CAPM(資本試算評価モデル)とは
CAPM(キャップエム、資本資産評価モデル)とは、個別証券(株式)の収益率を求めるためのモデルです。主に、株価の期待収益率を求めたい時に用いられます。
CAPMは、企業目線で見れば「投資家の期待値を数値化したもの」と捉えられます。そのためCAPMは、企業が対投資家の施策を考えるうえで、必須の理論式といえます。
従来、株価の期待収益率を数値化することは困難だと考えられていました。CAPM理論は、投資家が期待する期待収益率を簡単に表現できる画期的な方法として広まり、提唱者の1人ウィリアム・シャープは、ノーベル賞を受賞しています。
CAPMは株主資本コストを計算する方法の1つ
CAPMは、株主資本コストを求める計算式の1つです。株主資本コストとは、企業が事業を行うために調達したコストのうち、株主から出資を受けて調達した資本に対するコストです。投資家から見れば最低限の要求収益率であり、企業は株主資本コストを上回るリターンを提供しなければ、投資家は資金を引き上げると考えられます。
株主資本コストを算出する方法は、CAPMのほかに「マーケット・モデル」や「マルチファクターモデル」などがあります。
CAPMの計算方法
CAPMは、以下の計算式で求められます。
上記の計算式を見ただけでは、何を指しているのかよく分からない方も多いでしょう。そこで、次から上記の計算式を分解して、それぞれ説明します。
リスクフリーレートとは
リスクフリーレートとは、リスクが最小で、リスクフリーに近い形で金融商品から得られる利回りのことです。一般的には、預貯金や10年国債の利回りなどが用いられます。
リスクフリーレートは、おおむね0~2%程度です。
βとは
β(ベータ)とは、株式市場全体が1%変化した時に、任意の株式のリターンが何%変化するかという感応度を表しています。
たとえば、株式市場全体が10%上昇し、とある銘柄が15%上昇すると、βは1.5です。一方で、この銘柄が5%下落すると、βは-0.5となります。
βは個別株式の価格変動の大きさ(リスク)示す指標とも考えられます。
β値が2 → 株式市場全体の2倍値上がりする銘柄
β値が-0.5 → 株式市場全体の値上がり(または値下がり)に対して、その半分値下がり(または値上がり)する銘柄
つまり、β値が高いほど内包するリスクが大きく、β値が低いほど内包するリスクは小さいと考えられます。
市場リスクプレミアムとは
市場(マーケット)リスクプレミアムとは、マーケット・ポートフォリオの期待リターンから、リスクフリーレートを差し引いた数値です。
マーケット・ポートフォリオとは、株式や債券などあらゆるリスク資産を、時価総額の比率に応じて購入したと仮定されるポートフォリオのことです。マーケット・ポートフォリオの期待リターンは、日本でいえば、株式市場を広範に網羅している「TOPIX」が該当します。
プレミアムとは「差額」という意味を表します。マーケット・ポートフォリオの期待リターンから、先ほどのリスクフリーレートを差し引いた数値が、この市場リスクプレミアムです。一般的に、市場リスクプレミアムは5~6%程度とされています。
CAPMの具体的な計算例
実際に、以下の例題をもとに、CAPMにかかわる計算方法を解説します。
【例題】
CAPMが成立する市場において、マーケット・ポートフォリオの期待収益率が6%、安全利子率が1%のとき、当該資産の期待収益率が10%となるベータ値として、最も適切なものはどれか。
イ 1.8
ウ 2.0
エ 3.0
【回答】
まず、マーケット・ポートフォリオの期待収益率が6%、安全利子率(リスクフリーレート)が1%であることから、以下のように市場リスクプレミアムが求められます。
「当該資産の期待収益率」、つまりCAPMが10%だと分かっているので、β値は次のように求められます。
B = 1.8
答えはイの1.8となります。
CAPMを用いてWACC(加重平均コスト)を求められる
CAPMとWACCには関係性があります。CAPMで求めた株主資本コストは、WACC(加重平均コスト)を計算する際に用いられるからです。
WACCとは、借入にかかるコストと、株式調達にかかるコストの加重平均を表した計算式です。1円の資金を調達するためにかかるコストを表しています。投資家・債権者かた見れば、WACCは投資に対する期待収益率となります。
WACCの計算式は、次のとおりです。
rD:負債コスト(金利)
E:株主資本
rE:株主資本コスト
T:実効税率
上記のrEは、ここまで紹介してきたCAPMによって求められる数値です。実際に、以下の例を使って、WACCを求めてみましょう。
金利(rD):5%
株式資本(E):3,000万円
株式資本コスト(rE):10%
実効税率(T):30%
= 5.7%
つまり、この会社が1円を調達するのに0.057円のコストがかかることになります。
なお、WACCはDCF法の要ともなる重要な数値です。DCF法とは、将来期待されるキャッシュ・フローを予測し、将来における不確実性(リスク)を反映した割引率により将来期間のフリー・キャッシュ・フローを割り引いた現在価値をもって事業価値や株式価値を計算するものです。M&Aで企業価値を算定する際などに用いられます。
CAPMを用いる時の3つの注意点
CAPMは株主資本コストを簡単に求められる便利な計算モデルですが、その簡単さゆえにいくつか注意点があります。CAPMを用いる際に注意してほしい点を3つ紹介します。
①市場リスクをβのみのシングルファクターで表している
CAPMで考慮しているリスクはβのみです。βのみのシングルファクターで考えていることがCAPMの良い点ですが、逆に言えばほかの市場リスクを考慮していないことになります。
実際の市場には無数のリスクがあり、また個別銘柄のリターンをβのみで考えるのは現実的ではありません。そのため、CAPMで求められる株価の期待収益率は、あくまで参考程度にとどめておき、ほかの要素も考慮して多面的に考えることが大切です。
②過去のデータに依拠することが多い
本来CAPMは、将来における個別銘柄の期待収益率を表すものですが、実際は過去のデータに依拠して計算することが多くなっています。投資家は、将来の企業の成長性なども考慮して資金を出資するため、過去のデータに依存したCAPMだけで期待収益率を確定するのは危険です。
たとえば、業界ごとのβ値は、過去のデータに基づいて算定されることが多くなっています。当然、投資をするうえで企業の過去を分析することは重要ですが、時代の進歩が早い現代において、CAPMで将来性を正確に把握するのは困難という点は留意しましょう。
③CAPMは株主資本コストの絶対的な解ではない
CAPMでは「投資家が皆同じマーケット・ポートフォリオをもっていること」が前提となっていますが、現実はそうではありません。また、投資家はすべて同じ情報をもち、全員利益が最大化するように動いていることになっています。
CAPMで想定している投資家と、実際の投資家は、当然同じ動きをしません。あくまでCAPMは理論上の式であることを念頭に置いて、用いるようにしましょう。
まとめ:CAPMは株主資本コスト計算のメジャーな方法
CAPMは、個別証券(株式)の収益率を求めるためのモデルです。「リスクフリーレート」「β」「マーケット・ポートフォリオの期待リターン」の3つがわかれば、CAPMを求められます。
ただし、CAPMは理論上の計算式であり、実際の投資家とは異なる動きをする点には注意が必要です。あくまでCAPMは参考程度とし、実際は企業と投資家の対話によって投資家の期待値を測っていくことが重要になります。