M&Aのリスクは分類できる!
M&Aにリスクはつきものです。しかし、リスクの内容を理解して対策を考えれば、無用なトラブルや損失を避けられます。ここでは、M&Aのリスクを分類し、それぞれの内容や対策について解説します。いざというときに役立てられるよう今のうちに理解を深めておきましょう。
【関連記事】M&Aとは?メリットや注意点をわかりやすく解説!
財務リスク
財務リスクとは、偶発債務や簿外債務のような財務面のリスクを指します。偶発債務とは将来的に発生するおそれのある債務のことで、具体的には「譲渡前に納品した商品が重大な問題を起こし賠償責任が発生した」といった事例が挙げられます。
簿外債務とは賃借対照表上に記載されていない債務のことです。譲渡前に事実を伝えていなかった場合、賠償問題に発展する場合があります。財務リスクを回避するには、譲渡前に譲受企業に詳細を伝えることが重要です。最近では、表明保証保険という保険もあり、案件によっては利用することも検討しましょう。
法務リスク
法務リスクとは、法令遵守の状況や取引先との契約内容のような法務面のリスクを指します。法令遵守の状況では、許認可の取得状況もあればハラスメントの有無など多岐に渡って検討することになります。
取引先との契約内容では、COC条項(Change of Control条項)の有無や著しく不利益であったり長期拘束されるような契約内容かないかを検討します。譲渡前に事実を伝えていなかった場合、財務リスクと同じく賠償問題に発展する場合があります。法務リスクを回避するにも、譲渡前に譲受企業に詳細を伝えることが重要です。
経営リスク
経営リスクとは、会社の経営において発生するリスクを指します。なかでも、労務管理問題は大きなリスクにつながります。たとえば、残業代の未払いや有給休暇の未消化といった問題が譲渡後に判明したとしても、一義的には譲受企業グループが対応しなくてはなりません。
「正確な残業時間を把握していなかった」「労務管理は部下に一任していた」といった主張が通ることはほぼないと考えたほうがいいでしょう。譲渡前に労務管理問題を精査し、解消もしくは対応しておくことをおすすめします。
人材リスク
人材リスクとは、従業員に関するリスクを指します。例として挙げられるのが、従業員の離職です。譲渡後に雇用条件や環境が変わると、なじめない従業員が辞めてしまう場合があります。特に、優秀な人材の流出は致命的です。なんとしても避けたいリスクといえるでしょう。
人材リスクを回避するには、譲受企業と従業員の間で雇用条件のすり合わせを徹底して行う必要があります。譲受企業も人材の流出は避けたいので、積極的に応じてくれるでしょう。
立場やケース別のM&Aリスク
M&Aのリスクは立場やケース別に分けられます。譲渡企業と譲受企業という立場の違いだけでなく、海外企業を相手にする場合や個人で行う場合でリスクの内容は異なります。ここでは、それぞれのリスクの内容や回避方法について解説します。
譲渡企業のM&Aリスク
譲渡企業が抱えるM&Aリスクには、仲介会社選びの失敗があります。M&Aの譲受企業を個人で探すのは困難です。より早くより適切な価格で譲渡するために、多くの企業は仲介会社に依頼して譲受企業を探してもらいます。
しかし、仲介会社に経験が少なかったり譲受企業の情報をあまり持っていなかったりすると、M&Aの相手企業がなかなか見つからないということになります。金銭的に入るべき現預金が入らないだけではなく、タイミングが大事なM&Aにおいては時間的なリスクも無視できません。
譲受企業のM&Aリスク
譲受企業のM&Aリスクは、譲渡企業の各種リスクを把握しないうちに契約してしまうことです。完全に洗い出すのは難しいかもしれませんが、譲受後のトラブルを少しでも減らすためにも徹底した情報開示や調査を行いましょう。
具体的なトラブルには簿外債務の発覚や残業代の未払いといったものがあり、最悪の場合は多額の賠償金を支払うことになります。トラブルがひとつもなくM&Aが成立する例は多くありませんが、情報開示や表明保証によって大きなトラブルを未然に防ぐことは可能です。
海外企業とのM&Aリスク
海外企業とのM&Aは、国内の企業を相手にする場合と比べると数段難しくなります。言語はもちろん、法律や文化・商習慣がまったく異なるので、誤解やすれ違いが原因のトラブルが起こりやすいといえるでしょう。何から何まで国内とは違うということを認識し、基本情報から商習慣・労務管理まで相手を理解するために知識を身につけることが重要です。
自分たちだけでは難しいと感じた場合、海外企業とのM&Aの経験が豊富な専門家にアドバイザーを依頼するとよいでしょう。成約後も高い経営管理能力が問われるので気を抜かないことが肝心です。
個人で行うM&Aリスク
個人で行うM&Aには大きなリスクがともないます。M&Aには法律や税金・会計といったさまざまな知識が必要です。どの知識が欠けていてもトラブルになるリスクがあります。譲渡価格が小規模だからといって、アドバイザーをつけずに臨むのは控えたほうがよいでしょう。
専門家に依頼する費用を抑えるために個人でM&Aを進めたのに、大きな損害や賠償金が発生してしまっては元も子もありません。無用なトラブルを避けるためにも、規模に関わらず専門家に相談することをおすすめします。
M&Aでリスクを意識する必要性とは?
M&Aは規模に関わらずなんらかのリスクが生じます。リスクをケアする意識を常に持っていれば、事前に損害を防ぐことが可能になり、その対策に時間を浪費する危険性も回避できます。リスクヘッジの意識はビジネスにおいて重要で、常に持ち合わせておくべきものといえるでしょう。
M&Aにはさまざまな知識が必要なので、専門家に任せる場合がほとんどです。しかし、経営者が当事者意識を持ちリスクに対する意識を示すことで、相手企業や従業員の信頼を獲得できます。
M&Aのリスクマネジメントの方法
M&Aのリスクマネジメントにはいくつかの方法があります。M&Aには大なり小なりリスクが存在するので、成功させるにはリスクマネジメントは必要不可欠といえるでしょう。ここでは、M&Aのリスクマネジメントの方法を6つご紹介します。
信頼関係を構築
譲渡企業と譲受企業の間に信頼関係を構築することがリスクマネジメントにつながります。特に譲受企業が不信感を持っていると、M&Aの成立に至らないことが考えられます。また、従業員との話し合いが不十分で信頼関係が築けていないケースでは、人材の流出を招いてしまうこともあります。
このようなリスクを回避するには、双方の経営陣や従業員が十分にコミュニケーションを取って、確かな信頼関係を構築することが必要です。互いに信頼できる企業であれば、M&Aの手続きや契約もスムーズに進むでしょう。
管理体制の強化
製品を取り扱う企業のM&Aでよく見られるのが、譲渡企業が譲渡前に納品した製品に欠陥があり賠償問題に発展するケースです。M&A前後は通常の業務以外の作業に追われて管理体制が甘くなる会社もあるので、いつも以上に管理体制を強化する必要があります。
しかし、管理体制を万全にしてもトラブルが起きることがあります。そのような場合に備えて、譲渡企業と譲受企業のどちらが賠償責任を持つか明確にしておくとよいでしょう。契約時の表明保証に明記することで、譲受企業はリスクを回避できます。
デューデリジェンス(DD)の実施
デューデリジェンス(DD)とは譲渡企業の財務状況や会社の状況、法務の状況などを専門家が調査し、その結果を譲渡価格や条件交渉(契約内容)に反映するプロセスを指します。M&Aのリスクマネジメントにおいて重要な工程といえますが、費用を節約しようとして実施しない企業も存在します。
デューデリジェンス(DD)を実施すれば、交渉内容の不確実性を排除でき、適正な譲渡価格を導き出すことが可能です。M&Aを成功させるには必須ともいえるプロセスなので、費用が多少かかったとしても専門家に依頼することをおすすめします。
【関連記事】デューデリジェンスとは?意味や目的、実行のポイント
PMIの実施
PMIとは経営戦略やビジョンの浸透、従業員のモチベーション向上と維持を目的としたM&A後の取り組みを指します。新しい組織体制の根幹となるので、必ず実施すべきプロセスのひとつといえるでしょう。
M&Aに対してもともと反感的だった従業員は、PMIを実施したとしても離職してしまうかもしれません。しかし、PMIを実施しなかった場合の損失や人材流出のリスクを考慮すれば、実施したほうが企業にとってはメリットが大きいでしょう。人材の流出を防ぐには、事前に調査やケアをすることも重要です。
【関連記事】M&AにおけるPMIとは一体?特徴や重要性を徹底解説!
規定の設定
最終契約書において表明保証規定や補償規定を確実に設定することがリスクマネジメントにつながります。たとえば、譲渡企業の従業員に未払いの給与があり、譲渡後に未払い分を請求されるといった場合に効果をもたらします。
「従業員に対する給与の未払いによって従来のオーナー経営者が譲受企業に損害をもたらした場合、従来のオーナー経営者は全額直ちに補償する」といった内容が表明保証規定や補償規定に記されていれば、譲受企業の損害リスクを回避できます。中小企業のM&Aにおいて多発するケースなので、覚えておくとよいでしょう。
スムーズな条件交渉
M&Aはタイミングが肝心です。条件をすり合わせるために交渉が長期化すると、最終的にM&Aの成立に至らない場合があります。以前は興味を示していたほかの企業も、長い時間が経つことで興味を失っているかもしれません。その結果、譲受企業を一から探すことになってしまいます。
M&Aの交渉をスムーズに進めるには、事前に専門家に相談して条件や妥協点を洗い出しておきましょう。条件の合う譲受企業が常にあるわけではないことを自覚し、事前準備を怠らないことが大切です。
敵対的買収には防衛対策が必要!
敵対的買収とは、対象会社の取締役会の同意を得ずに買収を仕掛けることで、M&Aの戦略のひとつです。仕掛けられた敵対的買収が成功すれば、経営における影響力が奪われるので防衛対策が必要になり、M&Aに関するリスクといえます。敵対的買収は成功率が高い戦略ではなく、しっかりと対策すれば防ぐことは可能です。ここでは、敵対的買収の防衛対策について解説します。
ポイズンピル
ポイズンピルとは、新株を発行し買収側の株式保有率を下げることで買収を阻止する方法をいいます。具体的には、既存の株主に新株予約権を発行したり役員や従業員にストックオプションを与えたりして株式の取得を促します。信託銀行に依頼しておけば、自動的に発動して敵対的買収を防げます。
ただし、ポイズンピルは株式保有率や株価の低下を招くというリスクがあります。また、株主の反対や経営権の維持に関するリスクも考慮する必要があるので、実施の際は慎重な判断が求められます。
ホワイトナイト
ホワイトナイトとは、敵対的買収を仕掛けてきた企業とは別の企業に自社を買収してもらう方法です。株式保有率を大きく占めてもらうことで、敵対的買収を防げます。友好的な関係にある企業があれば、成功率の高い有効な方法といえるでしょう。
ただし、大株主として経営に参加する権利を与えることになるので、自社の経営権が脅かされるおそれがあります。ホワイトナイトになってもらう際には、しっかりと自分たちの意図を伝えておきましょう。また、それなりの対価が求められるのもデメリットのひとつです。
スコーチド・アース
スコーチド・アースとは、敵対的買収を仕掛ける企業が求める事業や資産を売り渡したりあえて負債を抱えたりすることで、自社の企業価値を下げる方法です。敵対的買収を仕掛けてきた企業の買収意欲を削ぐことが目的で、焦土作戦とも呼ばれます。
スコーチド・アースは、会社の経営が傾きかねないリスクの大きい手法です。そのため、取締役会が決議したとしても、株主総会で理解を得られずに逆に株主から訴えられるおそれもあります。ただし、経営陣の判断で行えるのはメリットといえるでしょう。
パックマン・ディフェンス
パックマン・ディフェンスとは、買収を仕掛けてきた企業に買収を仕掛ける攻撃的な防衛対策です。議決権を失わせるのが目的で、相手企業の株式の1/4以上を確保することにより買収を回避します。
ただし、敵対的買収を仕掛けてきた企業の株式をある程度確保しなくてはならないため、莫大な資金が必要となります。また、相手が非上場企業だった場合、パックマン・ディフェンスを実施すること自体不可能です。今以上に関係が悪化するリスクがある難しい方法ですが、買収する資金が準備できるなら効果が期待できる方法といえるでしょう。
黄金株の発行
黄金株とは、正式には拒否権付種類株式と呼ばれる株式です。通常の株式よりも強い権限を持ち、株主総会の決議の拒否権を有しています。つまり、黄金株を持つ株主が拒否し続ける限り、株式を100%保有している企業でも支配権を行使できません。
黄金株さえ発行すれば敵対的買収を簡単に阻止できるようにも見えますが、保有者が判断を見誤れば円滑な経営を阻害するおそれがあります。また、敵対的買収を仕掛けてきた企業に渡るリスクも考えなければなりません。取り扱いの難しさというデメリットを考慮すると、黄金株はむやみに発行しないほうが無難です。
M&Aのリスク対策がしたいなら「M&A DXのM&Aサービス」へ!
ここまで紹介してきたリスク以外にも、M&Aにはさまざまなリスクがあります。失敗しないM&Aを行うには専門家のアドバイスが必要不可欠といえるでしょう。M&A DXのM&AサービスならM&Aのリスク対策はもちろん、仲介会社としてM&A全般に関する相談にも対応できます。
株式会社M&A DXには、大手監査法人系M&Aファーム出身の税理士や公認会計士が多数在籍し、老舗製造業や商社・医療法人・外食企業などのM&Aや事業承継といった豊富な実績があります。M&Aのリスク対策は株式会社M&A DXにご相談ください。
まとめ
M&Aには多くのリスクが存在します。大きく分けると「財務」「法務」「経営」「人材」の4つに関するリスクがあり、それぞれに対してリスクマネジメントを行うことが重要です。デューデリジェンス(DD)により譲渡企業の情報を把握することはもちろん、トラブルが起きた際の規定を決めたりPMIを実施したりといった方法で回避できるリスクもあります。
M&A DXのM&Aサービスなら、専門家の視点から的確なリスクマネジメントを導き出します。M&Aの仲介会社でお悩みの方は、まずは無料相談から始めてみてはいかがでしょうか。