個人が会社を買える時代の到来の背景
なぜ近年、個人がM&Aを行う動きが活発になってきたのでしょうか? その背景を解説しましょう。
起業手段としてのM&Aの普及
2019年4月より厚生労働省による働き方改革関連法が順次施行され、企業は多様で柔軟な働き方を推進するようになりました。国や企業の後押しによる働き方改革により個人が柔軟な働き方を選択できるようになった一方で、終身雇用の前提が崩れつつあり、会社に依存しない働き方を考える会社員が増えています。そういった会社員の中には、副業や独立における起業手段として個人でのM&Aを検討される方がおります。個人としてのM&Aは、0から起業準備を行う必要がなく、既存事業をベースに予測が立てやすい等のメリットがあります。そのため、既存事業が抱えるリスクを継承してしまうという等のデメリットもあるものの、それ以上に起業に伴うリスクを軽減する手段としてのM&Aは市民権を得つつあります。
後継者不足による事業承継問題の深刻化
近年、中小企業経営者の後継者不足による事業承継問題が深刻化しています。会社自体は黒字であるにもかかわらず、ゆくゆく廃業せざるを得ないという問題に直面している経営者が増えています。
このような背景から、廃業するくらいなら会社を売りたいと考えている経営者が増えており、価額が300万円から500万円ほどの売却案件も数多く出てきています。もちろん、個人にとって決して安い買い物とは言えませんが、金融機関から融資を受けたり退職金の一部を充てたりすることで、購入を検討できるのではないでしょうか。
後継者不足で困っている経営者にとっては、事業承継問題の解決にもなり、互いにメリットとなる可能性が高いのです。
個人の資産形成のためのM&A
一昔前まで日本では、終身雇用・年功序列が一般的であり、会社員として働いていれば安定的な収入が保証されていましたが、近年では終身雇用や年功序列制度の神話は崩壊し、会社員として勤めるメリットは薄れてしまいました。そういった影響から、人生100年時代を生き抜くための方法としてM&Aを選択するケースも増えていると言われています。
M&Aマッチングサイトなど仲介サービスの普及
M&Aプラットフォームなど、インターネットを通じてのマッチング・仲介サービスが急速に普及し、個人が簡単に譲渡会社を探すことができるようになったことも、個人による会社購入の追い風になっているといっていいでしょう。
M&Aプラットフォームを利用することで買いたい会社を手軽かつ迅速に探すことが可能な時代がやってきたのです。こうしたWEBサービスを利用して、予算、希望業種、地域など自分の希望する条件に当てはまる会社を見つけることも1つの方法でしょう。
第三者承継に対する行政の支援が拡大
中小企業の事業承継支援を目的とした事業引継ぎ支援センターの設置や、マッチング後のコスト削減など、黒字廃業を回避し第三者による事業承継を総合的に支援する「第三者承継支援総合パッケージ」の策定、法改正による事業承継に関する税負担の軽減、中小企業による事業承継の円滑化を図ることを目的とした中小企業成長促進法の施行など、第三者承継を円滑に進める取り組みが数多く打ち出されています。
こうした政策も個人M&Aを後押しする要因となっていると考えられます。
個人M&Aがよくある業種
個人M&Aの対象となる会社・業種には特に制限等はありませんが、よく個人M&Aが行われやすい業種としては飲食業、エステティックサロンなどの美容系サービス業、塾や予備校などの教育業、ECサイトなどのwebサービス等が挙げられます。これらの業種の特徴としては特別な知識やノウハウが求められにくく、設備や専門スタッフを確保できれば、異業種からでも比較的参入しやすいことが特徴となります。またいずれの業種も個人でも営業できる比較的小規模な事業である事も一つの特徴となります。
個人で会社を買うメリット
個人が会社を買うメリットはどんなところにあるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
リタイア後の職の確保
会社を買うことのメリットのひとつは会社をリタイアした後に安定した収入を見込めることです。近年、年金受給への不安、高齢者の再雇用への不安がクローズアップされており、先の見えない将来を不安視する人も少なくないでしょう。会社を買い、経営者となることで、これらの不安を解消することが可能になるかもしれません。さらに、経営者になることで、やりがいや働きがいを感じることもできるでしょう。
起業するよりも低リスク
まったくゼロから起業する場合には多くのコストがかかります。設備投資に多額の資金が必要な場合もあるでしょう。個人が援助を受けることなく、自らの資産だけで起業するのはかなりハードルの高いことです。しかし既存の会社を購入する場合は初期投資がかからないため、コストを大幅に抑えられます。
会社を経営する以上、リスクはありますが、新たに起業するよりは低コストに抑えることができるでしょう。
資産を増やせる可能性がある
会社を購入して経営者となれば、役員報酬として収入を得ることが可能です。また、経営が順調にいった場合、その会社を売却して売却益を得ることで資産を増やせる可能性があります。
黒字の会社であれば買った直後から収益が見込める
ゼロから起業する場合、どのタイミングから収益が得られるかは分かりませんが、M&Aで黒字の会社や事業を買収したのであれば、基本的に買収直後から収益を得ることが可能です。
個人で会社を買うデメリット
会社を買う以上はデメリットもあります。経営に行き詰まり、従業員に給料を払えなくなる、廃業せざるを得なくなるなどの事態に陥らないとも限りません。
従業員が流失する場合がある
会社を買ったものの、従業員が新しいオーナーを受け入れず、反発を受けることが考えられます。こうした従業員が辞めてしまう可能性もゼロではありません。自分が経営者となったことで待遇が変わったり、組織文化の変化によって従業員が離職してしまう可能性も十分あり得るでしょう。
簿外債務を引き継ぐリスクがある
会社を買うということは、基本的にその会社の資産や負債、契約全てを引き継ぐということです。そのため、買収後に簿外債務が発覚するといった問題も起きる可能性があります。簿外債務とは貸借対照表には計上されていない債務のことです。これによって、自己資金を追加投資したり、金融機関などから借入を行う必要がでてくると、個人としては痛いコスト増になってしまいます。そこのような事態を未然に防ぐため、購入する前の段階での入念な調査を行いましょう。
前経営者への依存度が高い場合
会社が小さければ小さいほど、相対的に社長の影響力が大きくなる傾向があるため、経営者の交代によって顧客が離れ売上が減少してしまったり、取引先との良好な関係が継続できない場合などがあります。購入を検討している会社では経営者への依存度がどの程度あるのか、社長の交代によって、どのような影響が考えられるのかなど、考えられる状況を想定しておく必要があるでしょう。
個人で購入する会社の選び方
個人で会社を買う場合、どうやって会社を選べばいいのでしょうか?注意点、ポイントとなる点などを解説しましょう。
予算をしっかり設定
最初に考えなければならないのは予算です。会社という大きな買い物をする以上、投資できる金額はいくらまでなのかを明確にすると、スムーズに条件に合った会社を見つけることができるようになります。
状況には依りますが、個人が会社を買う場合の相場価格はおおよそ300万円から500万円となっています。この金額をひとつの目安にするといいでしょう。
業務内容を確認
会社を買う場合に確認しておきたいのはどんな業務を行っている会社なのかということです。自分が経営者になる場合は尚更、熱意を持って取り組める業種であるに越したことはないでしょう。
規模に依りますが、一般的に500万円で買える業種は下記のような業種が比較的多く見受けられます。
・飲食店や小売店などの1店舗
・WEBサイト
・学習塾、音楽教室、スポーツ教室などの小規模な教育サービス
・小規模旅館、民泊などの宿泊施設
・不動産仲介業者
・美容院やエステサロン
・薬局、歯科、内科などの医療関連施設
・小規模のメーカー
・介護業
また、業種はもちろん、具体的な業務内容の確認、社風や現場の雰囲気のチェックも検討したいところです。
経営状況を確認
会社を調査する場合、会社の経営は健全か、将来性はあるのかなど、確認事項はたくさんあります。売手が経営困難となって売却を考えている会社の場合は、経営の改善が見込めるのか見極めが必要となることもあります。
簿外債務の有無や、ビジネス上の強みや弱み、契約関係や許認可等の内容、正常収益力など、チェック項目は多岐にわたります。調査は専門的な知識が必要となることから、M&A仲介サービスを提供する会社、公認会計士や税理士事務所、法律事務所など専門的な機関に依頼することが一般的です。
株式会社M&A DXでは、公認会計士・税理士を中心として企業調査(デューデリジェンス)サービスを提供しております。調査の際は、是非電話かメールでお気軽にお問い合わせください。
事業の将来性の有無を確認
事業を見極める上で現在の利益ばかり追いかけるのではなく、今後もニーズのある事業内容なのか、時代に合った変化をしていけるのかを見極めることが大切です。そのうえでは業界動向や競合他社についても調査しておくことが必要になりますし、業界が成長産業であればその分新規参入も増えることでしょう。
個人M&Aで会社を買う手順
個人M&Aで会社を買う場合も、通常の企業によるM&Aとプロセスに大きな違いがあるわけではありません。ただし購入候補の会社を探す段取りや仲介会社やアドバイザーを選定するまでの流れは多少異なります。詳しく解説しましょう。
会社を探す窓口の決定
個人M&Aで最初のステップは候補会社を探す窓口の決定です。考えられるのはM&A仲介会社、金融機関、公的機関、専門家の事務所、マッチングサイトなどでしょう。
一般的にはコストが低く手軽なのはマッチングサイトですが、どの程度までのサポートが期待できるかは、サイトによって異なります。当然ですが、しっかりとしたサポートのある機関はそれなりのコストがかかる場合が多いです。。但し、会社を買うことは人生における大きな決断となるので、リスクを回避するために、しっかりしたサポート体制が可能な窓口を選ぶことを検討してください。
会社選びをする上でふさわしいと感じた相談先とコンタクトを取り、条件面で合意した場合には、売却案件の紹介を受けます。
買う会社の選定と打診
希望する業種、規模、予算などを相談先に伝えて、条件のあう売却案件を探します。条件に合う案件がなかなか見つからなかった場合は、予算の変更やエリアの拡大など、条件の設定を変えることも考慮するといいでしょう。条件に合う売却案件が見つかったら、相手に打診して、具体的な交渉へと入ります。
経営者と面談
買取候補の情報にて検討し、よければ本格的な売買交渉を開始します。その際には秘密保持契約の締結も行われます。交渉が進んで双方が合意に向かっている段階で、売手オーナーとのトップ面談を実施します。トップ面談は互いの信頼関係を築くための大きなポイントになります。
面談時には、事前に共有された売手企業の情報についての疑問を質問して不安点が残らないようにすると、その後の展開がスムーズに進むでしょう。売手にとって会社は大切に育ててきたものでもあるため、どのような経営方針で運営していきたいのか、どのような会社にしていきたいかということを相手に伝えることで売手に安心感を与えることも大切なポイントです。会社の将来は売手側にとっても大きな関心事であることがほとんどです。
基本合意書の締結
売手と条件面で合意した場合には、基本合意書を作成して締結します。基本合意書に記載される内容はM&Aの実行の方法、最終契約までのスケジュール、譲渡価格、譲渡条件、役員や従業員の処遇、デューデリジェンスに関する規定、守秘義務などです。また、一般的に、売手が他の買手候補との交渉に切り替えてしまうリスクを排除するために、買手は、基本合意書において独占交渉権を要求することが多いです。
デューデリジェンスの実施
デューデリジェンスとは買手側による売手側の会社の詳細な調査のことで、日本語では「買収監査」と呼ばれることもあります。ビジネス、財務、税務、法務など、多角的な調査を行うため、各分野の専門家へ依頼することも想定しておきたいところです。
個人が会社を買う場合には、買収してから簿外債務などの潜在的なリスクが発見されることを回避するためにも、デューデリジェンスを入念に行うことを検討してください。
最終契約書の締結とクロージング
取引の最終段階において、買手と売手の双方でで条件の合意がまとまったら、それらの合意事項を示した契約書である最終契約書を締結します。この最終契約書は法的な効力を持つものとなるので、トラブルや取引決裂の元となる内容がないか、締結する前にすべての条項の確認を徹底しましょう。
最終契約書を締結した後は、クロージングという手続きに入ります。クロージングとは会社の引き渡し手続きと代金の決済手続きを行う、M&Aの最終段階における手続きです。売手の会社引き渡し準備や買手の対価支払いの準備期間が必要であるため、最終契約書の締結から一定の期間をあけた後に実施されることも多く、クロージングが終了すると、M&Aの一連の流れも完了となります。
会社を買うときの相場・費用
会社を買うときは、まず売却を希望している会社を探します。案件毎に購入価格は異なり、中小企業を買う場合であっても数百万程度の金額が必要になるケースが多いです。
特に関係省庁から許認可を得ている事業(建設業、不動産業、旅館・ホテル業および労働者派遣業等)や、市場が伸びており今後の業績が好調と見込まれる会社は、購入価格が高くなる傾向があります。
上記を参考に、購入価格がなぜ高いのかもしくは低いのかについて検討し、案件を探すことが重要です。
個人で会社は買ってからが本番
会社を買うことはゴールではありません。むしろ買った段階がスタート地点と考えたほうが良いでしょう。ここからは実際に会社を買った後の注意点を説明しましょう。
将来のビジョンを描く
会社を運営する上では長期的なビジョンが重要である場合もあるでしょう。将来、どんな会社にしていきたいのか、どんな方向を目指していくのか、計画と目標を持つことが会社を発展させていくための要素のひとつです。
将来のビジョンは自分の会社だけに目を向けるだけではなく、社会情勢はどうなっているのか、社会の課題とはなんなのか、地域経済に貢献するためにはどうすればいいのか、など視野を広く持った多角的な視野をもつことによって、より具体的にイメージできる場合もあります。
経営者としての意識と覚悟
長く雇われる側として働いていると、会社を買って経営者となった時、意識の持ち方がうまくいかずに失敗してしまうという例も考えられます。会社を買おうと考えている方の中には、会社内で中間管理職を経験してきたから、部下の管理の仕方はわかっていると考える人もいるかもしれません。
しかし管理職と経営者は異なる次元の役職です。経営者は会社の問題を解決する管理職とは異なり、会社の将来を作る役割があるといった側面があります。また、従業員、会社役員、そしてその家族、取引先、地域社会に対して責任があるという意識が生まれることもあるでしょう。
経営戦略の立て方、交渉の仕方、人心掌握術まで、経営者としての勉強のジャンルは多岐にわたります。将来的に自分が会社を去った時の後継者をどうするのか、という問題に対応しなければならない場合もあるでしょう。
税金・法律に関する知識等を身につける
トラブル発生時の対応などは専門家に依頼するとしても、日々の経理処理や決算などは最低限の知識がないと、経営判断ができない場面がたくさんあります。経営を成功させるための勉強は欠かさず、質の良い専門家を見極め、必要に応じて専門家の力を上手に活用し、活かしていくことが大切です。
まとめ
かつては一個人が会社を買うのはなかなかイメージしにくいことでした。しかし現在では、後継者不足やM&Aの活発化によって、個人が会社を買うことが現実的に考えられるようになってきています。ただし、会社を買うことは、様々なリスクや責任を負うことにつながるとも考えられますし、反対に人生の大きなやりがいにもなり得るでしょう。会社を買おうとする場合は、覚悟を持ち、長期的な計画を立てて、入念な準備をして、情報を収集し、可能な限りM&Aアドバイザーなどの専門家のサポートも受けながら慎重に進めることを検討してください。
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