個人事業のM&A前に知っておきたい3つのポイント
個人事業でM&Aを行う場合、通常の企業がM&Aをする場合と異なる注意点があります。税制面や必要書類について知っておいたり詳しく調べておいたりする必要があるほか、M&Aの最適な相手探しをどのように行うかという問題もあります。
以下では、個人事業主がM&Aを実施する前に知っておいた方がよいポイントをご紹介します。
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M&A先を探す方法が限られている
会社の事業を売却する際は、M&Aの実績が豊富な公認会計士・弁護士などの専門家が揃うM&Aの仲介会社に相談するケースが少なくありません。個人事業のM&Aを行う場合、仲介会社によっては手数料が高くなってしまい、相談が難しいことがあります。
仲介会社が大企業などの一定規模以上の企業をクライアントにしている場合は、相談自体を受け付けてもらえないこともあるでしょう。
企業と比較すると、個人事業のM&Aを仲介してくれる場所は限られているのが現状です。しかし、仲介会社でなくても個人事業のM&Aを相談できる場所はあります。個人事業の場合、マッチングサイトや事業引継ぎ支援センター(商工会議所)に相談することができます。
事業の譲渡と提出書類
個人事業のM&Aを実施する場合には、提出が必要な書類があります。個人事業をM&Aする際、譲渡側は所轄の税務署に「個人事業の廃業届」を提出しなければいけません。これは、廃業してから1ヶ月以内に行う必要があります。
譲受側も個人事業として受け継ぐ際には、所轄の税務署に「個人事業の開業届」を提出します。
契約書の作成や手続きなどは煩雑なので、個人事業主の方が初めてM&Aを実施する場合、自力で作成したり手続きを行ったりすることは大変です。
消費税や贈与税の有無
個人事業をM&Aした場合、事業譲渡を行うと資産・負債個別の売買というたてつけになります。そのため、有形・無形資産などに対して消費税が課税され、譲受側が譲渡側に消費税を支払う必要が出てきます。また、個人事業を無償で引き継いだ際には、贈与税の支払いが必要になるケースもあります。
これらの税金の有無に関しては、税務署で確認が可能です。ただし、確認はできるものの、節税方法を教えてくれるわけではありません。個人事業をM&Aする際に節税をしたい場合は、事前に調べたり相談したりすることが大切です。
個人事業のM&Aとは
M&Aというと、ある程度規模が大きい会社が行うというイメージを持つ方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし現在は、個人事業や中小企業がM&Aを行うケースも少なくありません。
「もう廃業しかない」と考えていても、M&Aをすることで廃業を避けられたり、有効な経営資産を引き継いだりできます。以下では、個人事業がM&Aを行う背景やメリットをご紹介します。
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中小企業でのM&Aが増えてきた
日本M&Aセンターが2019年2月に発表した「FACT BOOK データ編-日本国内における中堅・中小企業のM&A増加の背景-」によれば、生産年齢人口の減少が進んで経営者が高齢化を理由に引退すると、2015年時点で403万社あった企業数は2025年には320万社まで減少することが予測されています。
後継者が未定の全国の中小企業の割合は、全体の66.4%です。また、全国の企業で休廃業・解散をした企業は、倒産した企業の約5.6倍というデータが出ています。
2018年のM&Aの件数は3,850件と、過去最高の件数を記録しています。M&Aの実施により、労働生産性や売上高、経常利益が上がった企業の割合も多くあります。
黒字経営の中小企業のうち、約12万社の後継者が決まっていません。今後も、中小企業のM&Aのニーズは増えることが予想されます。
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個人事業でもM&Aを行うメリットが大きい
個人事業でM&Aを実施すると、以下のようなメリットがあります。
・廃業を防げる
個人事業を行っていたものの、高齢化や病気、家庭の事情などで事業を継続することが難しくなった場合、M&Aを行うことで廃業のリスクを避けることができます。後継者がいない場合にも、M&Aで事業を引き継がせることができます。
・自分で事業を開始する手間が省ける
個人で事業を始める場合には、準備や手続きが必要になります。すでにある事業を受け継ぐことでその手間を省くことができ、スピーディーに事業を開始できます。
個人事業のM&A件数も徐々に人気が出ている
個人事業のM&Aは「マイクロM&A」「小規模M&A」と呼ばれ、人気が出てきています。取引価格が1,000万円以下の小さな事業がメインで、昔はM&Aの対象にはなっていませんでした。現在では、赤字の中小企業、個人事業がM&Aの売り手・買い手になるケースが増加しています。
たとえば、商品の質は高いのに販売力や営業力がない中小企業や個人事業を別の会社や個人が受け継ぐことで、買い手側は優良な経営資源を手に入れることができますし、売り手側はブランドや商品などを世の中に残すことができます。
個人事業をM&Aで事業承継する方法
まず、M&Aを具体的に進めようと決断しても、どのような会社が興味を持ってくれるのか分からないことが大半です。より良いM&Aの相手を見つけるためにも、いくつか方法の中から最適な方法を選定しましょう。ここではM&Aの仲介を取り扱う業者についてそれぞれの特徴を説明します。
M&A仲介会社は事業譲渡側と買収側の間に入って交渉してくれますし、相手探しだけでなく、多岐に渡る実際の手続きまで手厚くサポートしてくれますので、交渉もスムーズに進みやすいでしょう。いくつかの仲介会社と話をして、専門性が高く、親身になって最後まで寄り添ってくれる会社を探すことが重要なポイントです。しかし、M&A仲介業者の手数料は高額になるケースも多いので、個人事業主のマイクロM&Aでは手数料の面で大きな負担になる可能性があります。
また、マイクロM&Aの需要の増加によってM&A仲介業者よりも安価で手軽にM&Aを行うことができるマッチングサイトを用いる方法があります。M&A仲介業者よりも手数料が安く、自分自身で取引相手を探したり、スピーディーにM&Aを完了させることもできるでしょう。ただし、マッチングサイトでできることは譲渡先探しに留まるため、実務面でのサポートでは劣ることになります。そのため、マッチング後に思わぬトラブルにならないようにするためにも、自分自身で十分な確認を行う必要があります。
そのほか、各都道府県の相談窓口として「事業引継ぎ支援センター」が設置されています。事業引継ぎ支援センター自体がM&A仲介の全てを行ってくれるわけではありませんが、M&Aや事業承継に関する基本的な知識や取り組み方法を無料で相談することができたり、譲渡企業やM&A仲介業者を紹介してくれたりします。公的な窓口になりますので、安心して気軽に相談できることでしょう。
これら以外に個人事業主のような小規模案件にも対応してもらえる可能性があるのは、事業承継M&A業務を行っている地方銀行や、M&Aの実績がある地元の税理士などがあげられます。
個人事業をM&Aで事業承継する問題点
ニーズの高まりとともに、個人事業のM&Aによる事業承継は今後も増加していくことでしょう。一方で、個人事業ならではの問題点もあります。あとで後悔しないためにも、問題点を確認しておきましょう。
人的なつながりの要素が強い
個人事業は、人的なつながりによって成立している場合が多く、事業主と取引先、顧客との関係性が重要です。大企業であればその企業のブランドでビジネスをしているので、M&Aでオーナーが変わったとしても、それまでの取引に大きな影響を与えることは少ないです。
しかし、個人事業の場合は、事業内容は引き継がれても、事業主が変わってしまったことで取引先や顧客が離れていってしまい、それまでの事業を継続していくことが難しくなるケースも考えられます。
そのため、新しい事業主になった後に事業を安定させるためにも、取引先に事前に事業売却について伝えておいたり、事業を仕組み化してできるだけ引き継ぎしやすいように準備しておくとよいでしょう。
また、事業譲渡の場合、新たな事業主と取引先は契約を結び直さなければいけませんので、その点についても了承を取っておくようにしましょう。
不動産の所有権をどうするか
自己所有の不動産で小売店や飲食店を経営している場合、事業を引き継ぐ際にその店舗も一緒に引き継ぐことになります。そのため、譲受側は不動産を購入する資金を用意しておかなくてはなりませんが、現実的にはその資金の準備が難しいことも多いので、賃貸契約にするのか使用貸借という形をとるのか当事者の関係や状況によって変わるので注意が必要です。
税金が高い
事業を個人事業主のまま売却すると、株式、不動産以外の資産の売却益には総合課税として所得税が課せられます。所得税の累進課税が適用される個人事業主では、仮に5000万円の売却益を得たとすると45%の税率で所得税を納付しなければいけません。売却益によっては、住民税と合わせると利益の50%超を税金として支払わなければならないほどです。
そのため、展開している事業の規模によっては、法人化してから事業売却や会社売却をする方がよいケースもあるでしょう。売却益が1000万円にも満たない小規模な売却は、個人事業主のまま手続きした方がよいかもしれませんし、売却益や税額などを考慮した上で売却方法を検討することが大切です。
そのほか、法人には事業承継税制がありますが、2019年度の税制改正において、個人事業主にも事業承継を促進するため、10年間限定で「個人版事業承継税制」が創設されました。一定の要件を満たせば、事業承継する際の贈与税・相続税を猶予、あるいは免除され、納税資金を準備しなくてもよくなるため、事業承継がしやすくなる制度となっています。ただし、デメリットとして生涯の事業継続が求められるため、事業が継続できない場合には税負担が強いられます。
個人事業M&Aで失敗しないためのポイント
個人事業でM&Aを実施する際は、事前準備や情報漏洩の防止、適切な情報開示や価格設定を行う必要があります。リスク管理が甘くなってしまうと、トラブルが起きてしまった時のダメージも大きくなるため、事業規模が小さくても十分な注意を払い、慎重に進めていくことが大切です。
以下では、個人事業のM&Aで失敗しないためのポイントをご紹介します。
情報の漏洩に注意
個人事業のM&Aでは、買い手側・売り手側ともに、情報の漏洩に気をつけることが大切です。買い手側は、売り手側の情報を漏らさないように細心の注意を払わなければいけません。情報が流れてしまえば信用を大きく失い、締結したM&Aが破断に終わるだけではなく、最悪の場合取引先との関係性が悪化するケースもあり得ます。
売り手側の場合も、M&Aを行うことが社員に知られた際に十分な説明をしないままに悪い噂が流れてしまうと、不信感を与えたり一斉退職が起きてしまったりする可能性があります。
情報の開示は「正直さ」がポイント
個人事業のM&Aを行う場合も、情報はオープンに開示することがポイントです。事業のよい所ばかりでなく、問題点や弱点も正直に伝えることで、信頼を得ることができます。逆にそこを隠してしまうと不信感を生むことにもなりかねませんし、最終合意に至らないケースもあります。
相手先には、良い情報も悪い情報も明確に伝えましょう。交渉がうまくいかなくなることもあるかもしれませんが、問題点や弱点を隠したままM&Aをして、後からトラブルになってしまう方が深刻です。
準備不足
M&Aを行ううえで、途中で条件が変更になることはあります。しかし、条件が定まっておらずたびたび内容を変えてしまうと、相手側の信頼を失うことにもつながります。また、条件を変更する理由に正当性がない場合、納得してもらうことも難しくなります。
一方でM&Aの事務に時間をかけすぎてしまい、肝心の本業をおろそかにしてしまうのも問題です。専門の会社やサービスを利用して相談するなど、本業を行いながらM&Aの準備を進める必要があります。
価格設定を間違っている
M&Aでは、適切な価格設定を行うことが必要です。市場価値を正しく把握せずに高すぎる価格設定をしてしまうと、いつまで経っても買い手が見つからないことにもなりかねません。また、よい相手が見つかっても、価格面で敬遠されてしまう可能性があります。
一方で、事業に十分な価値があるのにも関わらず、経営者自身がその価値を低く見積もってしまっていることもあります。価値をできる限り客観的に判断し、価格設定をしましょう。
個人事業M&Aの事例
個人事業のM&Aのメリットや注意点をご紹介してきましたが、まだM&Aをしたことがない個人事業主の方にとっては、具体的なイメージが湧きにくい部分もあると思います。実際に行われた個人事業のM&Aはどのような事例があり、どのような成果をもたらしたのでしょうか。
株式会社M&A DXの事例として、飲食店と農家のふたつのM&Aの内容をご紹介します。
経営不振に悩む飲食オーナーに対するM&A事例
飲食店を営むT氏から、事業承継の相談がありました。T氏の飲食店はかつて地元で有名なレストランでしたが、人々の嗜好の変化に伴い経営不振の状態が続き、自身も高齢化していたため、後継者不在が問題になっていました。
結果として、T氏のレストランを十二分に評価してくれた同じく飲食店を営むX社にM&Aが決まりました。「T氏のレストランは著名で地元の良い飲食店を次世代に継承していくこと」、「X法人からするとT氏のレストランとは価格帯や顧客層が異なり、X社のノウハウを注入することにより復活が十分見込めたこと」が決め手となりました。
M&A後、X社からT氏のレストランに支配人を派遣し、運営が安定しました。人材交流や共同購買等を通じてシナジー効果を発揮させたほか、T氏は思いの詰まったレストランを次世代に継承させることができました。
農家がM&Aを行なった事例
長年、農業や生産物の加工・販売を行っていたT社は、創業者の逝去や取引条件の悪化などが原因で、経営状態が悪くなっていました。T社のエンドユーザーであったX社がそのことを知り、救済を目的としたM&Aを申し出ました。X社は、T社から事業のみを承継した新T社を取得し、T社は突発的な倒産を回避できました。
X社はT社の方針に共感していたほか、T社の商品力が高かったため、X社のノウハウを活かすことで質の向上も見込めました。経営状態の悪い中、スピーディーにM&Aを実施できたお陰でT社の事業は継続でき、条件面の悪い取引先も整理できました。
個人事業のM&Aをサポートするオンラインマッチングサイト
個人事業でM&Aを行う際に活用したい方法のひとつに、オンラインマッチングサイトがあります。オンラインマッチングサイトを利用するメリットのひとつに「スピード感」があります。迅速にM&Aを実施できることは、売り手・買い手の双方にとって有効です。
以下では、個人事業主がM&Aを行う時におすすめのオンラインマッチングサイトをご紹介します。
3000件の実績を誇る「TRANBI(トランビ)」
TRANBI(トランビ)は、国内最大級のM&Aプラットフォームです。買い手・売り手が案件を出したり閲覧したりできるほか、M&Aの専門家を探して依頼することも可能です。これまでに累計3,000件以上のM&A案件があり、14,000件以上のマッチングをしています。
ユーザー数も3万人以上と国内トップで、個人事業のM&Aを実施できる可能性が高いでしょう。業種や地域、売上高などの条件から検索が可能です。サイト上に掲載せず、非公開でM&Aを実施することもできます。
事業継承のバトンをつなぐ「BATONZ(バトンズ)」
BATONZ(バトンズ)は、小規模な事業や個人事業などの承継ができるマッチングサイトです。小さなビジネスであっても、廃業させずに希望者に事業をバトンタッチできます。
専門のアドバイザーやカスタマーセンターに相談も可能ですし、M&Aについて学ぶことができるサイトもあります。M&Aのサービスは、ユーザー登録をすることで売り手側・買い手側ともに利用できます。
売り手側は希望譲渡金額を設定できたり、情報を記載できたりするほか、交渉人数もサイト上から閲覧できるため便利です。
オンラインM&Aマッチングサイトを利用する注意点
オンラインマッチングサイトは手軽に利用できる反面、誰でも情報を掲載できるため、自分の事業や会社を売りに出していることが意図せず明らかになってしまう可能性があります。また、相手が決まるまでに時間がかかったり、交渉に手間がかかったりすることもあります。
さらに、オンラインマッチングサイトを利用する買い手は、M&Aの経験が豊富であることが少なくありません。売り手がM&Aの経験に乏しい場合、不利な条件を提示されたり、納得できないまま交渉を進めることになったりする可能性もあります。
M&Aで失敗したくない人にお勧めなのは仲介業者の利用
個人事業でM&Aを行う場合、大企業と比べると規模は小さいものの、失敗した時のリスクはあります。失敗しないための方法のひとつが、M&Aの仲介業者を利用することです。専門家であれば情報漏洩が起きるリスクもありませんし、まずはお気軽にご相談下さい。
専門家であればM&Aの事例も数多く経験がありノウハウが蓄積されているため、最良の形でM&Aを実施できる可能性が高くなります。M&Aの経験や知識がない個人事業主の方でも、安心して利用できます。仲介会社によっては個人事業のM&Aを受け付けていることもありますので、ご検討ください。
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まとめ
個人事業でM&Aを行うことは可能ですが、書類の準備や交渉など、自分の力だけでM&Aを実施することに不安を感じている個人事業主の方もいらっしゃるのではないでしょうか。相手先企業の選定だけでなく、価格設定や手続き、交渉などを行うためには、経験豊富なM&Aの専門家やマッチングサイトの力を借りることがおすすめです。
株式会社M&A DXにはこれまでの豊富な実績から、M&Aに関する数多くのノウハウが蓄積されております。当社在籍の専門家が個人事業のM&Aにも丁寧にご対応いたしますので、M&Aをお考えの個人事業主の方は、ぜひ一度株式会社M&A DXへご相談ください。
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