みなし配当とは?
最初にみなし配当の定義や税務上に扱いについて、説明しましょう。
みなし配当の定義
みなし配当は会社法上の定義によると、剰余金の配当には当てはまりません。会社法上、剰余金の配当とは、会社が株主に対しその保有株式数に応じて、会社の財産を分配する行為のことです。みなし配当は会社法上の剰余金の配当には該当しませんが、しかし税法上では配当とみなされ、株主側で所得として取り扱われます。つまり配当ではないけれど、利益剰余金を原資とする株主への支払であるのは間違いないので、その実態を反映されて、配当とみなしましょうという制度です。
みなし配当の税務上の扱い
みなし配当の取扱いについては法人税法24条によって明確に定められています。法人税法24条によると、自己株式を取得した場合や会社からの払い戻しを受けた場合、組織再編に際して別会社の株式や金銭等を受け取った場合等に、みなし配当と判断されて所得として取り扱われます。
なぜ「配当」になるのか
みなし配当は自己株式を取得した場合等に、実態を重視し会社法上の配当ではないものの、税法上、配当とみなす制度です。この制度がなければ、例えば株式を発行会社に譲渡した場合、実質的には配当と同様に会社財産の払い戻しが行われたにも関わらず、株式譲渡として取り扱われることになります。そのため、株式譲渡という形式面ではなく、利益剰余金を原資とする株主への分配という実質面を重視し、配当として取り扱うことで課税の公平を確保することを目的としています。
みなし配当が発生するケース
みなし配当はどんな場合に当てはまるのでしょうか?大きく分けると、2つのシチュエーションがあり、さらに細かく分けると、5つの状況が考えられます。それぞれ解説しましょう。
会社から払い戻しを受ける場合
会社から株主への払い戻しはみなし配当という扱いになります。代表的なシチュエーションは次の3つです。
自己株式の取得
株主がなんらかの事情である会社の株式を手放す時に、他の株主ではなくて、その株式を発行した会社が自社の株式を買い取る場合があります。株主が出資した金額よりも、株式の譲渡価額が高い場合は、譲渡価額から出資額を引いたものがみなし配当として取り扱われます。
資本剰余金からの配当金
資本剰余金は株主が出資したお金の中で資本金に組み込まれていないもののことです。資本剰余金を原資として配当金が支払われた場合には、税務上は資本剰余金だけでなく、利益剰余金も原資として配当金が支払われたとみなされるため、配当金の一部がみなし配当として取り扱われます。
会社の解散による残余財産の分配
会社が解散して残余財産を分配することになった場合、通常、その財産には株主が出資した分だけでなく、利益の積立分である利益剰余金も含まれていることになります。その財産を分配することは、配当を支払うことと、ほぼ同じことになります。そのため、残余財産の分配の一部はみなし配当として取り扱われます。
組織再編で別会社の株式や金銭を受け取る場合
株式譲渡、株式交換、株式移転など、M&Aの手法が使われて組織の再編が行われる場合にもさまざまな形で株式の所有者が変更されるため、その結果としてみなし配当が発生します。おもなケースは次の2つです。
会社合併
合併は複数の会社が経営統合を行って、ひとつの会社になることです。合併に伴い消滅する会社の株主は保有する株式が消滅する代わりに、吸収する会社から株式等の交付を受けます。その際、交付を受けた株式等の時価のうち消滅した会社に出資した金額を超える部分が消滅する会社の株主においてみなし配当として取り扱われます。なお、適格合併の要件を充たしている合併に場合、消滅会社の株主にみなし配当は発生しません。
会社分割
会社分割とは会社の一部の事業を別の会社に承継させることです。会社分割のうち、分割して設立した会社又は事業を承継した既存の会社から交付された分割対価である株式等が、最終的に事業を承継させた会社の株主に引き渡される分割のことを分割型分割といいます。その分割型分割を実施した際に、分割で事業を承継させた会社の株主が分割により得たお金や株式などの対価の一部は利益剰余金を原資とする配当と見なされるため、みなし配当として取り扱われます。なお、適格分割の要件を充たしている分割型分割については、みなし配当は発生しません。
みなし配当での課税の仕組み
みなし配当は難しいという声をよく聞きます。確かに課税の仕組みは複雑で難解です。法人税法上における適格再編成かどうかなど、細かな前提条件がたくさんあり、状況によってその扱いも異なります。細かく見ていきましょう。
自己株式を取得した法人
みなし配当は税務上、自己株式を取得した法人では配当として取り扱われます。そのために、自己株式を取得した法人はみなし配当の金額に対応する源泉所得税等を翌月10日までに納付しなければなりません。上場株式の税率は15.315%、非上場会社の税率は20.42%となっています。
株式を発行法人に譲渡した法人
株式を発行法人に譲渡した法人のみなし配当は税務上、受取配当金という扱いになり利益としては計算しない部分が発生します。具体的には決算までは一般的な株式譲渡として会計処理を行い、決算時にみなし配当に相当する金額につき税務上益金不算入規定(支払法人側で課税済の配当につき、その受取法人側で再度課税する法人税の二重課税の排除を目的とした規定)を適用し、税務申告書を作成します。
株式を発行法人に譲渡した個人
株式を発行法人に譲渡した個人の場合はみなし配当は配当所得という扱いになります。譲渡したのが上場株式ならば、所得税と住民税と復興特別所得税を合計した割合は20.315%です。譲渡したのが非上場株式の場合は20.42%が源泉徴収され、配当所得は他の所得と合計して、その金額に応じて、約15%~55%の所得税及び復興特別所得税・住民税が課税されることになるのです。ただし確定申告をする際に配当控除を受けられます。
みなし配当の算出方法
みなし配当の具体的な算出方法を説明しましょう。
基本的な計算方法
みなし配当は基本的には以下のような計算方法によって算出されます。
(株主が受け取った財産の総額-資本金に資本剰余金を加えた金額)÷株式総数×株主の保有株式数=みなし配当
しかしこれはあくまでも基本の計算式にすぎません。みなし配当の計算は取り引きの種類によって異なるため、注意しなければならない場合もあります。
多岐に渡る計算方法
みなし配当が発生する取り引きにはさまざまな形態があり、その種類によって、計算のやり方も変わります。みなし配当が発生する場面としては、非適格合併、非適格分割型分割、非適格株式分配、資本剰余金の配当、残余財産の分配、自己株式の取得、持分会社の出資払い戻し、組織変更など、それぞれ細かく規定されています。
非上場株式は株価が必要とされる場合もある
非上場株式は株価が算定されていないケースもあります。特に中小企業の場合は株式を算定するためには会社を多角的に分析してのチェックの作業もあり、労力も時間もかなりかかるのです。しかし自己株式を取得する場合や適格合併に該当しない合併で合併対価として株式を交付する場合には、株価を算定しないと、みなし配当も算定できません。つまり税務上必要な処理を行うために株価算定が必須となる場合です。
みなし配当の注意点は?
みなし配当にはいくつかの注意点があります。説明しましょう。
高額な課税になる可能性
みなし配当を得たのが個人の場合、配当所得として取り扱われます。配当所得の金額によっては税率が大きく変わる可能性もあるので、収入金額が最終的にいくらになるのか、把握しておきましょう。
税務処理は複雑
ここまで説明してきたように、みなし配当の税務処理は配当が発生するケースによって異なるため実に複雑です。みなし配当に関わる税務処理は税理士など、専門家に依頼することをおすすめします。
まとめ
一般的に株式の配当はうれしいものです。しかしみなし配当の場合、単純に喜んでばかりはいられない場合もあります。まずみなし配当の定義を完全に理解するのは簡単なことではありません。みなし配当に課税される税金を正しく納付するには専門的な知識が求められます。確認する項目も数多くあります。みなし配当について基本的な知識を身につけた上で、専門家への依頼を検討しましょう。
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