ショートリストとは?ロングリストとの関係、メリット、作成方法、注意点などについて解説

会計士 村瀬達彦

新卒で有限責任監査法人トーマツに入所。主に製造業、卸売業、小売業を中心とした様々な企業の法定監査業務及びIPO支援業務に携わる。監査業務を遂行する中で企業が抱える様々な課題を目の当たりにし、監査業務とは異なった視点から世の中の企業の力になるべく、幅広いサービスラインを備える株式会社M&A DXに入所。現在に至る。

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M&Aを進める場合には、M&Aの目的・方針を決定し、M&A仲介会社やFAなどと契約した後に候補先企業を選定しなければなりませんが、自社にとって最適な候補先企業を見つけるプロセスで重要な役割を果たすのが「ショートリスト」です。本稿では、M&Aにおけるショートリストの意味やロングリストとの関係、メリット・作成方法・注意点などについて分かりやすく解説します。

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ショートリストとは

ショートリストとは

M&Aの初期段階で候補先企業を選定する重要なプロセスをソーシング(Sourcing)と言いますが、ショートリストはソーシングにおいて候補先企業を効率的に絞り込むためのツールで、自社が設定する選定基準をクリアした候補先企業の最終リストです。M&Aの初期段階で最適な交渉先を絞り込むには、できるだけ多くの候補企業を検討する必要があるのですが、限られたリソースで全ての候補企業を調査・分析することは困難です。そこで、ショートリストを作成し活用することで効率良く自社にとって魅力的な候補先企業を選定することが可能になります。

関連記事「ソーシングはM&Aでいかに重要か|進め方と成功させるポイントを解説

ショートリストとロングリストの関係

M&Aにおけるショートリストとロングリストは、どちらも候補先企業を絞り込む際に利用されます。初期段階で作成されるのがロングリストであり、最終段階で作成されるのがショートリストです。具体的には、独自の市場調査や広範囲なネットワークを持つM&A仲介会社などが保有する豊富な案件情報などから、初期スクリーニングを行い多数の候補先企業をリストアップしたものがロングリスト、ロングリスト上の潜在的な候補先企業を、財務状況、成長性、市場競争力など、多面的な選定基準で評価し絞り込まれたものがショートリストで、M&Aにおいては重要なツールとなります。

関連記事「ロングリストとは

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ショートリストのメリットと役割

M&Aを成功させるためには、自社の目的や条件に合致する最適な候補先企業を見つけられるかどうかが非常に重要な要素になります。そこで、M&Aの初期段階で活用されるショートリストにはどのようなメリットや役割があるのかについて、主要ポイントを3点紹介します。

候補先企業の詳細な情報を把握できる

ショートリストに掲載された候補先企業に対しては、名称・所在地・代表者・事業内容などの基本情報以外に、企業価値、財務状況、成長性などの多面的な評価を行いさまざまな情報が付け加えられるため、自社の経営理念やビジョンに適合する最適企業の選択に必要な詳細な情報を把握することができます。また、各種評価を実施する中で潜在的なリスクや問題点なども把握でき、リスクの回避や最小化の検討も事前に行うことが可能になります。

候補先企業の効率的な絞込みができる

M&Aを検討する経営者が、限られた時間やリソースの中で多数ある潜在的な候補先企業を精査し最適な交渉相手を見つけ出すのは大変な作業です。そこで、ロングリストの中から自社が重要視する条件に合致する企業を絞込み、ショートリストに残った優先度の高い企業のみを対象に集中的に評価することで短期間に効率よく交渉相手の選択ができるメリットがあります。また、候補先企業の選択には経営陣だけでなく取引先や株主などのステークホルダーとの合意形成が重要ですが、ショートリストによって選定プロセスや評価基準を共有できるので、自社の経営判断に対する理解が得られやすくなります。

候補先企業の優先順位を設定できる

ショートリストに残った候補先企業と全て同時に交渉することはできないため、交渉プロセスに進める場合には必ず優先順位付けをしなければなりません。自社のM&Aの目的・方針、条件、経営戦略などに応じて最も魅力的な企業から交渉に進むためには、ショートリストの情報や評価をベースに判断することで、効率的な優先順位付けが可能になります。

ショートリストの作成方法

ショートリストの作成方法には決まった形式はありませんが、手順を間違えると誤った結果を導き出すことがあるので、質の高いショートリストを作成するためには以下に紹介する4つのStepに従って進めると良いでしょう。

Step1.M&Aの目的・方針を明確にする

最初に、M&Aを行う目的や方針を明確にします。立場によって目的などは異なりますが、譲受企業であれば事業規模や市場シェアの拡大、新たな市場や事業領域への進出、新規技術や知識の獲得、既存事業とのシナジー効果の創出など、譲渡企業であれば創業者利益やキャピタルゲインの獲得、新規事業を始めるための資金確保、後継者不在を解決するための事業承継などがM&Aの目的として考えられます。

Step2.候補先企業の選定基準を設定する

ショートリストを作成するためには、ロングリストの基本事項に加えて候補先企業を比較検討するための選定基準を追加する必要があります。買収を検討している譲受企業の場合には、①M&Aに必要な資金、②期待できる効果やリターン、③M&Aに伴うリスクなどを評価できる項目を、譲渡企業の場合には、①M&Aによって獲得できる収益、②譲渡企業の資金力や信頼性、③譲渡後の顧客・取引先・従業員の処遇などを評価できる項目を設定します。

Step3.ロングリストを目的・選定基準により絞り込む

前項で設定した選定基準によりロングリストの候補先企業を評価し、M&Aの目的・方針などに合致する企業を絞込みます。さらに、ショートリストに残った候補先企業に対しては以下のような項目を追加し評価します。

経営者の経営方針・ビジョン・M&Aに対する考え
株主、取引銀行、顧客・サプライヤー等のステークホルダーとの関係性
特許・ライセンス・許認可等の状況
組織体制・労働環境
財務面・事業面・法務面等のより詳細なリスク評価

Step4.候補先企業の優先順位を決定する

最後に、追加情報を評価しM&Aに対する目的・方針、実施条件、各種リスク等を総合的に検討し候補先企業の優先順位付けを行います。明確に優先順位を決められない場合にはM&A仲介会社などの専門家のアドバイスを受けることも1つの方法です。この最終版のショートリストに従って優先順位の最も高い候補先企業から交渉を開始します。

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ショートリストの記載項目

ショートリストの記載項目は、ロングリストに記載の会社概要などの基本情報に加えて、候補先企業に関する多面的な評価や優先順位付けに必要な項目などが追加されます。

会社概要

会社概要はロングリストの情報をそのまま利用しますが、具体的には以下のような基本情報が含まれます。但し、譲渡企業や譲受企業の立場の違い、M&Aの目的・方針などによって、売却金額、株主構成、主要取引先などが追加されることもあります。

会社名
代表者名
本社所在地
設立年月日
会社の沿革
事業内容と主力製品
資本金
従業員数
直近の売上高・利益等

財務状況

ロングリストでは直近(前期)の業績や財務状況のデータを記載しますが、ショートリストでは、過去3〜5年間の売上高、利益、資産、負債、純資産、キャッシュフローなどの推移を記載し、候補先企業の経営の安定性、収益性、生産性、成長性、倒産リスク、簿外債務などを財務面から詳細に評価します。

事業内容

譲受企業の場合には、自社の事業戦略との整合性、買収後の事業の成長可能性、市場における競争優位性、獲得できる特許・技術・人材・設備などのリソース、事業リスクなどに関わる項目を設定しますが、譲渡企業においては譲受企業の資金力・信頼性や譲渡後の事業の発展性を判断するための項目となります。具体的には以下の項目が含まれます。

市場競争力・市場シェア
ブランド力
技術力・知的財産
成長可能性

将来性・期待されるシナジー効果

譲受企業の場合には、候補先企業の将来性や期待できるシナジー効果は重要な判断材料となります。具体的には候補先企業が事業展開している市場や事業領域が将来的にも持続的な成長が見込めるのか、縮小する可能性はないのか、市場シェア拡大やコスト削減(収益性向上)など、自社の既存事業とどのようなシナジー効果が期待できるのか、それらはM&Aの目的・方針に合致するのかなどを事業内容や各種データから評価します。

競争優位性

競争優位性は、候補先企業が事業活動を行っている市場や事業領域における競合企業に対する強みのことですが、具体的には製品コスト、ブランドイメージ、革新性、デザイン、品質、アフターサービスなど多数の要素から構成されます。競争優位性が高ければ、市場シェアの拡大、収益性の向上、持続的な成長などが期待できるため、M&Aにおいては将来性や期待できるシナジー効果とともに重要な判断項目となります。

リスク評価

M&Aには多額の資金と時間・手間が必要なため失敗すると会社に大きなダメージを与えてしまいます。M&A成功のカギを握る候補先企業の選定を誤らないためには、リスク評価が非常に重要となります。M&Aの最終プロセスであるPMI(経営統合プロセス)を完了するまでには次のようなリスクがあるので、事前に調査しリスクの有無や程度を把握しておきましょう。

財務リスク(簿外債務、偶発債務、粉飾決算等)
法務リスク(独占禁止法違反、許認可の未取得等)
経営リスク(競合企業の存在、企業文化の違い等)
人材リスク(従業員の離反、モチベーション低下等)

M&Aの実績や経営者の姿勢

実際にM&Aを進めるには候補先企業の評価だけでなく、過去のM&Aの実績や経営者の姿勢も重要です。M&Aには複雑なプロセスがあるため、経営者が一度でも経M&Aを経験していると各フェーズの要件を理解しているためスムーズに進めることができますが、M&Aは初めてでネガティブな印象を持っている経営者の場合には、円滑なコミュニケーションや相互理解が困難になる可能性があるため、M&Aの実績や経営者の姿勢は非常に重要な要素です。

ショートリストを作成する際の注意点

M&Aにおいて、最適な候補先企業を絞込み、優先順位を設定するためのショートリストにはいくつかの作成ポイントがあります。

事前にM&Aの目的を明確にしておく

ショートリストの作成方法の項でも説明しましたが、候補先企業の選定を誤らないためには、必ず事前にM&Aの目的や方針を明確にしなければなりません。自社のビジョンや経営戦略において、このM&Aにより「いつまでに」「何を達成しようとするのか」、そのためには「候補先企業に何を求めるのか」など、M&Aを実施する際のベースとなる考え方を整理しておくことが優れたショートリストを作成する近道となります。

選定基準の各項目の比重を決めておく

ショートリストの作成においては、自社の目的や方針に対して候補先企業から得られるメリットを長期的な視点で評価しなければなりませんが、その際に重要なのは選定基準の各項目に比重を設定することです。なぜなら、候補先企業の成長性や将来の市場競争力など短期的な利益や評価以外に、長期的な視点で各項目の相対的な重要度を設定しておくことが優先順位付けの際の判断基準となるからです。

秘密保持契約を締結してから進める

M&Aを進めるプロセスの中では機密性の高い候補先企業の情報や、自社に関する情報及びM&Aを検討している事実などが外部に漏洩すると、候補先企業だけでなく自社の株主、顧客、取引先などのステークホルダーに損害を与える可能性があります。損害賠償請求などのリスクを回避するためには、M&Aを進める前に必ず関係者との間で秘密保持契約を締結しなければなりません。

まとめ

ここまで、M&Aのソーシングプロセスで非常に重要な役割を果たすショートリストについて、ロングリストと関係、メリット・役割、作成方法、記載項目、作成する際の注意点について解説してきました。特に重要なのはM&Aの目的・方針に基づいてショートリストを作成し優先順位付けをすることですが、自社だけで判断するよりも客観的に判断できる経験豊富なM&A仲介会社などの専門家のアドバイスを受けながら進めることをおすすめします。

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