企業再生の意味するもの
企業再生とは、経営が上手くいかず、債務超過や債務超過間近の状態にあり、このまま何もしないと破綻してしまうような企業を立て直すことを指します。会社をたたまないことを前提に、不採算部門を見直したり、返済のリスケジュールを図ったり、場合によってはリストラも視野に入れたりしながら、企業の再建を目指すものです。
企業合併や分割、また組織の変更などの企業再編、M&Aなどの手法を活用する場合も少なくありません。
企業再生を検討する条件とは
経営が傾きはじめたからといって、どのような会社であっても企業再生に成功するわけではありません。以下のような条件のもとにある会社であれば、企業再生を検討する余地があるといえます。
●経営者に熱意があり、意識を変える覚悟を持っている
どの経営者であっても、大事な会社の存続がかかっているなら、真摯に再建に向き合うのは当然かもしれません。ただ、これまでと同じ経営方針を貫く経営者では上手くいく可能性が低いでしょう。
●収益が見込める事業を持ち、企業再生の可能性を秘めている
現状は必ずしも黒字事業ではなくても、経費削減や売上の改善等の施策ができるか、将来性が見込めるかの判断が必要です。
●資金繰りを円滑にできるかどうか
債務圧縮やリスケジュールなどによる返済条件緩和等により資金繰りの改善が図れることも再生の条件となります。
●債権者を納得させられること
企業再生における諸手法を実行するには、銀行など債権者の理解が欠かせません。合理的な理由を提示し、債権者に納得の上、協力してもらう必要があります。
●企業が破綻するまでに時間的な猶予があること
企業が破綻間近な状況では、再生に着手しても資金的な時間が足りないケースが多くなります。社長さんの多くは「当社はまだ大丈夫」と思いがちですが、早めに危機を察知し、再生に着手することが重要です。
事業再生との違いについて
企業再生と混同しやすいのが事業再生です。経営難に陥った会社が再生を図るという面で、広義には同様の意味を持っています。
細かく分けるとするなら、企業=法人単位で再建を目指すのが「企業再生」、会社の有無にこだわらず、将来性の見込める一事業に注力して再生を行うのが「事業再生」です。
採算の取れない事業を廃止や統合など事業単位で再生を行う事業再生ですが、そもそも多岐にわたる事業展開をしていない会社もあります。
中小規模の企業であれば、もともと1つの事業のみの場合や多くて3事業くらいにとどまる会社も存在します。ですから事業再生そのものが企業再生に該当するケースもあります。
企業再生には2つの手法がある
実際に会社を再建させる方法は、裁判所が監督のもと行われる法的整理、当事者間の協議によって実行される私的整理の2つの方法があります。それぞれの手法について具体的に解説します。
法的再生とは?メリット・デメリットも紹介
法律を基準とした手法が法的整理となります。裁判所の管轄下で債務整理を行う手続きを意味し、事業を再生する目的で行うものを特に法的再生と呼ばれます。
法的整理 | |
法的再生 | 清算 |
・民事再生 ・会社更正 | ・破産 ・特別清算 |
■民事再生
民事再生法に則った法定の債務整理のことです。債務者が返済資金を準備できない、事業を継続できない法人または個人が手続き可能です。
その特徴から、中小企業の再生手続きに用いられます。経営陣の退任は条件となっていない場合がほとんど。債権者の同意があれば、大幅な債務減が可能です。
■会社更生
会社更生法に基づく法定の債務整理を意味します。裁判所が選任した管財人が手続きを進める法定の債務整理をいいます。
経営者の退任が原則で、株式会社が適用の対象となっており、大企業向けの手続きとされています。裁判所にあらかじめ払う予納金が民事再生よりも高額になります。
【メリット】
メリットは、裁判所という公的な機関が関わるため、公平かつクリアに手続きが進められる点です。債権者の多数の同意が得られれば、裁判所の認可のもと、再建計画が進められます。
【デメリット】
法的手続きが公になることで、会社にネガティブなイメージがつきやすくなります。企業価値や信頼が低下するおそれも出てきます。また予納金等費用もかかります。
私的再生とは?メリット・デメリットも紹介
債権者と債務者の当事者の間で協議を行い、債務を整理して再建を目指すのが私的再生手続きです。
当事者間の話し合いや合意が基本となる手法であるため、柔軟な再生手法だともいえるでしょう。ケースバイケースであり、それぞれの手法で異なりますが、私的再生をトータルで見ると、次のようなメリット、デメリットがあります。
【メリット】
当事者間での協議ですから、 型にとらわれず、フレキシブルに取り決めが行えます。また企業の再生を目指している事実がオープンになりにくいため、社会的なイメージの損失を避けられます。
加えて裁判所が関わっていないため、予納金等の費用もかかりません。債権者の数が少なければ、迅速に手続きを進められる利点もあります。
【デメリット】
原則としてすべての債権者から同意を得る必要があります。柔軟な反面、裁判所の監督に基づかないため、不透明さや不公平感が生じるデメリットがあります。
また、個々に調整を行うことから自らや顧問弁護士に依頼する場合においても交渉等にかなりの手間がかかります。
企業再生税制等の適用も!事業再生ADRによる方法
中立な第三者が協議に加わる事業再生ADRという手法もあります。私的再生の手法であり、当事者間の話し合いが基本ではありますが、法務大臣から認証を受けた事業者が間に入るというある種の公的な側面を持った手続きです。
●私的整理のメリットを併せ持つ(企業再生手続きが公にならない等)
●債権の損失を損金として処理する無税償却が認められる
●事業再生ADRで調整が困難な場合は、法的整理に移行できる
●つなぎ資金の借り入れが可能
●中立的立場の専門家が関わるので、債権者の信頼が得られる
中小企業再生支援協議会(支援協)による方法
支援協は中小企業の事業再生に向けた取り組みを支援する「国の公的支援機関」で、47都道府県の全てに設置されています。支援協に所属するスタッフ自らが企業再生の支援をするほか、支援協の承認を受けた外部の再生コンサルタントが支援にあたります。
企業再生ファンドによる方法
投資家等から集めた資金を元手に、経営不振に陥った企業を支援するのが企業再生ファンドです。出資や貸付などの他、外部から経営者を派遣し、事業の再建を支援しますM&Aによる事業承継等による再生支援も行います。
地域経済活性化機構(REVIC)による方法
事業再生ADR手続きと同じく、第三者が私的整理の調整を行う方法です。REVICに所属する公認会計士や税理士、中小企業診断士等の専門家による企業再生が行われます。比較的規模の大きい中小企業の支援に特化し、地域密着型の再生支援を行っています。
企業再生実行のステップ
企業再生を成功させるためには、本当に再生可能かどうかの見極めが欠かせません。経営が窮地に陥った根本的な原因を探り、まずは現状を的確に把握します。その上で、売上拡大の可能性や経営改善による営業利益が見込めるかどうか、営業収支と財務収支を再考する必要があります。
そして法的再生、私的再生どちらを選ぶのか、スポンサーを得られるのかといった細かい部分を考えていくことが重要です。
まずは企業再生実行の体制を整える
まずは営業収支を見直します。売上増加の余地はあるのか、粗利の改善は可能か、経費の削減はどこまでできるかを事業内容ごとに検討し、 将来性のある事業と採算が取れない事業の見極めからスタートします。 あわせて資金繰りが上手くいかない、赤字となっている原因を探ります。
資産や負債、損益、資本などトータルに財務状況を見直し、今後についての見通しも分析しましょう。営業収支が黒字でも、一時的に資金繰りが追い付かない状況であれば、仕入先の支払条件や得意先の回収条件の交渉を検討します。金融機関への返済条件変更(リスケジュール)は今後の借入ができなくなることから最終手段となります。これらの自社努力により経営が改善すれば法的・私的な企業再生へ進まないこともあります。
不動産や有価証券、保険積立金を含めた資産の売却、スポンサーを得られるかどうかについても検討、留意が必要となります。
企業再生実行を進める手順
営業収支と財務収支を見直し、経営改善を行っても債務超過続くようであれば、法的又は私的による企業再生の実行を進めます。。債権者の数や取引金融機関の関係等を考慮し、企業再生手法を選択します。
事業領域の見極め・組織そのものの見直しが肝心
組織の人員についても見直しが求められます。リストラや給与の減額も考慮に入れなくてはなりません。ただその前に、経営者として従業員のやる気やスキルを的確に評価、モチベーションを上げる努力を怠ってはいないでしょうか。事業領域の見極め同様、注視すべきでしょう。
財務・営業収支の見直し
営業収支全体のバランスを判断し、黒字となるような改善策を練ります。売掛金の回収や在庫などのコストを含め、徹底的に見直します。資金繰りとのバランスも重要です。
最終的な再生手法の選定
総合的に会社の現状を把握し、最終的に再生手法を選びます。企業再生計画に沿った形で、実現可能な形でなければ意味がありません。
企業再生で重要となるポイント
企業再生は限られた時間の中で迅速に行う必要があります。資産やコストカットを行いながら、なおかつ企業価値を高めなくてはならないという、矛盾した2点を同時に実行しなければならないのです。
その中には資産の売却やリストラなど、企業におけるリソースを削っていく作業も含まれます。とても困難な道のりでもある企業再生におけるポイントはどこにあるのでしょうか。
適切な原因の見極め・事業の絞り込み
繰り返しになりますが、最も大切なのは現状把握です。現状を見極め、将来性を見込める事業、不採算事業を選択する必要があります。この現状把握は早ければ早い方が再生への時間的猶予も多くなります。収益を見込める事業の絞り込みや余剰経費の削減を行います。
銀行や債権者を納得させる
銀行をはじめ、債権者に理解してもらえないと、再生への道のりは遠のきます。再生した後もバックアップをお願いするためにも、良好な関係を築いていく必要があるでしょう。ですから、納得できる企業再生プランを提示することが大切です。
早めの検討が大切
経営に難しさを感じた時点で、経営を改善する努力が大切です。タイミングを逸すると、取り返しのつかないところまで資金繰りが悪化、債務超過を改善できなくなってしまいます。早めに専門家に相談することにより、適切なアドバイスが得られ、選択肢も広まるでしょう。
事業再生事例
成功事例
日本航空(JAL)は、日本を代表する航空会社であり、2021年度において国内線と国際線の旅客数ともに1位を獲得しています。しかし、長年にわたり事業面・財務面・労務面に問題を抱えた結果、2008年のリーマンショックを契機に企業再生が不可欠となりました。2009年にJAL再生タスクフォースが設置され、2010年には会社更生法に基づく手続きが開始されました。企業再生支援機構や金融機関の支援により、2010年には更生計画が認可され、減資や増資が行われました。約2年半後の2012年、東京証券取引所第一部への再上場を果たし、会社更生法の手続きを経て再生成功を遂げました。
失敗事例
ダイエーは、イオングループ傘下の全国チェーンで、総合スーパーおよびスーパーマーケットを展開する企業です。急速な出店により不採算店舗が増加し、自社不動産の地価下落も影響し、企業再生が必要となりました。2004年に産業再生機構の支援が決定し、2006年には丸紅へ株式が譲渡されました。その後、2013年にはイオンの子会社となり、2014年にはイオンの完全子会社化が完了し、ダイエーの消滅が決定的となりました。企業再生の試みは2004年から始まりましたが、最終的には失敗に終わりました。
まとめ
企業再生は事業を取り巻く外的な背景や状況を含め、財務状況や営業収支、人材に至るまでを客観的に見直す作業が求められます。会社の強みや武器を見出し、弱い部分を整理、克服するためには、専門家からの的確なアドバイス、マネジメントが欠かせません。
組織再編や事業再生に関する実績が豊富なM&A DXでは、事業戦略を立案から実行までサポート可能です。事業や会社の再生について、ニーズをお伺いした後、客観的なアドバイスを行っております。ご相談は無料でお受けしておりますので、まずはお気軽にご相談ください。