株式譲渡の承認に欠かせない議事録の特徴は?
M&Aで株式譲渡が行われる際、譲渡制限が設定されている株式を譲受企業に譲渡する場合は、譲渡承認決議が必要です。一般的に、取締役会を設置していない企業では株主総会での手続きを経て、取締役会を設置している企業では原則として取締役会での手続きを経て承認されます。
それぞれの譲渡承認決議においては、議事録の作成が必要です。譲受企業としては、譲渡制限が設定されている株式について譲渡の承認がなされていなければ、株主として自身が株式を保有する権利を主張できません。確かに譲渡が承認されたということを示す証拠として、譲受企業は議事録の提出を求める必要があります。
ここでは、取締役会の有無により2種類に区別される議事録に関し、それぞれの特徴を理解しておきましょう。
株主総会議事録の特徴
取締役会がない企業では、株主総会での承認決議において議事録の作成が必要です。M&Aでの株式譲渡に限らず、株主総会が開催されたすべてのケースで議事録を作成することが会社法で義務付けられています。
株主総会議事録は、議事がどのように進められたか、どのような事項が決定されたかなどを記録する書類です。作成方法は、書面または電磁的記録のいずれかが認められています。会社法上、押印の義務はありませんが、別途定款により押印に関する義務者などの事項を定めている場合はしたがいましょう。
議事録の保管については、株主総会実施日から本店に10年間、支店があれば議事録の写しを5年間は備え置くことが義務づけられています。
取締役会議事録の特徴
取締役会が設置されている企業では、原則として取締役会での承認決議が必要です。株主総会と同様、取締役会においても、定められた記載事項を盛り込んだ議事録の作成が会社法により義務付けられています。
取締役会議事録で認められている作成方法は、書面または電磁的記録の2種類です。書面で作成する場合、出席した取締役および監査役の署名または記名押印が求められます。電磁的記録で作成した場合は、署名または記名押印に代わる措置(電子署名)が必要です。
議事録の保管に関しては、取締役会の開催日から10年間、本店での保管が義務付けられています。株主総会議事録と異なり、支店での保管義務は法律で定められていません。
株式譲渡承認で議事録が必要となる場面
M&Aで譲渡制限つきの株式を譲渡させる場合は、譲渡承認の手続きが確かに行われたことを証明するため、株主総会や取締役会における議事録の用意が必要です。
株式譲渡の場面以外でも、議事録の用意が必要となるケースがあります。ここでは、議事録の準備が必要な場面と、議事録がない場合に想定されるリスクを理解しておきましょう。
株式譲渡契約書
M&Aで株式を譲渡する場合は、手続きの流れとして最初に譲渡企業と譲受企業が株式譲渡契約書を締結します。株式譲渡契約書には、譲渡が成立するまでに双方が満たさなければならない条件を明記するのが一般的です。譲渡制限株式を譲渡させる場合は、株式の譲渡承認決議が行われなければならない旨を契約書の条件に盛り込む必要があります。
譲渡承認決議は、取締役会のない企業では株主総会で行い、取締役会がある企業では原則として取締役会で行われるのが一般的です。どちらの場合も、決議の内容を記載した議事録の作成が義務づけられています。
株式譲渡の承認機関に関して、企業の定款で指定されている場合は記されているとおりに進めていきましょう。
登記の際の添付資料
商業登記申請時にも議事録の添付が必要です。実際の決議内容と議事録の内容が異なっている場合、正確な登記ができないリスクがあります。なお、株式譲渡が行われたことで株主が変更しても、登記申請を行う必要はありません。
裁判の証拠書類
取締役会や株主総会で決議された内容や決議の成立に関し、当事者間で裁判に発展した場合は、決議内容についての証拠書類として議事録の提出を求められます。
議事録は、実際の決議内容などを証明する大切な書類のひとつです。議事録がない場合や記載に不確かな点がある場合は、提出を求められた側が裁判上不利になるでしょう。
議事録の閲覧謄写
議事録は、作成した企業が一定期間備え置かなければなりません。備え置く期間は、株主総会の場合が本店に10年間、支店に5年間、取締役会の場合が本店にのみ10年間です。
株主総会議事録については、株主や債権者から議事録の閲覧や謄写を請求された場合、企業側は、これらの請求に応じる必要があります。
取締役会議事録についても、株主や債権者から議事録の閲覧や謄写を請求された場合には、企業側は、これらの請求に応じる必要があります。もっとも、取締役会の議事には秘密を要する事項も含まれているため、裁判所の許可を得なければ当該請求ができない場合もあります。
議事録の基本項目とは?
さまざまな場面で必要とされる議事録は、記載が必要とされる項目が会社法により定められています。項目が抜け落ちていると、重要書類としての効力がなくなり、トラブルの原因になりかねません。
ここでは、2種類の議事録に関し、記載が求められる基本的な項目をご紹介します。しっかりと内容を理解しておきましょう。
株主総会議事録の場合
法律上定められている、株主総会議事録への記載が求められる基本項目は、以下に挙げるとおりです。
・総会が実施された場所や日時
・出席株主および議決権の状況
・出席役員(取締役・執行役・会計参与・監査役・会計監査人)の氏名または名称
・議長の氏名
・議事録を作成した取締役の氏名
・開会から閉会までの経過や議事内容の概要
・株式譲渡承認請求の審議結果
・出席者の発言内容
日時は開始時刻と終了時刻を明記し、場所は県名から部屋名まで詳しく記載します。それぞれの項目で会社側の個人名を書く際は、会社での役職名を添えて書きましょう。出席株主および議決権の状況の項目では、株主総数、発行済株式総数、議決権を行使することができる株主数、議決権を行使することができる株主の議決権の総数、委任状による出席を含む出席株主数、出席株主の議決権数、などを記載します。
取締役会議事録の場合
議事録に盛り込むことが必要とされている項目は、取締役会の場合、以下のように法律で定められています。
・取締役会が実施された場所や日時
・出席した役員や株主の氏名や名称
・議長を置いた場合は議長の役職や氏名
・議案の概要や経過の要領
・会計参与や監査役が意見を述べた場合は発言内容の概要
・株式譲渡承認における決議事項
特別取締役による取締役会の場合や、取締役以外の者が請求して実施される取締役会の場合は、その旨を記載します。特別利害関係取締役がいる場合も、記載項目の追加が必要です。
株主総会のケースと同様に、日時は開始時刻と終了時刻を明記し、実施場所も詳しく記載しましょう。
株主総会や取締役会の議事録の文例
議事録での記載を求められる基本項目が理解できても、実際にどのような書き方をすればよいのか分からない方も多いでしょう。
ここでは、株主総会や取締役会の議事録の文例をご紹介します。項目を並べる順番や文言の言い回しなどを確認し、置き換えが必要な部分を書き直しながら、しっかりとした書類を作成しましょう。
株主総会の議事録の文例
株主総会議事録
開催日時:令和2年4月1日(水) 午前9時30分から午前11時50分
開催場所:東京都△△市◇◇町1234(当会社第一会議室)
出席株主および議決権の状況:
株主総数 80名
発行済株式総数 1000株
議決権を行使することができる株主数 80名
議決権を行使することができる株主の議決権の総数 1000個
出席株主数(委任状による出席含む) 60名
出席株主における議決権数 600個
議長および議事録作成者:代表取締役 ○○
出席取締役および監査役:取締役 ●● 監査役 ◎◎
議事の経過および結果
定刻、代表取締役○○は、議長席より開会を宣言し、上記のとおり定数に足る株主の出席があったため、本総会は適法に成立した旨を述べ、直ちに議案の審議に移った。
議長は、当会社株主より、次のように株式譲渡承認請求書が提出されている旨を説明し、譲渡を承認すべきか否かについて審議を希望する旨を述べ、慎重に審議した結果、出席者の満場一致をもってこれを承認可決した。
株式譲渡承認請求株主
住所:△△
氏名:▲▲
譲渡株数:100株
譲渡の相手方
住所:□□
氏名:■■
以上をもって本日の議事が終了したため、議長は閉会を宣言した。上記決議を明確にするため、議長および出席取締役がこれに記名押印する。
令和2年4月1日
株式会社×× 株主総会
議長・代表取締役 ○○ 印
出席取締役 ●● 印
取締役会の議事録の文例
取締役会議事録
開催日時 令和2年5月11日(月)午前9時から午前11時まで
開催場所 当会社の本社会議室
出席者 取締役3名(取締役総数3名)
A,B、C
監査役3名(監査役総数3名)
D、E、F
以上のとおり出席があったため、本取締役会は適法に成立した。代表取締役○○が議長を務め、定刻に開会を宣し、直ちに議案の審議を始めた。
議案 株式譲渡承認の件
議長は、株主□□様より出された株式譲渡承認請求について説明し、承認すべきか否かについて議場に諮ったところ、全会一致で下記のとおり可決承認した。
記
▲▲が所有する株式2000株を、(住所)△△氏に譲渡する。
以上をもって本取締役会の議案を終了したため、議長が閉会を宣し散会した。
上記の決議を明確にするためここに議事録を作成し、議長および出席取締役と監査役がこれに記名捺印する。
令和2年5月11日
株式会社□□取締役会
議長 代表取締役○○ 印
(以下参加者と印)
取締役会議事録を作成する際の注意点
取締役会に関していわゆる「書面決議」を認める旨の記載が企業の定款に定められている場合は、現実の会議を開くことをせずに、書面や電磁的記録のやり取りだけで決議がなされたとみなすことが可能です。
取締役が取締役会の決議の目的である事項につき提案をした場合に、取締役の全員が書面や電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の取締役会の決議があったものとみなされることになります。
ただし、監査役設置会社においては、監査役が当該提案につき異議を述べた場合には、取締役会の決議があったものとみなされません。
書面決議は、取締役が取締役会に参加できない場合や、集合するのに負担がかかる場合に、機動的な意思決定をする必要がある場合などに活用される制度です。書面決議の場合にも、各取締役が同意の意思表示をした書面(電磁的記録)を作成する必要があり、同書面(電磁的記録)を当該決議があったとみなされた日から10年間、本店に備え置く必要があります。
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これまで解説してきたような内容を理解すれば、議事録は自社で作成することも可能です。しかし、議事録の作成は株式譲渡の承認手続きにおいて重要なプロセスであり、作成に失敗すればさまざまなリスクが発生する恐れもあります。
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まとめ
譲渡制限がついた株式譲渡の承認には、議事録の作成が必要です。株主総会と取締役会で書き方が異なるなど、議事録の作成には高い専門性が求められるため、自社で行うより専門家に依頼しましょう。
議事録の作成について不安がある場合は、M&A DXのM&Aサービスにご相談ください。M&Aの専門家による迅速で丁寧な対応をお約束します。議事録の作成をはじめとした株式譲渡の手続きに関し、一貫したサーピスを全面的にご依頼いただけるのも強みです。
(参考; 『M&A DXの仲介サービス』)