M&A(エムアンドエー)スケジュールの全体像を解説
M&A(エムアンドエー)は大まかに以下のようなスケジュールで進捗します。
M&A(エムアンドエー)プロセスは比較的中長期のプロジェクトとなることが一般的で、平均的には6ヶ月程度、短くても3ヶ月程度、長い場合は1年を超え数年間要するケースもあります。
そのため、M&A(エムアンドエー)の実行を考えている方は、余裕を持ったスケジュールを組まれることをお勧めします。
① M&A(エムアンドエー)ニーズの起こり
② M&A(エムアンドエー)の相手先の選定
③ NDA/CA(秘密保持契約)の差入・締結
④ 初期的情報の開示
⑤ 初期的条件のオファーや交渉
⑥ MOU(基本合意)の締結
⑦ 譲受側(買い手側)によるDD(デューデリジェンス)の実施
⑧ 最終条件の交渉
⑨ SPA/DA(譲渡契約書)の締結
⑩ 契約要件(クロージング条件)の充足
⑪ クロージング(資金決済)
M&A(エムアンドエー)ニーズの起こり
M&A(エムアンドエー)では、ある会社を譲渡(売却)したいもしくは譲受(買収)したいというニーズが起こることによって、M&A(エムアンドエー)プロセスがスタートします。
1.譲渡(売却)ニーズの例示
✓ 後継者不在による事業承継
✓ 創業者利潤(利得)の確保
✓ 選択と集中によるノンコア事業や不採算事業からの撤退
✓ 経営環境の悪化に伴うスポンサー企業の招聘の必要性
2.譲受(買収)ニーズの例示
✓ 各種シナジー効果(相乗効果)を発現させる
✓ 業界再編
✓ 新規事業への進出
M&A(エムアンドエー)の相手先の選定
M&A(エムアンドエー)では、必ず譲渡企業(売り手側)と譲受企業(買い手側)が必要になります。
そのため、M&A(エムアンドエー)では相手先が必要となり、最適な相手先を選定する必要があります。
1.譲渡側(売り手側)が譲受側(買い手側)を探す場合
譲渡側(売り手側)自らが譲受側(買い手側)に接触するケースもありますが、情報管理や守秘義務の観点から、譲渡側(売り手側)が仲介者・仲介会社や(FA)ファイナンシャル・アドバイザリーが代行して接触を図るケースが一般的です。
この場合、初期的には対象会社が判明しないよう、匿名で対象会社の概要が記載されたノンネームシート(ティーザー)を作成し、それを利用して候補先へ接触します。
候補先への接触に際しては、候補先の見込みをリスト化し、リストに沿って打診していきます。
2.譲受側(買い手側)が譲渡側(売り手側)を探す場合
基本的な流れは、「1.譲渡側(売り手側)が譲受側(買い手側)を探す場合」と同様です。
重要なことは、情報管理や守秘義務をきっちりと守ることで、特に譲受側(買い手側)が上場会社の場合はインサイダー情報にもなるため、特に重要となってきます。
NDA/CA(秘密保持契約)の差入・締結
譲受側(買い手側)が本格手にM&Aプロセスを進捗させる場合、対象会社に関する詳細な資料を入手し、検討を進めることが必要になります。
ただし、対象会社の詳細資料のほとんどは未公開の内部資料になるため、提出することに躊躇されたり、最悪のケースでは譲受側(買い手側)からの流出が懸念されます。
そのような問題を解決するために、開示される対象会社の情報を譲受側(買い手側)が守秘義務を課すことを目的として締結するのが秘密保持契約です。
秘密保持契約は、CA(Confidentiality Agreement)やNDA(Non Disclousure Agreement)と呼ぶことが多いです。
秘密保持契約書の主な記載内容は以下の通りです。
✓ 秘密情報の定義
✓ 情報を開示する相手の範囲
✓ 目的外使用の禁止
✓ 直接接触の禁止
✓ 有効期間
✓ その他(情報の返還、損害賠償、管轄裁判所)
初期的情報の開示
NDA/CA(秘密保持契約)締結後、譲渡側(売り手側)から譲受側(買い手側)へ初期的情報が開示されます。
1.「企業概要書」
初期的情報では、「企業概要書」や「IM(Information Memorandum)」と呼ばれる資料が開示されるケースが一般的です。
企業概要書はアドバイザーが作成するケースが通常で、企業概要書を作成しない場合は決算書等をそのまま開示するケースもあります。
企業概要書には、対象会社の基本情報の他に、財務情報や組織情報、製品・サービスの概要情報が記載されています。
2.インタビュー(面談)
企業概要書ではわからないことや対象会社オーナー(経営者)の人柄等を理解するために、インタビューセッションを設けることやQAリストを利用した質疑応答を実施するケースがあります。
インタビューセッションでは、対象会社のインタビュー対象者は限定され、多くはオーナーや経営者に限定されます。
これは、この時点では、対象会社従業員はもちろんのこと、一部役員に対してもM&A(エムアンドエー)に関する事実を秘匿しているケースが多いためです。
初期的条件のオファーや交渉
企業概要書やインタビュー、QAを通じて対象会社の理解を深めた上で、M&A(エムアンドエー)の基本条件を検討します。
基本条件とは、主に提示価格、スキーム、スケジュール等であり、特に譲渡側(売り手側)が希望する取引価格にいかに近付けることが出来るかが重要になります。
基本条件の検討が済めば、それをLOI(Letter of Intent)と呼ばれる書面(意向表明)にまとめて、譲渡側(売り手側)に提出し、交渉します。
この意向表明で譲渡側(売り手側)と条件のすり合わせが出来なければ、ここにてM&A(エムアンドエー)プロセスを終了することになります。
反対に、譲渡側(売り手側)と条件のすり合わせが出来れば、基本合意を締結することやDD(デューデリジェンス)と呼ばれる調査プロセスに進むことになります。
MOU(基本合意)の締結
譲渡側(売り手側)と譲受側(買い手側)で、M&A(エムアンドエー)に関する基本条件のすり合わせが出来た場合、MOU(Memorandum of Understanding)/基本合意書を締結するケースが一般的です。
MOU(基本合意書)では、M&Aの実施を確約するものではなく、中間地点として譲渡側(売り手側)と譲受側(買い手側)ですり合わせた事項を書面で明確化することを目的としています。
そのため、ケースバイケースではあるものの、MOU(基本合意書)は法的拘束力がない(ノン・バインディング)形で進めることが多いです。
MOU(基本合意書)にて記載される主な事項は以下の通りです。
✓ M&A(エムアンドエー)の対象、スキーム
✓ 取引価格(株価、事業譲渡対価など)
✓ 独占交渉権の付与
✓ DD(デューデリジェンス)の実施
✓ 法的拘束力の有無
✓ その他(秘密保持、管轄裁判所など)
譲受側(買い手側)によるDD(デューデリジェンス)の実施
DD(Due Diligence)/デューディリジェンスは、デューデリジェンス、買収監査、買収調査とも呼ばれます。
DDは、取引を実行する前に、譲受側(買い手側)が行う対象会社に対する調査を言います。
DDの目的は、これまで提出された初期的情報からさらに詳細な資料を開示したり、実務担当者へのインタビューを通じて、より対象会社を理解することで最終条件の調整を行うことにあります。
すなわち、MOU(基本合意)の前提となった情報の正確性や網羅性を評価し、出来る限り対象会社の良い点と悪い点を洗い出します。
主なDDの種類は以下の通りです。
1.財務調査(財務DD、FDD)、税務調査(税務DD、TDD)
主に公認会計士や税理士が担当し、対象会社の過去の決算情報や将来計画・事業計画の調査を実施し、主に最終取引価格に影響します。
2.法務調査(法務DD、LDD)
主に弁護士が担当し、対象会社の契約締結状況やコンプライアンスの遵守状況、訴訟等の有無を調査し、主にSPA/DA(譲渡契約書)に影響します。
3.ビジネス調査(ビジネスDD、BDD)
主に譲受側(買い手側)の事業部や戦略コンサルティング会社が担当し、対象会社の事業の実態調査が行われ、特にM&A成立後のビジネスプランや事業計画に影響します。
4.その他
前述のDD項目の他には、対象会社の特性に応じてIT、人事、環境、不動産に対するDDを実施するケースがあります。
最終条件の交渉
譲受側(買い手側)は、DDの結果を踏まえて、最終的に提示する条件を検討します。
DDの結果、当初基本条件としてMOU(基本合意)にて合意した内容通りの条件となることもあれば、取引価格の下方修正や契約書内の条件にてリスクヘッジして対応することもあり、最も悪いケースとしてはM&Aの実施自体を断念しなくてはならないケースもあります。
最終的に提示する条件が、譲渡側(売り手側)の満足する内容であればSPA/DA(譲渡契約書)締結の交渉に進みますし、満足する内容でなく交渉が決裂するケースもあります。
SPA/DA(譲渡契約書)の締結
最終条件の交渉の一部には、SPA/DA(譲渡契約書)の交渉も含まれます。
SPAはStock Purchase Agreement、DAはDefinitive Agreementの略称で、よく略称で呼ばれます。
また、SPA/DA(譲渡契約書)は最終契約ということもあり、多くのMOU(基本合意)とは異なり、法的拘束力のある(バインディング)契約となっています。
以下は、SPA/DA(譲渡契約書)の主な記載事項です。
✓ 合意した取引価格(譲渡価額、株価、事業譲渡対価)
✓ クロージング(資金決済)の日時や前提条件
✓ 表明及び保証(Rep and Warranty、よくレプワラと呼ばれる)
✓ 補償
✓ 役員・従業員の処遇
✓ その他(競業避止義務、費用負担、準拠法及び管轄裁判所)
契約要件(クロージング条件)の充足
SPA/DA(譲渡契約書)で規定された契約要件(クロージング条件)を、SPA/DA(譲渡契約書)締結からクロージングまでに譲渡側(売り手側)・譲受側(買い手側)双方で充足する必要があります。
契約要件(クロージング条件)を充足することではじめてクロージング(資金決済)を迎えることができ、主な項目は以下の通りです。
✓ 各種必要な機関決定
✓ 要通知契約や要承諾契約の履践(チェンジ・オブ・コントロール条項、COC条項の履践)
✓ 役職員の処遇決定とそれに必要な手続き(辞任届・就任承諾書などの準備)
✓ 各種会社法に規定される手続・書面や登記に必要な書面の準備
✓ (クロージング前後での)重要な取引先や従業員への通知・説明
クロージング(資金決済)
以上のプロセスを経て、クロージング(資金決済)を迎えます。
一般的な期間としては、「①M&A(エムアンドエー)ニーズの起こり」から「⑥MOU(基本合意)の締結」までは3~6ヶ月、「⑥MOU(基本合意)の締結」から「⑨SPA/DA(譲渡契約書)の締結」までは2~4ヶ月、「⑨SPA/DA(譲渡契約書)の締結」から「⑪クロージング(資金決済)までは1~2ヶ月、要します。
以上より、M&Aプロセスとしては、6~12ヶ月程度要することが多く、長く感じるかと思います。
しかし、譲渡側(売り手側)からすると、多くが一生にそう何度も行うことではないため慎重になることが一般的で、また通常業務を実施しながらこうしたM&Aプロセスを進捗させるのは非常に労力を要することから、どうしても長期化しがちです。
一方、譲受側(買い手側)からしても、M&A取引価格は一般的に高額であり質的にも難易度が高いことや、譲渡側(売り手側)と同じく通常業務を実施しながらこうしたM&Aプロセスを進捗させるのは非常に労力を要することから、長期化してしまいます。
M&Aとは各企業でこれまで実施する機会がそこまで多くなく、専門的な内容が多く頻出することや、端的に実務的な負担が大きいことからも、信頼出来る専門家やアドバイザーを起用することが肝要と言えます。