カーブアウトとは?用語の意味・実施手順・注意点を徹底解説!

山下正太郎

メガバンクに入行し、M&Aを含む各種ファイナンス業務に従事した後、大手M&Aブティックに入社。中小企業の事業承継問題に対するソリューションとしてのM&A取引を推進。その後、上場企業および大手コンサルティング会社の企画部門にて投資責任者を歴任。キャリアを通じて多数のM&A案件の成約に携わった他、PMI担当として買収先とのスムーズな経営承継を実現した経験を多数持つ。

この記事は約9分で読めます。

大手企業はM&Aを活用した選択と集中により競争力が強化され、ベンチャー企業はクラウドファンディングや株式上場によって資金調達が加速しています。このような環境下で、注目されるのがカーブアウトです。

事業や企業の価値を高めるため使われる戦略ですが、「具体的に何をするのか」「スピンオフ・スピンアウトとはどう違うのか」など、よく知られていないこともあります。そこで、今回はカーブアウトをテーマに、概要や方式などを解説します。

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本記事のポイント

  1. カーブアウトについて全体像をよく知りたい方へ向けた記事です。
  2. カーブアウトの概要や方式、メリットとデメリット、スピンオフなどとの違い、手順、注意点を紹介します。

カーブアウトとは何か

企業が行う経営戦略の一種が「カーブアウト」です。カーブアウト(carve out)とは「切り出す/分割する」という意味で、具体的には、企業が特定の事業部門や子会社を切り離し、それぞれを新しい会社として独立させる方法です。これは、赤字が続く事業部門や子会社を切り離したり、業績の良い部署を独立させたりすることで、企業全体の収益アップや成長を狙って行われます。

カーブアウトの対象は、事業部門だけにとどまりません。知的財産や特殊技術などもカーブアウトの対象となります。カーブアウトを行っても、独立した企業と分離元である親会社との資本関係は、そのまま引き継がれます。分離元(親会社)から人材などを提供してもらうことも可能でしょう。

分離された側の企業にとっても、カーブアウトを行う利点があります。独立したひとつの会社とすることで、外部企業や投資家からの出資を受けやすくなる場合もあり、そうした場合には効率的で加速度的な成長、もしくは経営状態の改善を図れるでしょう。

カーブアウトには2つの方式がある

ひと言でカーブアウトといっても、その方式は「事業譲渡」と「会社分割」の2つに分かれます。

事業譲渡の方式

ひとつの企業が、さまざまな事業を展開させていることはよくあります。しかし、展開している全ての事業が黒字経営というわけではないでしょう。

反対に、企業としての本業ではないが、収益が高く、成長スピードを早めたいとの思いから財務体質を強化したいというケースもあるでしょう。この様な場合に行われるのが「事業譲渡」を使った方式です。

事業譲渡において対象となるのは、株式ではなく人やモノ、権利です。特定事業や部門のみをM&Aで売却、合併することができます。しかし、事業譲渡の方式でカーブアウトを行う際は、引き継ぐ資産や負債をそれぞれ契約の中で決めることになります。 取引先や従業員との契約等はそのまま引き継ぐことができず、再度契約を結ばなければなりません。

会社分割の方式

事業譲渡方式のデメリットをカバーできるのが「会社分割方式」です。会社分割方式では、売り手企業側から見た、売却対象の部分を分割します。会社として分割するため、この方式を活用すると、取引先や従業員との再契約が不要となります。

ただし、組織再編手続、特に債権者保護手続の実施が必要となるため、公告に必要な期間を含めるとクロージングまでに最低でも約1カ月半弱程度の期間を要し、迅速なクロージングが必要な取引には適しません。また、事業譲渡に比べると承継対象となる従業員の範囲について、柔軟に対応することは難しくなります。

そのため、カーブアウトを実施する際、事業譲渡と会社分割のどちらのスキームを選択するかは、それぞれのメリットとデメリットを見極めて選択することが必要になります。

カーブアウトのメリット・デメリット

カーブアウトのメリットは次のようなものがあります。

(1)資金調達や人材の支援が得られる

カーブアウトして別企業として独立させることで、親会社のほかに投資ファンド等からも資金や人材面の支援を受けられる可能性が広がり、潤沢な経営資源のもとで事業を促進することが可能になります。

(2)成長スピードの加速

経営の意思決定も迅速に行えるようになるため、より事業の成長スピードが加速しやすいとされています。

一方、デメリットとしては以下の2点があります。

(1)意思決定のプロセスが複雑化する

カーブアウトによって切り出された新会社に対して、外部企業から株式による資金調達があると、株式比率次第では、それが影響して経営に介入されることがあります。そのような場合、新会社内の意思決定プロセスが秩序を失い、事業推進がスムーズにいかなくなる可能性が生じます。

(2)離職率が高まる可能性がある

カーブアウトされる際に新会社に投入される人材は、親会社からの転籍者となることが大半です。親会社と資本提携していても、新会社は完全な独立法人になります。そのため、親会社からの転籍者の中には、転籍を望まないにもかかわらず転籍を余儀なくされた社員もいます。親会社に在籍することで描いていたキャリアプランに変更が生じるということなので、なかには離職を希望する社員も出てきます。
カーブアウト実施によって離職率が高まる可能性がありますので、リスク軽減のためにも社員のモチベーションを向上させる施策も併せて実施することが必要なケースが出てくるでしょう。

スピンオフ・スピンアウトとの違い

カーブアウトと似たものに「スピンオフ」や「スピンアウト」があります。どれも親会社からの事業独立を意味する手法で、混同して使用されることも多いですが、その内容はそれぞれ明確に異なります。ここではその違いを解説します。

スピンオフとの違い

スピンオフもカーブアウトと同様に、親会社と資本関係にあります。しかし、スピンオフの場合は、親会社の「現物出資」によって経営されるため、外部からの資金調達は受けていない点でカーブアウトとの違いが見られます。そのため、スピンオフは「現状の収益化はできていないものの、将来性はあるために他社に支配権を取られたくないビジネスモデル」に適用されるケースが多くなっています。

スピンアウトとの違い

スピンアウトは逆に、親会社と新会社との間に資本関係はなく、新会社は完全に独立した状態です。

一般的に、スピンアウトを行う場合は、親会社の赤字が続いた部門を選別し、自社本来の経営に集中することが目的となります。親会社と新会社の間に、一切の関係性がなくなるという点でカーブアウトとは異なります。

3つの手順でカーブアウトを実施

3つの手順でカーブアウトを実施

実際どのような手順を踏むことでカーブアウトができるのでしょうか?ここではカーブアウトを行う際の手順を3段階に分けて解説します。

手順1.検討すべき事項の調整

自社でカーブアウトを行う場合、まず着手しなければならないのはカーブアウト後に独立する新会社へ継承するものとしないものを分けることです。検討する項目を細分化すると、主に以下の4つに分けられます。

●従業員との雇用関係

●分割後の各従業員の処遇

●各事業部を構成する資産と負債

●取引上の契約関係

また株式を市場に公開している企業であれば、カーブアウトを実施する旨も公表しなければなりません。カーブアウトにより、赤字事業または利益の高い事業が切り離されることは、会社の状況や、今後の会社の成長に大きく影響します。

手順2.法的手法の検討を行う

カーブアウトの法的手法としては、事業譲渡と会社分割の2つの手法がありますが、それぞれのメリット・デメリットを考慮して、手法を選択します。(※それぞれのメリット・デメリットは前述)

手順3.会計情報の調整を行う

最後に、会計情報の調整を行います。切り離す事業の会計情報を整理しますが、特定事業のみの会計情報をまとめている企業は少ないでしょう。そのため、会計情報を整理し、親会社と新会社、それぞれに関連する情報を分ける作業を行います。

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カーブアウトの注意点

カーブアウトの注意点

カーブアウトを行う際は、いくつかの注意点を考慮しましょう。ここでは4つのポイントに分けて、注意点を解説します。

分離が難しい場合がある

企業によっては、分離することが難しいケースもあります。たとえ会計上では分離できていても、事業の実体として分離が難しい場合です。

例えば、部品の製造から完成品の製造までを作っている企業のケースを考えてみましょう。独立した新会社ではなく、親会社が継続して部品製造工場を保有しているような場合、カーブアウトには向いていません。事業を独立させることを目的とする中で、製品に使う部品などを作る工場を親会社が保有したままでは、今までどおり円滑に業務を進めることが難しくなります。

事業許可の承継を行わなければならない

カーブアウトを行う際は、特定事業における許認可を行政機関から受けなければいけません。これは包括承継となる会社分割方式でカーブアウトを行う場合でも、許認可の取得が必要な場合があるということです。

管理部門への影響も考慮する必要がある

親会社と新会社に共通する部門がない場合も注意しなければなりません。総務や人事などの機能を新会社側が単独で所有していない場合があります。その際は、管理部門についてどうするか、代案を検討しなければなりません。

従業員の雇用形態を見直す場合がある

会社分割方式でカーブアウトを行う際は、労働継承法によって規定されています。しかし、事業譲渡方式の場合は、従業員の雇用形態を見直さなければなりません。場合によっては、雇用契約を継続できない可能性もあるため、注意が必要です。

カーブアウトの事例

カーブアウトの事例

カーブアウトの成功例は過去にいくつかあります。ここでは「株式会社VAIO」の例を紹介します。もともとVAIOは、ソニーが展開していたブランドのひとつでした。

しかし、VAIOから販売されたPCの売り上げが落ちていたことから、2014年に独立。独立し事業の縮小を行ったところ、VAIOは独立から2年で黒字化を果たしました。

まとめ

まとめ

企業が特定の事業部門や子会社を切り離し、それぞれを企業として独立させ、経営改善を図る経営方法「カーブアウト」について解説しました。メリットとデメリット、注意点などに留意して、自社にとって最善の策を検討する際の参考にしてください。

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