M&Aの基礎知識
Merger and Acquisitionの略称であるM&Aは、直訳すると企業の買収や合併という意味があります。但し、買収と合併は意味が異なっており、買収は他の企業を買い取ることを意味し、合併は2社以上の企業が1つにまとまること意味します。一般的にM&Aの意味として、他の企業を買い取ることと認識されていますが、提携を含める場合もあります。
なぜM&Aを行うのか?
M&Aを行う目的というのは、様々あります。例えば、後継者がおらず今後の事業継続が不安な場合、M&Aで他の企業に買い取ってもらうことで、事業継続問題を解決できます。また、経営を再建させたいときやさらに企業を成長させたいときなどにM&Aが用いられることもあります。
買い手側におけるメリット・デメリット
M&Aにはメリット・デメリットがありますが、それは買い手側と売り手側によって内容が異なります。
買い手側のメリットとしては、新規事業へ参入できる機会を得られたり、既存事業とのシナジーを発揮させることで事業を強化させることができたりなどが可能です。全体的には、会社としての事業成長を拡大させられるメリットがM&Aにはあります。また、M&Aを用いることで事業拡大を実施する時間を削減できるという利点もあり、効率よくスピーディーな展開ができます。
デメリットは、買収した事業が見込み通り業績をあげられない恐れがあったり、シナジー効果が生まれるまで時間がかかってしまったりなどがあります。M&Aが成功したからといって確実に業績拡大させられるわけではなく、お互いの会社が培ってきた文化や風土がうまく調和させることが重要です。ただ、文化や風土を統合するまで時間がかかってしまうため、ある程度お互いの文化や風土を受け入れつつ進めることが大事です。
売り手側におけるメリット・デメリット
売り手側のメリットとしては、後継者問題の解消や企業としての基盤強化などが挙げられます。特に、後継者問題は多くの企業で悩みのタネとなっているものであり、M&Aを用いて解決させるケースもあります。また、M&Aによって相手から相応の対価を受け取ることで、企業としての基盤を強化したり、新規事業をスタートさせたりなどができるようになるというメリットもあります。そのため、事業を拡大する目的でM&Aを利用するケースも多くあります。
しかし、必ずしも理想的な買い手が見つかるとは限りません。買い手は、これまでの実績を踏まえつつも将来性を重視して選びます。そのため、将来性が低ければ、選ばれる可能性が低くなってしまうでしょう。だからこそ、売り手側は過去の実績だけを重視するのではなく、事業の将来性や市場の動きなどもチェックすることが重要です。その上、M&Aが成約した後に従業員と組織の問題が発生する恐れもあるため、その点も確認しておきましょう。
M&A案件の見つけ方
M&Aを成功へと導くためには、自社の考えや将来性などにマッチする相手を見つけなければなりません。しかし、自社だけで相手を探すのは困難であり、情報が漏洩してしまう恐れがあります。そのため、もしM&A案件を探すのであれば、銀行や会計士、弁護士、マッチングサイトなどを利用してみるのがおすすめです。
銀行や証券会社の場合、M&Aの専門家からサポートしてもらいながら進められます。初めてM&Aを行う企業としては安心できるものですが、企業としての規模が小さいとサポートしてもらえないかもしれません。そのため、銀行や証券会社は大企業向けの探し方といえます。
弁護士や会計士などに頼れば、法律や会計に関する問題があっても安心できるでしょう。しかし、全員がM&Aの専門家というわけではないため、全体的なサポートはあまり期待できません。
近年ではM&A案件がいくつも掲載されているマッチングサイトが登場し、コストを抑えてM&A案件を探せられます。しかし、あくまでサポートはサイト経由でのマッチングだけであり、細かい部分までのサポートまで行っていないケースが多いです。
このように、探し方によってメリット・デメリットがあります。だからこそ、実際に探す際には自社の規模や専門知識の有無などを考慮した上で、どこに頼るか検討してみましょう。
M&Aにおける基本的な流れ
M&Aの基本情報をある程度把握した上で、次はどのような流れで進められていくのか3つに分けて紹介します。細かい部分に関してはケースによって異なりますが、基本的には以下のような流れで進められていきます。
入口から基本合意まで
まずは、M&Aアドバイザーや仲介企業への相談から始まります。M&Aは相手があってこそ成立するものですが、だからといってどんな企業でもいいというわけではありません。もし適当に選んでしまえば、お互いの企業が培ってきた風土や文化が合わず、M&A前よりもさまざまなコストが掛かってしまう恐れがあります。だからこそ、しっかりと専門家と話し合いながら進めて行きましょう。
まずは提携仲介契約を締結します。その後、売り手側は仲介者に対して、自社の基本情報に関する資料を提供することで、M&Aアドバイザーはノンネームシート等を作成したりします。買い手側は、ノンネームシート等の情報を基に、検討を実施します。次にトップ面談を行い、条件を交渉したら基本合意書の締結へと進みます。
基本合意書は義務ではありませんが、後々諸条件でトラブルを引き起こさないためにも締結したほうが無難です。その後のやり取りをスムーズに行うためにも、きちんと確認しておきましょう。
基本合意から資金決済(クロージング)まで
基本合意が終われば、買い手側はデューデリジェンスを実施します。デューデリジェンスとは、M&Aを行う相手企業に関しての細かい情報を調べるための手続きのことです。調査することにより、売り手企業が持っているさまざまなリスクをチェックできます。仮に調査しなければ、簿外債務や訴訟問題などのリスクを買い手側が背負ってしまうかもしれません。
その後、最終条件に関する交渉を行った上で最終契約の締結を行います。そして、最終契約に基づいた手続きを実施し、資金決算を行います。これでM&Aに関する手続きが一旦終わります。
M&A成立以降
M&Aが成立した後は、組織体制や従業員の管理や見直しを実施します。特に優先することが組織体制や業務の管理であり、残すものを残し、変えるものは変えていって統一化を目指します。ただ、優先することだからといって検討もせず、強引に実施するのはおすすめできません。なぜなら、従業員の不満が起きやすくなるためです。きちんと検討したうえで、変えるかどうか判断してきましょう。
組織体制や業務の管理だけではなく、従業員の管理も大切です。特にコミュニケーションはチェックするポイントであり、もともと文化が違う企業同士が合わさったからこそ、円滑な関係を築けるような環境を作っていかなければなりません。M&Aは、デメリットとして優秀な人材が流失してしまうことがあります。それを防ぐためにも、コミュニケーションしやすい雰囲気を目指していきましょう。
PPAの基礎知識
PPAはM&Aに関する専門用語の1つです。ただ、初めて聞く方もいるのではないでしょうか。そこでこの項目では、PPAの基礎知識として、M&Aとの関係性やPPAで大切なキーワードなどを説明します。なお、以下の記事でもPPAについて紹介しているため、そちらもぜひチェックしてみてください。
PPAはM&Aで欠かせないもの
PPAを一言で紹介すると、上場会社がM&Aを実施した後に行う会計上における手続きです。PPA自体はM&Aを実施して1年以内に行うことが求められており、正しく処理しなければ、会計監査で指摘を受ける恐れがあります。なお、日本基準では、PPAの実施を2010年から義務付けられました。そういった意味からも、PPAは上場企業のM&Aで欠かせないものといえます。
PPAで大切な「のれん」とは?
PPAを考える上では、のれんについても理解しておかなければなりません。のれんは、売り手側の純資産よりも高い金額で買収を行ったときにおける純資産との差額のことです。このことは、その企業の個別財務諸表には表現されていない超過収益力と言い換えられるでしょう。買収した際の価格が大きいほど連結貸借対照表に計上されるのれんの額が増えていく上に、20年以内およびその効果が及ぶ期間にわって規則的に償却を行わなければならないため、買収した後の業績に大きな影響を与えます。
PPAは、売り手の資産や負債の金額を確定する際の作業で欠かせません。PPAの作業は、目に見える資産や負債だけが対象ではなく、無形資産も対象です。のれんは、売り手の企業のブランド力や技術力などを示すものであるため、PPAでは欠かせない存在といえます。
PPAの対象になる無形資産
無形資産の対象は、商標やロゴ、ライセンスなど。また、リース契約やフランチャイズ契約なども含まれます。これら無形資産も、売手企業が持つ将来性や人材の価値をチェックする上では欠かせません。そのため、PPAの処理では必ずチェックされる項目です。
PPAとデューデリジェンスの違い
PPAとデューデリジェンスは間違われやすい言葉ですが、同じ意味ではありません。上記で述べたように、デューデリジェンスは、M&Aを行う相手企業に関しての細かい情報を調べるための手続きを指します。一方でPPAは、M&Aで買収した後に行わなければいけない会計上の手続きのことです。順番としては、デューデリジェンスをした後にPPAですが、基本的には売り手と買い手の間で売買契約が締結した後にPPAが用いられます。
PPAに係る時間
PPAはすぐに終わるものではなく、検討には時間がかかります。では、具体的にはどのくらいかかるのでしょうか。そこでこの項目では、3つのフェーズに分けた上でかかる時間を紹介。時間が分かれば、PPAをどのくらいのスケジュールで行えば良いのか分かるようになります。
①情報収集フェーズ
情報収集フェーズは、長くて5週間と仮定しておいたほうが良いでしょう。まず買い手側が初期的資料の準備するまでに2週間ほどで、専門家の分析が1週間ほどかかります。その後、買い手側が追加資料の準備やインタビューで2週間ほどかかります。どれもあくまで長くなったケースであり、スムーズに進めば短くなることも。このあたりは、専門家と話し合いながらスケジュールを決めていきましょう。
なお、スタートの段階で行う分析としてはさまざまあります。具体的には、売り手側の事業内容や財務内容、株式価値の算定書などを確認します。資料に関しては作成し直したり、新しいものを作ったりすることもあるため、ある程度余裕を持って行動することをおすすめします。
②評価フェーズ
評価フェーズも、情報収集フェーズと同じほどかかる可能性があります。最初に監査法人と専門家が長くて1週間ほどかけて事前認識を行い、2週間のうちに価値算定を実施。次に、買い手側が追加資料の準備やインタビューを再度行いますが、こちらも長くて2週間ほどです。
無形資産の評価方法は、評価する資産によって、さまざまあることから複雑です。コストに関するものであれば、再調達原価法と複製原価法があり、マーケットに関するものであれば、売買取引比較法と利益差分法があります。インカムアプローチとなれば、利益差分法と超過収益法、ロイヤルティ免除法等があります。このように複雑で簡単にはできないものだからこそ、無理して自分たちでせず、専門家に任せましょう。
③レビュー対応フェーズ
最後の段階は、長い場合でも4週間かかります。まず監査法人が、レビューを実施し、その後、買い手側と専門家がディスカッションや追加資料準備などのレビュー対応を、実施します。①から③まで全て数えると11週間で、2ヶ月半ほどかかると仮定できます。ただ、あくまで仮定であるため、前述したように短くなる可能性もあります。
レビューに関しては、レポートで示された評価の根拠が妥当かという点や無形資産の特定方法が適切なのかという点、数値が性格かという点などをチェックします。その中で、監査法人は専門的かつ厳しい質問をしてくることもあり、知識を持っていない方だと対処できないかもしれません。そのため、監査法人のレビューがあるときでも専門家によるサポートを受けましょう。
どんな専門家を利用すべきか
PPAはかなり複雑で難関であることから、専門家に任せるのがおすすめです。
専門家の選び方としては、しっかりと知識を持っているかどうかを重視しましょう。なぜなら、知識が少ないと会計監査でやり直しさせられる恐れがあるため、また、M&Aから1年以内に終えなければいけないことを考えると、ある程度経験がある専門家のほうがスムーズに作業してくれるでしょう。
社員に任せるのはおすすめできない
金額や時間のコストを下げるために社員の力を借りたくなるかもしれませんが、それはおすすめできません。なぜなら、前述したようにPPAはかなり複雑で専門性が高いためです。むしろ社員に任せると、金額的にも時間的にもコストが上がってしまう恐れがあります。だからこそ、PPAのことは専門家に任せましょう。
PPAの専門家は意外にも少ない?
PPAの専門家は非常に少なくといわれています。そのため、実際に探すとなかなか時間がかかるかもしれません。ただ、M&A業者がPPAに関するサポートをしてくれる場合もあるため、自分たちで専門家を探す前に、M&A業者へ相談してみると良いでしょう。
PPAの外注先比較
PPAを外注するのであれば、会計ファームやM&Aプレイヤーなどが挙げられます。
会計ファームであれば、4大会計事務所が有名です。具体的には、「デロイト・トウシュ・トーマツ」「アーンスト・アンド・ヤング」「KPMG」「プライスウォーターハウスクーパース」の4つ。BIG4と呼ばれることもありますが、ここしか外注できないわけではありません。日本には独立系の大手会計事務所や進行の会計事務所などもあるため、それらをチェックしてみるのもいいでしょう。
M&Aプレイヤーというのは、上記のBIG4や証券会社、M&A仲介会社なども含めた総称です。それぞれ魅力的なポイントが異なるため、こちらもいくつかチェックしながら決めていくのがおすすめです。例えば、証券会社の場合は大手企業同士のM&Aを専門としていたり、M&A案件の立案から資金決済までの業務を行ってくれたりなどの魅力が挙げられます。
まとめ
今回は、M&AやPPAの基礎知識について紹介しました。難しい部分もありましたが、覚えておくとビジネスで役立ちます。そのため、さらにビジネスマンとして成長したい方は、ぜひこの記事を読んだ上で日頃の生活に活かしてみてください。
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