相続が発生したら、被相続人のすべての戸籍謄本が必要になる
人が亡くなると、遺族は手続きをおこなわなければなりません。その際に、誰が亡くなったのか、本当に亡くなったのか、また、法定相続人(遺産相続の権利を持つ遺族。相続人)に該当するのは誰なのかなどを明らかにする証拠として、被相続人(亡くなった人)の、最後の戸籍謄本、または出生から死亡までの連続した戸籍謄本が必要となります。
被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本が必要な手続き
被相続人に関する手続きをおこなう際に、その人が亡くなったことを書類で証明しなければならない場合があります。代表的な手続きには以下のようなものがあります。
健康保険の埋葬料や葬祭料の申請
埋葬料や葬祭料はいずれも、被相続人の埋葬費用や葬儀費用を補助するために支払われる給付金です。不正受給を防ぐために、死亡の事実を確認する必要があり、戸籍謄本を提出しなければならない場合があります。
遺族年金の申請
遺族年金は、被相続人により生計を維持されていた遺族が受け取ることのできる年金です。
亡くなった人がいる場合にのみ支給される年金であることから、死亡の事実を証明するために戸籍謄本が必要となります。
被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本が必要な手続き
被相続人に関する相続の手続きをおこなう際には、誰が亡くなったのかを明らかにするとともに、誰が相続人なのかを確定させなければなりません。被相続人の法定相続人を確定するためには、被相続人の最後の戸籍謄本だけではなく、出生から死亡までの連続した戸籍謄本が必要です。
ここでは、主な手続きを紹介します。
遺産分割協議
被相続人が遺言を残していない場合は、原則的に、相続人全員が参加する遺産分割協議で話し合って、遺産の分割割合を決め、遺産分割協議書を作成する必要があります。その前提として、相続人を全員確定しなければなりません。そのためには、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本が必要です。
相続放棄・限定承認の申述申立て
相続放棄や限定承認は、相続人が被相続人の権利義務を引き継がないためにおこなう意思表示です。
亡くなった人がいること、そして誰が相続人であるかを明らかにするために、戸籍謄本が必要になります。なお、相続放棄の申立ては単独の相続人でも可能ですが、限定承認の場合は、相続人全員がそろって申立てをしなければなりません。
預貯金の払戻し
被相続人名義の預貯金は、本来、遺産分割協議や遺言書に基づく遺産分割をおこなった上で、相続人に対して払い戻されるのが原則です。
しかし、実際に遺産分割が行われるまでには時間がかかるため、被相続人名義の預貯金を引き出せなくなることで、相続人が生活に困るケースもあります。
そこで、遺産分割協議が成立する前でも、相続時の預金額に法定相続分の1/3を掛けた額(最高150万円)までは、払戻しを受けることができます。その際、法定相続人確定の必要があるので、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本を金融機関に提出しなければなりません。
不動産の名義変更(相続登記)
不動産の所有者は、法務局で所有権を登記します。所有者が亡くなった場合は、その不動産を相続した相続人が名義変更をします。
不動産の登記の名義人を、被相続人から相続人に変更する手続きを相続登記といいます。
相続登記の際には、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本が必要となります。なお、相続登記は、現在は任意ですが、令和6年4月1日から義務化されます。
有価証券の名義変更
被相続人が証券会社の口座などに、株式などの有価証券を預けている場合、相続発生後、その口座は閉鎖し、株式や投資信託を相続人に移管する手続きが発生します。
この手続きをおこなう際に、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本を提出しなければなりません。
自動車の移転登録
被相続人が自動車を所有していた場合、車検証に記載されている所有者の名義を変更する必要があります。普通自動車の場合は、最寄りの運輸支局において名義変更の手続きをおこないます。また、相続した車が軽自動車の場合は、軽自動車検査協会が窓口となります。
この手続きにおいて、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本が必要となります。
相続税の申告
被相続人に一定額以上の遺産は相続税の課税対象となり、一定金額以上遺産がある場合は、相続人は、相続税の申告・納付が必要になります。相続税の計算が正しくおこなわれていることを確認するため、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本が必要となります。
戸籍謄本の種類。改正原戸籍と現在戸籍の違い
戸籍は、本籍地となっている市区町村役場で作成し管理されます。
戸籍に関する事務は、1994(平成6)年の戸籍法および法務省令の改正により、コンピュータによりおこなうことが認められるようになりました。
コンピュータにより作製されるようになった新しい戸籍のことを、現在戸籍と呼びます。
一方、コンピュータにより作製されるようになる前の、紙で保管されていた戸籍のことは、改製原戸籍または単に原戸籍と呼ばれます。
なお、原戸籍と現戸籍はともに「げんこせき」という読みでまぎらわしいので、通常、原戸籍は、「はらこせき」と読みます。
改製原戸籍から現在戸籍に改められた時、それまでの記載事項の一部が削除されました。
そのため、現在戸籍を確認しても戸籍に関するすべての内容を確認できるわけではなく、改製原戸籍を確認しなければならない場合があります。
例えば、結婚や死亡により戸籍から抜ける除籍、法律上の婚姻関係にない男女から生まれた子を自分の子と認める認知、養子縁組、離婚などの情報は現在戸籍に引き継がれていません。
相続人の有無を確認し、相続人の人数を確定させるためには、現在戸籍だけでなく改製原戸籍を取得しなければなりません。
▼改正原戸籍のイメージ
参考:福岡市ホームページ 戸籍全部事項証明書
戸籍謄本と戸籍全部事項証明書は呼び名が違うだけ
紙の時代の戸籍は、市区町村役場に原簿(元の紙のファイル)が保管されていました。それを謄写(コピー)した書類が「戸籍謄本」と呼ばれます。
改製原戸籍に関する戸籍の記載事項を取得する場合、取得した書類は戸籍謄本となります。
一方、現在では、コンピュータのデータとして戸籍が保管されています。そこからプリントされた紙は、「戸籍全部事項証明書」と呼ばれます。
戸籍全部事項証明書:コンピュータに保存されている戸籍データをプリントしたもの
当然ですが、紙で作成された戸籍もコンピュータで作成された戸籍も、その記載内容に違いはありません。戸籍自体の作成方法が違うことにより、取得する書類の名称に違いが生じているだけです。「戸籍謄本が必要」とある場合に、「戸籍全部事項証明書」を提出しても、問題ありません。
戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)の取り方
戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)はどこで、どうやって取得すればよいのかを説明します。
戸籍謄本は被相続人の本籍地の市区町村役場で取得する
戸籍は、本籍地となっている市区町村役場で作成され、管理されています。
相続に関して戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)が必要になった場合、被相続人の本籍地の市区町村役場で取得します。
また、市区町村の中には市区町村役場のほかに、支所や出張所などの窓口で対応している場合もあります。
戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)を取得するには、①窓口に直接行く、②郵送で取得する、の2つの方法があります。
①窓口に直接行く
被相続人の本籍地の市区町村が近くにある場合は、窓口に直接出かけて取得するのが一番手軽な方法です。
役場の窓口で記載する書類のほか、認印、運転免許証などの本人確認書類、手数料を持参しましょう。
②郵送で取得する
被相続人の本籍地が遠方にある場合は、直接窓口に行くことは簡単ではありません。その場合、郵送で取り寄せることができます。
市区町村役場のホームページで取得した請求書に、必要事項を記載し郵送します。本人確認書類のコピー、手数料分の定額小為替、切手を貼った返信用封筒を同封し、市区町村役場の対応部署宛に郵送しましょう。
戸籍全部事項証明書はコンビニでも取得可能
以下の条件に該当する場合、コンビニなどに置かれているマルチコピー機により、戸籍全部事項証明書を取得することができます。
・コンビニ交付利用登録申請を済ませている(住まいと本籍地の市区町村が異なる場合)
・本籍地管轄の市区町村役場が、戸籍謄本のコンビニ交付サービスに対応している
戸籍のコンビニ交付に対応している市区町村は、下記のWebサイトで調べることができます。
コンビニエンスストア等における証明書の自動交付
なお、取得できるのは戸籍に記載されている人だけです。また、改製原戸籍は、本人であってもコンビニで取得することはできません。
戸籍謄本を取得できる人
戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)を取得することができる人には、一定の範囲があります。
戸籍に記載されている本人やその配偶者、直系尊属もしくは直系卑属のみとされています。
また、これ以外の人であっても、自身の権利を行使するため、あるいは義務を履行するために戸籍の証明書が必要な場合、国または地方公共団体に提出する必要がある場合などは、戸籍を取得することができます。
一方、これ以外の人が戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)を取得するには、本人が記載した委任状が必要です。
戸籍謄本の取得にかかる費用
戸籍謄本を取得する際は、手数料を支払う必要があります。
・除籍謄本:750円
・原戸籍謄本:各750円
・戸籍の附票:300円
まとめ
相続手続きにおいては、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍は、必ず必要になります。しかし、被相続人に本籍地の変更、離婚歴などがある場合、出生から死亡までの連続した戸籍の数が多くなる場合があります。
そのような場合は、行政書士などの士業者に依頼することも検討するとよいでしょう。