経営権という名前の権利は存在しない
経営権とは、経営する権利のことを指していると考えられますが、実際のところ、法律では「経営権」という名前の権利はなく、経営権を定める基準等もありません。
議決権の保有割合で経営権を判断
経営権を示す基準として用いられる権利が議決権の保有割合です。
議決権とは、株主総会の決議の際に票を入れることができる権利のことで、所有する株式数に応じて生じます。例えば株式を5株持っているなら5株分の議決権、10株持っているなら10株分の議決権を持つと考えることが可能です。
議決権を保有している割合に応じて株主として行使できる権利が異なります。議決権の保有割合が多ければ多いほど、会社に対する影響力が増えますつまり、経営権を有しているかは議決権の保有割合でわかると考えることが出来ます。
経営権のために必要な議決権の保有割合
では、どの程度の議決権を保有していれば経営権を持っていると考えられるか、議決権の保有割合と株主の権利について紹介します。
普通決議を可決するためには過半数の議決権が必要
計算書類の承認や役員の選任、自己株式の取得、剰余金の配当、資本金の増加などは、株主総会の普通決議で決議します。
議決権を有する株主のうちの過半数の議決権を持つ株主が総会に出席し、かつ出席した株主が保有する議決権のうち、過半数の賛成が得られた場合に、普通決議が可決されます。(会社法309条1項)
特別決議を可決するためには2/3以上の議決権が必要
定款の変更や株主に株式・新株予約権の割当を受ける権利を与える場合の決定事項の決定、事業譲渡の承認、吸収合併契約・吸収分割契約・株式交換契約の承認といった議題に関しては、株主総会の「特別決議」で決議します。
特別決議は、議決権を有する株主のうちの過半数の議決権を持つ株主が総会に出席し、なおかつ出席した株主の議決権の2/3以上の賛成で可決されます。(会社法309条2項)
2/3以上の議決権を支配権とも呼ぶ
特別決議では定款の変更を決定することができますが、定款の変更では普通決議の定足数(株主総会で可決するのに必要な議決権を保有する株主の出席数)を引き下げたり排除したりすることが可能です。
例えば役員の選任・解任を株主総会で決議する場合を考えます。定款で「株主総会の決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の1/3を有する株主が出席するものとし、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。」と定めると、比較的、役員の選任や解任の自由度(が高まると考えることができます。
このように特別決議を単独可決できる議決権を持っていると、定款を有利に変更できるため、会社の意思決定に対する影響が大きいと考えられます。そのため、2/3以上の議決権を持っていることを「株式会社の支配権を持つ」とも呼ぶ場合があります。
特殊決議通過のためには2/3または3/4以上の議決権が必要
公開会社から非公開会社への変更のような議題に関しては、株主総会の特殊決議で可決します。
特殊決議は議決する内容によって求められる議決権の割合が異なります。例えば株式すべてを譲渡制限株式にすると定款で定める場合は、議決権を有する株主のうち半数以上が株主総会に出席し、議決権の2/3以上の賛成を得なくてはいけません。(会社法309条3項)
また、非公開会社の残余財産分配件に関わる定款の変更などは、議決権を有する株主のうち半数以上が出席している株主総会において、全株主の議決権の3/4以上の賛成を得る必要があります。(会社法309条4項)
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議決権を取得し、経営権を得る方法
議決権の保有割合が増えるほど、会社に対する影響力を高めることができます。議決権を獲得するためにおこなうことについて解説します。
既存株主の合意による株式取得
株主と話し合って、株式を買い取るあるいは譲り受けることで議決権を取得することができます。買い取りの場合は、株式を取得する側が、譲渡する側と合意した資金を持っていることが条件となります。
多数の者(60日間で10名超)からの買付けし、買付け後の所有割合が5%を超える場合や、著しく少数の者(60日間で10名以内)からの買付けし、買付け後の所有割合が3分の1を超える場合は、公開買付け制度を遵守する必要があります。
参考「公開買付け(TOB)制度の概要」
売渡請求権を行使する
株式会社は、相続その他の一般承継により当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限る。)を取得した者に対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができます(会社法174条)。
株式等売渡請求を行使することで、議決権を増やすことができます。ただし、売渡請求権を行使するためには、相続があったことを知った日から1年以内の株主総会で、特別決議で売渡の請求を行わなければなりません(会社法176条)。
定款に売渡請求権について記載しておく
売渡請求をスムーズに進むために、会社の定款に「譲渡制限株式を保有する株主が亡くなって相続が発生した場合、その相続人に対し、その株式について売渡を請求すること」と定めておくことをおすすめします。
なお、譲渡制限株式に関する定款の変更には2/3以上の議決権が必要です。
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経営権を巡る問題点
中小企業の現状
中小企業では、経営権を巡るトラブルがしばしば発生しています。要因としては、亡くなった経営者が遺言で後継者を明示していなかったことや相続について明確に定めていなかったことが挙げられます。
後継者に対して確実に経営権を引き継ぐには、事前に後継者へ段階的に株式を移譲していくのが最善策とされています。
中小企業では会社の経営と所有が分離し得る状態のまま経営者が亡くなってしまうと経営権を巡った問題が起こりやすくなります。
「敵対的買収」による経営権の異動
敵対的買収とは、譲受側が対象会社の経営陣や既存の主要株主などの合意を事前に得ることなく行われる買収のことです。譲受側は、対象会社の経営権を支配できる議決権を取得すべく、議決権の過半数(50%超)の取得を目指すのが一般的です。また、経営陣の同意なく買収を仕掛けるため、十分な情報提供を得られない上、対抗措置(買収防衛策)が取られることもあり、友好的買収に比べて時間やコストが掛かるうえ企業イメージの低下も考えられます。
経営権の承継=事業承継をスムーズに進めるポイント
事業承継がスムーズに進まないと、社内外の人々に不信感を与える可能性があります。ここからは事業承継をスムーズに進めるポイントを紹介します。
経営者が亡くなるまでに後継者を指名する
廃業を回避し会社や事業を次世代に残すためにも、経営者は自身が亡くなる前に後継者を指名しておくことをおすすめします。
一昔前は、事業承継は経営者の兄弟や子ども、孫、甥・姪等の親族を後継者に指名することが一般的でした。経営者と普段から行動を共にしている親族なら、社内や取引先からの理解を得やすく、スムーズな事業承継が実現できる可能性があります。
しかし、親族が後継者としてふさわしくない場合や別の事業を行っている場合、あるいは親族以外に後継者に適任な人物が存在する場合には、従業員や役員を後継者として指名することもあります。従業員や役員なら、社員はもとより取引先も既知で有ることが場合があるため、事業承継がスムーズに進みやすいと考えられます。
また、後継者として別企業の人物を指名することもあります。同業種の経営実績がある人物なら会社を安心して任せられるだけでなく、今まで培ってきた人脈や取引先を結び付けることで飛躍的に承継した事業を発展させる可能性もあります。
経営者が亡くなる前に後継者の指名や株式譲渡を実施
経営者が個人的に後継者を指名するだけでは、スムーズな事業承継を実現できるとは限りません。後継者として指名した人以外に後継者を狙っている人がいる場合は、現在の経営者が亡くなった後、跡目争いが生じることもあります。
遺言により被相続人の意思にしたがった相続財産の配分を行うことが出来ます。後継者を特定の人物に指名する場合は、被相続人となる経営者は、遺言によって株式を指名した者に相続させることをおすすめします。
また、親族以外に株式譲渡を行う場合は、後継者が株式を買い取ることになります。後継者の資金力が不足するケースでは、株式取得資金を準備できるようにスキームを検討します。
後継者が社内外で実績を積み信頼を得る
後継者が十分な議決権を有するための株式を取得できたとしても、事業承継は完了しまません。
関係者の理解を得ながら事業承継を実現するためには、後継者は早い時点から会社経営に関わり、従業員や取引先と関係を築くことをおすすめします。
相続が発生する前にM&Aを実行する
相続が発生すると、後継者の素質や株式取得に関わる資金の問題などが発生します。後継者育成には時間がかかる場合があり、親族や従業員への事業承継が難しいと考えられる場合には、M&Aによる事業承継を検討することをおすすめします
M&Aとは、他企業に企業や事業を譲渡することで取引先との商流や従業員の雇用が存続し続ける方法の一つです。経営権を手放す際に売却金を得られるというメリットもあります。
M&A専門業者に相談する
M&Aを検討している場合、独力で譲渡先を見つけることに苦労する可能性があります。
M&Aを検討する場合、まずはM&A専門業者に相談することをおすすめします。M&A仲介業者の中には、譲渡候補とマッチングだけでなく、相続や税務についても相談できることがあります。
まとめ
議決権の2/3以上を保有していると会社の重要な意思決定を支配できる性質があります
適切な後継者がいない場合や相続でトラブルが起こる可能性がある場合は、M&A仲介業者に相談することで解決の糸口が見えることもあります。万が一に備えて早めに事業承継について検討することをおすすめします。
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