法が適しているのか自社で判断することは難しいため、早い段階で専門家に相談することをおすすめします。
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