事業譲渡で発生するのれんとは何?
のれんとは貸借対照表の勘定科目のひとつであり、「企業(事業)を買収する際に支払われた取得価額と譲渡企業(事業)の時価純資産価額の差額」です。大企業においては、のれん代の合計が1兆円を超えるケースも起こりえます。
のれんの語源は、お店の暖簾(のれん)です。暖簾はお店のブランド力を示すものといえます。ブランド力の高いお店の暖簾を見れば安心して買い物ができたり、購買意欲が高まったりするでしょう。このような数字では表せない企業の信用力やブランド力、技術力などが「のれん」です。会社法が施行される以前は、のれんは営業権と呼ばれていました。
また、のれん代が時価純資産価額を下回った場合に発生するのが「負ののれん」になります。負ののれんは通常とは会計上の扱いが異なり、特別利益として計上される点が特徴です。資産規模に比して収益性が低かったり、簿外債務があったり、損害賠償訴訟のリスクがあったりするときに発生することが多いでしょう。
会計上におけるのれんの取り扱い
のれんは、企業を買収する際に支払われた取得価額と譲渡企業の時価純資産価額の差額をさします。日本の会計上の基準では「無形固定資産」として取り扱われるものです。
2019年現在の日本の会計基準では資産計上されたのれんは、その効果がある期間内(最大で20年間)に償却する必要があります。償却額は、損益計算書においては販売費および一般管理費として処理されます。負のれんは、会計上は特別利益として処理されます。
また、のれんの金額に重要性がないと判断された場合に限り、その年の費用として処理することも認められています。負ののれんに関しては、2008年に行われた「企業結合に関する会計基準等の改正」により、2010年以降は負ののれんが生じた事業年度に「負ののれん発生益」として特別利益に計上することになりました。
税務上におけるのれんの取り扱い
のれんは資産調整勘定として、負ののれんは差額負債調整勘定として処理されます。実は、厳密には税務上においてのれんという概念は現在のところありません。それに類似した概念として、資産調整勘定(のれん)、差額負債調整勘定(負ののれん)を利用しているのです。この制度が導入されたのは2006年(平成18年)の税制改正以降になります。
税務上のれんの取り扱いは会計上とは異なります。資産調整勘定(のれん)は、計上後5年間で均等償却(損金算入)され、同様に差額負債調整勘定(負ののれん)も5年で均等償却(益金算入)されるのです。
実際には調整勘定の当初計上額を60か月で割り、そこに当該事業年度の月数をかけることにより計算した金額になります。平成29年度の税制改正によって、1年決算法人が期の途中で取得した場合でも月割り計算することとなりました。
このように、のれんは会計上では最大20年、税務上は5年とそれぞれ償却期間がずれる可能性があります。償却期間が異なる場合は申告調整をしなければなりませんが、実務上は一致させるケースが多く見受けられます。
のれんの評価のポイント
のれんとは、企業のブランド力や技術力といった数字にあらわすことができない無形資産のことです。では、のれんの評価はどのような点を見て判断するのでしょうか。
経営期間の長さはのれんの評価に影響するのか、価値の高い特許を取得している場合はどのような影響があるのかなど、この項目で詳しく解説をしていきます。
経営期間の長さには影響されない
経営期間が長い企業は一般的に老舗企業と呼ばれます。いわゆる企業生存率は、会社設立から1年後に60%、3年後には38%、5年後には15%、10年後には5%といわれているので、老舗企業というだけでのれんの評価は高くなりそうです。
しかし、経営期間の長さはのれんの評価には影響がありません。のれんの評価は現在の資産価値、つまり現在負債をどのくらい抱えているのか、資産はどのくらいあるのかというのがポイントとなります。
その上で、競合他社との比較や、将来的に生み出すことが予想されるリターンにもとづいて、のれんの評価がなされるといえるでしょう。そのため、長く経営しているからという理由で評価が高くなるとは限りません。
価値の高い特許は評価がプラスになる
のれんの評価としてプラスになるのは、価値の高い特許のような、その企業独自のノウハウを持っている点です。価値の高い特許は事業譲渡後も将来的に高いリターンを生み出す存在となりえます。
ここで注意しなければならないのが、いくら独自の特許を企業が持っていたとしても、その特許に価値(キャッシュを生み出す力)がなければ意味がないという点です。特許を多く取得していても、それが技術として現在活用されていないようなら評価の対象外になる可能性が高いでしょう。このような特許は「死蔵特許」と呼ばれます。
あくまでも価値の高い特許、つまり利益を生みだす特許だけがプラス評価になるといえるのです。特許をたくさん所有しているだけでは必ずしも高い評価にはつながりません。
事業譲渡で負ののれんが発生するケースとは?
のれんは企業を売却する際に支払われた取得価額と譲渡企業の時価純資産価額の差額です。一方、時価純資産価額よりも取得価額が安い場合に発生するのが負ののれんになります。
負ののれんは、資産規模に比して収益性が低い場合や、簿外債務があったり、損害賠償請求のリスクがあったりする場合に発生する可能性があります。簿外債務とは貸借対照表に計上されていない債務のことです。
損害賠償請求リスクに限らず、買収した際に何らかのマイナスが予想される場合は純資産価額より安く譲渡されることがあるでしょう。また、譲渡側がM&Aを急いでいることから、事業譲渡対価にこだわらず負ののれんが発生するケースも稀にあります。
のれんの算出方法は?
のれんを算出する方法のひとつとして簿価純資産法が挙げられます。これは企業の持つ資産価値から評価する方法ですが、最近ではどちらかというと時価純資産法のほうが一般的です。ここでは、それぞれの具体的な算出方法について詳しく解説していきます。
そのほかにもインカムアプローチやマーケットアプローチといった手法もありますが、これらの手法に関してはより専門的な知識が必要になるでしょう。ご不明な点は、専門のM&Aアドバイザリーにご相談しましょう。
簿価純資産法による評価方法
簿価純資産法は、貸借対照表(もしくは対象事業)の資産・負債にもとづいて純資産額を算出する方法です。
簿価純資産法は中小零細企業を評価する場合によく使われる方法ですが、簿価が資産や負債の現在価値を正しく表せないケースが多いというのが欠点です。算出された企業価値が実態とは異なる可能性が高くなります。
簿価純資産価額は、帳簿上の資産から負債を引くことにより求めることができます。発行済株式数で割れば一株あたりの価値を算出するのも簡単です。簿価純資産法は計算が簡易なのが利点ですが、のれんの算出方法としてはほとんど使用されない傾向にあるので注意しましょう。
時価純資産法による評価方法
のれんの算出方法としては簿価純資産法よりも時価純資産法のほうがよく使われるでしょう。時価純資産法では、企業の有するすべて(もしくは対象事業)の資産と負債の時価を割り出します。そして、時価換算した資産から負債を引き、純資産額の現在価値を求めるという方法です。
計算式は、「株式価値(もしくは事業価値)=時価資産-時価負債」になります。株式価値を株式総数で割ることにより、一株あたりの価値を算出することも可能です。ただし、この方法では将来的に企業が生み出す利益については評価されていません。これだけではM&Aの実務には不向きな計算方法といえます。
のれんの評価方法
前述の通り、のれんは企業を買収する際に支払われた取得価額と譲渡企業の時価純資産価額の差額をさします。そして、中小企業のM&Aでは対象事業の利益数年分がのれんとして取り扱われることが、実務上よく利用されています。
しかしながら、そもそも利益が出ていないケースや業種によって目安となる利益の年数が異なることや、またその他に収益性をベースとした株式(事業)価値評価もあることから、専門的な部分はM&Aアドバイザリーや公認会計士・税理士にまずは相談しましょう。
まとめ
のれんとは貸借対照表の勘定科目のひとつであり、「企業を売却する際に支払われた取得価額と譲渡企業(事業)の時価純資産価額の差額」です。のれんは企業のブランド力や技術力といった数字には表すことの難しいものといえます。
事業譲渡をするなら、のれんの会計上や税務上での取り扱い、評価のポイント、算出方法について細かく把握しなければなりません。しかし、のれんと負ののれんで計上の仕方が異なったり、会計上と税務上で扱いが異なったりと非常に複雑です。慣れていないと戸惑うことも多いでしょう。
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